New world note in Earth   作:YUKANE

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Episode.9から4連続で〇〇の〇〇というサブタイトルでしたが、今回でやっと途切れます。
現在の日本説明回でもあるので、説明の文量がかなり多めです。


Episode.13 激震する国民

日本転移を引き起こした発光現象から5日が経過した日本は未だに混乱に見舞われてはいたが、少しずつではあるが日常を取り戻しつつあった。

転移当日に起きた外国人を中心とした暴動や生活必需品の買い占めと言った派手な活動は鳴りを潜め、絶えること無く鳴り響いていた緊急車両のサイレン音は一時間おきに減っていた。

 

発光現象(アレ)から今日で5日。やっと静かになって来たな。」

 

OREジャーナル編集長兼社長の荻窪大介は、本社が入っている千代田区のビルから道路を見下ろしながらそう零す。彼はたまたま居合わせた本社で発光現象を目の当たりにした日から一度も家に帰っておらず、会社で寝泊まりしながら発光現象や国内情勢等の情報を集めていた。

各地から絶え間なく鳴っていたサイレンは彼の集中や眠りを妨げてはいたが、今の日本が非日常へと突入している証明でもあった。

 

「これで少なくなったって本当ですか? 」

「まだ少なくなった方だ。空が光った日と翌日は緊急車両と自衛隊車両がビュンビュン行き交って、民間の車なんか入る余地無しって程だったぞ。」

「民間車の入る余地無し······確かに今は路線バスが走っているので少なくなってますね。」

 

OREジャーナルに勤める記者 瀧川沙織は一時間おきにサイレンがなる現状を落ち着いたと認識出来なかったが、5日前からずっと見続けてきた荻窪が言うならば間違いないのだろうと自分自身を無理矢理納得させた。

 

ただ、平日と休日を問わず都心の道路に慢性的な渋滞を齎す自家用車は真下の道路から一切の姿を消しており、会社を象徴するカラフルな塗装とロゴが書かれた路線バスと大型トラックだけが行き交っていた。

 

「自家用車が全く走っていないなんて信じられないですね·····バス自体もいつもより多い様に感じます」

「政府の要請で自家用車が使えなくなったからバス専用道路みたいになってるな。

東京はまだ増便だけで何とかなっているが、自家用車通勤が多い地方都市は観光バスすら投入しているらしいが。」

 

バスとトラック・緊急車両だけが走っている道路の姿に非日常の異質感を抱いた瀧川に、荻窪が同意しつつ補足する。

 

転移によって石油産出国を全て失った日本は、残っている石油を少しでも長く使うべく全国民に石油燃料の無駄遣いを避けるべく自家用車の使用自粛を呼びかけつつ、政府が定めた機関や会社に優先して提供する方針を決めた。

これによって自動車燃料は自衛隊や警察・消防等の国家機関と物流を担うトラック会社・公共交通機関である路線バス会社へ優先的に配給される事になり、その影響でただでさえ高かったガソリン代が急激に値上がりした。

 

政府による使用自粛願いとガソリン代の急激高騰が重なり、代替となる公共交通機関が少ない田舎を除く国内各地で自家用車が走る姿が見られなくなっていた。

 

自家用車が走らなくなった代償として、自家用車を使っていた人々は路線バスや各種鉄道・水上バスと言った公共交通機関に集中する事になり、急激な需要増加に対応すべく最終便の繰り下げや臨時便の設定を行って対応していた。

元から自家用車通勤の割合が低かった都心部は増便だけで対処出来たが、割合の大きい地方都市は一番身近だった路線バスに需要が集中する事になった。運行会社だけで対処出来ないと判断された為に、燃料配給の対象から外された観光バス会社から派遣されたバスとドライバーを使ってまで、急増した乗客需要を賄う状態になっていた。

 

「図らずとも自家用車利用削減が出来たのは皮肉だな。それで瀧川、記事に出来そうなネタは見つかったか?」

 

環境保護と題して政府が少しずつ取り組んでいた自家用車の利用削減が、こんな簡単に出来てしまった事への皮肉を述べた荻窪は瀧川へ話を振る。

話を振られた瀧川は愛用している手帳を取り出し、ポケットに入る大きさのページをペラペラと捲り、記事に出来そうなネタのメモ書きへ辿り着いた。

 

「取り敢えず昨日の取材で手に入れたネタは株式関係ですね。海外と連絡が取れなくなった事でドルやユーロといった海外通貨の価値が消滅、その影響で円相場と国内の株価は大混乱に陥っています。」

