ユニコーンに懐かれたのでダンジョン配信します……女装しないと言うこと聞いてくれないので、女装して。 作:あずももも
452話 すれちがい
「さて」
僕は、熟考した。
普段はぼーっとすることで「まだまだ足りない」魔力を大気から吸収するのにリソースを回していて、ついでで感覚に身を任せて気持ちよくなるために稼働していない頭を動かして考えている。
「……ここから、どうやって帰ろっかな」
僕は見回す。
何もない空間。
光も温度も音も何もないのに、同時になんでもある空間。
何もないから何でもある――その中でもすかすかな方のやつ……って、クセでつい思考止めちゃうなぁ……まぁいいや。
「……なんとなく、あっち」
僕は――ばさりと半透明の羽を展開。
体はぐぐぐと背が伸びて、なぜかちょっとお胸が張って――いつぞやの、ちょっとだけ成長した姿。
お母さんくらいには追いつけた姿になって、舞い上がる。
……あ、大丈夫だ、ちゃんとついてる。
なぜか女の子みたいになってるけども、僕は男のままだ。
安心だね。
けども、メイドさんたちに着せられちゃったことになった、聖女コス――あ、本当にどっかの世界の聖女様の服って言ってたっけ――の胸元とお尻がぱつぱつになっている。
「……こんな姿見られたら、まーたちょうちょとかバカにされる……けどなぁ、普段の僕が僕だからなぁ……」
僕は、頭を抱える。
……今でも、リリスモードの今でも、気を抜くととたんに「ちょうちょ」になっちゃうから。
魔王さんのなでなでと僕の怖がりな性格で、どうしてもなっちゃうから。
この方が、安心できちゃうから。
「……いいもん。ちょうちょになってても生きてられる世界だもん。困ったら全部、理央ちゃんとお母さんに任せれば良いんだもん」
そうして僕は、不思議な空間――世界と世界の狭間を通り過ぎる。
『――聖女ー! 聖女、ユズはどこだー!? 返事をしてくれー! ここはあまりにも広いから、お前の方から――』
遠くから魔王さんの声。
……あ、ごめん、なんかこう、おっきな駅の電車のホームみたいにお互いは見えるけども絶妙に会えない、そんな通路とか階段ですれ違ったみたいになっちゃった。
その点、田舎は良いんだ。
だって、駅のホームは1個しかないからすれ違いようがないんだもん。
「おーい! ……ダメだな、僕の声は届かない……そのうち諦めて戻ってくれるよね」
僕は諦めた。
無理なことは無理だもんね。
大丈夫、お母さんとか理央ちゃんも、着せ替えが嫌で逃げ出した僕のこととかそのうち諦めてくれるもん。
◇
「……はぁ、はぁ……よ、ようやく着きました……!」
「けど、普通のダンジョンならこれで脱出ですけど……」
「……上にもういっこあるんだよね……」
「す、少し休みませんと……魔王の居たダンジョンの最下層には、ゾンビなどの群れが居ましたし……」
七稜郭ダンジョン、その地上層――本来の入り口へ、優や理央、ひなたにあやが姿を現す。
本来なら中級者が根城にする規模のダンジョンを最下層――最も強いモンスターの巣くう階層から、しかもすべての階段を駆け上がってきたせいで、彼女たちは誰しもが疲労困憊の様子を見せている。
【お疲れ過ぎる】
【優ちゃんたちはがんばったよ……】
【理央様、お願い……気合い入れるたびに絶叫して周囲の仲間の配信機材を順番に壊してくのはやめて……機材がいよいよ理央様たちのくらいしか、もうまともに……】
【草】
【あの肺活量……吹奏楽に向いていそうだな……】
【今からでもオペラ歌手とか目指さない?】
【普通の歌手しても声量だけで天下取れそう】
【恋愛系の歌ならユズちゃんへの気持ちだけでなんとでもなりそうだしな!】
【理央様の持ちネタだからな!】
【え!? 嘘っぱちの叶わぬ愛の歌を!?】
【草】
【草】
【あ、悪女の歌として……?】
【理央様……がんばったのに、この扱いよ】
【無理もない】
【それまでの経緯がね……】
【反転アンチの気持ちが分かっちゃうからね】
【健気でどれだけアピってもまったく理解してもらえない系の純粋でかわいそうな恋する乙女を全力で応援してたら実はなんにも分かってない子供を百合セクハラしまくって結婚まで約束させたくせに一度大人に怒られたらすっかりそのことを忘れて全く意味のない告白しまくって視聴者のみんなに真剣で応援させてた代償はこんなものじゃない 理央様のことは今でも大好きだけどそれはそれとしてアンチ活動はやめない、末永く爆発四散するのを駄馬とともに届けてもらうんだから】
【草】
【怒濤の見慣れた長文】
【ついでに毎回爆発四散させられる淫獣もセットで草】
【反転アンチこわいよー】
【な、なんだかんだ理央様のこと好きではありそうだから……】
【反転してはいるけど踏みとどまってはいるからたちが悪いんだよなぁ……】
「や、やっとクリアだ……」
「ああ、普段の何倍もキツかった……」
「私たち、普段は中階層で引き返すから、最下層のモンスターたちがあんなに強いだなんて……」
「しかも今回は時間制限付きで、理央様たちを突破させる支援だったからな……」
「だ、だが、俺たちはやったぞ! これで理央様たちがユズちゃんに――――――」
最前線を突破してきた理央たちを追い、続々とダンジョンの入り口――ゲートから出てきた支援部隊の面々が、この騒動のためにすっかり無人になり、電気も消えているゲート前施設から出てきて――その上の構造物を見て、崩れ落ちる。
【あっ……】
【草】
【かわいそう】
【かわいそう】
【ねぇ、知ってる? すっごくがんばって乗り越えた先に乗り越えた以上の障壁を見せられると、がんばった人ほどね、ぽきって折れちゃうんだよ……】