ユニコーンに懐かれたのでダンジョン配信します……女装しないと言うこと聞いてくれないので、女装して。   作:あずももも

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424話 すれ違い(致命的)

「……ああ、それとでございます、主様」

 

索敵に集中しようとしていた主を引き戻すメイドの声。

 

「まだ何か?」

 

「はい、そのいんたぁねっとにおいて、聖女様はとてつもない人気を――民からの、数ヶ月前から強い信仰を集めているのを確認しまして」

 

信仰――それは王・魔王・勇者・聖女など、正負にかかわらず膨大な数の生物の、心からの強い想い。

 

どの種族も、大半の個体は自らの魔力を他人に渡すことはできない。

だが「信仰」をした相手には、わずかながらにそれが伝わる。

 

その数が多ければ多いほどに――そして、信仰が強いほど、深いほどに、伝わるそれの量と質は膨らんでいく。

 

だからこそ、恐怖による支配も勇気による支配も――慈愛による支配も、そのすべからくが効果的なのだ。

 

「『純潔の証であるユニコーンに懐かれる幼子』『妖精のごとき純粋な精神』『まだ生殖の衝動を知らないからこそ、淫魔さえ心酔させ淫魔たちを治める』など、複数の強い魔力が……星全体を覆っています雷魔法を経由し、今、この瞬間にも聖女の元へと注がれております」

 

「その信仰は既に『神』の領域へと届いているかと。ただの人の生まれでありながら、もはや純潔神族と同等の」

 

「……そうか。支配者階級はまだしも、その下の人間共は……まだ、救いがあるか。彼女の嘆きを知らぬ愚か者共――しかし、その在り方に、自らの存在力を捧げている」

 

「ええ、もはやこの星の被支配階級の大多数は、彼女の信徒。……やはり支配階級だけを、という方針で間違いはなさそうです」

 

メイドの操作により投影されたのは――再生回数の多い『ユズちゃん』の切り抜き動画。

 

その再生ボタンは、押される前だ。

 

「あまりの尊さに視聴中断が続出しております」

「見ただけで心は蕩け、体は砕けます」

「主様でしたら耐えられるかと……ご覧になりますか?」

 

そこには、彼女たちが「絶対に上層部によるコントロールがあるに違いない」と考え「意訳」する前の、生の――「なぁにこれぇ……」や「ユズちゃん……どうして……」という言葉がこれでもかと込められていた。

 

あるいは魔王が直接に閲覧したのなら、その真実に気がつけた可能性はあった。

 

だが。

 

「……いや、良い。全てが終わる前に見てしまえば、決意が揺らいでしまうやもしれぬ。お前たちも、事が終わるまでは止めておけ。彼女を全てから開放したら――皆で見ようではないか」

 

――彼女たちは、「サキュバスユニコーンちょうちょ聖女ロリユズちゃん」の真実に近いものへ手が届きかけたが――覚悟が決まりすぎていたため、戦いが終わるまでその本質に気づくことができなくなった。

 

すれ違い――古今東西、悲劇の多くはささやかな情報の差異で起きるものだった。

 

 

 

 

「くぁぁぁ……」

 

「ぐっ……!」

「防御魔法を展開して耐えるのです」

「なっ……!? 貫通した……まさか、精神汚せ――ヴッ」

「なるほど、聖と魔――仕方がありません、一定のアンチ神族フィールドを……」

 

気持ちの良い朝。

 

そういや僕、メイドさんに抱っこされて連れてこられて、珍しくておいしいごはんをいっぱいご馳走になって、豪華なお風呂を堪能して。

 

ちょっと変な風習でちょっと変な、エリーさんが好きそうな服を着させられて吸血鬼な魔王さんとこんばんはさせられて、眠くなったからそのまま寝ちゃったみたい。

 

「……ぶかぶかだ……おー」

 

袖が長いし、お腹周りもぶかぶか。

なんだか子供に戻ったみたいな気分。

 

「      」

「伝令。補充3名を……ぐふっ」

 

起きたら、あの紐でぱっくりな服の上にだぼだぼなパジャマを聞かせられてたらしい。

かわいいピンク色で、おろしたてで、良い匂いの。

 

「すんすん。……ふぁぁ」

 

寝起きで気持ちいい脳みそが、良い匂いを吸ってとろんとする。

 

「     」

 

「確信しました。聖女様は……純粋過ぎる幼体。きっとこの幼さは、壮絶過ぎる記憶を覆い隠すためのもの……これは絶対に、過酷な過去を思い出させないよう、満ち足りた奉仕をご提供せねば……!」

 

ああ……こんなにも警戒しなくて良いだなんて。

理央ちゃんの襲撃も、おまんじゅうのいたずらも気にしなくて良いだなんて。

 

この1年……いや、理央ちゃんが中学生くらいになってからの数年も経験していなかったような、とっても素敵な朝なんだ。

 

メイドさんたちは目が覚めたら僕の周りに居たけども、昨日とは違ってちょっと距離を置いて見守ってくれている。

 

うん、きっと僕が、女の人にくっつかれすぎるのはあんまり好きじゃないって分かってくれたんだ。

 

なんて良い人たちなんだ。

 

ほら、何人かは真上を向いたり真下を向いたりして見てないふりしてくれてるし。

 

「おはよぉごじゃいます……あ、噛んじゃった」

 

「      」

「      」

「      」

 

こくり、と軽い返事。

 

僕が眠すぎて噛んだのも、聞かなかったことにしてくれている。

こういう気遣いって良いよね。

 

理央ちゃんもお母さんも見習ったら良いのにね。

こういう人たちこそが「できる女の人」なのにね。

 

「顔洗いたいんですけど、洗面所は……あ、そっち。ありがとうございます」

 

気遣いのできる華麗で豪奢なメイドさんたちは、真上か真下へと顔を90度に逸らしつつ、そっと指先で教えてくれた。

 

うーん……僕、ここがものすごく快適になっちゃって、帰りたい気持ちがなくなってきちゃった気がする……。

 

………………………………。

 

……も、もうちょっとだけ。

 

お母さんか理央ちゃんがお迎えに来るまでは、もうちょっとだけ……いいよね?

 

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