僕のヒーローアカデミア ~MAN OF STEEL~ 作:スルタン
「八百万、考えさせてっつってくれた・・・どうだろな」
「まぁ、いくら逸っても結局あいつ次第・・・」
切島と轟が緑谷に爆豪の救出作戦に誘ったその日の夜、二人は病院の前で立っていた、八百万にも伝えたが今回の件はリスクがあまりにも大きく来ない可能性の方が大きい、轟もその点は承知しており決めるのは彼女自身である、その時正面玄関から人が出てきた
「お、来た」
先に出てきたのは八百万、彼女が後ろに視線をやるとそこには緑谷もいた
「緑谷・・・」
「八百万、答え・・・」
「私は・・・」
切島が八百万にどうするのかを問う、八百万が言いかけた瞬間
「待て」
切島と轟の背後から声が響く、其処には飯田が立っていた
「飯田」
「何で・・・よりにもよって君達なんだ・・・!!俺の私的暴走を咎めてくれた・・・共に特赦を受けたはずの君達二人が。何で俺と同じ過ちを犯そうとしている!あんまりじゃないか・・・!」
「何の話してんだよ・・・」
切島と八百万は飯田の意図が読めないが飯田の言葉に緑谷と轟のはその意味がわかっていた。職場体験で兄の仇であるヒーロー殺し相手に突出し、返り討ちに遭ったあの時二人が助けに来てくれたが無傷ではいられなかった。自身が犯した過ちを今度はその二人が犯そうとしている
「俺達はまだ保護下にいる。只でさえ雄英が大変な時だぞ、君らの行動の責任は誰がとるのかわかってるのか!?」
「飯田くん違うんだよ。僕らだってルールを破っていいなんて・・・」
緑谷が何かを説明しようと歩み寄る、その瞬間飯田が彼の頬を殴る。三人はその光景に声を上げる暇もなく驚愕する
「俺だって悔しいさ!!心配さ!!当然だ!!俺は学級委員長だ!クラスメイトを心配するんだ!!爆豪くんだけじゃない!!」
飯田は息を吸うのも忘れ叫ぶ
「君の怪我を見て病床に伏せる兄の姿を重ねた!!君達暴走した挙句、兄の様に取り返しのつかない事態になったら・・・!僕の心配はどうでもいいっていうのか!!僕の気持ちは・・・どうでも良いっていうのか・・・!」
飯田が緑谷の肩を掴み、一人称が変わりながら、消え入りそうな声で自身の想いを伝える
「飯田くん・・・」
「飯田」
そこに轟の声が割り込む
「俺達だって何も正面切ってカチ込む気なんざねえよ」
「・・・!?」
「戦闘無しで救け出す」
「要は隠密活動!!それが俺ら卵にできるルールにギリ触れねぇ戦い方だろ」
轟と切島が今回の作戦の趣旨を説明する、学校側の指示はあくまでも戦闘はするなとしか言われておらず、敵地に忍び込み敵に見つからず対象を救出する隠密行動は戦闘行為には当たらないという解釈である
「私は轟さんを信頼しています・・・が!!万が一を考え私がストッパーとなれるよう・・・同行する心算で参りました」
「八百万くん!?」
「八百万!」
「僕も・・・自分でもわからないんだ。手が届くと言われて居ても立っても居られなくなって・・・助けたいと思っちゃうんだ」
「・・・平行線か・・・」
緑谷の性格を知っている飯田は彼の目つきと表情を見てこれ以上の説得は無理と判断し目を閉じそして開く
「ならば・・・俺も連れていけ」
「!?」
これ以上の説得は不可能と判断、八百万と共に目付けとして同行することを申し出た
~
「不思議なもんだよなぁ」
2時間程後。緑谷達が神奈川県の横浜市、神野区に入ったその頃とある一棟の建物にある小さなバーでヴィラン連合の面々と椅子に括りつけられている爆豪がテレビを見ている。映像には校長と正装をした相澤とブラドがマスコミのフラッシュに晒されている
「何故ヒーローが責められている!?奴らは少し対応がズレただけだ!守るのが仕事だから?誰にだってミスの一つや二つはある!『お前らは完璧でいろ』って!?現代ヒーローってのは堅っ苦しいなぁ爆豪くんよ!」
