非日常的で日常的な青春の記録を刻む物語   作:よるくろ

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閑話 ①理解らせ

 

 

 

 結局、ホシノの案でシロコはアビドスで引き取ることになった。

 

 制服は新しいのが出来るまではホシノの予備を着用し、勉学についてはこれまた都合が良いのか、一年までの教養はある程度理解を示していた。つまり後輩として不足はなかった。

 

 ただ、幼稚園児でも分かるような倫理の知識が壊滅的だった。

 

 校舎で目を離せば何かを分解し、外で目を離せばそこらを歩くモブに襲撃をしたり、まさかと思い与えた住居に行けば盗難品の山。勿論ホシノが返させた。不服そうだったが。

 

 まぁ一応の長所としてそれなりの実力があるという点か。いつも通り襲撃してくるヘルメット団の集団に一歩も引かない立ち回りを見せた。

 

 良い言い方をすれば少数精鋭となるアビドスの一員としては好印象である。

 

 しかし、特に俺は問題視していないが、ホシノとノノミにとっては見過ごせない事があるらしい。

 

 というのも、

 

「アスカ、いたんだ」

 

「こらシロコちゃん、アスカ()()でしょ。ちゃんと敬わないと」

 

「弱い人に従いたくない」

 

「ふ、ふふ…」*1

 

 このチビオオカミ、弱肉強食の思想が強いらしく、実力のあるホシノとノノミ以外には不審な態度を取るのだ。

 

 俺の場合は単に力を示す場面が無かった。ヘルメット団は俺がいない周期を把握したのか俺が留守の時に襲撃するようになり、そもそも俺はシロコと一緒になる機会があまり無い。

 

 朝会うだけで、後のシロコはホシノかノノミについていくかふらっと消えては何かを強奪してきているので俺の管轄ではなくなっているのだ。

 

 因みにノノミが強者と認定された理由は、ノノミに向かってデブと胸元を指差して言ったシロコがノノミの腕力によって壁に頭からめり込んだからだ。

 

 あの時のノノミの暗黒微笑は今でも記憶に残っている。

 

「勉強会か?」

 

「そうだよー。いつもならノノミちゃんだけで良いんだけど、今やってる範囲がノノミちゃんでも厳しいらしくてねぇ」

 

「因みにこの範囲」

 

 何処か見下したような目線で教科書を見せつけるシロコ。

 

 中身には分からなくて苛ついたのだろう感情がもろに乗ったような文字が記されている。見たところ基礎はできているが問題文の読み取りを碌に行っていないからそもそもの式が間違っているという所か。それと式のうろ覚えも。

 

「…シロコ、cosΘはa/cじゃなくてc/aだ。あと二等辺の場合、一番長い辺は√2だから前提の式が全部間違っている」

 

「…え?」

 

「あ、ほんとですね。では私も間違えて覚えてしまったんですね…何度やってもシロコちゃんと同じ答えになっちゃうので」

 

「基本的に数学は式の記憶だ。問題の応用云々を考え込んで基礎を疎かにするより、基礎を完全に記憶してから応用を少しづつ攻略していく方が効率がいいぞ」

 

「うへ…今の一瞬で私より先輩してんの腹立つんだけど」

 

「そりゃ頭の出来が違うからだろ。なぁ398(サンキュッパ)?」

 

「消費税みたいに言わないでくれるかなァ…!?」

 

「…アスカって、もしかして頭いいの?」

 

「少なくとも今までのテストじゃ一点も溢してねえな」

 

 そういうとシロコは衝撃を受けたような表情を浮かべる。どういう意味だコラオイ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ンで、何で俺ァ校庭に立たされてるワケ?」

 

「うへ…まぁ、私達も面倒臭くなっちゃったからかなぁ」

 

「…そういうことね」

 

 確かに、本来ならしなくても良いことを常にやらなきゃいかんってのはクソ面倒だろーな。

 

 ノノミも特にアクションを起こすことなく遠くで見守っているし、ホシノも審判役兼ストッパーとして()()の中間にいる。

 

 そしてホシノを挟んで向こう側にいる、大した準備運動もせずに突っ立ってるチビオオカミ…シロコが俺の正面に立っている。

 

「まぁ、いっちょゲンコツでもかましちゃいなよ。やっぱり一番効くのはパワーだからさ」

 

「ククッ、やっぱ変わんねえなお前」

 

「うへへ、人はそう簡単に変わんないでしょ」

 

「…もういい?」

 

 シロコが急かすように言う。

 

「よし、じゃあ制限時間は五分…でいい?うん、じゃあ五分で、お互いに銃器の使用は無し。殴打は良いけどね。敗北条件は()()()()か気絶だよ。じゃあスタート!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《side 砂狼シロコ》

 

 

 東雲アスカは弱い。

 

 私はそこらの不良より強い。でも、そんな私を負かせるホシノ先輩となるノノミは強い。だから従う。

 

