New world note in Earth 作:YUKANE
南瑛諸島に重い音色の汽笛が鳴り響く。汽笛を鳴らした豪華客船「ぱしふぃっくびいなす」は大勢の人々に見送られながら暮田港の埠頭を離れ始める。
埠頭にいた人々と船の乗客を繋いでいたカラフルな紙テープは船が離れると次々と千切れ、海面へ垂れた物はそのまま海水へ溶けていく。
港の沖合に辿り着いた「ぱしふぃっくびいなす」は、小判鮫の如く張り付いていたダグボートによって船首を日本へ向けると、最大で13000kWもの出力を発揮するディーゼルユナイテッド製 12PC2-6V ディゼールエンジン 2基で26000tの船体をゆっくりと進ませ始める。
日本への旅に向かい始めた「ぱしふぃっくびいなす」を守るかのように、佐世保から
白き豪華客船に続いて先週から停泊していた第2機動部隊も次々と出港し、使節団を護衛しつつ自らの母港 舞鶴への帰路についた。
「国家の運命を握っているとは言え、呆れるほどの国賓待遇だ。」
「確かに言えるな。ここまで手厚い護衛はアメリカ大統領でも無いだろうな。」
東和人として日本へ初上陸する使節団を載せた「ぱしふぃっくびいなす」を埠頭から見送った桐島の独り言に、左隣の三田が加わる。
「空母とヘリ空母が1隻ずつ、イージス艦も2隻いる上に実戦経験持ち。あんな強力な艦隊と戦おうなんて中国海軍どころか、米海軍でも躊躇いますよ。」
「でもシ連海軍は万全の体制だった第2機動部隊に正面から挑んできたぞ。」
「確かに·····」
桐島は要人の数に対して不釣り合いな護衛の多さに呆れつつも自らがいた艦隊の精強さに自信を得ていたが、三田はその艦隊と正面から戦った
護衛艦の艦影が見えなくなると、埠頭で見送っていた日本側の使節団も東和へ向かうべく動き出す。埠頭から移動した使節団の目の前には複数の装輪装甲車に囲まれた黒く塗られた車が複数台停車していた。
「正しく戦前の見た目をしている。戦前の車でこんな状態の良い個体なんて博物館にしか無いだろうな。しかも走れる上に乗れるなんて博物館の学芸員も驚くぞ。」
「車も良いですが、陸自の身からすれば護衛の装輪装甲車も興味深いですよ。旧日本軍の装甲車なんて国外にも残ってないので、初めて見ました。」
国土交通省に入ったが故に車に詳しくなった吉田は停められていた車に興味を示し、使節団に陸自から派遣された秋崎
他のメンバーも物珍しさからスマホで写真を撮り、東和側の人々は彼らが持っている薄い板に興味を示した。メンバーが一通り写真を撮り終えたところで凜音が口火を切った。
「こちらは東和の国産自動車 IU-4でして、国内は疎かTRMでも使われているベストセラーだそうです。東和に行けば嫌という程に乗ると思うので、ここで一度乗車して感覚に慣れて頂こうと思います。」
凜音の説明が終わると同時に車横で待機していた陸軍兵が、助手席と後部座席の分厚いドアを開ける。城門の様に観音開きしたドアの先には運転手席と繋がった座席があり、使節団メンバーは座ろうと近づいくと突然大声が耳に響いた。
「3点式シートベルトが付いてるだと!?」
大声を出した吉田に使節団メンバーの視線が集中し、視線が向けられた理由を悟った吉田は理由を釈明しようとして謝った。
「いや····いきなり大声出してすいません。私が知っている限りではこの時代にシートベルトが無かったもんでして····我々の知っている形であってビックリ致しました。」
彼が驚いた意図を理解した使節団メンバーは納得しつつ車へ乗り込み、吉田を驚かせた3点式シートベルトで自らを座席へ固定させた。
全員が乗り込んでドアが閉められると各車の運転手はスイッチを操作して、ボンネットに積まれたAX-6E型 水冷直列6気筒ガソリンエンジンを作動させる。
満員の車内に響き渡ったエンジン音で運転手は異常が無いと確認し、囲む様に止まっていた装輪装甲車に続いてIU-4の車列は進み出す。
「おぉ、振動がダイレクトに来るな。」
「サスペンションの偉大さを身を持って痛感出来ますな。」
後部座席の右側に座る桐島は動き出した際の振動に驚き、隣に座る秋崎が同意する。平成から令和の日本が作り上げた車しかしらない彼らは、遊園地の遊具みたいに揺れる車で両国の技術の差をその体で持って思い知らされた。
「車の技術は全く追いついてないが、シートベルトだけは追いついているとはチグハグだな。」
「吉田さんの反応からして、この時期の車のシートベルトはもっと原始的な奴か、そもそもついてないのかもしれません。」