カウンターに設置されているテレビに雄英の記者会見を見ながら死柄木はどこかわざとらしく両手を広げながら話す
「守るという行為に対価が発生した時点でヒーローはヒーローでなくなった。これがステインのご教示!!」
「人や命を金や自己顕示に変換する異様。それをルールでギチギチと守る社会、敗北者を励ますどころか責め立てる国民。俺達の戦いは問い、ヒーローとは正義とは何か、この社会が本当に正しいのか一人一人に考えてもらう!俺達は勝つつもりだ・・・君も、勝つのは好きだろ」
死柄木は含みをもった言い方で爆豪に語り掛ける、当の本人は何も言葉を発しない
「荼毘、拘束外せ」
「は?暴れるぞコイツ」
「いいんだよ、対等に扱わなきゃな。スカウトだもの」
死柄木はあろうことか荼毘に爆豪の拘束を外すよう指示する。荼毘は当然の如く反対するが死柄木はあくまでも対等な立場で交渉する事で丸く収めて爆豪を連合側に咥えたいようだ
「それにこの状況で暴れて勝てるかどうかわからないような男じゃあないだろ?雄英生」
「・・・トゥワイス、外せ」
「はぁ俺!?嫌だし!」
猛犬の口輪を外す同然な行為にトゥワイスは即答で拒否するが荼毘と死柄木の目配せで観念したのか爆豪の拘束を外し始める
「強引な手段だったのは謝るよ・・・けどな我々は悪事と呼ばれる行為に勤しむ只の暴徒じゃねぇのをわかってくれ。君を攫ったのは偶々じゃねぇ」
拘束を外され手首を摩る爆豪にMr.コンプレスが語り掛ける
「此処にいる者、事情が違えど人にルールにヒーローに縛られ・・・苦しんだ。君ならそれを――」
死柄木が歩み寄り手を差し伸べようとした瞬間爆豪が素早く動き死柄木の眼前を爆破する、彼の顔に着いていた手が取れ床に落ちる
「黙って聞いてりゃダラダラよォ・・・!馬鹿は要約できねぇから話が長ぇ!」
「死柄木・・・!」
「要は嫌がらせしてえから仲間になって下さいだろ!?無駄だよ・・・俺は、オールマイトが勝つ姿に憧れた!誰が何言ってこようが!そこぁもう曲がらねぇ!!」
爆豪がぎらついた目には闘志の炎が燃えている、爆豪はオールマイトというヒーローに追いつくべく、追い抜くべくヒーローの卵になったのだ。爆豪は何が何でも真っ直ぐ進むつもりなのだと
~
爆豪が臨戦態勢に入ったその頃、雄英では記者の1人が相澤に質問しようとしていた
「生徒の安全・・・と仰りましたがイレイザーヘッドさん、事件の最中生徒に戦うよう促したようですね意図をお聞かせください」
「私どもが状況を把握できなかった為、最悪の事態を避けるべくそう判断しました」
「最悪の事態とは?27名もの被害者と1名の拉致は最悪とは言えませんか?」
「私があの場で想定した最悪とは、生徒が成す術なく殺害されることでした」
相澤の回答に記者はなにか気に入らない表情をしている、まるで自分の欲しい物が向こうが出してこないことにイラついているような感である
「被害の大半を占めたガス攻撃。敵の個性から催眠ガスの類だと判明しております。拳藤さん鉄哲くんの迅速な対応のおかげでほぼ全員、命に別状はなく。また、生徒らのメンタルケアも行っておりますが深刻な心的外傷などは今の所見受けられません」
根津校長が代わりに回答し記者は今度は校長に噛みつく
「不幸中の幸いだとでも?」
「未来を侵されることが最悪だと考えております」
「攫われた爆豪くんについても同じ事が言えますか?体育祭優勝、ヘドロ事件でも強力な敵に単身抵抗を続け経歴こそタフなヒーロー性を感じさせますが。反面決勝で見せた粗暴さや表彰式に至るまでの態度など、精神性の不安定さも散見されています、もしそこに目を付けた上での拉致だとしたら?言葉巧みに彼を勾引かし、悪の道に染まってしまったら?未来があると言い切れる根拠をお聞かせください」
