非日常的で日常的な青春の記録を刻む物語   作:よるくろ

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憧れへとなる為に

 

 

 

 

 賞金首というやつは、当然の事ながら全員悪事を働き、その学園の自治区の治安維持を行う組織に狙われている者共である。

 

 店を爆破したり、温泉開発と言いながらそこらを爆破しまくったり、シンプルに万引きや強盗などの普通の犯罪を犯したり…前者二つはゲヘナで起こった事だけども。

 

 とにかく、賞金首は犯罪に小慣れた集団であるということ。犯罪が天職で、お天道様に顔向けできねえような奴らの集まりであるということ。

 

 しかし、中には圧倒的に犯罪者になるには善性が強すぎるやつもいる。

 

 頭の中で鳴り響く例の歌が脳裏をクソ長い貨物列車の如く垂れ流れている中、俺は…タバコを吸おうとしているローズレッドの髪色をした眼鏡っ娘の腕を掴んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、何やってんだ」

 

「ふぇ!?へっ、へ!?」

 

 ゲヘナで賞金首を引き渡した帰り道。

 

 なんとなく周りを見渡しながら、「タバコの自販機なんかあるんだな」とか思いながら歩いていると…そのタバコの自販機の陰で何やらコソコソしている人影が。

 

 自販機を破壊するタイプの転売ヤーか?と疑いながらそれに近づくと、カチッカチッと小さく鳴るライターの音と、「アレェ?」と何かを咥えながら呟く声。

 

 未成年喫煙か…とソイツの目の前まで行くと、俺は衝撃を受けた。

 

 コイツ…まさか陸八魔アル(過去の姿)か?

 

 SNSなどで散々ネタにされていたキャラで、ブルアカをあまり知らない人でもコイツだけは知ってるというような事が多い。

 

 見た目は凄腕の女社長、ジ・アウトローのような、カッコいい印象があるが、実際はその真逆。

 

 ストーリーでは登場するごとに毎回ポンコツを発揮する上に、そのポンコツが起爆剤となって部下が暴走したりと、登場するだけでカオスな状況に陥れることのできるネタキャラクター染みた存在となる。

 

 しかし、その実力は本物で、弱体化しているとはいえゲヘナ最強と呼ばれる風紀委員長を一度撃破したり、便利屋という会社を担っている中、色々と問題は起こるが依頼の達成率はかなり高く、ブラックマーケットを中心とした裏社会では必ず耳にする名前だという。

 

 更に挙げるならば、その善性。

 

 人道に外れたことはせず、原作では追い詰められ諦めかけていたアビドスに発破を掛けたりと、割と良いやつムーブを次々と起こしていくため、悪の女ボス(善)というような扱いを受ける。

 

 そんなヤツが俺の目の前でタバコを吸おうとしている。しかも加えている方を逆にして。多分その状態で吸ったら中の葉っぱが気管に入るぞ。

 

「未成年喫煙は重罪だぞ。やるなら見つからないとこでやれ」

 

「え、えっとえっと…!」

 

 すげえテンパってる。おもしろ。

 

 多分、俺を風紀委員所属だと思ってんのかね?

 

 勘違いさせたままは可哀想だし、誤解は解いとくか。

 

「俺ァ何も咎めたりはしねェさ。ここは自由と混沌のゲヘナだぜ?好きな事は好きなだけやりな。ただ、見つからねえようにしろよって話だ」

 

 止めねえのかって?前世で吸ってた身として強く言えねえだけだ。

 

「は、はい」

 

「ならいい。…にしても、吸い方も分かんねーのに良く吸おうと思ったな。なんか嫌なことでもあったんか?」

 

「い、いえ!大人の人が吸ってるのを見て、カッコいいなって思ってただけで…!!」

 

「分かる。子供からしたら大人しかできない事がなんかかっこよく見えちまうよな」

 

「で、ですです!ギャンブルとか、タバコとか、あとお酒を飲む姿とか!いつか私もああいう風にカッコよく決めてみたいなって!」

 

「悪い大人のフルコンボだが、悪くねえな」

 

 うん、やっぱコイツアウトロー向いてねえな?ただ単に大人に憧れを持つ純情な子じゃねえか。それがどうなってあんな無惨なキャラクターになんだ?

 

 …っと、爆破音?俺の耳が微かにその音を拾った。

 

「…なぁ、お前、名前は?」

 

「へ?げ、ゲヘナ学園一年の陸八魔アルです!」

 

「そうか、じゃあアル。お前この近くで誰かを探してそうな集団を見たか?」

 

「は、はい。確か悪魔だとか鬼だとか…あと魔王?そいつを探せって」

 

 じゃあ当たりか。前のワカモみたいに、俺に復讐したい奴らが徒党を組んで俺を探してるみたいだな。多分、賞金首を引き渡しているところを誰かに見られたか。

 

 早くこっから離れねえとコイツも巻き添えくらっ___いや、もう遅えわ。

 

「いたぞ!悪魔だ!」

 

「へっ!?」

 

「側に誰かいるぞ!仲間か!」

 

「へぇ!?」

 

「そいつ諸共ぶっ殺すぞ!」

 

「へぇぇっ!!?」

 

 …笑いそうになるからやめてくんねえかな…っ!

