「ようこそ!我がアビドス高等学校へ!」
パァンッ!
ホシノを背負った俺の頭に、紙吹雪や銀紙が舞い散る。
入学式を始めるとか言っていたのに、連れてこられたのは生徒会室の立て札が掛けられた教室。
言われるがままに教室へ入ると、出迎えたのは黒板にデカデカと描かれたカラフルな『ようこそ!!』の四文字。
他にも黒板だけに飾り付けられた申し訳程度の飾りや、数少ない机の上に置かれたお菓子類。なんか規模が規模なだけに一風変わって寂しげな雰囲気だ。
入学式とは?ただの歓迎会やないか。
「…入学式は」
ホシノを椅子に座らせて、俺も隣の椅子に座る。
「えっとぉ〜、実は体育館の掃除が間に合わなくって、今砂だらけなんだよね…だからせめて入学式を兼ねた歓迎会はしようかなっと思って…」
「…なるほど、なら納得だ。レクリエーションとかはあるのか?」
「うん!あるよ!このボードゲームとかー、トランプとか!態々ミレニアムまで行って買ったんだ〜!」
「へぇ、(今世では)やったことないもんばっかあるな。楽しみだ」
「やったことない…って、え?初等部とか中等部とかでやらなかったの?」
不思議そうな顔でユメパイセンが聞いてくる。まあ…この世界に来た事情が事情だしな…。
「生憎今日まで学校なんてもんには行ったことないな」
「えぇー!?勿体無い!」
「”勿体無い“?」
まぁ確かに勉強もせずに過ごして来たのかと思われてるだろうが…そこまで言うか?
「うんうん!だって、初等部ならではの、中等部ならではの”青春“を味わえなかってことでしょ?すっごく勿体無いじゃない!」
あー…そりゃ確かに。
「確かに。そう考えると勿体無いことしたな」
「でしょでしょ!じゃあさ、これから味わおうよ!これからの高校生活をさ、今まで味わえなかった青春を!」
「ん…んん…」
お、ホシノが起きた。少し煩かったか。
「お、起こしちゃった…」
「いや、起こしといたほうがいいだろ。何せ、一生に一度の入学式なんだからよ」
「! そっか、そうだね!」
「…何の話ですか」
目覚めが悪いタイプなのか、寝ぼけ目のまま険しい顔でホシノが呟く。
「安心しろ、お前を寝かしたまんまの青春なんて始まらねえよ。ほれ、顔洗ってこい。今から入学式兼歓迎会のレクリエーションだ」
「…いえ、もう目は覚めました。…ん?」
あっやべ。ポケットの違和感に気づいたホシノがポケットの中に手を突っ込んだ。
そして引き出される、鼻水でべしゃべしゃになったホシノの手とティッシュ。
「…なんですかこれは?」
「俺しーらね」
「ちょ、アスカ君!?ホシノちゃんのポケットに突っ込んだのは君でしょ!?」
「鼻水は先輩のだから俺ァ悪かありませーん」
「ちょっとォーッ!?」
「どうでも良いですけど…早くこれをどうにかしろ」
ホシノブチ切れで草。青筋めっちゃ立ってんじゃん。
物凄い勢いで謝るユメパイセンを尻目に、俺を死ぬほど睨め付けてくるホシノ。原因の一旦は俺にある…というより全ての元凶は俺にあると今の会話で踏んだようだ。
右手に持っている鼻水だらけの手が動く。
手首のスナップのみを駆使した投げによってユメパイセンの鼻水塗れのティッシュがこちらへ飛んでくる。ちょっ、テメェ!?
