僕のヒーローアカデミア ~MAN OF STEEL~ 作:スルタン
黒い脳無の背中から生やした大砲からの砲弾、それを健が正拳で打ち砕いたのを皮切りにもう一体の黒い脳無が地面を砕きながら迫る。健は動じることなく腰を落とし構える、脳無から繰り出される顔面を狙った巨腕の一撃、それに横から右の手の甲を当て逸らす。体勢を崩した脳無の腹部に向けて左の拳を構える
「つあっ!!」
腹に打拳を打ち込みめり込むと共に周囲に衝撃音が響く。並大抵の相手ならば倒れるであろうこの一撃。しかし健は僅かに目を見開く
「力が足りないか・・・!」
コンディションが最悪の状態での攻撃では衝撃耐性のある脳無に有効打を与える事が出来ない。現に拳がめり込んでいるも柔らかいゴムの様に体表がへこんでいる。そこに脳無が健の首を掴み
顔面にパンチを叩き込む。頭が後ろに仰け反り元の位置に戻った瞬間を更に叩き込む、四度目を打ち込まれる寸前健は首を掴んでいた手の指を掴み合気の小手返しで脳無の体を一回転させ地面に叩きつける。背中に腕を回し動けなくした上でその後頭部に拳を叩き下ろそうとした瞬間、鳥や蝙蝠とも虫の翅とも似つかない翼を広げた脳無が飛来。健に掴みかかり引き剥がし病院の外の崩れた民家の壁に衝突する
「ぐあっ・・・!」
健を民家に叩き込んだ灰色の脳無は鋭い爪で幾度も引っ掻く。その爪は彼の肉体を深々と斬り割く。腕や胸腹、顔を引っ掻かれた傷がぱっくりと開きあちこちに血が飛ぶ
「つっ・・・!」
振りかぶる手首を掴んで止め腹に足を掛け前蹴りで蹴り飛ばす。蹴りだされた脳無はそのまま舞い上がり空中を浮遊する。健は傷口に目をやる、左眼がスキャンをした結果高周波振動による切創の重傷と表示される
(どうりで簡単に切られたワケだ)
内心で呟くと脳無の放った砲弾が迫る。家屋から這い出し躱すと半壊した民家に砲弾が命中し爆発する
「弾の種類が他にもあるのか」
次々と発射される砲弾を紙一重で躱しながら脳無に向かって走り出す。眼前に迫り走り込む勢いを利用して正拳を打ち込もうと振りかぶった時、電撃が健の体を流れ体が固まり体勢が崩れる
「うおっ!?」
片膝を着いた健が一瞬横を見ると放電している脳無が水溜まりに手を着けていた。そこに大砲の発射音と共に後方に吹き飛ばされる。背中を擦り水飛沫を上げながら止まり立ち上がる。全身に痛みが走る、見ると至る所に鋭い針が突き刺さっている。そこに小手返しで地面に引き倒した脳無に後ろから後頭部を殴られる。反撃しようと振り返るが今度はその背中に針の散弾が突き刺さる。一瞬仰け反るその腹にパンチが打ち込まれ、電撃が体を走り、高速で飛来する爪で斬り割かれる、代わる代わる敵に攻撃の一方的なリンチに職員達は声を上げる事も出来ず、あるものは顔を背け、ある者は口を手で塞いでいた
~
「惨めな姿を晒せ、平和の象徴」
手を翳したOFAの先にオールマイトが拳を突き出しているその後方は地面も建物も拳の線に沿ってみるも無残に削り取たれ、吹き飛ばされ跡形もない
「え?・・・」
「お・・・」
「なんだあの骸骨・・・」
ビルに取りつけられた街頭ビジョンに映し出されたオールマイトに民衆の誰かが呟く
『えっと・・・何が、え・・・?皆さん見えますでしょうか?オールマイトがしぼんでしまっています・・・』
モニターに映っているオールマイトの姿は、公には絶対にバレてはいけない。それを知る緑谷は愕然とした表情を浮かべ冷や汗を流す
「そんな・・・秘密が・・・」
「頬はこけ目は窪み、貧相なトップヒーローだ。恥じるなよそれがトゥルーフォームなんだろう!?」
OFAの嘲笑を含んだ挑発にオールマイトは窪んだ眼の奥にある蒼眼が睨む
「・・・そっか」
「体が朽ち衰えようとも・・・その姿を晒されようとも・・・私の心は!依然平和の象徴!!一欠片とて奪えるものじゃあない!!」
血に塗れた拳を握りその闘志は衰えていない
「素晴らしい!まいったよ強引で聞かん坊なことを忘れてたよ・・・じゃあこれも君の心には支障ないかな。あのね、死柄木弔は志村菜奈の孫だよ」
