New world note in Earth   作:YUKANE

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今回は日本使節団のお話ですが、前回の最後で言った東和陸軍の見学はすっ飛ばします。理由としては今度のイベントで陸軍の演習光景を出す予定でして、描写が被らないようにあえて飛ばさせて頂きます。

それと今話の内容は鉄分がかなり多めになっています。


Episode.22 流線型の特別列車

横灘浜近郊の演習場で東和陸軍の演習光景を見学し終えた日本使節団は、行きと同じくIU-4自動車に乗っていたが到着した先は海軍基地ではなく町中に堂々と鎮座する大きな駅だった。

 

「これが横灘浜駅ですか──上野駅みたいな見た目ですね。」

「確かに上野駅東口駅舎に似てはいますね。東和第3の都市として充分な大きさですな。」

 

吉田と凜音の目の前に佇む横灘浜駅の駅舎は東和第3の都市に恥じない程に大きく、表面にタイルが貼られた複数階建ての駅舎は町中にあるにも関わらず強い威厳と存在感を放っていた。

 

「これってレンガを積み上げて作っているのでしょうか? もしそうなら耐震性とか不安なのですが·····」

「耐震性に関しては問題ないです。建物自体は最新の鉄筋コンクリート(RC)製でして、コンクリートにタイル状に切り出した石を貼っているだけなので。」

「RCにタイルを貼るのは今の建物と同じ造りですね。」

 

凜音が案内役の井都築と駅舎について話している間に、IU-4から降りた八巻が2人の会話へ加わる。2人が八巻の補足に関心している間に使節団の面々は車から降り、井都築の先導で横灘浜駅へ降り立ったロータリーを歩いていく。

彼らが歩くロータリーにはIU-4を用いたタクシーが止まっており、そこに()()()()()()()()()()()()()連節バスが新たにやって来た。

 

「姉上見てください! 電車みたいに繋がったバスが来ましたよ。」

「連節バスですか──ぬあぁ!? トロリーバスだと!?」

「トロリーバス? 何ですかそれ?」

「トロリーバスと言うのは架線から受け取った電気で走るバスでして、分かりやすく言うと電車の原理で走るバスです。」

 

吉田が説明している間に当の連節トロリーバスは駅前のバス停に停まり、中に乗せていた乗客を降ろしていく。園田姉妹が連節バスの上を見上げると架線(トロリーワイヤー)が張られており、バスの天井から斜め上に伸びた細い鉄線(トロリーポール)で触れ合っていた。

 

「バスと言うより電車みたいですね。」

「実際に日本では電車の一種として扱われています。つい最近まで日本でもアルペンルートで現役だったんですよ。」

「へ、へぇ──あ、路面電車ですよ!! レトロで可愛いデザインですね。」

 

吉田の熱弁に困惑した麗音が指さした先には、丸みがついた前面の中央に一つだけ前照灯を取り付けた路面電車が走っていた。トロリーバスと同じく複数の車両を連ねた路面電車は頭端式ホームの停留場へ滑り込み、乗客を降ろしながら折り返し作業の為に前照灯の灯りを消した。

 

「トロリーバスに路面電車──東和の公共交通機関がここまで充実しているとは思いませんでした。」

「お褒めの言葉ありがとうございます。公共交通機関は都市の混雑具合を解消出来る上に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ので、我が国では積極的に取り入れております。」

「なんと!! 我が国では廃止されてしまった路面電車の復活が各地で検討されているのですが、路面電車のノウハウは貴国から取り入れた方が良さそうですな。」

「はは、光栄です。時間もアレですし、そろそろ駅に入りましょうか?」

 

吉田から忖度無しの褒め言葉を受け取った井都築は自然な流れで彼らを駅舎へと導いていった。人力の回転ドアを通って駅舎へ入ると到着・出発する列車に対する車内放送と、天井から吊り下がった反転フラップ式案内表示機の行き先が書かれた板が回る際に鳴る音が駅舎内に響いていた。

 

「駅が煩いのは星が違っても変わりませんね。」

「横灘浜は首都の東和へ伸びる路線と、西側の海岸線に沿って西葉(にしは)と呼ばれる都市へ向かう路線が分岐していますから尚更煩いでしょう。」

「窓口や売店が立ち並んでいるのも一緒ですな。それで我々は何故駅に来たのでしょうか?」

 