「それで大損して自殺した株主がいるって情報も流れてる。価値の無い株を他人に押し付けるべく、詐欺じみた事をやっている人もいるらしいな。警告も兼ねて記事にする価値があるな。」

 

瀧川が集めたネタは記事になれると荻窪が判断したと同時に、ドアを勢いよく開けた音がオフィスに響き渡った。

 

「編集長!! すんません、遅れました!!」

「この馬鹿!! そんな勢い良くドアを開けたら壊れるだろうが!! それに遅れるのなら電話でもメールでもLINEでも良いから連絡しろよ!!」

「すんません! 俺の右隣の部屋が噂の食品強盗にあったみたいで、警察の取り調べが終わってから被害者に取材していたもんで····」

「何っ?」

 

ドアを壊すかの様な勢いで開けて、オフィスへ入ってきたOREジャーナルが抱える記者の1人 木戸進一に、荻窪は遅刻していた事も相まって反射的に怒鳴った。

いつもの様に怒鳴られた木戸だったが、遅れた理由が彼の失態どころか取材していた為と知るや否や荻窪の目線は変わった。

 

「食品強盗って巷のアレか! 隣の部屋が合うなんて危なかったな。持ってかれたのは食品だけか?」

「家にあった食品とトイレットペーパーと電池がごっそりやられたみたいです。金品には一切手がつけてなかったって本人が言ってました。」

「金があっても買う物が無いとは言え······金以外を盗む泥棒が頻繁するとか、正しく世紀末だな。」

 

発光現象直後に国内各地で発生した生活用品の買い占めは政府によって規制され、メルカリを筆頭とするフリマアプリも転売と思われる品の販売を禁止する措置を取った。

政府によって食品の節制も呼びかけられたが、在庫が無くなったコンビニやスーパーが次々と臨時閉店した事が、いつ終わるか分からない食品不足の恐怖に怯えた国民を刺激し、他人の食品や生活必需品・収穫前の作物を盗む被害が発生する様になった。国内の犯罪率が急増した為に暴動等の鎮圧を終えたばかりの警察が休む間もなく駆り出され、労働基準監督署ですら驚く程のブラック勤務を余儀なくされていた。

 

「警察も暴動の次は泥棒退治しか大変ですね。でも、売る商品が無いのかそこらじゅうのコンビニが休業しているから、盗むしか無いのかなぁ。」

「雑誌ですら売り切れたらしいからな。雑誌なんか一体何に使うんだか。」

「焚き火にでも使うんですかね?」

「新聞紙ならまだしも雑誌を焚き火に使いますかね? あぁ、そういえば編集長。来るついでに周囲の自販機も調べたんですけど、大半が売り切れでした。あのおでん缶ですら売り切れてるとは思いませんでしたw」

「飯のオカズにしかならねえアレですらか······にしても、しれっとこんなネタをゲットして来るなんて、木戸も成長したなぁ〜遅刻の件は今回だけ免除してやる。」

 

部下の成長に眉間を摘んで感激する荻窪と、編集長に褒められた上に遅刻が免除された木戸の姿を微笑ましく見ていた瀧川だったが、オフィスの壁にかけられた電波時計が丁度10時になった事に気がついた。

 

「編集長! 定例会見の時間です!!」

「何っ!? もうそんな時間か!! 木戸! テレビをつけろ!!」

 

荻窪の指示で木戸が直ぐ側にあったリモコンを操作して28インチの薄型テレビが灯ると、総理大臣や官房長官が会見を行う見慣れた記者会見場が写った。

いつも通りテレビクルーや記者が詰めかけた記者会見場に大洋 洋司官房長官が入ると、瞬く間にフラッシュが焚かれる。大洋はフラッシュの眩しさを慣れた様にスルーして記者会見の壇上へ上がるが、その顔はいつもより重苦しく感じられた。

 

『この日本が世界から閉ざされて丸5日が経ちました。国民の皆さんも知っている通り、これは日本どころか世界史を見ても書かれていない前例の無い出来事であり、それによって国内では今でも混乱が続いています。

無論、政府も日本存続の対応だけで無く自衛隊と海上保安庁を用いて、諸外国と連絡が取れなくなった原因を探し出そうとし、その原因を見つけ出す事が出来ましたので本日発表されて頂きます。

簡潔に申し上げますと、日本は()()()()()()()、所謂()()()へとやって来てしまったのです。』

 

大洋の発言に記者会見場は静まり返る。日本が異世界へやって来た話の関してはネットで噂されていたが、政府が事実だと認めた事に記者もテレビ関係者も唖然としていた。

唖然としていたのは荻窪らも一緒で、大洋の発言を信じられずにいた。

 

