ユニコーンに懐かれたのでダンジョン配信します……女装しないと言うこと聞いてくれないので、女装して。 作:あずももも
「あ、エリーちゃん言ってたよね、急に敵が動きを変えたって。もしかしてそれって、追加の戦力が来るからなのかな」
「ん。うしろだてでげんきいっぱい」
「へー。まおうがくるから?」
「まおうのてしたのてした」
「じゃあ弱い?」
「けっこうつよい」
「へー!」
「むふん」
「――分かりました」
僕は、おしりに着いてる埃をぱんぱんっと払って立ち上がる。
「僕、タワーディフェンスは、そこそこ得意なんだ」
僕は――僕たちの横でひっくり返って蠢いているおまんじゅうをぽんぽんと叩いて起き上がらせる。
「きゅひひひ……」
「ぴぴぴぴぴ……」
……おまんじゅうの悪いクセばっか覚えちゃったチョコが、鎧の形は保ってくれてるものの、微妙に振動している。
そのおかげでおまんじゅうが完全に気絶しないで済んでるみたいだから今は助かるけども、そのうちその悪いクセ、治さなきゃね。
【指揮コマンドを入力してください】
ぴこっ。
目の前に半透明な画面、そこでちょうど長方形のダンジョンの大部屋が表示され、ひとりひとり細かくみんなの次の動きが尋ねられている。
【思念でも可能です】
「時間制限付きで、防衛線。敵も増援で――うん、敵の方が早くって、もっと強いのがくる前提で……」
防衛線なら、下がりながら耐えるのが定石だ。
だったら。
僕が、ゲームのユニットを――いろんな役割の、ダンジョン潜りさんで言えば前衛中衛後衛に分けるように、モンスターもそれぞれの特性を活かしたバランスで構成するように、ゲームの画面で操作するように頭の中でイメージしていく。
【戦略イメージを全部隊へ共有しました】
――ぴこん。
UIさんは、いつもすごいんだ。
「むふん」
「エリーちゃん、起きて。今から忙しいって」
「――はっ!? め、女神が出現したと……幻覚でしたか」
「ないないない」
「うっひゃあああ!?」
「エリーちゃん、うるさいよ」
「えっへん」
UIさん経由で僕の戦略を聞いたみんなが、一斉に今までの動きを変えてこちらへ下がり始めるのを眺め――視線を近くに戻すと。
なぜか泣いているエリーさんと、彼女の前で不思議そうな顔をしているひなたちゃんと女神様が居た。
……ちょっとおもしろかったけども、エリーさんからはすごいストレスが伝わってくる。
戦いが終わったらよしよししてあげないとね。
◇
【now nai-nai::ing】
【残存時間:9分】
「……ここ、どこ?」
「知らん」
「よくわからん……空中のミラーボールでユズちゃんを感じたせいで泣いてたからさっぱりだわ」
「俺も」
「私も」
「なぜか感極まったんだよなぁ……大人になってから泣いたことなんてないのに」
「全部の感情が入り乱れて……ふぅ……」
七稜郭全体が――地下から上空までがサバトの光に包まれて、数十秒。
しばし何が起きたのか理解していなかった人々が……声を上げる。
「でもさ。なにかが『繋がった』感じ……しないか?」
「するな……」
「ああ、この感覚はそれか……」
「なんとなくだけど、お前の考えていることが分かる気がする」
「私も」
「お前、トイレ我慢してるだろ? 今のうち行っとけ」
「助かる」
「もう漏れちゃった……」
「うげ、漏らしてひんやりしてきた感覚まで……」
「ちょうちょ! ちょうちょ!」
「ちょうちょがいーっぱい!」
「きれいだね」
「きれいだね」
「わーい!」
座り込んだまま呆然とする人々、無邪気になって――手持ちの武器も投げ捨て、見えないちょうちょを追い求めてスキップし出す人々。
混沌は、継続していた。
「かわいそうに……」
「あいつら、ユズワールドに精神汚染を……」
「おろろろろろ」
「吐いてる子まで居る……地獄かな?」
【地獄だね……】
【こわいよー】
【てかここどこよほんと】
【さぁ?】
【普通に定点映像も魔王城内配信も継続中だし】
【思ったよりも静かだが……】
【周囲がぜんっぜん見えないのが怖い】
【なぁんかピンクと紫と青と赤とファンシーな謎空間……どっかで見覚えあるんですけどぉ……】
【エリーちゃんとかおやびんちゃんが悪さしてたときの、ダンジョン深部の謎空間……あっ……】
【おろろろろろ】
【え? ここ、ダンジョンなの?】
【もしかして:潜航中】
【亜空間、それとも次元の狭間……】
【ああ……ユズワールドだ、なんでもありだろうよ】
【もうだめだ……】
【バタフライエフェクトだからね 9分先が海底だろうと月面だろうと異世界だろうと宇宙の果てだろうと驚きはしないよ】
「――み、みなさん! ひとまずこちらの転移陣へ乗ってください!」
「あ、優ちゃん」
「優ちゃーん!」
「うむ、今日も美男子と見紛う精悍なお顔」
「こんな子もロリっ子なユズちゃんにメロメロなんだよな……」
「ふぅ……」
しゅんっと、上空に突き出す七稜郭ダンジョンの根元付近へ現れたのは、げっそりしている優に数人のメイドたち。
どうやら、何が起きるか一切合切が不明な地上よりも魔王城の方が安全だと判断した魔王側からの提案により、人々を保護する目的で降りてきたようだ。
「あ、メイドさんだ」
「わーい、メイドさーん!」
「きゃっきゃ!」
「あー、正気を保てた残念な仲間たち? こいつらの装備も持ってってやらないと」
「仕方ない……元凶がユズちゃんだからな……」
【童心に返ったピュアな歓声が鳴り響いている】
【かわいそうに……】
【心の自己防衛本能だからな】
【ある意味なんにも分からない子供の方が楽だよね】
【ユズちゃんみたいに?】
【ユズちゃんみたいに】
【ちょうちょみたいに?】
【ちょうちょみたいに】
【鱗粉には気をつけてね もう遅いけど】
【草】
【と、とりあえずこっちも準備、続けとこ……?】
【そうだな……】
【自宅に居ても避難所に居ても、次にユズワールドへ招かれるのは俺たちかもしれないからな……】
【ホラーかな?】
【ホラーだよ?】
【この理不尽な展開がホラー以外のなんだって言うんだ?】
【もうだめだ……】
【草】