唐突に話へ加わった国山の質問に井都築はその発言を待っていたかの様に、自信満々に意気揚々と語りだした。

 

「皆様も疑問に思っていたでしょうが、皆さんにはこれから東和鉄道の専用列車に乗って東和へ向かって頂きます。」

「専用列車!? 我々の為にわざわざ用意して下さったのですか?」

「勿論でございます。東和鉄道が誇る豪華個室寝台客車と食堂車・展望車で構成された専用列車をご用意致しました。」

「個室寝台車に食堂車に展望車ですって! 日本だとプラチナチケットの豪華列車でしか見れない代物ですよ!!」

 

日本ですら貴重な車両を詰め込んだ豪華列車をわざわざ貸し切って、専用列車として用意してくれた事を知った使節団の面々は大いに盛り上がる。井都築は想像以上に喜んでくれた事に心の中で喜びつつ、子供の様な好奇心に溢れた表情の吉田や園田姉妹を列車へ連れて行くべく歩き出す。

 

切符を売る窓口や駅弁を売っている売店を素通りして日本では殆ど見れなくなった有人改札へ向かい、改札内の駅員に胸元から取り出した手帳を見せた井都築の先導で通っていく。

幾つものホームへ繋がる高架橋へ上がる階段を横目に駅舎から直接繋がった1番線ホームへ向かうと、期待に満ちた使節団の前にソレは現れた。

 

「な、なんじゃこの機関車は!?」

「0系みたいな見た目ですねって、これSLですか!?」

「な、なんでこれがここに!?──しかも動く状態で!!」

 

使節団の前には1台の蒸気機関車が白い蒸気を吐き出しながら発車を待ち侘びる様に止まっていたが、その見た目は彼ら彼女らが知るものとはかけ離れていた。

SLの動かす蒸気を作り出す煙室(巨大な円筒型)の左右にある筈の除煙板()は無く、煙室の先が丸みを帯びた突起になっているのも相まって、遠目であれば彗星が載っている様に見えていた。煙室から送られた蒸気で動くシリンダーとロッド類(細長い棒)で回る動輪も丸みを帯びたカバーで覆われており、そのフォルムは速そうだと思わせるには充分すぎた。

 

「こちらは東和横断鉄道の試作機関車 TD-54型蒸気機関車です。当鉄道のフラグシップ特急専用の高速機関車の試作機として1両だけ作られました。

性能自体は良かったのですが空転しやすかった上に、車両自体が重すぎた欠点を持っていたので量産はされず、現在は試験車や予備車として使われています。」

 

鉄道に詳しくない使節団の面々ですらスマホで写真を撮る中、井都築は東和横断鉄道側から提供された資料を見ながら説明を始める。

説明を終えた井都築に色んな角度から写真を撮っていた吉田が話しかけた。

 

「たった1両だけの機関車をわざわざ用意して下さりありがとうございます。ところでこの機関車や客車を持っている東和横断鉄道とはどんな会社ですか?」

「あぁ─説明を忘れておりました。東和横断鉄道─通称TCRは社名通り東和に本社を置く民間鉄道会社で、東和と第二の都市 見浜やここ横灘浜を経由して西葉へ向かう路線を持ち、特急列車や寝台列車・高速貨物列車を運行する東和最大の鉄道会社です。」

「なるほど──国営では無いのですね。あと数字の前についているアルファベットの意味は何でしょうか?」

「Tは東和鉄道を意味し、Dは()()()4()()()()事を意味しています。」

「なっ!? なるほど·······」

 

井都築が手元の資料を捲って質問に答えると、質問をした筈の吉田が驚かされた。思わぬ返答が来て驚く吉田を横目に、写真を撮り終えた使節団の面々はTD-54型に牽引された7両編成の客車へ乗り込んで行った。ソレに気がついた吉田が井都築に感謝しながら開閉時に折り畳まれる折戸ドアから客車へ乗り込んだ。

車内では東和横断鉄道が手配した添乗員によってそれぞれの個室へ案内されていたが、案内を待っていた桐島が吉田へ話しかけた。

 

