イナズマイレブン1・2・3!! 雷電真太郎伝説 作:睾丸Jリーグ
汚れひとつない新品同様のユニフォームを着た雷電が、どこか気まずそうに水を口に含む、そのすぐ傍で。
そこかしこが土埃にまみれ、全身にアザを作った雷門イレブンが、ぐったりと座り込んでいた。
「───あの、」
砂を被ったような姿の彼らから、どこかきまり悪げに目線をそらす雷電の元へ、
同じく砂まみれになった目金が、覚悟を決めた様子で歩み寄ってくる。
「……雷電さん。───ボクは、この試合を降ります」
「「「ッ!?」」」
まさかの発言に驚愕する雷門イレブンをよそに。
目金はさっさと10番のユニフォームを脱ぐと、雷電にふわりと投げ渡した。
「あのとき譲ってもらった手前、申し訳ないのですが。
これ以上、ギャラリーの前で惨めな思いをしたくないんです。
その代わり、雷電さん。───あなたに、このユニフォームを託します…!」
そんな自己完結の極みのようなことを言ってピッチを離れ、返事も聞かずに駆けていく背中を、雷電は呆然と見つめる。
(あくまでも、あの時のバトルはスタメン争いであって、オレも10番を欲しがっていたわけじゃないんだけど……)
どう考えても着ることのできない、薄汚れたMサイズのユニフォームを手に持ったまま。
雷電は、ベンチの傍に立ち尽くして途方に暮れていた。
「…ッ、まずい!これでは11人が揃わない……!」
そして、数瞬の沈黙の後にハッと我に返ると、飛び出していった目金の後ろ姿を慌てて追いかけていく。
その後、大きな木の陰を曲がったところで目金の姿を見失った、雷電のクリームパンのような手の中から。
10番のユニフォームが、忽然と消えた。
「え───」
雷電の手からむしり取ったユニフォームを身に纏い、クールに襟を立て。
脱色したかのような色合いの白い髪を、
派手なヘアスタイルの少年が、ギャラリーの隙間を歩いていく。
「ッ! …やっぱり来てくれたか!!
───豪炎寺ッ!!」
ぐったりとベンチに横たわった円堂が、その姿を見るやいなや、
深刻な肉体的ダメージに震える身体を少し起こして、表情を輝かせる。
「……ああ、待たせた」
身体が思うように動かない様子の円堂を見て、彼はその怜悧な顔貌をくしゃりと歪めた。
(…夕香。お兄ちゃんに、もう一度だけ戦うことを許してくれ……!)
全国大会では決勝戦進出の経験を持つ、炎のストライカー。
豪炎寺修也が、目金に代わって雷門イレブンに加わった。
§§§
「───デスゾーン、開始ィッ!!!」
未だ治まらない憤激に身を任せ。
眦を吊り上げた鬼道が、キックオフとともに声を張り上げ、指を鳴らした。
その指令を受け、センターサークル内からボールを高く蹴り上げると、
追従するように3人の帝国のメンバーが飛び上がった。
フィギュアスケート選手のように、回転しながら等間隔に浮遊した彼らの足元には、三角形の力場が発生する。
それがボールに収束すると、どす黒い紫のエネルギーを纏って───
「「「【デスゾーン】!!!」」」
それを3人が体重を乗せて踏みつけると、勢いを増したエネルギーの奔流とともに、ゴールに向かって飛来していく。
「う───うわあああっ!?!?!?」
エネルギーの余波で雷門イレブンを──雷電を除いて──吹き飛ばしながら進んだボールは。
何とか立っているような有様の円堂が突き出した、痙攣する両手をあっさりと弾き飛ばし。
そのまま彼の顔面にめり込んで、その身体ごとゴールに突き刺さった。
エネルギーを殺しきれず、ゴールネットの中で回転し続けていたボールの落ちる音だけが。
しんと静まり返った校庭に、いやに大きく響いた。
「円堂くんッ!!!!!!」
ピクリとも動かない円堂の姿に、双眸に涙を浮かべた秋が悲痛な叫び声をあげる。
「フッ、ここまでか……」
うつ伏せに倒れ伏した円堂を見た鬼道は、マントを翻すとピッチを出ていこうとして───
ズドッッッ!!!!!!!
突如響いた轟音に、その足を止めた。
それは、試合冒頭に佐久間からボールを奪ってみせた、あの四股踏みの音と全く同じで。
大きく舞い上がった土埃の中から、未だ傷ひとつない巨漢の姿が徐々に見えてくる。
「───まだ、終わってねェぞッ…!」
ぐったりと倒れた円堂を助け起こしながら、鋭い三白眼を光らせて睨みつけてくる雷電の姿に、帝国イレブンは言葉を失う。
「……しかし。おたくのキーパーは、もう立ち上がる力も残されていないようだが?」
力なく目を閉じた円堂の姿に、雷電は歯を食いしばって唸るように言った。
「───ここからは、オレがキーパーだ」
「……なに?」
訝しげにゴーグルの奥の目を眇める鬼道にも構わず、円堂の手からそっとキーパーグローブを外した雷電は、
それを自身の手にそっとはめようとして───
サイズが合わず、指が3本しか入らなかったため、そっと地面に置いた。
「……ップ、ハハハハハッ!!!!」
そのあまりにも間抜けな様子に、思わず帝国イレブンの口から失笑が漏れる。
「───待て」
しかし、素手にフィールドプレイヤーのユニフォームを着ただけという軽装で、油断なく構えをとる雷電の様子を見て。
彼がいたって真剣であることを感じ取った鬼道は、仲間たちを片手で制する。
「貴様……そんな有り様で、まだ続けるつもりか?」
「……先程の、デスゾーンとやらでいい。オレに向かって打ってこい」
ドスの効いた声でシュートを要求する雷電に興が乗ったのか、鬼道が不敵に笑って応えた。
「フッ、いいだろう。
───デスゾーン、開始……!」
「「「ハッ!!!」」」
先程と同様に、濃い紫色の凄まじいエネルギーを放ちながら。
ゴール中央にまっすぐ向かってくるシュートに対して、雷電は───
グローブを着けられなかった両腕を脇につけると、その大きな腹を突き出した。
ゴッ!!!!!!!!
