意識が覚める。
全身が痛ェ。
記憶を掘り出すと、俺はあの光線を真正面から浴びたらしい。
現に覚束ない視界には小さな黒煙が立っているし、鼻には肉が焼き焦げたような匂いもする。
これは、今度こそ終わったか?動かそうとしても、全然身体が動かん。
身体は動かず、神秘は完全に枯渇。恐らく、無意識に神秘で防いだからこその、こんな惨事なんだろう。即死を免れただけだが。
あぁ、ようやく顔を出しやがったか、クソ蛇。
…ククッ、随分とイケメンになったじゃねえか。電気バチバチさせてよ、まるで主人公じゃねえか。
左側の顔面の調子はどうだ?スクラップっぽくて趣があると思うぜ。
おいおい、動きがガクガクじゃねえか。そんなに俺の攻撃が効いたのか?そりゃぁ…嬉しいな。
「ケヒ…クヒュヒ」
あ“ークッソ、笑って死にてえのに喉がガッスガス過ぎて変な笑い声しかでらん。
それより、パイセンはちゃんと帰れたよな?焦ってぶん投げちまったが、ちゃんと着地できたんだろうな?
ホシノはちゃんと助けを呼んだんだろうな。早くしねえとコイツ逃げちまうぞ。せっかく俺がここまで削ったんだから、確実に殺してほしいぜ。
そういやアビドス以外のキャラクターに会ったのって、ワカモ以外にいなかったな…もう少し他の自治区にも行っとくべきだったか。
思い残したこと、結構あるなァ…。
それ以前に、俺のこの最期は、全然ハッピーエンドじゃねえよなァ。
それに、まだ全然青春を味わってねえんだ。
まだ先生も来てないし、原作も始まってない。今日、ここでパイセンを助けた俺が、ここで未来をより良く変える一手を打ってしまったんだ。自分の手で。
それなら、俺が責任を持ってハッピーエンドに繋がる道を切り開かなきゃならんよなァ。
そう思ったら生きる気が湧いてきた。死ぬ気が無くなってきた!
しかし、今の俺にはアイツを倒す術も逃げる術もない。何故かアイツはなんか動かねえし、今のうちに何ができるのかを考えるんだ。
身体は動かん。神秘は枯渇している。メインウェポンたる二つは全く使えん。クソが!
待て、まだ希望はある筈だろ。奇跡は諦めないやつの上に降ってくるんだ。まだ諦めるな。
神秘。そう神秘だ。神秘とは?神秘とはなんだ?
ヘイローを構成する物質の中心。そも、神秘=ヘイローなのか?だったらなんで神秘が枯渇している今、ヘイローになんの影響もないんだ?
知らない。じゃあヘイローとは?ヘイローとはなんだ?
神秘に関する何か。寝ていると消えて、起きると現出する。つまり自我の有無によって変化する。
つまり心象に変化があれば、ヘイロー及び神秘に変化が起きる?
心象と言えば、呪術廻戦には生得領域なるものがあったな。いや、これはどうでもいい。
呪術廻戦…そう言えば、神秘は呪力に通ずるものがあるな。黒閃の存在だってあるし、そうなると神秘=呪力だったりするのだろうか。
呪力は、負の感情によって増幅するエネルギーだ。なら、神秘も感情によって増幅する場合もあるかもしれない。
そういえば、今気づいたが神秘の量が少し増している気がする。さっき生きる気力を取り戻したからか?
呪力=負の感情なら、神秘=正の感情?プラス思考によって増幅するエネルギーなのか?