「この客車も凄い豪華ですが、SLも日本では見ない見た目をしてましたね。どちらかと言えばトーマスに出て来そうな海外の機関車みたいですよ。」

「桐島さん、御名答です。このTD-54型はレイモンド・ローウィがデザインしたアメリカのペンシルバニア鉄道のS1形機関車にそっくりです。」

 

桐島の優れた推察に被せる様に吉田は解説する。桐島は吉田の熱弁を護衛艦隊本部で培った技術で上手に聞き流しつつも、しっかり聞き取った要点を自らの知識と結びつけた。

 

「レイモンド・ローウィって──確か総理よりも高い報酬で煙草をデザインしたって人か?」

「えぇ、その人です。まさかこの機関車をこんな形で見れるなんて思いませんでした──ただ、先述した通りこの機関車はアメリカで使われたので何故東和にあるのか分かりませんが·······」

「陸上兵器と航空機は旧軍兵器に、鉄道車両は海外の車両にソックリで、軍艦だけはオリジナルか······知れば知るほど意味分からん国だ。」

 

吉田の話を聞いて東和の鉄道車両が海外のと瓜二つだと知らされた桐島は、余りにも日本と海外が混じり合ったと言える東和のチグハグさに最早考えるのをやめて呆れるしかなかった。

そんな桐島と吉田が用意された個室へ入ってまもなく、開いていた折戸ドアは添乗員によって手動で閉じられる。ドアが閉じたのを確認した駅員は、TD-54の機関士にソレを伝えるべく白熱電球で光る合図灯を掲げる。

 

合図灯の光をTD-54の運転席から確認した乗務員は、発車の合図として煙室から送られた蒸気で鳴る警笛を鳴らした。甲高い警笛の音が鳴り響く中、TD-54は7両編成の客車を牽いて横灘浜駅のホームを出発したが、出発と同時に2軸ずつで纏められた2100mmもの動輪径を持つ動輪が激しい空転を起こす。

高速走行時のハンマーブロー*1を抑えるメリットを持ちながら、空転しやすいという欠点を抱えたデュープレックス式の足回りを持ったTD-54型蒸気機関車は、2540mmのボイラー径を持つ煙室が作り出した蒸気で276tもの自らと7両の客車を進ませ出した。

*1
蒸気機関車の動輪がレールに叩く力




鉄筋コンクリート(RC)
当初はプレストレスト・コンクリート(PC)の予定でしたが、3階建て駅舎だと費用対効果が見合わなそうだと判断して鉄筋コンクリートに変更しました。

・トロリーバスと路面電車
戦前の日本には各地でトロリーバスと路面電車が走っていたので、取り入れてみました。海外だと今でもトロリーバスが現役なんですが、日本だとつい昨日(さくじつ)に無くなってしまいましたね····
因みに点々を打った部分はしっかり伏線になっています。

・反転フラップ式案内表示機
所謂パタパタ。作者自身は横須賀中央でしか見た事がありませんが、近鉄にはまだ残っているらしいので見てみたいな〜

・TD-54型蒸気機関車
東和横断鉄道が保有する蒸気機関車で、外見モデルはペンシルバニア鉄道(PRR)のS1形蒸気機関車。
東和と見浜を結ぶ主要幹線の複々線化と高速化工事終了を見越し、同社が誇るフラグシップ特急専用の高速機関車に必要なデータ収集や新機軸のテストを行う試験機関車として同社の佐屋鉄道工廠で1両だけ製造された。
彗星の様な特徴的な外観に2軸の足回りを台枠に固定したデュープレックス式の足回りを採用していたが、空転が酷かった上に車体自体が重すぎた為に入れる路線が限られる問題を抱えていた。
現在は試験車や予備車・補機として使われている。

・東和横断鉄道
東和と見浜を結ぶ幹線と、東和から横灘浜を経由して西葉へ至る路線を保有・運営する鉄道会社。通称はTCR。
東和一の規模を持つ鉄道会社として様々な種別の列車を運転しており、自社工場や主要駅に隣接したステーションホテルも持っている。


今話で2024年度の投稿は最後となるのですが、来年2025年度はこの作品の舞台となる年なんですよねww
設定造りをチンタラやっていた結果がこの有り様ですw 現実にいつ追い越されるか分かりませんが、2025年度も今作品を宜しくお願いします。
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