「異世界って········あのネット小説で話題の異世界ですか?」

「十中八九そうだろうな。」

「日本そのものが異世界にやって来たって事ですか?」

「この話だとそうみたいだが、信じられん········」

 

荻窪と瀧川・木戸の全員が大洋の言った事をそのまま受け入れられなかったが、その反応を予測していたであろう大洋は自らの発言を裏付ける証拠を見せるべく背後に折りたたみ式のスクリーンを下ろした。

 

『この会見を見ている皆様は私がついに狂ったかと思ったかもしれませんが、私が言った事は事実です。これからその証拠をお見せしましょう。』

 

そう言い切った大洋が手に持っていたリモコンのボタンを押すと、背後のスクリーンにとある島と周りの海が映し出された。

 

『これは長崎県の対馬から北の海域を上空から写した写真です。皆さんも地理で習った通り、この先には朝鮮半島が見えるはずなのですが、ご覧の様に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

現地の陸自部隊からの報告によると発光現象以降から確認出来なくなったとの事なので、ここが地球では無い証拠になり得るでしょう。

そして、ここからがここが異世界と証明する一番の証拠になります。』

 

記者のざわめきが収まる前に大洋が新たな画像を見せると、記者会見場をざわめきとカメラのシャッター音が支配した。

 

『驚かれたでしょう。こちらは海上自衛隊第2機動部隊が接触した艦隊の旗艦を努めていた戦艦でして、自らを東和国と名乗っていました。

東和国の存在こそ、ここが地球では無い動かぬ証拠だと言えるでは無いでしょうか?』

 

大洋が出した数々の証拠をテレビ画面越しに見せられた国民は、日本転移を虚言ではなく事実として受け入れるしか出来なかった。

それは瀧川と木戸も同じだったが、荻窪だけは証拠として見せられた戦艦「夏姫」に釘付けになっていた。

 

「すげぇ現役の戦艦だ·······しかもアイオワ級みたいに誘導兵器を積んでない正真正銘の大砲で戦う戦艦だ。」

「出ちゃいましたね、編集長のミリオタモード。」

「まあ、あんなの出されたら仕方ないか····」

 

趣味のミリオタモードに突入した荻窪に瀧川と木戸が呆れた目で見ている間に、証拠提示を終えた大洋が記者達へ向き直る。

 

『先ほどの東和国に対して政府は外交官を派遣し、無事平穏な接触に成功し、会談まで漕ぎ着ける事が出来ました。

会談では一週間を目安に東和へ使節団を派遣する事で同意しており、メンバー策定を進めています。また、入れ替わりで東和側からも使節団が来る予定になっています。』

「使節団を一週間後に派遣するとか相当急ピッチですね。」

「そりゃ、今の日本が求めている食料や資源を手に入れられるかもしれないからな。にしても、こりゃあ記事の全練り直しだな。」

「練り直し!? 俺のネタ、ボツになりませんよね!?」

「それは無いから安心しろ。」

 

自らの発言で焦った木戸に安心の言葉をかけた荻窪は、投稿予定だった記事の練り直しを始め、瀧川と木戸も手伝いを始めた。

 

日本転移を知らされた国民は非現実的(フィクション)としか思えない事実を受け入れるしかなかったが、少しばかりの希望と拠り所を得るのだった。




・瀧川沙織
前作からの登場人物です。何気に“たき”ってつくキャラが多いですね。
そういえば今年度のガヴにフリーライターが出ているので、今作に出すのもありか?

・自家用車の使用自粛
国内に6000万台いるみたいなので、これを少しでも減らせただけでかなりの燃料消費が抑えられると思いましたが、実際はどのぐらい減るんですかね?

・公共交通機関に集中
多分政令指定都市は既存の公共交通機関だけで何とかなると思いますが、自家用車通勤の割合が多い都市はマジで麻痺する事になりそう······

・海外通貨の価値消滅
ドルやユーロを使う相手が消えたので、自動的に価値が無くなるでしょうね。
逆に円相場が消えた地球諸国はどうなっているのやら····

・食品強盗
買う商品が無いせいで店が閉まる状態なら、金よりも物々交換の方が成り立ちそうな社会ですね······まるでインフレのドイツやな
フリマアプリでメルカリの名前が出てますが、前にも言った通り出来る限り会社は実名で出す予定です。

・定例会見
YouTubeチャンネルで毎日ライブされていますが、こんな状態なら視聴者が爆増してそう·····
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