ユニコーンに懐かれたのでダンジョン配信します……女装しないと言うこと聞いてくれないので、女装して。 作:あずももも
ざざぁん、ざざぁん。
魔王城の上から見下ろす光景は、新しい海が誕生した光景。
「さっきまでよりは穏やかになってきたね」
さっきまでは、大地を埋め尽くすだけ。
さっきまでは、モンスターを飲み込むだけ。
――そしてモンスターが力尽きて魔力で構成されていた肉体が霧散し、肉体の何百分の1の質量しかない魔石、ドロップ品……あとは装備しか残らない。
だから1度飲み込んで収まりかけた波は、もういちど下へと沈んで跳ねていた。
「諸行無常だね」
地球で生まれ育ったあいだに耳にした言葉で、最も似合うそれを口にしてみる。
これで、僕の精神年齢とかがお子様っていう扱いは――――――
【はい……】
【そうですね……】
【すまない、ちょうちょ語は話せないんだ】
【草】
【ちょうちょ語で草】
【幼女語の方がまだ分かりやすかったよ、ユズちゃん……】
……変わりそうにはないらしい。
【意識が完全に上位種族のそれなんよ……】
【ほんそれ】
【地平線を埋め尽くす数のモンスターを一手でわりとえぐく葬り去った感想が「諸行無常」とか……】
【が、学校で覚えたての言葉を使いたがる小中学生マインドだから……】
【それだ!】
【草】
あー、そっちの方か。
さすがにこういうのはダンジョンに潜る人ならまだしも、そうでない人には分からない感覚だからなぁ……。
【覚醒したユズちゃんはリリスだからしょうがないよね】
【魔王だっけ?】
【そうそう】
【TS美少女パパ魔王の娘(それとは別に自分も魔王相当の魔族を複数従えるし固有魔法で地域丸ごとを飲み込んだサバトを引き起こした前科のある魔王)ですね】
【????】
【????】
【と、とりあえず独自の価値観で動いてるだけで、方向性は俺たちを助ける形だから……】
【経過はともあれ結果は助かりそうだから……】
【数ヶ月後の産婦人科がやばくなるから……】
【草】
【それは関係ないだろ草】
【とにかく、人を救う方向性だけはまちがいないから……】
【本当にそう思うか? ギャン泣き以降のユズちゃんを見て】
【(顔を逸らす)】
【(顔を覆う)】
【(慟哭する)】
【(嗚咽する)】
【(嘔吐した)】
【草】
【ユズちゃん……どうして……】
「……ネットって、どうしてもこうなるよね……いいけどさ」
良くも悪くも――本当に良くも悪くも、その場のノリと勢いな空気。
それは、裏を返せば「僕が敵じゃない」って「本気で思って」くれているからこそ。
少しでも疑っていたら、こんなノリにはならない。
非常に不本意ではあったけども「小さな幼女」として愛でられていたからこそ、今でも僕のことを脅威だとは本気で思っていないで居てくれている。
だから、僕はそれに応える必要がある。
だから。
「じゃあ……出海道周辺で船に乗ってるみなさん」
だから、僕はお願いする。
「ちょっと、力を貸してください。『魔王討伐』っていう、みなさんが来た理由の1つを――――――結果的にはお願いしても、いいでしょうか」
僕は、UIさんにお願いする。
「今から『彼ら』を『テイム』します。一時的なものですが……これで転移と召喚はコーコストでできるはずです」
◇
「……あ、あれは……!?」
「空が急に紅く……」
「見ろ! 空を!」
「おお、神よ……」
「神は分からんが神に近くなった存在は知ってるぞ。ちょうちょの形をしているがな」
出海道周辺海域。
柚希が攫われ、魔王が現れ――そして浮遊城塞ごと転移していったとしても警戒を解くわけにはいかなかった、地球上の通常戦力のうちの海を守る存在。
それらは、今。
荒れ狂う海の中で――――――
【テイマー・ユズが支援を求めています】
【一時的なテイムを受け入れますか?】
【YES/NO】
すべての船、すべての乗組員――その目の前へ、文字が並ぶ。
「……艦長、司令部からの連絡です。『将来の利益を鑑み、我が国家は異世界の敵対的な魔王討伐のため、「友軍」である「魔王・ユズ」への協力体制を取る』――ただし敵地は未知、ゆえに作戦行動中の各艦、各員の判断に任せる、と」
「陸軍へも同様の通達が。……どうやら召喚は、個人ごとの承認制ではありますが部隊ごとに行われるようです」
「すでに青い森に集結していた戦力が転移している姿が――配信で」
大荒れに荒れる海。
その天空には、魔王の作り出した紅い月。
その月に向かい――海面の下から半透明のドームが、消失していく。
「……これが全部、仕込みだとは考えたくないが」
その光景を見て、ぽつり、と、とある国家のとある駆逐艦の艦長はつぶやく。
「出海道、その大規模ダンジョンの攻略。それ以後に各国の軍がこの島1つ目がけて集まることになったそのすべてが、このための下ごしらえだったとしたら……とな」
「………………………………」
「………………………………」
しばし、傍に居た乗組員たちが言葉を失い。
「……んなわけは無いか」
「ええ、あるはずがありませんね」
「なにしろ『ちょうちょなユズちゃん』ですから」
「配信中にいつもミラクルなドミノを叩き出す、小さな女の子ですからね」
「ちょっとだけ出自が特別でちょっとだけ特別な『仲間』を吸い寄せるだけの、お姫様ですよ」
「ああ。『ちょっとだけ』な」
苦笑、抱腹――配信での柚希のすべてを見てきた彼らは、それを思い出し、あらゆる形で緊張がほぐれる。
そして乗組員全員の一致を持って――彼らはテイムに応じた。