New world note in Earth   作:YUKANE

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今回は日本使節団の話ですが、今まで数国しか出ていなかった冷軽大陸諸国の全貌が明らかと成ります。

冷軽大陸の地図は既に書き上げているのですが、ハーメルンの挿絵機能は貼れる画像にかなりの制限がかかる上に、そもそもの量が少ないので作者のXアカウントに上げて、そのリンクを前書きか後書きに貼る形で見せる予定です。


Episode.25 既視感のある国家達

東川大統領との対談を終えた日本使節団は次なる目的地へ馬車で移動していた。日本では観光用だけでなく、皇族の結婚式や信任状捧呈式(しんにんじょうほうていしき)へ向かう新任駐日大使を乗せるべく使われているのは知っていたが、まさか自分達が乗る側になるとは思っていなかったのか皆が慣れない馬車の乗り心地に戸惑っていた。

 

初めての乗り心地を味わっている使節団面々を乗せた馬車は、馬に跨った御者の元で次なる目的地へ向かっていく。馬車が目的地へ到着し、弱冠酔いながらも地面へ降り立った面々の前に現れたのは擬洋風建築を感じさせる洋館で、歴史の教科書でしか見ないであろう建物に使節団は圧倒された。

 

「こりゃまた豪華な洋館だこと。」

「何だか鹿鳴館みたいだ······」

「なんか函館にこんな感じの洋館ありませんでしたっけ?」

 

今の日本なら重要文化財になるであろう洋館にそれぞれが感想を述べる中、案内役の井都築が洋館の解説を始める。

 

「こちらは東和大会館でして、規模が小さい上にかなり古い建物ではあるのですが、現在も国賓を迎える迎賓館として使われています。」

「小さめの赤坂離宮という訳か──ここで冷軽大陸諸国との交流会をやるのですね。」

「そういう事です。さあ、どうぞ中へ。」

 

井都築の解説に納得した凜音を先頭に日本使節団は大会館内へ入っていく。日本人から見ればレトロ感を思わせる装飾に囲まれた廊下と階段を通って2階へ向かい、一際大きな観音扉で井都築は立ち止まった。

 

「日本国使節団の皆様が到着致しました!!」

 

井都築が大声で意気揚々と使節団到着を宣言すると観音扉が内側へ向けて開き、中から盛大な拍手が聞こえてくる。

大会館に相応しい大広間には、カラフルな装飾で着飾った各国ごとの民族衣装を着た人が沢山おり、その人々の周りには国を象徴する伝統楽器や工芸品が置かれていた。大広間の壁にはT字を左に傾けた様な冷軽大陸と、点々としたフィルラント諸島を記した地図・冷軽大陸諸国の個性的な国旗が掲げられており、ここが国際交流の場である事を知らしめていた。

 

「これは────凄い迫力だ·····」

「下手な国際交流のイベントより派手だし、人も多いかも·····」

 

園田姉妹は拍手の密度からかなりの人がいると予想出来ていたが、その人達が母国の民族衣装を着ているとは思っておらず、予想だにしない光景に姉妹は唖然となるしか無かった。

他の面々も眼前の光景に圧倒される中、上澤の先導で彼ら彼女らに用意された中心部の座席に案内される。日本使節団が座席に座ると長らく鳴り響いていた拍手は鳴り止む。

 

「では、これより日本国使節団と冷軽大陸諸国の交流会を始めさせて頂きます。最初に茶瑠祢須(チャルネス)共和国駐東大使の莞派(カンハ)湯陳妬(ユチェント)殿より挨拶を頂きます。」

 

進行役の短い開幕宣言が終わると、人込みの中から鮮やかに染色された生地を帯でゆったりと締めた漢服を着て、真っ黒な逆T字型の帽子を被った妙齢の男性が踏み出し、着席している使節団面々の前に置かれたマイクへ向かう。

 

「日本国の皆さん始めまして。(わたくし)は茶瑠祢須共和国駐東大使の莞派(カンハ)湯陳妬(ユチェント)と申します。

別の星から来た話は信じられないものではありますが、銃弾を1発も放つ事なく、こうして交流の場を持てた事は正に奇跡に等しいでしょう。そして、こんな歴史的な出来事に立ち会えた皆様は一生の誇りとなるでしょう。」

 

莞派による流暢で聞き取りやすい日本語(東和語)の挨拶が終わると、大広間内に再び拍手が鳴り響く。

 

「さて、歴史に残るであろうイベントを記念しまして、我が国に古くから伝わる踊りである舞龍(ウーロン)をご披露させて頂きます。

さあ皆さん、見やすい位置へ是非移動なされて下さい。」

 

莞派がそう言って間もなく、人込みの中から彼と同じく2〜3着の衣服を重ねた漢服を着た男達が現れ、その手元には布製の龍に繋がれた長い棒を持っていた。

莞派の話から間もなくして大広間には人に囲まれた空間が出来上がり、その中に佇む漢服の男達は銅鑼(ドラ)太鼓(たいこ)といった楽器の音色に合わせて、手元の棒を操って長い龍を華麗に動かす。

 

