魔法科高校の劣等生 死を視る者   作:ノッティ

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第13話

志貴は死者を狩っている中、そして魔法が使える魔法科高校の生徒が行方不明になっている時点で薄々今回のような状況になるであろうという事は予測はしていた。しかし、今の所幸運と言うべきか死者となった魔法科高校の生徒とは遭遇する機会がなく、今回が初めての邂逅であった。

 

不測の事態に備え、魔法に対する手段を用意してはいるものの、それは特に新しい準備物が必要という事でもなく、普段彼が行っていることとほとんど変化はなかった。発動が遅いようならその間に相手を封殺してしまえばいい。故に自らの武器の一つであるこの身体を、自身が敬意を払う死神に無謀にも何度も挑むことで鍛え上げ、発動の速い一工程で済ませられる魔術を重点的に、体系や相性をほとんど無視して無理やり叩き込んだ。魔法の発動が速く、後手に回ってしまったら致命傷を避ける事で生還率を少しでも上げる。故に魔法の知識を短期間で詰め込んだ。魔法の発動後はどうしても後手に回ってしまうため、如何ともしがたい点があるが、幸いな事に現代魔法には、魔術でもある程度の対抗が可能であることも発見した。

 

現代魔法は『対象の情報を書き換えるもの』という大前提がある限り、その情報は固有の物質毎、そして環境によって常に微弱ではあるが変化している。人間のような既に一つの物質として情報が固定されている物にはほんのわずかなものではあるが、確かに変化しているのは事実である。

 

そして、志貴にはその情報を書き換える要素として魔術師としては必須の“魔術回路”が備わっている。あくまで、四谷志貴個人の情報を永久的に変化させることは出来ないが、魔術回路からの魔力によって一時的に自身を新たな四谷志貴として偽ることが出来る。その一時的な情報の齟齬を利用する事で、志貴は現代魔法に対する新たな対抗策と言えるものを編み出していた。

 

幻惑(Fascino)』と銘打った、その一工程の魔術は志貴の戦術を大きく広げる事になっている。しかし、志貴は元来“戦う者(ファイター)”であり、“追究する者(マジシャン)”ではない。故に身体にある魔術回路は合計六本。魔力の量としては並の魔術師に遥かに劣るものである。

 

よって、新たに生み出した自身の魔術もそれほど連発できるようなものでもなく、長期戦を見越すのなら気休めにもならない代物であった。

 

そんな対抗策があったからこそ、先ほど司波兄妹が魔法を行使した際も事前に用意していた魔術を言語によるスイッチではなく、ルーンを媒介として魔力を流し込むだけで発動させるように細工し、こっそりと発動させていた。

 

そのため、深雪の魔法は結果的に自分にかけられることはなかったが発動座標の情報を一時的に偽ったのか、自身のすぐ隣で魔法が発動していたような状況が出来上がっていたのである。

 

この魔術の難点として、自身の情報を偽り、魔法の効果を受け付けないようにするという前提はあるものの、どの情報のダミーを作り出すかは任意に指定できないという点にある。よって、魔法そのものをキャンセルさせることはできないし、もし広範囲に広がる爆発のような性質の魔法に対しては位置などの情報のダミーを作ったところで、爆発の余波からは自分の足で退避しなければならない。

 

そもそも都合よく位置情報のダミーを作ることが出来たとしても、自分の魔力量と干渉できる範囲的を考えると精々五メートルほどが限界である。結局、一時しのぎでしかない上に、切り札と呼べるようなものでもないのである。

 

しかも、もし死者の乱入がなければ達也の『分解』の魔法にはどうやっても対抗できるような魔術ではない。今回は位置座標のダミー情報だったからこそ初撃はなんとか回避する事は出来たかもしれないが、達也の眼をもって注視すれば、そんな小手先のものは難なく看破されていたであろう。志貴自身その事に対しては全く気付いていないのだから、本当に今回は運が良かっただけなのである。

 

そんな魔術の扱いづらさと遭遇した死者の中に現代魔法を使う者がいなかったのも相まって志貴は、魔法の使える死者の存在に疑問を持っていた。基本的に死者は死者である。生命活動を停止し、身体のどの部分もほとんど正常には機能していないにも関わらず、死徒の操るままに、命じるままに動く人形のようなものだ。

 

だからこそ、魔法師に必須と言ってもいい脳の中にある魔法演算領域、これすらも機能しなくなっているのだとしたら、もしかすると事件の現場に残留している魔法の痕跡は死徒自身か、あるいは最悪の場合大元の被害者の中で死徒として覚醒した魔法師がいるという状況である。そんなことまで考えるようになっていたのだが。

 

「あっ、そう。やっぱりそういうのは使えるんだな」

 

目の前の死者が魔法を発動させようとしている現状を見て、その考えはどうにも的が外れているようである。いや、今回はどうやら外れたが、別の的に当たったようである。何せ、所謂死徒のなりそこないである死者がもともと素質を持っているものに限るとはいえ魔法を使えるのなら、大元の死徒自身何らかの方法で魔法を使用する手段をもっている事は十二分に有り得る事であり、新たに死徒に目覚める事があった魔法師がいるならば、その死徒も魔法を使う事が出来るということになるからである。