「私は民間車についてあまり知りませんが、そのどちらかでしょうね。」
車の助手席に座る防衛大学校副校長の三田が後部座席に向けて話しかけ、彼の発言に桐島と秋崎が答える。どちらも詳しく知らないが故に曖昧であったが、吉田の反応から
「さっき言った通り私は民間車をあまり知りませんが、陸自が故に軍用車両については詳しいと自負しています。
乗る前に護衛の兵達に聞いてきましたが、先頭を走っているのは六十二式小型乗用車と言って、周りの装甲車は六十二式装輪装甲車と言うらしいです。どちらも採用から10年近く経つが、今でも陸海空の全てで主力車両として使われているそうです。」
「10年経っても主力か·····半世紀前の空母が主力の
「あの装甲車と
桐島の自嘲に空自から派遣された後部座席の左に座る
「まあこれは前置きで話しておきたいのはこれからです。あの装輪装甲車と小型車は旧陸軍が運用した車両に
「そっくりって航空機みたいにか?」
「その通りです。小型車にそっくりな車両は日本に残っている実車を見たことがあるので間違いないです。」
「実車を見たことがあるなら間違いないな。」
航空機に続いて陸上兵器まで一緒な事に松柳は納得するが、元空自の桐島は何とも言えぬ違和感を感じていた。
「陸上兵器まで一緒なら
「確かに航空機も車両も旧軍と一緒なら海軍艦艇も一緒の方が自然だが、何かしらの理由があるんだろうよ。お、ウチらが乗る機体はアレか?」
独り言を吐く桐島に三田が再度話しかけていると、彼らの車列は大きな航空機格納庫へ入っていき、格納庫内に仕舞われていた双発機が姿を現す。
双発機の前で止まったIU-4から降りた使節団メンバーの前には、綺羅びやかな装飾をつけた紺色の制服を身に纏った女性士官が立っていた。
「日本国使節団の皆さん始めまして!! 空軍省広報官の
威勢よく元気に挨拶した羽根崎の姿に、IU-4から降りた使節団メンバーは好印象を抱く。空軍でも個性的な広報官として名のしれた彼女は、右手を大きく回して真後ろに鎮座する機体に注目させた。
「こちらが皆様に乗っていただく、
その機体はコックピットから突き出た機首と急速的に
日本で見かける現役の飛行機と同じ作りだが全く似つかない外見の機体に使節団メンバーは感嘆の声を上げ、スマホで機体を撮り始める。
元空自の桐島は六十四式飛行艇や七式戦闘機と同じくそっくりな機体が無いか頭の中を探し回るが、現役の空自士官である松柳は直ぐに酷似した機体の名称を引っ張り出した。
「これは一〇〇式輸送機じゃないか·····いやはや現存してない機体と会えるなんて!!」
「その命名方式って事は陸軍機か····にしても知らん機体だな、てっきり王道のDC-3が来るんじゃないかと思ったが。」
「DC-3でも面白いですね。見た人は多いですが、乗った事がある人は少ないでしょうから。」
同業の桐島と松柳の話を聞いていた羽根崎は、会話の中で出て来たDC-3という単語をその前後を含めて航空機だと判断すると、その機体を知るべく2人に話しかけた。
「お話中失敬ではありますが、お2人の話で出て来たDC-3ってどんな機体ですか?」
「100年前に空を支配した旅客機です。丁度数年前に撮った写真がどこかに·····あぁ、あったあった。」
羽根崎に説明しながら自らのスマホをスワイプさせてた桐島は、目的の写真を見つけると彼女へと見せる。スマホそのものに驚きつつ写真を見た羽根崎は、そこに写った機体の姿に目を見開いた。
「これってチャルネスの飛-2型じゃないですか!? 一体どこでこんなに綺麗な写真を撮ったのですか!?」
「チャルネスの飛-2型? チャルネスはこんな外見の機体を運用しているのか?」
初めて聞いた単語に疑問を抱いた桐島だったが、DC-3の事だと仮定して羽根崎へ逆質問する。逆質問された羽根崎は人目があるにも関わらず、突っ込んでしまった事に気付いて頭を下げる。
「いきなり突っ込んでしまってすいません。見せて頂いたDC-3はチャルネスが製造・運用している飛-2型旅客機にそっくりなんです。」
「な、なるほど······」
「その飛-2型って東和でも見れるか?」
「えぇ、首都の空港に定期便で乗り入れているので見れると思います。」
「こりゃ自由行動中に見に行くしか無いな。」
桐島と松柳・羽根崎らが話している間に他の使節団メンバーはタラップを上がって機体へと乗り込んでおり、見送り前に預けた自らの荷物も胴体下部の貨物室へ積み込まれていた為に話し込んでいた3人は急ぎ足で搭乗した。
「やっと来たか。話し込むのは良いがせめて機内でやってくれ。」