 

「ひゃぅう!?」

 

 とりあえず巻き込んじまったからコイツも連れてくか。風紀委員にでも引き渡しゃ大丈夫だろ。

 

 アルを小脇に抱えて、隣にあるビルの屋上へと跳躍する。なんか小脇のギャグキャラ染みた悲鳴が俺らの居場所を筒抜けにしつつあるが、まぁ最悪全部倒せば問題ない。

 

 そうしてビルの屋上に辿り着いた俺。

 

「…へぇ、奴らは本気らしい」

 

「め、目が…回るぅ〜」

 

「一々面白えなコイツ」

 

 ババババッ!

 

 フォォン…。

 

 屋上を取り囲むように浮かぶ軍事ヘリコプターや戦闘ドローン。もれなく俺に銃口を向けており、今にも撃ってきそうな雰囲気だ。

 

「おい、お前自衛できるか」

 

「うぅ…い、一応スナイパーですぅ…」

 

「近砂はできんのか」

 

「き、近距離で!?む、無理です!500mが精一杯ですぅ!」

 

「なら今できるようになれ。今からお前をここに取り残すから、その狙撃銃で俺のサポートしてくれ。俺がお前守っとくから」

 

「へぇぇえ!!?」

 

 そう言ってアルを放り投げ、俺はドローンへと飛び掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《side 陸八魔アル》

 

 

 い、行っちゃった!?

 

 ちょっとした“ワルさ”に憧れて、隠れてタバコを吸おうとしただけなのに、なんでこうなっちゃうの…!?

 

 今、私の視界に入る異様な光景に、私は言われたことも忘れて魅入ってしまう。

 

 銃弾を放つドローンを足場にして、空を踊るように軍用ヘリやドローンを殴り付けて地面に叩き落とし、時にはヘリのテールローターを引っ掴んで振り回してドローンを纏めて吹っ飛ばしたり、常識の通用しない単純な力だけで蹂躙していくその様。

 

 鬼。悪魔。魔王。

 

 確かに、あの表情と暴れっぷりを見ればそう言うのも否定できない気がする。

 

 …ハッ!い、言われた通りにしなきゃ!

 

 私は立ったままワインレッド・アドマイアーを構える。

 

 スコープを覗きながら、悪魔さんの周囲に狙いを付ける。

 

 その時、私は気付いた。

 

 銃弾が全く襲って来ないことに。

 

 不思議に思って思わずスコープから目を離して見ると、なんと悪魔さんは私に狙いを付けたヘリとドローンを率先的に壊していってるのだ。

 

 凄い…素直にそう思った。

 

 私も期待に答えねば。自然とそう思った。

 

 気付けばスコープを覗き、引き金を弾いていた。

 

 ドンッ!

 

 目算20mのドローンの中心を撃ち抜いた。

 

「ナイスだ!アル!」

 

 それに気づいたらしい悪魔さんの称賛の声。

 

 …ふふふ。

 

「私だって…やればできるんだから…!」

 

 湧き上がる自信が己の実力を昇華させる。

 

 私はスコープから目を離していて、完全な目視のまま獲物を操っていた。

 

 ドンッドンッ!

 

 今までやろうともしなかった連射が、面白いくらいに次々と当たる。

 

 いつのまにか悪魔さんは私を守ることをしなくなる。代わりに、私が悪魔さんを狙うドローンとヘリを撃ち抜いていく。私を狙う物も含めて。

 

 着々と減っていくドローンとヘリの大軍は数えられる程にまで減っていった。

 

「これで…最後だ!烈波ァ!」

 

 止めの一撃を放つ悪魔さん。手を突き出した瞬間、まるで爆風を受けたかのようにドローンとヘリが吹っ飛び…えぇ!?どうなっているのあれ!?

 

 衝撃的な物を見たせいか、集中力が途切れ銃口を下ろしてしまった。

 

「危ねえぞ!アル!」

 

「へっ」

 

 慌てて背後を見ると、至近距離で私に銃口を向けるドローンの姿。

 

 調子に乗ってしまった…。そう思った私を戒めるが如く、銃口を光らせたドローン。

 

 撃たれる。

 

 思わず目を瞑り、痛みを待つ。

 

 ガバッ!と身体を丸ごと攫われるような衝撃を感じて、目を開ける。

 

 近くに悪魔さんの顔があった。

 

「ひゃうわ!?」

 

「烈弾」

 

 そう呟いた悪魔さんの指先から放たれた不可視の弾丸が、私を狙ったドローンを撃ち落とす。

 

「怪我ァねえか」

 

「ひゃ、はい!」

 

 ち、近い!近いんです悪魔さん!