 

大変厄介で、面倒な状況だ。と志貴は内心ごちたが、少なくとも今は目の前の死者を殺すことが先決である。そう思い、魔術回路を起こし、『幻惑』を発動させようと口を開こうとした時。

 

パリンと小気味の良い音が死者のCADの魔法式を弾き飛ばした。唐突にキャンセルされた魔法の反動に死者は大きくよろめく。その隙を逃がすような志貴ではない。短刀を逆手に持ち、サングラスを下げ、死者の四肢を根元から断つように斬り飛ばした。

 

「オォオオオォォ……!」

 

元女生徒だったと思えないようなうめき声をあげて、死者の身体が落ちていく。すると、志貴はあろうことかその死者の頭を鷲掴みにし、素早く懐から救急用のバンテージを取り出すと、手慣れた手つきで口にかませるようにして巻きつけた。猿ぐつわをされたその死者をまるで物でも扱うかのように片手で掴みながら、志貴は達也と深雪の前に再び舞い戻る。

 

「それで、何の話の続きだったかな?」

 

と、当たり前のように聞く志貴に、深雪と達也はこの男が狂人であることを再認識させられた。特に深雪は先ほどの激昂が嘘のように、志貴から発せられる恐怖と狂気に目も当てられないと思わず目を両手で覆っていた。

 

「……どうして」

 

「ん?」

 

「どうしてそんな惨たらしい事をしておいて、平気なんですか!」

 

深雪は目の前の死体を片手に持っている男に対して、精一杯の思いのたけをぶつける。

 

「あの方たちは確かにおかしかった、尋常じゃない雰囲気でしたが何もそこまでする事はないではありませんか! あなたのような実力があれば無傷で捕えることぐらい出来たでしょうに!」

 

「いや、そんなこと言われてもねお嬢さん。こいつらもうとっくに死んでるんだ。そんな奴を動いているからって捕まえてどうするつもりなんだい? 実験材料にでも使うんだったら事前に言ってもらえれば……」

 

「そういうことではありません!」

 

深雪は激昂する。先ほどの冷たい怒りではない。これは彼女が本来持っている慈しみの心から来る優しさからだった。

 

「ましてやこの人は一高の生徒で、もしかしたら私たちの先輩にあたる人だったのかもしれないのに……、それを、こんな……」

 

ああ、と志貴はどこか納得していたような表情で見ていた。もしこの場に自分の最愛の人がいれば同じような感情を持つかもしれない。彼女も目の前の同級生の様に強いけれども弱いそんな心を持っている人だから、と志貴は苦しげに叫ぶ深雪と真由美を重ねていた。そんな風に見ていたからか、何処かかけらのように残った人間らしさというものが志貴の中でじくりとざわめいたように感じていた。

 

「志貴。まず一つ聞かせろ」

 

今まで黙っていた達也が、低い声で志貴に尋ねる。

 

「それは『とっくに死んでいる』と言ったが、それはどういう意味だ」

 

「……自分で確かめるといい。お得意の分析でな」

 

そう言って、志貴は達也の前に胴と首だけの死者の残骸を放り投げる。達也は嫌悪の表情を顔に浮かべたものの、腰をかがめて死体を観察する。眼を使わずとも、その死体の異常さはすぐに確認できた。

 

「……なぜ、動いてられる」

 

そう、死体は未だ動いていた。眼球は焦点が定まらず、常に右往左往しており、猿ぐつわを噛まされた口はその布を噛みきろうと乱暴に上下していた。そして、残された胴で地面の上でグチャグチャと這いずっていた。

 

兄のその言葉に深雪も目を向けようとするが、達也がゆっくりとその視界を遮る。これはいくらなんでも年頃の少女に見せるようなものではない。

 

死者(そいつら)は既にヒトとしての生を終えている。心臓止まってるってのにそんな風に動き回るんだ。まぁ、パッと見は人間と大差ないから分からないけどな」

 

生ける屍(リビングデッド)……」

 

「そんな大層なものじゃないさ。本質は違うものだしな」

 

「それはどういう……」

 

達也が再び質問を重ねようとすると、志貴が止めるように手のひらを達也に向けてかざす。

 

「思い出したわ。お前を馬鹿にした理由と、お前の模擬戦での見込み違いの理由」

 

そう言って、志貴は言葉を続ける。

 

「お前は戦闘に優れているし、頭も回る。状況判断的確だし、いざって時の迷いもない。尊敬するよほんと」

 

そして、先ほど見せた何の感情も見せないような無表情で言った。

 

「だが、お前は理解できていないんだよ。人間の感情ってやつを」

 

その言葉に達也は自身の中に燻るわずかな動揺を抑えることが出来なかった。




3500-4000字程度で一話。自分的にはこのぐらいが一番かもと思います。読者様には物足りないのかもしれませんが……
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