「すいません。私としてもアレだけ盛り上がるとは思ってなかったもんで。」
使節団メンバーを代表して苦言を呈した三田に謝罪した桐島と松柳は座席に座る。全員の着席を確認した羽根崎は一度咳き込んで仕事モードへ切り替えた。
「出発前にこの機体について説明させて頂きます。このTP-1は我が国が誇る航空機メーカーの津宮飛行機によって設計・製造されており、同社製の六十一式爆撃機をベースにしております。
旅客機向けに再設計された胴体に爆撃機から流用した主翼を取り付けており、爆撃機譲りの高速性能を持っております。」
「爆撃機ベースか·······エンジン出力はどのくらいですか?」
「本機のGL-82C 空冷星型エンジンは1基あたりの最大出力が1200馬力ですね。それが2基あるので合計で2400馬力です。」
「2400馬力·······この位のエンジン出力の機体ってあったか?」
「微妙な数字だな·······確かMCH-101の
「旅客機と掃海ヘリのエンジン出力が一緒とは···」
桐島は戦前の旅客機と現在の掃海向けヘリコプターを動かすエンジン出力が同じだった事に時代の差を思い知らされた。羽根崎は最新鋭の旅客機と
羽根崎が動揺を隠す中、顎に右手を当てて考えていた吉田が話しかけた。
「羽根崎さん、質問良いでしょうか?」
「大丈夫です! 答えられる範囲であれば答えられます。」
「では行かせてもらいます。機体名のTPって東和プレーンの略称ですか?」
「いえ、この機体を製造した津宮飛行機のTと
「製造元でしたか、ありがとうございます。」
羽根崎の解答に満足した吉田の隣に座っていた八巻が話しかけた。
「話に聞いた通り英語をナチュラルに使ってますな。」
「違和感なく使いこなしている·······一体どんなからくりがあるのやら。」
2人が話している間に機体の扉は閉じられ、両翼のコト-402エンジンが動き出す。エンジンの動く音と4
格納庫からエプロン出された機体は
誘導路を通っている時に羽根崎はシートベルトの着用を確認したが、全員が何かしらの理由で乗った経験があった為に間違う事なくシートベルトを巻いていた。
確認を終えた羽根崎も着席してシートベルトを締めた頃には、9人で構成された使節団を乗せたTP-01は離陸する滑走路へと辿り着く。
『これから離陸致します。離陸時に衝撃がかかりますので、ご注意して下さい。』
パイロットからの放送の後に、プロペラの回転数が切り替わってTP-01は徐々に速度を上げながらアスファルト敷きの滑走路を走り出す。
轟音を上げながら滑走路を走ったTP-01は空へと舞い上がり、接地感が一瞬にして消える。空へと飛び上がって間もなくして
・IU-4
東和の行政から軍・民間までもが使う大衆車で、外見はトヨタ・AA型。
国内の道路整備が進んで高まった自動車需要に応えるべく
因みにシートベルト自体は1900年代に作られたが、一般車への搭載は戦後かららしい(Wikipediaより)
・六十二式小型乗用車
東和軍の小型乗用車。外見は九五式小型乗用車。
民間への自家用車普及に合わせて
上述の高い不整地走行性能と民間車の部品を流用した事による整備性を持っていた為に、戦場での偵察や連絡・将校の移動に使用されている。
因みに九五式小型乗用車はマジで日本に残っているし、しかも動く状態で保存されている。いつか見てみたい···
・六十二式装輪装甲車
東和軍の主力装輪装甲車。外見は九三式装甲自動車。
前任の装輪装甲車の後継として六式自動貨車を製造した
車体上部には重機関銃を搭載した砲塔を搭載し、仰角を高めに取った事で対空射撃も行える。
東和軍の主力装輪装甲車として基地や補給線の警備・暴動鎮圧に使用されている。
・海軍艦艇だけ旧軍兵器に似てない·····
これは勿論伏線ですが答えを語るのはいつになるのやら·····因みに裏事情としては筆者自身が艦艇だけ書ける為です。
・飛-2型飛行機
今話で出た通り、DC-3の外見をした機体です。ネタバレにはなりますが、チャルネスの機体も日本軍機の外見をしています。
・TP-01
東和の最新鋭旅客機。外見は一〇〇式輸送機·······ではなくMC20。マセラティじゃ無いよ。
前任旅客機の旧式化が目に見えていた為に開発中だった六十一式爆撃機をベースにした旅客機として津宮飛行機で製造された。
現在はTRM加盟国の各首都と東和を結ぶ国際線に重点して使用されている。
六十一式爆撃機は一〇〇式輸送機のモデルを辿ればどの機体か判明すると思います。エンジンのGL-82Cに関してもモデルのまんまです。