「あァ?砂祭り?」
「うん!昔のアビドスの一大イベントだったんだって!」
古びたポスターを広げながら、パイセンが自慢げにその祭りの説明をする。
祭り規模の砂遊びとしか認識していなかった俺は、パイセンの口から語られる、他の自治区から大勢の生徒が来るほどの人気を誇るイベントの数々を聞いた。
「なるほどな…」
「どう?どう?」
現状の困窮。現在のアビドスの圧倒的地位、知名度の低さ。アビドスの将来性。その他諸々の不安要素。これらから導き出し、アリかナシかで言えば…。
「…アリだな」
「やったぁ!」
知名度は低いとはいえ、俺が日々賞金稼ぎに勤しんでいるお陰で、アビドスの知名度は徐々に上がりつつある。
こ以前ヴァルキューレの生徒に『柴関ラーメン』の存在を教えたところ、この間その生徒に会って感想を聞いてみれば大絶賛の嵐。友達にも布教してあるとの情報を得て、アビドスの知名度は益々上がりつつある実感がある。
恐らく評価としては『全く知らない』から『あの店がある所』となっている筈。その状態で砂祭りとやらを開けば、少なくとも良い影響はある筈だ。
…しかし、一つの関門がある。それは…
「アビドスの自治区が、
「だよねぇ…まさか借金してる相手に正直に「お祭り開かせてください!」って言うわけにも行かないし」
「借金返済への一手が、借金を返さねえと成立しねえのは論外だな…今ある自治区以内で、現状出来る範囲の催しが必要になるとなると…」
…うーん、分からんな。
そもそも俺は、アビドスのそういう部分にあまり携わってはいない。
精々が金稼ぎや雑用だし、そういうのはパイセンとよく行動しているホシノの方が適任だろう。
というわけでそれをパイセンに伝えたところ、元気よく返事をしてポスター片手にホシノの元へ。側から見たらどっちが先輩後輩か分かんねえなこれ。
「…ん?」
なんや騒がしいな、ゴキブリでも出たか?
上の方でドッタンバッタンと暴れ散らす二人の物音で、少し仮眠を取っていた俺の意識が冴える。
確か砂祭りだか何かでパイセンがホシノに相談しに行ったはずだが…あー、今考えりゃ人選ミスったかもな。アイツ究極のリアリストだし、真っ向から否定するのが目に見える。
…今の足音はパイセンか。外に出たな。さて、何があったか聞かねえとな。
少しめんどくさそうな予感を感じて、重い足取りで生徒会室へと向かう。
扉の前に立ち、ノック。
『…入って、良いですよ』
少し覇気のないホシノの声。
俺は足でドアを開け、中へ入った。
そしてすぐに目に映る敗れたポスター。
「…何があった」
「…別に、なにも」
「………ハァ」
思わずため息が出る。
天井を見上げ、ドアの縁に背を預ける。
「馬鹿らしくならねェか」
「…」
「今、後悔してんのか?それとも逃げ出した先輩を心の底で笑ってんのか?」
「違っ」
「だがよ、それを引き起こしたのは間違いなくお前だぜ」
「言われなくても」
「いーや、分かってねェ。強いて言えば、納得してねェ。自分が何故悪い事になっているのか、何故事実を言っただけなのに責められるのか。考えろ、それくらい自分で。…俺ァ先輩を探してくる。しばらく頭ァ冷やしとけ」
生徒会室を出て、ドアを閉める。
…少し、嫌な予感がするな。
こういう時パイセンが行く場所は…確か砂漠の方だったか。
校舎を飛び出して数分後。多少の神秘を身体能力の強化に回しながら、広大な砂漠を全力で疾走していた。
パイセンは一人になりたい時、広い場所で一人になるのが好きらしい。
今までも偶にあった事で、こうしてそれを探しに全力で走るのが毎回俺だった。
毎回場所が変わるから、探す時は端から端まで虱潰しに探すしかない。
クソ、どこだよあの野郎。毎回探す身にもなれってんだ。
…いた!
「見つけた…」
あのアホっぽいアホ毛の立つ緑色のアホはパイセンだ、間違いない。呑気にダラダラしやがって、作りたてのガラスの上で土下座させてやろうか。*1
速度を緩めて、歩行に戻る。そうしてパイセンの背後に立って、暫くパイセンの眺める青空を俺も眺める。
今日は風が強いのか、いつもより雲が流れている。たまに太陽が隠れては出てを繰り返し、変わりない風景が目に映る。
そんな時間を二十分程過ごした時、不意にパイセンの声が聞こえる。
「…へっ?アスカくん?」
「おん」
「いやおんじゃなくて…いつから?」
「多分二十分くらい前から」
「嘘ぉ!?全然気付かなかった!ストーカーの才能あるんじゃない!?」
「ホンマに焼き土下座させんぞ」
誰がストーカーやねん。どつき回すぞ。
「…ホシノと喧嘩したらしいな」
「…うん。ちょっとついカッとなっちゃって」
「俺がホシノに言えって提案したのが悪かった。あいつの性格は知ってたはずだったんだがな」
「ううん。私がもっと計画とかをハッキリ決めとけば、ホシノちゃんがあんなに怒ることなかったんだし、私が悪いよ」
「…ケッ、アンタが悪ィこた無えだろ。悪ィのは俺とホシノだ。感謝はすれどアンタを追い詰めることなんざ死んでもしねえ」
「あれ、感謝してくれてるんだ?」
「意外か?」
「ううん。アスカくんは優しいから」
「ハッ。…あんがとよ、アビドスに入れてくれて」
「どういたしまして。これからもっと楽しい青春を送ろうね」
「あぁ」
…やべぇ!小っ恥ずかしいんだが!?なんだこれ!
おおいよく素面で言えたな俺のボディ、メンタルが危ういのにポーカーフェイスを保ってやがる。
先輩だって耳まで赤くなってんのに。
…連れて帰るつもりだったが…まぁ、顔の熱が引くまでは、まだここにいようか。
そんな事を思っていた時だ。
___ズズッ…
「…ん?」
「へ?どしたの?」
「いや………こっちか」
___ズズン…
「何かあった?」
「…妙な気配がする。先輩、一応立っとけ。銃も抜いておいた方が良いかもしれん」
「う、うん」
___ズゴゴゴゴ…
「…あ、私も聞こえた。なんだろう、この音」
「加えて極めて異質な揺れ。…先輩、一応ホシノに連絡取っとけ。ホシノを来させるんじゃなく、ホシノに助けを求めさせろ。俺の思ってる通りだったら…今から死ぬかもしれねえぞ」
「…うん」
___ゴゴゴゴゴゴゴ…!!!
音と揺れが誰でもはっきり分かるようなレベルに達した頃、俺たちの前方の砂が大きく盛り上がった。
太陽を隠す程の高さへと盛り上がり、そいつを隠していた砂のヴェールは下へと流れ落ち、その全貌を露わにする。
白い装甲を纏った、蛇のような、鯨のような、そんな怪物が俺たちの前に姿を現した。
あぁ、なんで気付かなかったんだ。ヒントは幾らでもあったのに、今もそのシーンは覚えていたのに。
神の存在証明を果たした、デカグラマトン。
その預言者の一体である、第三セフィラ・ビナー。
俺も詳しく知っているわけではないが、ただ一つ、決定的なことだけは分かる。
「コイツは……敵だ」