 

「そうか、んじゃあ俺ァ下の奴らを片付けてくるぜ。安全になったらお前はすぐに逃げな。ま、余裕があったら屋上から狙撃しても良いがな」

 

 そう言うと悪魔さんは私を離して屋上を飛び降りる。

 

 高鳴る心臓を抑えて、私は愛銃を抱える。

 

 屋上の端に行って下を見下ろすと、そこにはまた暴れる悪魔さんと蹂躙されていく悪い人たち。

 

 …また、あの感情が湧き上がってくる。

 

 気付けば、私は()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《side 東雲アスカ》

 

 

 

「オラオラァ!んななまっちょろい弾で俺が沈むかァ!」

 

「ショットガン直撃してなんでピンピンしてんだ!?」

 

 アルを逃がすために下の奴らを一掃しようと思ったが、なんとも数の多いこと。薙ぎ倒しても薙ぎ倒しても次々出てきやがる。

 

 こら暫くは屋上で籠っててもらうしかねえかなぁ。

 

 そう考えながら目の前の不良を潰すと…。

 

 ドゴンッ!

 

 背後で轟音が響いた。

 

 驚きながら振り向くと、そこには不良をクッションにして()()()()()()()()()()()()()()アルの姿。

 

「なんだテメェ!」

 

 そこに銃床で殴りかかる不良。

 

 するとアルは片手に持った狙撃銃をクルリと回し、銃口を持って振りかぶった。

 

 ガスッ!

 

 遠慮無しに振り抜かれた狙撃銃は綺麗に不良の側頭部へと吸い込まれるように打ち付けられ、不良は一撃で気絶した。

 

 そしてまたクルリと回し、アルは狙撃銃を構える。

 

 …ククっ、なんだか知らねえが、お前も乗り気になったんだな?

 

「おいおい、屋上で籠っててよかったんだぜ?」

 

「冗談じゃないわ。戦場に立つ人を置いて籠もれないわよ。そんなの…」

 

 

 

私の憧れる()()()()()じゃない

 

 

 

「ハッ…なら二人で仲良く地獄でデートと洒落込もうじゃねえか!」

 

 そこからは、最早消化試合だった。

 

 俺がショットガンと近接で相手を殴り倒し、アルが狙撃銃で遠方の敵を倒しながら時には狙撃銃で相手を殴り、遠近一体の攻撃。

 

 アルが中々良い言葉を吐くので俺もテンションが上がって偶に黒閃が出て神秘の瞬間出力とかが上がっちまってビルを何棟か倒しちまったが、結果的に敵を大勢押し潰せたから良しとする。

 

 そして、最後の一人になった時、俺とアルは情けなく這いずるソイツに近づく。

 

「ひぃ…なんなんだよ、なんなんだよお前らァ!」

 

 うっせーなァ、キンキン騒ぎやがって。

 

「悪には悪を以て制する」

 

「悪い子には凄惨たるお仕置きを」

 

「「さぁ、お前の罪を数えろ/なさい」」

 

「う…うわぁぁあああああッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ククククッ、クハハ!あー最高だったなァアルお前!普段からあーやって強気に構えときゃ素敵なのによォ!」

 

「わ、はわわ、ぜ、絶対目付けられちゃった。ど、どうしよう…!」

 

 あの場から逃げ、後になって冷静になったアルがさっきとは程遠い白目を剥いた表情*1で慌てふためいている。

 

 なんだ、アウトローモード*2終わったのか。

 

「まー焦るこたねえだろ。お前強えんだから襲ってきたら蹴散らしゃいいんだよ」

 

「むむむ無理ですよ!?私なんか後ろで撃つだけしか…!」

 

「何言ってんだ、さっきまで出来てただろうに」

 

 俺はアルの前に立つ。

 

「俺が保証してやる。お前は強え。少なくとも、そこらにいる雑魚よかよっぽど強え」

 

「そんなこと…」

 

「でも、それより()()()()()()()()()の方がもっと強え」

 

「!」

 

 お前は憧れたんだろ?

 

 お前には憧れがあるんだろ?

 

 お前には憧れがすぐそこに見えてるんだろ?

 

 だったらなりゃいいじゃねえか。

 

「お前が誇れるお前になれ。そうすりゃ憧れは既にお前の手の中だ。…じゃあな、俺はお前の憧れを応援するぜ」

 

「は…はい!」

 

 さて、今日も稼げたし適当にパイセンに金ほっぽって帰るか。

 

 次会うときゃ、もっと強くなってんだろうなぁ。

 

 不思議と俺は、アルにそんな感情を抱いていた。

*1
例の顔

*2
(仮名)






 アルちゃん(過去の姿)回。
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