記者の言い方はアレだが大体あっているので困る、爆豪の気の強さと行動の粗さは興味がない人間からすれば確かにヒーロー志望どころかヴィランの間違いじゃないかと見られるのは仕方がない、だが知る者からすればストイック且つ誰よりも強くあろうとするからの行動であることは分かっている。だが記者はあくまでも可能性でしかない話をやたら強調する、否定したらその根拠はなんだとも質問できるように言葉を捲し立てる、ブラドキングはメディア嫌いの相澤にストレスを掛けて失言を引き出す心算だと内心感じ取り横目で相澤を見る。相澤は言葉を荒げることはなく頭を下げた
「行動については私の不徳が致す所です。ただ・・・体育祭でのソレ等は彼の理想の強さに起因しています。誰よりもトップヒーローを追い求め藻掻いている、あれを見て隙と捉えたのなら。敵は浅はかであると私は考えております」
相澤の回答に質問した記者以外のマスコミも困惑の表情を浮かべる
「・・・根拠になっておりませんが?感情の問題ではなく具体策があるのかと伺っております」
「我々も手を拱いてるわけではありません。現在警察と共に調査を進めております。我が校の生徒は必ず取り戻します」
根津校長の回答に記者は僅かに溜息を吐いた後、最後の質問に入る
「では最後に一つ、これも生徒に関する事ですが・・・」
「どうぞ」
根津校長はハイスペックの個性と長年の経験からその生徒が一体誰なのか直にわかった
「A組のおゝとり健についてです、これは匿名から私共にリークされた情報ですが彼は無個性というのは本当ですか?」
相澤は表情を動かすことも動揺する様子も見せず目線だけを動かす、どうやら他のマスコミもこの情報を共有しているようで驚いている者は1人もいない
「・・・確認ですが、その情報の出所は」
「完全に匿名です、ですが私共としては真実であるかどうかもわからない情報が本当か、嘘かをハッキリさせたいんですよ」
そこで根津校長が相澤に代わりマイクに顔を近づける
「それは事実です」
校長の言葉に記者団からは健が無個性である事実よりなぜ世界的なヒーローを輩出する名門校の雄英が無個性を入学させたのかに疑問感が偏る
「先ずお聞きしたいのは何故あの様な無個性の人間を入学させたのですか?通常枠ならまだしも特例で定員20人のクラスを21人にしてまでの理由は?」
「入学試験での彼の行動を評価した結果です。状況判断に優れ、能力も高くなにより他者を気に掛けていました。ヒーローに必要な素養を備えていたため彼を受け入れたのです。能力に関しては体育祭を見て頂ければ把握していると思います」
記者は根津の回答に眉間に皺を寄せる
「それだけで判断を?ヒーローに絶対的に必要な素養は個性ではないのですか?幾多のヒーローを世に出してきた日本を代表する名門の一つである雄英が無個性の人間を入学させた。これは問題になりますよ」
根津はその言葉に逆に聞き返す
「失礼ですが、その問題とは」
「そのままの意味です。無個性はヒーローにはなれない、これが世の常識です。ましてやその無個性の人間が無謀で無駄な行動をして返り討ちに遭い今や虫の息、更にはヒーローも攫われる始末。この際単刀直入に言いますが、そんな無個性は直様退学処分にして他に優秀な生徒を迎え入れた方がもしかすればこのような事態にならなかったのではないですか?」
おゝとり本人がいない事をいいことに尊厳を踏みにじるような言動をする記者、他の記者もある程度は同じ事は思っていたようでそこまでざわつくような事はなかった。結果論で捲し立てる記者に相澤は表情は変わらないが隠した拳を握り込み震わせる。ブラドはその様子を横目で見て冷や汗を流す