「───ウオオオォォォォォアッ!!!!」
「……は?」
あっけに取られる帝国イレブンをよそに。
雄叫びをあげながらシュートを受け止めた雷電の腹は、1歩も引かずにデスゾーンと拮抗している。
「ッ!!」
その様子を目にした豪炎寺は、反転すると素早く帝国ゴール前へと駆け上がり始めた。
「おーっと! 豪炎寺、キーパーをフォローすることなく1人走るゥ!!! 目金と同じ敵前逃亡かァッ!?」
「───なにッ!?」
実況の声に、とっさに自軍ゴールを振り返った鬼道らをよそに。
日々の計算され尽くした食生活によって蓄えた脂肪と、その奥にある鍛え上げられた腹筋によって。
ついに雷電は、デスゾーンの勢いを殺しきると、腹で軽くボールを真上にかち上げて───ふわりとキャッチしてみせた。
「な───」
「なんということだァッ!!!円堂に代わってゴールキーパーとなった雷電、ついに帝国のデスゾーンを止めて見せましたァッ!!!!」
「───ゆけッ、豪炎寺ィィィッ!!!!!」
ブオッ!!!!!!!
雷電の強肩により、風を切って砲弾のように飛び出したボールを、豪炎寺はダイレクトで天高く打ち上げた。
そして、その両足に炎を灯して回転しながら飛び上がると、肩越しに相手ゴールをギロリと睨みつける。
そのまま遠心力を利用して叩き込んだ左足から、炎の渦を纏ったボールが放たれた。
「───【ファイヤートルネード】ッ!!!」
あまりの早業に、大江戸より幾分か控えめなフェイスペイントの帝国ゴールキーパー、源田は反応することもできず───
「ゴ、ゴォォォォルッ!!!!
雷電と豪炎寺による見事なカウンターで、ついに雷門、1点を返したァッ!!!」
36対1。
依然として絶望的な状況には変わりないが、それでも傷だらけな雷門イレブンの表情には、
不思議と希望に満ちた笑みが見てとれた。
そしてその後、上からの指令を受けた鬼道が試合放棄を宣言すると。
そのまま統率のとれた動きでバスに乗り込み、瞬く間に雷門中から姿を消した。
その結果として、35点差にもかかわらず、雷門サッカー部は勝利をつかみ。
絶望的と思われた、部の存続を勝ち取ってみせたのであった。
§§§
(……しかし。あの四股踏みはなんだ?)
革張りの上等なシートに座り込み、鬼道は帝国のバスに揺られながら考えを巡らせる。
佐久間がボールを奪われた瞬間、そしてデスゾーンが止められたあの瞬間には、必殺技が発動する際に生じる特有の気配が感じられなかった。
(まさか、素の力だけであの現象を引き起こしたというのか……?)
ある意味でその多くを必殺技に頼っている、超次元サッカーの世界だけで生きてきた鬼道にとって。
己の肉体を超次元の領域まで鍛え上げる力士の存在は、理解の外にあった。
(豪炎寺以外に見るべき者がいるとは思っていなかったが。……
天才ゲームメイカー、鬼道有人の確かな観察眼は、肉体戦士たる雷電真太郎に目をつけた。
§§§
「よく来てくれたな、豪炎寺! これで新生サッカー部の誕生だ!
これからも一緒に───」
ふぁさり。
そう言って笑顔を向ける円堂にも構わず、豪炎寺はその場でユニフォームを脱ぐと。
その手を少し彷徨わせた後、目金と同じように雷電へと投げ渡す。
「……」
顔面を覆うようにして落下してきたユニフォームを、雷電は静かにむしり取った。
「……。今回限りだ」
揃いも揃ってぽかんと口を開けた雷門イレブンに、くるりと背を向けて。
ポケットに両手を突っ込むと、豪炎寺は上半身裸のまま校門を出ていこうとする。
「あっ……ご、豪炎寺!」
辛うじて名前を呼んだ円堂の声にも反応を示さず、斜に構えた変質者と化してピッチから去っていく豪炎寺に。
(((え、そのまま帰るの……?)))
かける言葉が見つからなかった雷門イレブンは、無言のままでそのむき出しの背中を見送った。
デスゾーンを食らっても無傷なぶっ壊れデブのせいで、作品の根幹をなすゴッドハンド覚醒イベントが潰れました。
こうなったら、正ゴールキーパーを任せられるのはアイツしかいない!