New world note in Earth 作:YUKANE
本音を言うと特別列車の車内の描写をやりたかったのですが、ここで書いたら余計進まないと思って取り止めました。
そして20話を超えた今話で漸く東和国のトップが登場いたします。
日本国使節団を乗せた特別列車は横灘浜から東和に向けて、複々線の東横本線を突き進んだ。一等寝台車の豪華な寝台を一人ずつ与えられた日本国使節団の面々は、一緒に連結された食堂車で豪華な
日本人の大半が味わった事のない体験をした面々が、生き物である以上避けられない睡眠と言う名の快楽に浸っている間に、彼ら彼女らを乗せた特別列車は古くから主要街道として君臨する東横本線を駆け抜ける。
特別列車を引くTD-54型蒸気機関車は石炭燃焼の火室と、2.07MPaのボイラー圧を持つ巨大な煙室によって発揮された170km/hもの高速で、闇夜を切り裂く様に300kmもの区間を走り切り、翌14日の7時20分には東和中央駅へ到着した。
東和最大の規模にして最新の設備を抱えた東和中央駅のホームには降り立った日本使節団は、ホームから直結していた一等寝台車の乗客専用のレストランで朝食を取っていた。
彼ら彼女らの前に鎮座する白いテーブルクロスがかけられたテーブルには金縁の高級食器に盛られた
「昨日の夕食もそうだったが、こうも平然と洋食が出てくるって事は民衆にも定着しているのだろうな。」
「昨日の夕食もこの朝食も特別に用意されたメニューでは無いらしいですし、食器にマナーも一緒なので大方そうだと思います。」
洋食が東和に違和感無く馴染んでいると仮説した農林水産省ナンバー2にして使節団代表の国山に、外務省の若きエリート 園田凜音が真っ黄色なスクランブルエッグを食べながら同意する。
園田姉妹は大使館勤務の外交官である故に会食のマナーが身に染み付いており、東和に洋食文化が充分に染み付いているのが容易に感じ取れた。
「にしても─夕食のメインに
「あんな美味しいソテーが巷で話題の外来種とは聞くまで気づかなかったしな·····」
「前菜にも
コーンスープを飲んでいた園田姉妹の妹 麗音の発言にロールパンを食べていた桐島が同意し、ドレッシングがかかったグリーンサラダを食べ終えた国山がそれに付け加える。昨日の夕食で出された料理に使われていた外来種に外交官である園田姉妹や、「DDH-185 あまぎ」艦長や自衛艦隊首席参謀として他国海軍との会食経験を持つ桐島はおろか、農林水産省に長年勤めた国山ですらも言われるまで気づけない程に馴染んでいた。
使節団の面々は普段口にしない物を食べた嫌悪感から顔を青ざめたりしたが、国山だけはシェフに調理法を聞く程に好感的な興味を寄せていた。
国山の発言で彼以外の面々は、東和にいる間は昨日の様な感情に幾度も
「東和中央駅はまだチラッとしか見てませんが、中々先進的でしたな。」
「白黒ではありましたが巨大モニターがあったのは衝撃でした。」
「空港みたいな動く歩道もありましたし、レトロな見た目ながらも自販機が並んでたのも印象でしたね。」
ホームからレストランに至る短い区間ながらも、東和中央駅に詰め込まれた最先端技術の一片を味わった面々が意見を交換していると、朝食会場に一人の見知らぬ男が入ってくる。
「お食事中申し訳ありません。私は情報省の
名前を名乗った全二は親しみやすい笑顔を浮かべており、一目見ただけで彼が明るく気さくな性格をしていると使節団の面々は認識した。しかしながら井都築だけは、彼の顔を見た時から自らの顔を引き攣らせていた。
「上澤さん案内役を任されたとの事ですが、大臣秘書官の貴方で良いのですか?」
「それは問題ないです。そもそも我が上司直々にご指名を受けましたので。」
「そ、そうですか──」
上澤と会話した井都築は顔を引き攣りながらも、使節団の面々にこれ以上悪い顔を見せないべく、仕事モードへ切り替えるしかなかった。
「さて─朝食を食べ終わった後は東和の大統領と対談し、TRM諸国の大使らと交流して頂く予定となっております。」
「大統領という事は国のトップと会えるという事ですか! これは一層遅れてはいけませんな!」
井都築の説明を聞いた国山は唯一残っていたミルクを飲み終える。他の面々も用意された時間内に残っていた朝食を食べ終え様とするが、桐島や三田らは気まずそうにしながら井都築へ話しかけた。
「あの──大統領との対談には我々も参加するのでしょうか?」