素っ気なく、大した事でもないかのように淡々と伝えられた事実。オールマイトはその言葉を聞いた瞬間動くことも声を上げる事もなく固まっていた
「君の嫌がることをずぅっと考えてた。君と弔が会う機会を作った、君は弔を下したね。何も知らず勝ち誇った笑顔で」
「嘘を・・・」
「事実さ、わかってるだろ?僕のやりそうな事だ。あれ?おかしいなオールマイト。笑顔はどうした?」
OFAは親指を自身の頬に当て上に押し上げ笑顔のジェスチャーをする。傍からみればふざけているように見えるがオールマイトからすれば自身の師との思い出を嘲笑う行為に等しかった
「き・・・さ・・・ま・・・!!!」
「やはり楽しいなぁ!一欠片でも奪えただろうか」
(お師匠のご家族・・・彼が!!私はなんということを――・・・)
「おおおぉ・・・・!!!」
怨敵の弟子としか思っていなかった。有能であったから手塩にかけて育てていただけかと思っていた。だが蓋を開けてみれば恩師の身内、ましてや孫である。それを知らなかったとはいえ彼に相対し打ち勝ち下した、一番に、なによりも救けなければならない人に、その事実がオールマイトに圧し掛かる
「負けないで・・・」
絶望し項垂れるオールマイトの後ろに、瓦礫で動けない一人の女性が助けを求める
「オールマイトお願い・・・救けて」
女性だけではなく日本中のモニターの前にいる人々から声援が上がる
「お嬢さん・・・もちろんさ・・・ああ!多いよ!ヒーローは・・・守るものが多いんだよオール・フォー・ワン!!だから!負けないんだよ!」
右腕のみをマッスルフォームに変化させ眼光をOFAに向けた
~
コンクリートの壁に釘付けにされた健、その脇腹には金属の長い杭が突き刺さっている。リンチを受けた為に全身傷だらけである。引き抜こうと力を籠めるがご丁寧に返しがついておりコンクリートの中でがっちり嵌り込んで取れそうにない。動けない獲物に止めを刺そうと脳無達がにじり寄ってくる、肩で息をしている健はチラリと病院の方を見ると職員達の姿はない。別の部屋に逃げたのだろう。それを確信し脳無達に視線を戻す
(上手く移動してくれたようだ、これで被害や狙いがあの人達に移ることはない。気合を入れろ)
鉄芯を左手で掴み右手を手刀に構える。それが赤く発光しハンドスライサーが金属の杭を奇麗に両断する。身体を前に動かし杭から自身を引き抜き全身に力を入れ刺さっている針を筋肉で外へ押し出す、それを反撃と判断した黒い脳無が地面を蹴り止めを刺そうと腕を振り上げる。健は持っていた杭を真ん中から捩じ切り二振りの棒にする、脳無が拳を振り下ろす前に棒で首を横から殴る。衝撃の耐性を備えているためダメージはあまりないが圧迫と突然の出来事で一瞬動きを止める
「つあっ!」
歯を食いしばり、痛みに耐えながら間髪入れずに、反撃を受けながら二本の棒を叩きつける。健の腕力と頑丈な金属の棒から繰り出される威力は少しずつ脳無の物理耐性を上回り遂に仰け反り始める。猛攻を止める為に大砲を此方に向ける、健は振り向き様に左手に持っていた棒を投げる
「!?」
脳無は飛来する棒に反応できたが構えていたため動く事が出来ず砲口に棒が入り込む、その瞬間大砲本体が爆発、砲弾に棒が当たり暴発を起したのだろう。爆発と衝撃と爆炎に晒された脳無は口から泡を吹き地面に倒れ伏す。健はそれに目も暮れず五、六度叩き伏せ最後に思いきり顎を打ち上げる。
「くらえ!」
空いていた左手を拳に硬めそれが赤いエネルギーを纏い、それを脳無の鳩尾にアッパーで叩き込む。耐性があるのでかなりの抵抗がある
「これしきの事で・・・!」
師の直伝の技レオパンチはこのようなもので撃ち負けるわけはない。渾身の力を籠め拳をめり込ませる。脳無は自身の個性を突破してくる事に本能で驚愕している
「!!!??」