男達は狭い空間の中で動きながら布製の龍を生きているかのように動かし、時折床スレスレまでに下げられた龍を飛んで跨ぐと人込みから歓声が湧き上がる。

 

「凄い·······長崎で見たのとはレベルが違う。」

젠장(くっそ)·······우리도 춤을 선보여야 했다(我々も踊りを披露すべきだった)

 

麗音が本場の舞龍に感激している光景に優しく微笑む凜音は、いきなり隣から聞こえてきた朝鮮語に思わず驚き、反射的に左を向くと漢服に似た姿の服を着た女性がいた。

装飾や色がド派手な漢服に対して色や装飾が控えめで、上衣(うわぎ)の丈が異様に短い特徴から、凜音はその民族衣装かどこの国の物か結びつけた。

 

「朝鮮衣装のチマチョゴリ·······カリス王国の人ですか?」

「!!──よくぞおわかりになりましたね。私は狩須王国駐東大使の(エン)斗例(トレイ)です。」

 

凜音にいきなり問いかけられた奄は驚きつつも、流暢な日本語で答える。

 

「いきなり話しかけて申し訳ありません。中々素敵な民族衣装でしたので。」

「ありがとうございます。この様な場ですので我が国が誇る民族衣装のチマチョゴリをわざわざ着てきたのですが、民族衣装で被った上にああまで派手に演舞までやられては·········」

 

人々の視線を集める程に注目を集める茶瑠祢須の演目に、奄は思わず悔しさと妬ましさが混じった目線を向けていた。凜音も彼女の意図を理解しつつ同じ方法へ目線を向けると、壁に離れた冷軽大陸の地図に点線が打たれている事に気付いた。

 

「あの点線は──国境線か?」

「えぇ、あの点線は冷軽大陸諸国の国境線です。各国については知っていますか?」

「いえ、茶瑠祢須と狩須・フィルラント王国以外はまだ知りません。」

「この様なイベントに来たと言う時点で愚問でしたね。」

 

凜音が冷軽大陸諸国の殆どが未知である事を知った奄は、チョゴリの長袖から出た右手を地図へ向ける。

 

「まず冷軽大陸から突き出た体班(テイハン)半島が我が狩須王国でして、その真上にある内陸国が樽鞄亜(タルカパニア)王国で、左隣にある横に細長い国が蟻涙(アリルン)王国となってます。

その蟻涙と樽鞄亜に挟まれた内陸国が留度(ルド)王国で、蟻涙と留度に挟まれた縦長い国が海理亜(シーリア)王国・その横にあるのが毛鈴(ケーベル)王国・毛鈴と茶瑠祢須に挟まれたのが砂利馬(サリバー)王国となっております。

それと古陸(フィルラント)諸島の南に位置するミドロンズ島には刈寧(カルネイ)王国が存在しています。」

 

奄の丁寧な説明を黙って聞いていた凜音はその中身を理解し、脳内の記憶(ハードディスク)へインプットする。

 

「あの範囲に6ヶ国も乱立しているとは───古陸諸島内に小さな国があるのも初めて知りました。」

「東和と茶瑠祢須がデカすぎるだけで、あの国々も丁度良い大きさだと私は思いますよ。」

 

凜音と奄が話している間に舞龍の演目は終わり、大広間内に拍手が響き渡る。

 

「開幕に相応しい演目をありがとうございます。さて、ここからは終了時間まで完全自由の交流となります。各国自慢の郷土料理も用意してありますので、食べながら是非冷軽大陸諸国と交流なさって下さい!」

 

進行役の宣言で再び拍手が湧き上がる。大広間が少しずつザワメキ出すと、奄が先ほどとは逆に凜音へ話しかける。

 

「折角話したのですから、我が狩須の伝統料理でも頂きながら各国へ紹介してあげましょう。大使館お抱えの料理人が作りましたので、高級料理店並みの味だと自負しております。」

「そう言って下さるのなら、是非お願いしたいです。」

 

 

「おぉ!! めっちゃ美味い!! 流石本場の中華料理だな!!」

「ド定番の小籠包や油淋鶏(ユーリンチー)はそりゃ美味いだろうよ。俺的にはこの蚵仔煎(オアチエン)っていう牡蠣入りオムレツが中々美味いぞ。」

「どっちも中華街で食える料理じゃねえか。折角ならこういう場でしか食えない物を食えよ。」

 

防衛省から派遣された三田が本場の中華料理に驚き、陸自の秋崎もマイナーな牡蠣オムレツの味に満足していた。

興奮気味な2人の様子に弱冠引きつつツッコミを入れた海自の桐島も、狩須が用意した伝統菓子 韓菓(ハングァ)の中でも蜜を使った正菓(チョングァ)を口へ運ぶ。

 

この交流会は冷軽大陸諸国について日本人に知ってもらうのがメインで、そえ故か集まっているのは大半が大使館職員ばかちで軍人などいなかった為に、防衛省や自衛隊から使節団へ派遣された4人は場違いと言って良かった。

