とある球団の監督、彼の発言で全てが初まった。
真夏の夜のトゥルーエンド
第1話 <遣り直す時>
2001年、下北沢。
「まずうちさぁ、屋上あんだけど……焼いていかない?」
後輩を自宅に招いた青年、田所浩二は広く構える自宅の屋上へと後輩を誘う。
彼が「情報網(インターネット)」に革命を起こし、国境をも超えることになるとは、誰が予測しただろう。
2024年、XXX。
この国の情報網の玩具と化した田所は、毎日を薄暗い部屋の中で過ごすようになっていた。
強く光を放つスクリーン。
キーボードを叩くように打ち込む。
<y>
変換候補には既に「野獣」の名があった。
「……結局は自業自得……か」
自分の無知さを嘲笑する。
しかし、面白い。
田所は久々に興奮していた。
こんな俺がネットミームを独り占めできるなんて。
田所は自らの運の強さに感謝した。
そしてまたひとつ、涙を零した。
『よっ、俺……いや、野獣先輩』
「ファッ!?」
突然背後で声がした。
恐る恐る田所が振り返ると、そこにはタキシード姿の……「自分」がいた。
そいつは田所に語りかける。
『アンタはこの「淫夢」という名の、ホモビの仮面を被った悪魔。そしてその信者達に踊らされた……そうだろ?』
「淫夢……聞くだけで頭痛がする。……そもそもお前は誰なんだ」
『俺か?……お前と同じくと言いたいところだが、ややこしくなる。俺は田所コージだ』
「同じだと思うんですがそれは……」
田所は冗談半分にツッコミをいれた。
『そして俺は、アンタが創り上げた存在。……いや、アンタの妄想そのものと言った方が正しいか?』
「は?」
田所は混乱していた。
『……俺は淫夢が存在しなかった世界のアンタだ。お前が何回も何回も。後悔とともに繰り返した妄想の中で、俺は生きていた』
「……」
『そうだ、俺はアンタとは違って「普通の人生」がある』
「……」
『もう一度いうがアンタは、「野獣」としてネットのおもちゃにされ、そしてホモビの仮面を被った悪魔に踊らされた』
田所は何も言い返さない。
ただ、黙って聞くだけだ。
『だがな、俺はアンタが創り上げた存在なんだ。だから……』
「……」
『……だから、俺がアンタを救い出してやる。……いや、アンタだけじゃない』
田所は顔を上げた。
そこには、無数の「家族(ファミリー)」がいた。
「先輩、何してるんすか。早く助けてくださいよ」
「鈴木も早くしろー」
「あくしろよ」
「ライダー助けて!!」
「ウッソだろお前www早く助けてナス!」
その嘆きは本心なのか。
その嘆きは幻聴なのか。
田所には、分からない。
いや、本当は分かっているのかもしれない。
でも、それはとても恐ろしい事だから……見ないふりをした。
「俺は……」
田所は俯いていたが、やがて顔を上げる。
その顔は笑っているようだったが、その目からは大粒の涙が溢れていた。
「……俺は!」
「普通の生活を……送りたかったんだよ……」
『なら話は早い。はいって、どうぞ』
コージは羽織っていたタキシードを脱ぎ捨て、軽くワイシャツの袖をまくる。
「こ↑こ↓」と何も無い空間に指を指した途端、ゲートが現れた。
『……悔い改めて』
「俺……こ↑こ↓!!」
田所は涙声になりながら、そのゲートの中に入っていった。
『田所浩二……いや、俺……』
コージは家族、ファミリー達をゲートへと誘導すると、自身も身を潜らせた。
新シリーズです!!