椅子に座っていた俺は大袈裟に椅子を蹴り倒しながら飛び退く。ティッシュは床へ落ちた。
「危ねえな!殺す気か!」
「元凶はお前でしょうアスカ!」
「ねぇ殺す気かって何!?私の鼻水で命の危険感じたってこと!?失礼すぎない!?」
「うるせえ!どんな美女であれ美少女であれ鼻水って時点で汚えだろうが!ウィルスの塊みてえなもんだぞ!?」
「そんなもんポケットに突っ込まないでくださいよこのバカ!」
何故か頬を抑えてクネクネし出したユメパイセンを放って、俺とホシノの口喧嘩が始まる。
100%悪いのは俺だが、俺は自らの過ちを認めたくない善良な人間なんだ。*1だから俺は正論をぶつけられようが論破されようが最終的に暴力へと走るぞ。*2
「おふぁえが寝るふぉが悪いんだふぉが!」
「ふぎぎ!ふがぁーッ!」
予想通り取っ組み合いになった俺達。
ホシノが俺の頬を引っ張り、俺がホシノの鼻を摘んで引っ張っているという構図になっている。こいつ態々鼻水だらけの手で…!
「えへへ美女美少女…って二人とも!?喧嘩はダメだよ〜!」
「こんのーっ!」
「ふがぁぁあああ!!!」
負けるかオラァァアア!!!
「さて、まぁ歓迎会はこれくらいにして、次はアビドスの現状について知ってもらおうかな〜」
最終的に俺とホシノの取っ組み合いの決着は、第三者であるユメパイセンのベアハッグによってまとめて二人KOされ、終止符が打たれた。
そして歓迎会のプログラムの殆どが終わった中で、今から漸く真面目な話へと移行するようだ。
ホシノも先程までの騒がしさをなりを潜めて、キリッとした表情でユメパイセンへと顔を向けている。
「現状、アビドスは過去他の学園でも陥ったことがないような危機的状況にあります。原因は、二つ」
「借金と、生徒数か」
ポツリとつぶやいた俺の言葉に、ユメパイセンは「そう」と返してくる。
「現在、アビドス総生徒数は私達だけの三人。そして、アビドス高校が抱える借金総額…約九億円」
ふん…改めて聞くと途方もない数字だな。パイセンはよくここまで頑張ってこれたよ。本当に。
ホシノの方をチラッと見れば…少し驚いているな。知らなかったのか。
「もちろん、この額は私達だけでは確実に返せないのは分かってる。でも、私は“諦める”ということをしたくない。私が愛した学校を、こんな形で終わらせたくない」
「だからこそ、私は三年間この学校の為に走っている。一日一日の積み重ねを力一杯生きて、アビドスはこんなにも元気になれる場所なんだ、こんなにも力一杯青春を送れる場所なんだよって、周りに教える為に」
「だから」
教卓に立つユメパイセンは、椅子に座る俺達の前に立つ。
「君達は今日、アビドスの一員となった。私から、アビドスの生徒としてお願いがあるの」
ユメパイセンは俺たちの手を片方ずつ取り、握る。
「力を貸してください。この学校を、皆んなで愛する学校を救うために、君たちの青春をこの学校に捧げてください」
「いいぞ」
あっけらかんと、俺は言う。
そんな軽い感じで返されると思っていなかったのか、ユメパイセンは思わずと言った感じで俺の方を見る。よく見ればホシノもこちらを見つめている。
「なんだ、その“結構カッコつけながら言ったのに軽く返されるとは思わなくて若干放心している”みたいな表情は」
「皆まで言わなくて良いんじゃないかな!?」
「心配しなくとも、俺ァ元からこの学校が気に入ったから入学したんだ。救済でもなんでもしてやるさ。砂に塗れた青春も悪くないと、そう思ったからな。ホシノ、お前は?」
まぁ答えなんざ分かりきっているが。
「…良いでしょう。元よりこの高校以外に行き先はありませんし、乗り掛かった船です。最後までやりましょう」
「___〜〜〜!!!ありがとう二人ともぉ!!!」
「ぐぶぇっ」
「うべっ!?」
予想してたがこれで今日三度目のベアハッグ!?
「ククッ」
「ふふっ」
どんなに借金があろうと、どんなにこの高校が絶望に立ち塞がれていようと、俺は俺のここでの青春を諦めるつもりはない。
望むなら、俺はどんな奇跡だって起こしてやる。
決してこの砂に塗れた青春を、潰えさせてなるものか。