 しかし、東雲アスカは違う。

 

 殆どの時間学校に姿を見せず、学校に襲撃してくるヘルメット団を撃退する姿を見たこともないし、不良を倒すところなんて所も見た事がない。

 

 でも、ホシノ先輩やノノミ先輩は強いと言う。私にはそれが信用できない。だから嘘だと思っている。

 

 頭では敵わないが、戦闘能力だと私の方が上。

 

 ___今ここで、あの男を力で捩じ伏せる。

 

「じゃあスタート!」

 

 その掛け声と同時に私は駆け出し、数秒でアスカとの距離を詰める。

 

「ふっ!」

 

 間合いに入ったアスカを、銃床で殴り…付ける!

 

 アスカは全く動いてもいない!獲った!

 

 私がそう勝ちを確信した瞬間。

 

 グルンッ!

 

「…え?」

 

 背中に衝撃。地面に叩き付けられた。

 

 体感的に、数mは投げられた。その証拠に、急いで起き上がって振り返れば少し離れた場所にアスカがいた。

 

 私が通った場所であろう場所の足元に、自らの足を出した状態で。という事は、私はただ足を掛けられただけ…?

 

 …次は油断しない。

 

 さっきと同じ動作、近づいた瞬間、また二の舞にならないようにブレーキをしながら勢いも乗せて…!

 

 ガシッ!

 

「…どうしたシロコ、お前の得意な力比べだぞ」

 

「ふ…ぎっ…!」

 

 う、動かない…!

 

 そ、それどころか少しずつ押されて…!

 

 銃床を掴んだアスカの力に上半身が徐々に倒され、やがて背中が地面に付く。しかしそれでもアスカの力が止まらない。

 

「ぐ…う…!」

 

「…」

 

 ___…? い、息苦しさがなくなった。

 

 不思議に思いながらも急いでアスカから距離を取る。

 

 アスカは制服のポケットに手を突っ込みながら、私を見るだけ。

 

 …もしかして、アスカも私より…いや、そんなはずない、ただ力が強いだけ。総合的には私の方が上…!

 

「シロコ、お前は弱い」

 

 私の攻撃を紙一重で避けながら、そんな戯言を言うアスカ。

 

「腕力ではノノミに敵わず、射撃技術でも二人に負け、そして今、ただまいったと言わせるか気絶させるかの実力勝負で、未だに俺に触れられてすらいない」

 

「うる…さい!」

 

「力で捩じ伏せられると思ったか?実力で勝っていると、総合的な力で上回っていると思ったか?___舐めるなよ」

 

 悪寒がして、咄嗟にSMGで防ぐ…うぅっ!?

 

 とてつもない衝撃がSMG越しに来て、私の身体を容易く吹っ飛ばした。

 

 ゴロゴロと転がる私の身体。勢いが止まった時に立ち上がり、痛みのせいでゆっくりとしか動かない顔を上げる。

 

 そこにアスカはいなかった。

 

「後ろ、防げ」

 

「ッ!」

 

 背後を振り向き、銃床で殴りつけ___る前に、また悪寒がして咄嗟にまたSMGを盾に構える。

 

 また衝撃。また私の身体が吹っ飛ぶ。

 

 吹っ飛ばされた先で、また同じ流れで吹っ飛ばされる。

 

 吹っ飛ばされる。吹っ飛ばされる。

 

 幸か不幸か、なんとか本能だけで防げている私の持つ銃はその度に壊れそうな音をあげる。

 

 そして遂に…。

 

 バキッ!

 

 中心から銃が砕け散り、防ぐ術のない私の身体は相手の脚一本で薙ぎ払われた。

 

 確かなダメージを負った私は最早立ち上がることもできず、その場でうつ伏せに伏せるだけ。

 

 ___私が間違っていた。

 

 誰があの怪物を弱いって言ったんだろう、私か。

 

「終わりか?シロコ」

 

 怪物…アスカがそう私に問いかける。

 

 まいったと言おうにも、地面で口が塞がれて喋れない。

 

 仕方がないから片手を上げて降参のハンドサインをしようとしたら…

 

「“まいった”がないんじゃ仕方がない。攻撃を続行しよう」

 

 …えっ?

 

 痛みを無視して咄嗟に顔を上げると、少し離れた場所で地面を踏み砕いて瓦礫を作るアスカがいた。どうやってあんな力が出せるんだろう、後で教えてもらおう。

 

 って、そんな場合じゃない。なんて言った?攻撃を続行?私倒れてるんだけど?

 

 ちょ、ホシノ先輩助け___

 

「後で弁償してね、地面」

 

 いや地面の心配じゃなくて私の心配を___

 

「行くぞー」

 

 あ、ちょ、そんな振りかぶられてももう私避けられな

 

 あっ___。

*1
コイツマジか…って顔してる

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