「勿論です。大統領自身が使節団皆さんと会いたいと仰っていましたので。」
「大統領自身がですか!? それは大変な重荷を課せられたな····」
上澤の返事で自身らに思わぬ大役が与えられた事を知らされた桐島らも、大統領との対談へと向かうべく残っていた朝食を食べ終えた。
◇
日本使節団は乗り慣れたIU-4に揺られながら東和大統領官邸へ向かっており、その道中で国内一の規模と繁栄を極めた東和の街並みを興味深く眺めていた。
首都として各種行政機関や各国の大使館・大手企業の本社が置かれた東和の街並み自体は戦前の東京に似ていたが、電線や電話線は地下に敷設された共同溝に纏められている為に、800万もの人口を抱えた大都市にも関わらず綺麗な青空が眺められた。
現在の日本ですら数少ない電線地中化を果たした東和の中心部に立ち並ぶ、
九三式装輪装甲車に護られたIU-4から降り立った使節団の眼前には現れた大統領官邸は、石材タイルが貼られた
大統領官邸へ向かう道の右側では四十六式銃剣を取り付けた四十六式小銃を足元に置いて真っ白な軍服に身を包んだ特別儀仗隊が整列しており、その後ろに布陣する東和方面軍音楽隊が車列の到着に合わせて始めた演奏が鼓膜を刺激していた。
「すげぇ──正に国賓を出迎える時の演出じゃないか!」
「まさか自衛官の自分が国賓待遇で出迎えられるとは──人生分からないもんだな。」
「儀仗隊の銃は三八式歩兵銃か? アレほどに状態の良い個体を見るのは始めてだ!」
自衛官として体験しないであろう国賓待遇の出迎えに三田と松柳が感激する横では、秋崎が陸自としての観察眼で儀仗隊が持っている銃の種類と状態の有無を見分けて驚いていた。
使節団代表を務める国山や吉田・八巻らも初めて味わう国賓級の出迎えに圧倒されていたが、大使館勤務の外交官として幾度も経験していた園田姉妹は一切動じずに堂々と佇んでいた。
井都築と上澤に先導された日本使節団は、この様な歓迎に慣れている園田姉妹を先頭に歩き出す。
「
使節団が歩き出したのと同時に、特別儀仗隊が指揮官の指示に合わせて一糸乱れずに足元の四十六式小銃を胸元へ持ち上げる。儀仗隊隊員は長年に渡って東和軍の主力小銃として使われた四十六式小銃の中心を左手で持ち、右手で銃の下を持った状態で止まる。
軍隊で銃を持っている時の敬礼の一種である捧げ
音楽隊の華麗な演奏と儀仗隊の捧げ銃を受けながら日本使節団は大統領官邸に向けて歩いていく。大統領官邸が一歩一歩近づくに連れて、豪勢な出入り口の前に文字通りの和装に身を包みながらも髪型は今風な男が立っている事に次々と気付いていく。
「日本国の皆さん、ようこそお出で下さいました。
出入り口前に立っていた東川は使節団が目の前にやって来ると、握手すべく右腕を伸ばしつつ自らの役職と名前を名乗る。使節団を眺める様に立っていた和装の男が大統領ではないかと薄々と勘づいていた使節団の面々は、その予感が当たっていたと驚きつつ代表の国山が東川の右腕を両手で掴んだ。
「大統領自らのお出迎えありがとうございます。私が日本使節団代表を務める農林水産副大臣の国山太地と申します。」
「私も貴方がたにお会い出来て光栄です。さあ、時間も短いので、どうぞ官邸へ。」
国山と握手を交わした東川に連れられて使節団は官邸内へ入っていく。
使節団面々は外見と同じく文字通りレトロな空間が広がる官邸のエントランスと廊下を歩き、大統領との会談会場として設定された部屋へ通される。
使節団は部屋で待機していた職員が引いたニスが塗られた椅子へ座り、反対側に座った東川と白いテーブルクロスが引かれたテーブル越しに向き合った。
「さて──貴方がたの日本国は別の星から転移して来たと聞いていますが、今日に至るまで何が起きたのか聞きたいのですが宜しいでしょうか?」
「分かりました。それに関しては貴国とのファーストコンタクトを行った者がここにいるのですが、お願いしても宜しいでしょうか?」
「えぇ、勿論です。」
東川と国山の頼みを受け取った園田姉妹は、転移から今日までの丁度2週間に日本で起きた事柄を説明した。東和国と初めて交流した外交官の話は端的で分かりやすい上に、一つ一つの内容がとんでもない物であった為に東川も黙って話を聞いていた。
「大変分かりやすい説明ありがとうございます。国家そのものの転移という前例が無いであろう事態に見舞われつつも数日足らずで我が国と接触し、2週間後にはこうして対談出来た事は正に奇跡と言えるでしょう。」