いや、もうその裏付けは終わっている。今の神秘量がそれだ。つまり、俺が希望をもてば持つほど俺の力は増すんだ。それは俺だけじゃなく、この世界の住人全てに該当する。
いいぞ、希望が見えた。神秘の振れ幅が大きくなる感覚がある。
しかし、これだけではまだ足りない。呪力…神秘の核心。領域展開や反転術式のような、超高等技術が必要になる。
だがそれは、己が死の淵に立つことで奇跡的に得られる力だ。
…いや、俺も死にかけてるだろ。何か掴めないか?何か…掴め、違和感を探せ、神秘の奥深くに潜るんだ。
………違和感。
………もう少し…奥に…。
深く、深く、深海のような深さの先に、言語にし難い違和感がハッキリと感じられる。
神秘が動く。違和感の中心で、神秘が動く。
俺も、それを真似してやってみる。
………
神秘を動かし続けていると、段々と感じる痛みが少なくなっていく。焼き焦げた肉が徐々に回復し、更に不明瞭だった視界が鮮明に映った。
目の前には、ゆっくりながらも無事な方の側面からミサイルを展開するクソ蛇の姿。
急げ。急いで身体を回復させろ。同時に神秘も増やせ。急げ。
ミサイルの発射音が聞こえる。
ミサイルの飛来音が聞こえる。
ミサイルの音が、すぐ近くまで来ている。
急げ___。
「ケヒッ……どうにか間に合ったか」
『___!!!』
ミサイルの着弾が皮膚一枚に迫っていた瞬間に、俺は反転術式(仮)を回復から防御に即座に切り替え、ミサイルの攻撃を無傷で乗り切った俺は、最後の一瞬まで諦めずに掴みかけていたものを…見事に掴むことができた。
クソ蛇を見据え、俺は両手を構える。
左右を刀印に結び、伸ばした2本の指を握りに当てる掌印を作った。
死の淵に立ったからこそ出来る芸当。
俺の持つ力の、最高到達点。俺が操る神秘の極意。
その名も___、
「神域展開」
月下八大地獄
月が浮かぶ。
地が赤で満ちる。
砂も、瓦礫も、総てが赤で満ちる。
ただ一つ、浮かぶ黒い月がこの地獄を闇で照らす。
「
ズンッ…ッ!!!
『___!?』
等活を意味する一獄は、その者が殺傷した生き物の恨みを全て重力に変換する。
今まで数多の生物を亡き者にしたんだろうな、あんな図体をしておいて、身じろぎすら出来なさそうだ。
さて、神域展開。死に際に掴んだ核心をそのままに解放してみたが、中々使い勝手が良い。攻撃特化や防御特化ではなく、完全に痒いところに手が届くような効果を持っている。
逆に言えば、この技には決め手がないとも言える。
まァ、別にこのまま放っといても死にそうだなァ?アイツ。
しかし、このまま死を迎えさせるというのも面白くない。俺の手で直々にぶちのめしてやりたいが…馬鹿正直に殴りに行くのも正直つまらない。
あ、そうだそうだ、良いことを思い付いた。
ここは俺の心の中なんだから、好き勝手やっても良いよな?
「怨霊ども、その怒りをぶつけるのは良いが、時間に限りがある。ここは一つ、俺にその怨みを預けてくれねえか」
『__?』『??』『____!!』『!???』『______』『!』『____?????』『???!』
「いっぺんに喋らんでくれ。まぁとにかく、お前らの怨みを俺に集中させて、どでかいの一発あいつに叩き込もうぜって話だ。その方が、よりスッキリすんだろ」
『!!!』『♪♪♪』『!』『___!!!』『___♪』『!!!!』『___!!!』『!!!♪』
「クク、あんがとよ。俺もアイツに恨みがあっからよ、お前らの分までキッチリ思っきしぶん殴ってやる」
本来ならば、怨霊どもを好き勝手にさせて恨みを晴らさせる一獄。
それを俺は、その恨みを貰う形で力に変え、どデカい一発にして叩き込むことにした。
来た来た、俺の右腕に、数え切れないくらいの濃密な恨みが集まってくる。どんだけ恨みを買ってんだアイツ。
恨みが、集まり、集まり、集まり…集まった末に出来上がった、重力を帯び、最早空間までが歪む程に、光をも巻き込む程までに完成されたそれを、俺は振り上げる。
「貰ったぜ、お前らの恨み。じゃあ…晴らしてやるよ!」
神秘の大半を脚に込め、瞬時に大地を蹴る。
一秒も経たずに動けないビナーの真上まで来た俺は、心のままに叫んだ。
「
怨みを込めた一撃。
光を逃さぬブラックホールとなったそれを遠慮なくビナーに叩き込み___音が消失した。
音も、光も、何も聞こえないし見えなくなる。
しかし、特に痛みはなく、俺はただ時が過ぎるのを待った。
数秒か数分か、数時間か、闇が晴れるのを待ち続け…眼前からヒビが入る。
黒を奔る亀裂が俺の周囲を囲った時、パリンと大きな音を立てて、光を齎した。
いつの間にか消えた俺の神域、勝利を祝福するが如く降り注ぐ陽光。
巨大なクレーターの中心で佇む俺は、気配を探るなく確信した。
俺の___勝ちだ。
これが書きたかった。
でもまだ名前の通り全部書けてない。