衝撃音と共に拳が鳩尾にめり込み脳無は白目を剥き拳は振りぬかれると同時に後方へ数メートル飛ばされ背中から地面にぶつかり動きを止めた。息を切らし、僅かにふらつくが直に残りの脳無達に向かって歩き出す。僅かに空が明るくなり始め当たりを照らし、雨が燃え盛る建物の炎を消している。一歩踏み出すごとに脳無が僅かに身を退く、脳無が高圧の電撃で攻撃する、感電して動きを止めるが倒すまでには至らず数メートルにまで近づく。破れかぶれに健に向かって飛び掛かるが右手に持っていた棒を背中に振り下ろされ地面に叩きつけられる、左の打拳を後頭部に打ち込みアスファルトにめり込ませる。健は最後の一体がいる方向へ顔を向けるが
「・・・いない」
どうやら脳無を無力化した時を狙ってどこかに逃げ込んだようだ、数秒しかない時間で逃げ込める場所は限られる。辺りを見回すと正面玄関の扉が倒れる
「不味い!」
健は病院内に入り込み周りを見る。雨水が床の先に続いているのに気づき直に後を追う。追った先は物置でそこから大きい音と悲鳴が響いてきた。部屋に入ると翼を生やした最後の脳無が双子の子供を片腕で抱え窓から外に逃げようとしていた
「ああああ!!うちの子が!!」
「くそっ!人質かよ!?」
「無暗に近づいては危険です!」
「お父さ~~ん!お母さ~~ん!」
「救けてぇぇぇ!!!」
兄妹は泣きじゃくり母親は泣き叫びながら手を伸ばし父親は苦虫を噛み潰したように歯を食いしばり、職員が無謀な行動を阻止しようとそれを止める。脳無は健に気がつき直ぐに外に飛び出し上空に向かって飛び立つ
「待て!」
健も窓から飛び出し後を追うが脳無は既に大きく距離を話している。空を飛ぼうにも走るのがやっとでは到底無理だ。この状況をどう打開するか頭をフル回転させている時分厚い雲の切れ目から一筋の光が健を照らす、頭を上げると一日見ていなかった太陽の朝日だった。その光を体に受けていると不思議と痛みが幾分か和らいでいく、それと同時に力が湧いてくる
「これは・・・今なら行ける」
健は深呼吸をして空を見上げ飛び上がる。空中で一回静止し脳無が飛び去った方へ通常とは比べ物にならない速さで追いかける。驚異的な視力と左眼のナビゲーションで絶対に逃すことはない。健が追いかけてきていることなど露知らず、脳無は雨雲を抜け高度を上げる事で姿をくらまし追跡を振り切る算段。捕まっている兄妹は雨に濡れた体に高高度と風による冷却で体を震わせている、脳無は適当な所で捨てる心算のようで抱え方がかなり杜撰だ。
「お・・にい・・ちゃん・・・」
「がんばれ・・・あの人が・・・来てくれる・・・」
手をお互いに握り健が救けにくるのをただ祈るしかない。妹は涙を流し兄は励ますも自身も恐怖と絶望で押しつぶされそうになったその時脳無の体が大きく揺れた。脳無の腕が離れ一瞬の浮遊感の後、健の腕に抱えられていた。妹も同様に抱えており脳無と十メートルほど距離を取り相対している
「来て・・くれたんだ!」
「あぁ~~ん!!怖かった~!!」
「もう大丈夫だよ」
脳無はまさか追いかけてくるとは思っていなかったのか、人質を取られた腹いせか高周波振動の爪を振りかざし迫る。両腕が塞がっている為防御する事もできない、兄妹は思わず目を瞑るが聞こえたのは斬り割かれる音ではなく何かが砕ける音だった。目を開けると砕けた爪を見る脳無と依然として見据える健の横顔
「しっかり捕まってて」
兄妹は健の言葉を聞いてしっかりと腕に捕まる、彼が大きく息を吸い込み脳無に向かって吹き込む。スーパーブレスによる強烈な風圧が脳無を吹き飛ばしあっという間に空の彼方へと追いやった
「すごーい!!」
「かっけ~・・・」
兄妹は一瞬で脳無を撃退したことに感激しているが次に響いたのはくしゃみだった
「このままじゃ風邪をひいてしまうから直に戻ろう、君達のお父さんとお母さんが心配しているからね」
鼻水を啜る兄妹が頷き負担を掛けない速さで戻る。少しして街の上空に着き地上には応援のヒーローや救急車両や警察車両、消防車のパトランプが光っている。病院の正面玄関には兄妹の両親が健達を見つけ泣き崩れるのが見える、地上に降り兄妹が両親の元へ向かうのを見届け。代わりに医師や看護師が健の所に駆け寄り、彼らに連れられ半壊した病院の中に入って行った
TO BE CONTINUED
次回は神野編のその後の話からスタートする予定です