「お褒めの言葉ありがとうございます。転移という国家存続の危機と言える事態に会いつつも、ここまで順調に事が進んでいるのは神が導いてくれているのかもしれません。」
「国交締結に関する本格的な話は明日にするとして、貴国は我が国に何を求めているのかだけ聞かせて頂いても宜しいでしょうか?」
「我が日本国が求めているのは一億三千万もの国民を養う食糧と資源・そして自国製品の輸出先です。無論、東和だけに背負わせる一切ないと宣言させて頂きます。」
凜音が国家存続に不可欠な食料と資源を他国へ委ねると言い切ると、東川は難しい顔をする。彼自身も日本が無資源国家な上に食料自給率が低い事は事前に知らされており、日本側がその2つを求めて来るだろうとは容易に予測出来てはいたが、いざソレを突きつけられると言葉では語れない程に複雑な気持ちになった。
「重々承知しました。我が国も6000万の人口を抱えているので、2倍もの人口を養える食料と資源を丸々輸出など出来ませんが、TRMの国々を結集させれば何とかなるかもしれません。その為にこの後にTRM各国との交流会を設けていますので。」
「なんと!! わざわざありがとうございます。」
「貴国の技術はTRMの全てを上回る程だと聞いている。それまでに優れた技術が消えてしまうのは何事にも代え難い損害になるのは明らかだ。
貴国の技術で我が国のみならずTRM全体をより発展出来るのであれば、出来る限りの協力をするべきだと私は思います。」
東川の発言に使節団の面々は表情が明るくなる。表情が変わるのを目にした東川は微笑みつつも、渡された資料に記載されている日本の地図に
・東和
東和の首都兼“東和都市圏”の中心地で人口は800万人。
東和湾に流れる
首都として各種政府機関や大使館・大手企業の本社が置かれ、中心部には最先端技術で建てられたビルやタワー・コンサートホール等が立っている。
市内には路面電車とトロリーバスの路線が張り巡らされているが、人口増加で慢性的な遅延と積み残しが発生している為に地下鉄建設が計画されている。
沿岸部には巨大な東和都市圏を支えるべく東横工業地帯が存在しており、鉄道や東和港を用いて国内外へ製品が運ばれている。
・外来種の食材使用
東和の食文化に日本との区別要素を何かしらつけた方が良いだろうと考えている中で、
当初はディナーのメインにザリガニを使う予定でしたが、甲殻類アレルギーの問題がある事に気づいたので変更しました。
・東和大統領官邸
外見に関しては全く考えてなかった為に、wikipediaの内閣総理大臣公邸のページで発見した鳩山会館をベースにしました。
・四十六式小銃
東和軍が使用するボルトアクション式小銃で、外見モデルは三八式歩兵銃。
それまで使われていた単発式小銃を置き換えるべく、既存の8.1mm弾を引き継いだボルトアクション式小銃として沖名重工で製造され、製造工程の簡略化と生産性向上を行うべく機械生産を採用している。
炭素鋼製の長い銃身には4条のライフリングが彫られており、ボルトアクション式の機関部は部品数を減らして製造や整備の簡略化を図りつつ、砂塵対策のダストカバーを取り付けている。
長銃身による反動軽減や扱いやすさから東和軍の主力小銃として配備され、後継に置き換えられた現在も練習部隊や儀仗隊で使われている。TRM国へも輸出されたものは現在も主力小銃として使われ、現地で部品や弾薬のライセンス生産が継続している。
・四十六式銃剣
東和軍が使用する銃剣で、外見モデルは三十年式銃剣。
四十六式小銃に取り付ける銃剣として東和陸軍工廠で開発され、日本刀を模した片刃の刀身には血抜きの溝が掘られている。刀身や鞘の金属部品は夜戦時の反射防止や錆対策として黒染メッキを施している。
小銃以外に短機関銃や軽機関銃にも装備出来る為に、現在も東和含む複数の国々で生産・使用されている。
・東川大統領
遂に登場致しました東和側のトップですが、自分なりの見た目は山本耕史で行ってます。
当初はスーツ姿の予定でしたが、それだと日本側と違いが無いので急遽和装へ変更しました。
◇
後書きな上に既に1週間経っていますが、あけましておめでとうございます。今年 2025年は今作の舞台となる年なので、いつ追いつかれるのかヒヤヒヤしながら連載する事になりそうですw