社交辞令として挨拶を交わして、伝統楽器の演奏を聞いたりしていたが、この場では一般人に等しい彼らは集まって、渡されたプレートに載せた各国の郷土料理を食べていた。

 

「やはり他の国々もアジア諸国にそっくりだよな······蟻涙のブースで貰ったフォーなんてまんまベトナムじゃないか。」

 

それまで黙って鶏出汁に浸かったフォーを食べていた空自の松柳の発言に残る3人が注目する。松柳の発言を機に他の3人も心の内に秘めていたデジャヴ感を語りだす。

 

「蟻涙のブースで聞いた木製楽器はベトナムのケン・バウ*1だな。練習航海で訪れた時に見た事があるし、何なら吹かせて貰ったから間違いない。」

「それでしたら、このパッタイ*2とか言う麺料理は以前合同演習をしたタイ陸軍が振る舞ってくれました。という事は砂利馬がタイという事ですかね?」

「つまり蟻涙がベトナムで、砂利馬がタイって事か。伝統楽器や伝統料理が一緒なら特定も捗りそうだ。」

「最もソレはあの姉妹の役割だがな。」

 

桐島が割り箸を向けた先には使節団団長の国山と園田姉妹がおり、桐島らと同じく各国の料理が盛られたプレートを持ちながら各国の人達と和気あいあいと話し合っていた。

 

「呆れる程に凄まじいコミュ力だよ。あそこまでコミュ力が無いと外交官はやっていけないんだろうな。」

「あのコミュ力は身に付けたいモノだ。にしても──ここまで東南アジア諸国に似ているのは明らかに可笑しいよな。」

「“ここは地球人が作り上げた世界”という冗談が笑えなくなってきましたね。」

「正に陰謀論界隈が食いつきそうな話題だ。」

 

偶然とは言えない程に冷軽大陸諸国と東南アジアが瓜二つな事実に、地球人が介入したという冗談が笑えなくなっていた桐島らの元に、莞派とか言う茶瑠祢須の大使と同じく漢服を身に纏った人影が現れる。

 

「貴方が“朱雀戦争の英雄”の桐島龍樹大佐ですか?」

「えぇ、そうですが──何かありましたか?」

「先程園田さん達から“貴方が戦争を僅か2日で終わらせた英雄”だと聞きましたので、お話を伺おうと思いまして。」

「マスメディアがそう言っただけですよ。まあ、そう言われるのであれば語らせて頂きましょう。」

 

桐島は英雄と呼ばれる事を嫌がりつつも頼まれた通り朱雀戦争の話を語るべく、食事の載ったプレートを松柳へ預ける。

彼自身が朱雀戦争で実戦指揮を執った事もあって話は臨場感溢れ、話している間に桐島の話を聞く人の数は少しずつ増えていった。

 

日本と冷軽大陸諸国の交流会は予想外の盛り上がりを見せつつ、無事終わりを迎えた。

交流会の主役だった日本使節団はその後、東和の歴史を展示した東和国立博物館や330mもの東和一の高さを誇る東和タワー・市街地などを見学して7月14日の予定を終えた。

*1
木の筒に7つの穴を持つ管楽器。取り外し可能な瓢箪型のベルがついている

*2
米粉で作られたライスヌードルを使った焼きそば




・馬車
正味車だけだと展開が単調だったので出してみました。多分現代日本に馬車に乗り慣れた人は少ないでしょうw

・東和大会館
暮田の外交局や大統領公邸と同じく、外見や設定は全てその場で考えています。後々に出た時に矛盾しそうではあるが、この大会館が再登場するかは分からん····

大会館の外見は旧函館区公会堂を想像して下さい。先日行ってきましたが、思っていたより面白かったです。

・冷軽大陸諸国の国旗
正味考えてませんでした。連載しつつ、どうにかして作っていきましょうか?

・駐日大使
今回出てきた民族衣装を着た2人は今後も出す予定がありますが、それ以外の国々に関しては大使の名前すら決めてないので多分出ないと思います。
2人の名前は中国系と朝鮮系の名前を想像しながらオリジナルで作ったので、間違っていても気にしないで下さい。

舞龍(ウーロン)
今回描写するにあたってYouTubeで見てみたのですが、思ったよりもド派手に動いていてビックリしました。龍を操る人もかなりアクロバットな体勢でやっているので、それも描写したかったですがスペースの都合上やらなかったという事にして下さい。

日本だと龍舞(りゅうまい)とか呼ばれているらしいですが、今回は中国側の呼び方を採用しました。

・冷軽大陸諸国
宣言通り全ての国の名前を出しました。作中では蟻涙がベトナムで、砂利馬がタイに似ていると書きましたが、他の国々もモデル国家があるので少しずつ描写しつつ出して行きたいですね。

・朱雀戦争の英雄
対外戦争を僅か2日で終わらせた指揮官に食い付かない訳が無いメディアが名付けた名前です。今考えてみると、ただの空母艦長が一艦隊の指揮を執るとか現実味なさすぎて恥ずかしい······


最後は無理矢理詰め込んだ為にああなりましたが、20話超えているのに国交すら結べていない事に危惧して、少しでも話を進めようとしたからです。許して下さい。
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