ユニコーンに懐かれたのでダンジョン配信します……女装しないと言うこと聞いてくれないので、女装して。   作:あずももも

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177話 乙女会議

「では、柚希先輩は3人のものってことで」

 

「いぎなーし!」

「ありません」

 

駅前のファミレス――ひなたは「こんなお店があるんだね!」とはしゃぎ、あやは「よく見るチェーン店のようなのに微妙にちがうのが斬新です」と感心し、理央のフィールドである地元の店。

 

そこでは――柚希の身柄と進退と未来が、柚希抜きで約束されていた。

 

「理央ちゃんがせいさいさん、私たちはあいじんさんだね!」

「正確にはこの婚姻届上区別はないんだけど……ひなたちゃん? そういうのどこで知るの?」

 

「え、マンガ。 ひなた、最近ゆりものってのにハマってるの。 好きな子同士がとってもかわいくて素敵なの!」

「あー」

 

ひなたが笑顔で取り出したのは、幼い少女たちが抱擁を交わしている表紙の単行本。

 

ちなみに、片方は前髪が長く、片方はツインテールだった。

 

「でも……よろしいのですか? その……やっぱり……」

「私としては、ひなたちゃんが正妻さんでもいいんですけどね。 ほら、お家の格とか的に?」

 

「いえ、でも、やっぱり理央さんは柚希さんのことを、ずっと……」

 

「……私、思うんです」

 

完全に覚悟を決めたあどけない笑顔と、常識人としての心配を浮かべている顔を前に、理央の顔は暗くなる。

 

みしっ。

 

店内が、軋む。

 

「……もう、ぶっちゃけ3人がかりとかじゃないと無理なんです……言ったでしょう? 一緒にお風呂とか、触りっことか、くすぐりあいっことか、見せつけとか、ありとあらゆる手段でも柚希先輩、私のことを『そういう対象』として見てくれないんですよ……私、これでも、うぬぼれてるとは分かってますけど、一応は美少女の分類なんですよ? おっぱいもそれなりに豊胸体操とかで男子がくぎ付けになる程度には育てたんですよ? しっかりくびれも作って、お腹もぽっこりならないようにセーブしてるんですよ? 柚希先輩が好きな香水とか服装とか表情とかしゃべり方も、全部全部いつもいつも十何年も研究してきてるんですよ? 女の子から告られたことも結構あります。 だからこそ自信があったんです、先輩みたいな性格の子からも好きって言ってもらえるなら、先輩も私のこと好きになってくれるんじゃないかって。 なのに柚希先輩は私が裸で迫っても裸でくっついても触ったり揉んだり見せつけたり触らせたりしても、一向に振り向くどころかまるで幼稚園のとき一緒にお風呂入ったときみたいな顔しかしないし一切の反応をしないんですよ? 健全な高校生ですよ? いくらなんでもひどいです、あんまりです。 先輩がいくらそういうのに興味がないって言っても、何回か真剣に告白したのを『友達としての好き』って心の底から解釈されてみたらもうぐちゃぐちゃなんです。 先輩のことも怒れないし、私自身も何日も何週間も何ヶ月も使って考えた言葉なので、これ以上のことはできなくって。 ……私、もう限界なんですよそろそろ……なのでロリっ子のひなたちゃんに大人の魅力あふれるあやさんと3人でサンドイッチでもしなきゃ、もう、どうしようもないかなって……このままじゃ、いつふとした何かで柚希先輩の興味が男子にでも移ったら私もう生きて行けないんですお願いです協力してください、仮にぽっと出の男子でも女子でも柚希先輩を奪われたら私、もう生きて行けないんです」

 

――しん。

 

ファミレスの音楽までが消失し、静寂に包まれる店内。

 

気まずくて重すぎる独白が数分かけてとめどなく吐き出されたため、あやは恐怖に怯えているものの、あまり分かっていないひなたはけろりとして答える。

 

「よく分からないけど、ゆずきちゃん、女の子の良さが分かってないんじゃない? ひなたも、ちょっと前まではそうだったもん。 女の子にどきどきするのって、きっかけがないと難しいよね。 ほら、みんなでプールとかお風呂入ってはだか見ても、ドキドキしないでしょ?」

 

「そ、そうですね……わ、私も、男性にもまだなこの感情を、柚希さん相手には……そ、それに、柚希さんも、恋愛に興味はなくとも無意識の中で、お相手として男性しか意識していないのでは……?」

 

「あ、そのことなんですけど」

 

