ユニコーンに懐かれたのでダンジョン配信します……女装しないと言うこと聞いてくれないので、女装して。   作:あずももも

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620話 吸い出した

「……えっと、なるべく手のひらの振動を軽くしてあげながら、急いで黄色い線の内側に……そうそう、あの壁の内側に戻ってくれるかな。うん、ありがとう」

 

かわいそうな優さんには、あとでねぎらってあげないとって思いつつ巨人族の子へ指示を出して、そういえばあの子の名前とか聞いてなかったなって、今さら思い出して。

 

僕は前周囲へと視点を移動し――数百に分裂した。

 

戦闘中のみんなにもわかりやすいように僕の表示されてる配信画面を、全空中へ。

 

「じゃあ……みなさーん、今すぐに撤退してくださーい。黄色い線の内側にさがってー」

 

【ユズちゃんが全方位に出現した!?】

【無数のユズちゃんの顔が空中に!!】

【しまった、無数のサキュバスが!】

【草】

 

【あ、笑っちゃった軍人さんがモンスターに……】

 

【あーあ】

【かわいそう】

【ま、まあ、指揮官の指令に棒立ちしてた方もしてた方だから……】

 

【指揮官(一方的に援軍要請した元ちょうちょ】

 

【は、羽ばたいたから……】

【それがなんだって言うんだよ草】

 

「………………………………」

 

……ひとまず、僕のために来てくれた人たちは、のたのたとだけど、言う通りに撤退を開始。

 

というよりも、ひなたちゃんたちを始めごく少数しか迎撃には向かえていなくて、大多数は数で押してきた魔王軍に押し込まれているのが上空からはっきりと見て取れる。

 

それはもう、あと数分で全軍が壊滅してダンジョンの入り口まで押し込まれる――そんな瀬戸際だって。

 

「……ところでさ。歴史物、軍記物ってさ。――――――足場や崖を崩すとか、水攻め火攻めとか――地形を操作しての作戦って、ロマン……あるよね」

 

だから、僕はそう言いながら……おばあちゃんからもらった魔力を、見渡す限りの大地――アリーナへと浸透させ始めた。

 

【ひぇっ】

【ひぇっ】

 

【視聴者が恐れている】

【だって……】

【あっ……ユズちゃん……まさか……】

 

「うん。戦略もの好きな人なら、なんとなく分かるかな」

 

ばさっ――僕は羽を勢いよく下へと押し出し、さらに上へ上へと羽ばたいていく。

 

――――――眼下に見えるのは、正攻法では到底に対処不能な数の軍勢。

 

対するは、ここから押し返すのはどう見たって不可能な数の、そして生き物として弱い人々――あとは多少のモンスターや魔族のみ。

 

「――――すぅっ」

 

僕は大きく息を吸い込んで、

 

「UIさん。転移魔法――お願いします」

 

 

【:】

 

【ユズのイメージを受信しました】

 

 

ぴこん。

 

目の前に、了解の合図。

 

「僕の魔力――4割使って、お願い」

 

 

【了解しました】

 

【:】

 

【地球人類の皆様】

 

 

【はい……】

【はい……】

 

 

【ただ今より】

 

 

【はい……】

【全ての運命を受け入れます……】

【生殺与奪を……】

 

【草】

 

【ヒント:「地球人類」が宛先です】

 

【もうだめだ……】

【草が枯れちゃったよぉ……】

 

 

【では】

 

【出海道周辺海域の、海水を】

 

【「ほんの少し」――いただきます】

 

【今後、温暖化による海水面上昇対策へ……僅かに貢献するはずです】

 

 

 

 

――――――ごうっ。

 

「各員、退避ー!」

 

「配信を見ていたな! 海が――『吸い取られる』ぞー!」

 

「これがサキュバスか……」

「ああ、全てを吸い取る存在だからな」

「俺も、あの海に飛べ込めば……ごくり」

「おいやめろ」

「誰かこの馬鹿を押さえつけろ!!」

「無理もない……海の上の生活は飢えるからな……」

 

変わらずに出海道という巨大な島をすっぽりと覆う、半球状のドーム。

 

青い空の下でも内側では赤い月の浮かぶ、暗く夜をきらめかせるその見えない壁は――地中へも、そして海中へも広がっていた。

 

だから。

 

その、半球状の表面から。

 

まるで「大きな口を開けた海獣」が気まぐれに海を吸い出したように、何の前触れもなく……外は完全に穏やかだった昼下がりの海は、突如として出海道へと大量の海水が吸い込まれていくジャグジーへと変貌した。

 

「最大船速!」

「面舵いっぱい!」

「……ダメだ、この船では――何? 『このままでいい』……だと……!?」

「『沈没も転覆もしない』――信じていいんだな! ちょうちょ姫さんよぉ!」

 

――それに巻き込まれたのは、柚希が魔王城へ姫として連れ去られたのを発端として招集され、そして柚希のためにと魔王が地球人類へ全面的な宣戦布告をしたせいで余計に集まった、現在の地球上に存在するあらゆる国家、あらゆる組織の海軍の艦船。

 

この地球の海を統べる戦力、その大半。

 

小規模のものも合わせたなら万に届く数の船が、たった1人の放つ魔法のせいで、あわや数百隻多重衝突撃沈事故という様相を見せながら、それでも間に合いそうな船はなんとか悲劇を回避し、きりもみしつつ脱出を試みる地獄絵図だ。

 

【ひぇっ……】

【やっぱユズちゃんって……こう、やべーんだなって】

【お前は園児並みの感想しか書けないのか?】

【ひどくない!?】

【草】

 

【仕方がないよ……だってこんなの、あんまりだもん……】

【世界中の軍艦が……あっちこっち、軽くだけど衝突したりしながら出海道から必死に脱出を試みる姿とか……脳が、園児へと巻き戻る……】

【草】

【現実逃避、そして幼女退行……そうか、これが……】

 

大量の海水という、質量。

 

それは膨大な魔力により、異なる世界へと瞬時に転送されていき――。

 

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