「無個性はヒーローになれない、確かに貴方が言う様にそれが今の常識です。それは認めます、ですが我が校の生徒を侮辱する様な言動は止めて頂きたい」
根津は語気を強めることもなく冷静に返す。記者はその事に対して口を開きかけたが直に言葉を続ける
「貴方方から見て彼の行動は無謀で無駄に見えたかもしれない。しかし私達はそうは思いません」
「はぁ・・・ではその根拠は」
記者が呆れたように聞き返す
「彼が敵を抑えてくれたおかげで死亡者という最悪な結果を避けることが出来たからです。捜査の結果ヴィランが進行してきた方角に彼がいた、つまり時間を掛けさせた結果敵は予定がずれ撤退した、それが功を奏した結果死者が出なかったのです。彼は命がけでクラスメイト達を守ったのです」
「ですが彼自身が最悪の結果になりそうですがね」
「いいえ、彼は必ず再び立ち上がります」
~
雄英の記者会見をしている頃、ほぼ同時刻。街のとある一角にあるビルに幾人のプロヒーローが集結していた
「なんで俺が雄英の尻拭いを・・・こちらも忙しいのだが」
「まぁそう言わずに、OBでしょう」
エンデヴァーが毒づくのをベストジーニストが通信機越しに諫める
「雄英からは今ヒーローは呼べない、大局を見てくれエンデヴァー」
塚内警部の言葉にエンデヴァーは不服そうだが一応納得はする
「今回の事件はヒーロー社会崩壊の切っ掛けにもなり得る。総力をもって解決に当たらねば」
爆豪が暴れようとしているバーがあるビルと脳無が格納されている廃倉庫近くにビルにオールマイトをはじめビルボードランキング上位陣と今回の作戦に召集されたヒーロー達が勢ぞろいしていた
「私は以前爆豪の素行を矯正すべく事務所に招いた、あれ程に意固地な男は早々いまい。今頃暴れていよう・・・事態は急を要する」
「貴様が変えられなかったのか」
「毛根までプライドガチガチの男だった」
自尊心が人の形をして尚且つプライドが燃料のような男である爆豪に手を焼かれた職場体験を思い出し頭を抱えるベストジーニスト。因みに髪の毛を七三分けしても無駄だった。そんな爆豪にギャングオルカが興味を持つ
「我が同志ラグドールが奪われている、個人的にも看過できぬ!何としてでも救わねば命を賭けて助けようとしてくれたあ奴に申し訳が立たん!」
虎はラグドールの救出と健への借りを返すことに気合を入れる。一通り会話が終わった事を塚内が確認し今回の作戦の趣旨を説明する
「生徒の1人が仕掛けた発信機ではアジトは複数存在すると考えられる。我々の調べで拉致被害者が今いる場所は分かっている。主戦力をそちらへ投入し被害者の奪還を最優先とする。同時にアジトと考えられる場所を制圧し完全に退路を断ち一網打尽にする」
塚内が作戦を説明している中グラントリノがオールマイトに話しかける
「俊典・・・俺なんぞまで駆り出すのはやはり・・・」
「なんぞではありませんよグラントリノ!ここまで大きく展開する事態、奴も必ず動きます」
「オール・フォー・ワン・・・」
「今回はスピード勝負だ!敵に何もさせるな!先程の会見敵を欺くよう校長にのみ協力要請をしておいた!さも難航中かのように装ってもらっている!あの発言を受けその日の内に突入されるとは思うまい!意趣返ししてやれ!」
ヒーローと警察が一斉にビルの入り口から飛び出し素早くバーと廃工場に急行し位置に着く
「流れを覆せ!!!ヒーロー!!!」
オールマイト達がヴィラン連合を強襲しようとしていたその頃。重傷者達が入院している庵木総合病院では急に強い雨が降り始める。当に診療が終了している病院に複数の人影が現れる、レインコートのような外套を着た人影は病院から漏れ出る明かりが移る水溜まりを踏み抜き入口へと歩を進めていった
TO BE CONTINUED
次回は神野事件と庵木総合病院の出来事を同時進行になると思います