ユニコーンに懐かれたのでダンジョン配信します……女装しないと言うこと聞いてくれないので、女装して。 作:あずももも
ひゅううう。
僕を持ち上げようとして持ち上げられていない風切り音が、ふわりと背中を包み込む。
普段なら思わず耳をふさぐくらいのはずの悲鳴も、魔力も体力もすっからかんな僕には、寝落ちする直前のテレビとか動画の音くらいに心地良い。
でも、僕たちはやったんだ。
僕が、生まれたときにお母さんから。
お父さんが居なくなるときに魔王さんから。
それぞれ受け継いだ★、合わせて2つまでを全部、使い切って。
――最初から、みんなに「ちょっとおかしい火力」とか言われてたのは知ってる。
なんで僕がそんなにって思ってたけども、そのおかげで普通に戦うよりはずっと悪い敵を倒せたんだ。
……ここに来る途中で見た、暗い空間で数え切れないくらいの群れをなして移動していたドラゴンさんたち。
倒せたのは彼らのごく一部だし、もう彼らよりもでっかいのが来ちゃったけども――時間稼ぎくらいはできたはず。
このまま落ちちゃったらどうなるかなんてのは、分かってる。
けども――男として生まれたんだから、1回くらいはこういう戦い、したかったんだもん。
それに、
「……りおちゃんたちが、ぶじなら」
ただの人間のはずの僕が――ちょっとサキュバスとかが混じってるけども、それでもあそこまで人間以上の力を出して戦ったんだ、ドラゴンさんたちも相当警戒してくれるはず。
それで少しでもみんなのところへ――理央ちゃんのところへ届くのが遅くなったり、あるいは別の方向へ行ってくれたり――それとも、地面に落ちた僕が再度起き上がらないよう、執拗にこれでもかって攻撃して意識を逸らせたなら、それで良いんだ。
あとは、
「ゆー……あいさん」
【ユズ】
ぴこん。
霞んでる視界へ、目の前へ表示される文字列。
君はずっと――ここへ来てから一緒に居てくれたね。
「まだ僕の意識がある……ずつうもしてないし、ねむすぎない……なら、魔力はちょっとはある……よね?」
【魔力の全力使用を独断でセーブしました】
【MP残量:1%】
【★の全量からの1%――「通常の転移魔法」なら100程度行使可能です】
「……あはは。そっか……ありがとう、ございます」
僕は、いつもみんなに助けられてばかりだ。
後先考えずにやらかす僕を、みんなが先回りして支えてくれてる。
「なら、みんなを魔力プール……?ってとこにしまって……ひなたちゃんも、避難させて……ください」
【………………………………】
「おまんじゅうもチョコも……できたらプールして、あんぜんな場所でひなたちゃんと一緒に放してあげて……他の子たちと僕の、テイムを切ってください。そうしたら、僕が死んでも……」
テイマーは、テイムしたモンスターたちに戦ってもらう代わりに自分の魔力で養う存在。
モンスターは、ダンジョンから離れたら魔力が切れて消えちゃう。
――テイマーそのものが少ないから死亡例は未確認だけど、テイマーがモンスターをテイムした状態で死ぬと、テイムされてる状態のモンスターたちは道連れになる。
そういう仮説。
それを、学校で習った。
だから。
【落下衝撃は防御魔法で緩和できますが、すべてを避難させるとユズ――★を喪おうとも、位階の高くなってしまった貴方を転移させるコストは】
「よく分かりませんけど、良いんです。……僕1人の方が、逆に」
【自己犠牲】
【:】
【英雄】
【『勇者』】
「ゆうしゃ……うん」
僕は、お父さんを思い浮かべて笑った。
「お父さんと同じ勇者になれて、おんなじところに行けるんなら……それで、良いんです」
『――――――GAAAAAAAAA!!』
ごぉっ。
真上を向いて落ちる僕の目の前で――つまりは壊れた天井の遙か先の天上から、これまでで1番に大きなブレスが放たれるのが分かる。
「ゆーあいさん、おねがいします」
【………………………………】
「……きみも、逃げて」
文字だけしかないし、機械的な印象のUIさん。
実体はないのかもしれない。
それでも、僕のためなんかに一緒に燃え尽きたり床に激突したりしてほしくはないから、笑ったままで僕は言う。
「ここまでいっしょで、ありがと」
【――――――――――――】
【命令を実行】
【拒否】
【実行】
【拒否】
【ERRORERRORERRORERRORERRORERRORERRORERROR】
「みんなのこと……おねがい」
すっと、ふわふわしたおまんじゅうと――上着のポケットの中のふんにゃりとしたチョコを空中に押し出す。
「おまんじゅう、ちょこも……ありがと」
炎の渦が、近づいてくる。
……これ、地面に落ちる前に燃え尽きちゃうかな。
けど、
「みんな……ばいばい」
なんとか口を動かして、誰にも聞こえるはずのないお別れの挨拶を言い切る。
こういうのは自己満足なんだ。
だから僕はこれで満足――――――
「――――――――ぁぁぁぁぁぁぁ……」
「?」
【:::::】
【――時空の歪みを感知しました】
【該当する構造物は】
【:】
【――――――――ユズの命令を、独断でキャンセルしました】
【転移魔法の代替として防御魔法を展開します】
「え……」
……ぽすり。
おまんじゅうとチョコが、まるで上から優しく押さえつけられたように、僕のお腹に降りてくる。
「なんで――――――――」
「――――――せんぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
その声に――ほんの少しだけ頭の上の方から届く、聞き慣れた声に首を上げてみると、
ごいんっ。
「み゛っ」
「いだぁ!?」
僕の視界は火花に散らされて――きっとブレスに飲み込まれて、なんにも分からなくなった。