ひなたがぺらりと開いたページでは、全年齢向けなのにかなりきわどい少女同士の体を寄せ合うシーンが見開きだが、「後で見せてもらうね」と丁重に断る理央。

 

「――おふたりは、柚希先輩がどんな秘密……体でも、柚希先輩のことを愛せますか?」

 

「? ひなた、たとえゆずきちゃんがどんな体でもあいせるよ? どうしても見れなかったら、私の目、見えなくしちゃってでも。 そうすればどんな見た目でもあいせるよね!」

「そ、そう……」

 

「ひ、ひなたさん……と、とにかく私もですっ! 確かに柚希さんは幼い見た目ですが、心の方も幼いというか不思議というか、幼いのに大人びているときもあるというか、頼れるというかとにかく体の秘密ごときで諦めるような気持ちではありません!」

「あ、はい」

 

店内は貸し切りだ。

 

厳密に言うと違うが、そもそも普段からこの時間帯は誰も来ないし、さらには入り口付近を柚希のクラスメイトたちが固めているため、仮に来たとしても、この大切な会議の邪魔も情報漏洩もさせない気配りがなされている。

 

「で! ここの欄、どうするの? ふーふのとこ、こんいんかんけい……ってとこ、4つ埋めるんでしょ?」

「これが、ニュースになっていた……まさか、私たちが使うことになるとは思いませんでしたけれど」

 

「ま、とりあえず書いとくだけですけどね。 柚希先輩へのトドメに使うために。 あ、いざとなったら柚希先輩のお母様に協力してもらえる手筈は整ってます」

「りおちゃん悪い子ー!」

 

「でも、本当に……ふ、夫婦になるのならこれくらいはしないと……いえ、表現するならパートナーでしょうか……」

「今ってゆずきちゃんがすっごく人気だもんね! うん、他の子に取られちゃわないようにしないとね!」

 

単純に「仲の良いみんなで結婚して嬉しい」というだけのひなた、「男性との交際経験すらすっ飛ばして女性との、しかも複数人での」と、まだまだ抵抗感のあるあや。

 

それに対し、とっくに堕ちている理央は冷静だった。

 

「安心して、りおちゃん」

「ひなたちゃん……」

 

にこり、と、幼い笑みを浮かべるひなた。

 

「『そんな子は、存在しない』から」

「あ、うん、えっと、ほどほどに、ね?」

 

「……ひなたさん、やり過ぎはいけませんよ? そもそも、柚希さん自身が好きだと思う相手を見つけるかもしれませんし、柚希さんの気持ちを無下にするわけには……」

 

「? その前に振り向かせてけっこんしてふーふになっておけば良いでしょ? 別の子が後から加わるなら別にいいんでしょ?」

「え、ええ……」

 

「ゆずきちゃんを3人で、その子を見れないくらいめろめろにしてあげればいいでしょ? 3人も居るんだもん、24時間365日100年ずっとずっと――」

 

ひなたの「本当に裏の無い」笑みは、あやをぞくりとさせるのに充分なものだった。

 

「はいはいひなたちゃん、あなたまで堕ちちゃダメよー。 で、なんですけど」

 

3人の中央に鎮座している、婚姻届。

そこを指し示しながら、理央は言う。

 

「私たち3人がお嫁さん。 ですので――柚希先輩は、『旦那さん』って感じにしません?」

 

「ええと、新法案ですと女性同士での夫婦も……」

「ひなたは別にいいよ? ゆずきちゃんさえ一緒なら」

 

「一応形式上として、『夫』が居ると書類とか楽だって聞いたので。 あと、柚希先輩って――『男装』とかしても、それはそれで似合うじゃないですか。 ね?」

 

そうして、理央は「なぜか」その秘密を明かすことなく外堀から内堀へと触手を伸ばしていく。

 

柚希が気が付いたら、もう、判子を押すだけになっている状況にするために。

 

あとは、泥棒猫の入る余地を完全に断ち切るために。

 

「りおちゃんりおちゃん、もしゆずきちゃんに、私たちにプラスで好きな子ができたらどうするの? お友達にする? それともやっぱりしょす?」

 

「柚希先輩自身が好きって言うなら良いよ? うん、柚希先輩が言うんだったら」

 

そんな、覚悟の決まりすぎている会話で空間が歪んでいるかのような感覚のする――この中ではどうしても突き抜けて常識的なあやは。

 

――私、早まってしまったでしょうか。

 

そう、ちょっとだけの後悔を抱いていた。

 

――なお、入り口で警護をしていた同級生たちや店員たちは、その圧で息も絶え絶えになっていた。

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