New world note in Earth   作:YUKANE

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UA9000突破ありがとうございます。

今回から2話続けて日本使節団の東和市街散策ですが、1話でかなり進めるべく要点を纏めつつ、内容を詰め込みました。

※2025/3/27 シャトラをシャルハへ訂正。


Episode.28 市街散策

東和の町を貫いて東和湾へ流れ込む白鷺川は800万人もの人々が暮らす大都市を作り上げた立役者でもある。この川が河口に形成した三角州は白鷺川の舟運と海上交通が結ばれる場所として古くから町が作られ、長らく運搬を担った両者が混じるこの地は支配者が変わっても栄え続け、長い時間を経て東和はおろかTRM共栄圏でも上位の規模を誇る都市へ成長を遂げた。

 

東和を作り上げたと言っても過言ではない白鷺川は、鉄道と道路網の発展で輸送手段の役目を終えた現在でもある分野で運搬経路として使われており、その現場に国山太地 農林水産副大臣が訪れていた。

 

「これはスゴイな───ここまで大きな貯木場は日本に無いかもしれん。」

 

国山が見ている先には四角く囲われた水場があり、水場の中には川の水で全体を濡らした丸太が何十本と並んでいた。白鷺川では水流を使って木材を下流へ運ぶ 所謂木材流送が今でも行われており、何本かの材木で編まれた筏に乗った筏師(いだかし)によって運ばれる材木の隊列は川岸の町々の日常光景になっていた。

 

「表面が檜皮(ひわだ)色のアレは(ひのき)で、赤褐色のソッチは赤松(アカマツ)、そして樹皮が灰褐色のアレが翌檜(アスナロ)、多種多様な材木が集まってますね。」

「よくご存知で。ここ東和の貯木場は、白鷺川の支流 増木(ましき)川の水源でもある北部の立葉山脈で栽培された木々が集まる一大拠点となっています。」

「なるほどな──鉄道や道路網が発展した今でも木材流送を続ける理由は何でしょうか?」

「木材流送を続ける理由としては古き文化を残していく政府の方針が大きいですが、それ以外にも木材をあまり傷つけずに運べる点もあります。」

 

彼は同伴する農林省職員の説明に納得しつつ、疑問を投げかける。日本では余り見られなくなった水中貯木場と木材流送が見られた事に国山は感激していたが、海水に浸かった丸太を見ていると不意に疑問が浮き上がった。

 

「そういえばここの材木に杉が見られませんが、杉は育ててないのですか?」

「杉は成長速度や加工のしやすさから材木としてはベストなのですが、如何せん花粉を馬鹿みたいに撒き散らすので、政府から植樹に制限がかけられているのです。」

「そう言う事でしたか。日本(我が国)は杉を大量に植えてしまった為に春先はとんでもない量の花粉が飛ぶんです。お陰で花粉症も馬鹿げた数いますよ。」

「なんと──春先には行きたく無いです。」

 

花粉症を患う農林省職員は大量に植えられた杉から花粉が舞う春先に日本には行けないと知らされた。そんな政府職員を横目に国山は古き良き貯木場の光景を眺めていた。

貯木場の奥には近代の象徴とも言える工場群が立ち並び、貯木場と繋がる東和湾には横浜港の名物 氷川丸を思わせる見た目の貨物船が何隻も浮かんでいた。

 

「こんな光景を日本に蘇らせたいものだ·········」

 

自然と向き合う第一次産業と自然物を元に何かを創る第二次産業・創られたモノを運ぶ第三次産業。国家経済を支えるこの3つが融合して揃っている光景に国山は思わず感動していた。

 

「日本は二次産業と三次産業に特化した結果、一次産業が貧弱になった。転移を機に復活し、正真正銘の自立国家になってくれるのを祈るしか出来ないのがもどかしい·····」

「同業の者としては、その気持ちだけでも充分だと思います。さあ、次なる目的地 東和市場へ向かいましょう!」

 

農林省職員に促されて貯木場を去ろうとした国山だったが、その視界に一羽の鳥が入る。羽の大半を黒く染めつつ、細身の身体は白に染め上げた対照的なコントラストの鳥は貯木場に係留された丸太の上に降り立った。

 

「アレは(さぎ)······では無いな。」

「おぉ、鴻鳥(こうのとり)ですか!! こんな都市部に来るなんて珍しい!! 副大臣は何か持っているかもしれませんな!」

 

農林省職員は赤い脚で立つ黒い(くちばし)の鳥を珍しい感覚で説明したが、それを聞いた国山は自分の耳を疑った。

 

「今──コウノトリと言いましたか?」

「えぇ、そうですが何かありましたか?」

「何かあったというレベルじゃ無いです!! 日本でコウノトリは一度絶滅しています!」

「何ですって!?」

 

国山の発言に農林省職員は今日一の驚きを見せる。国山は絶滅した生き物が目の前にいる事に、農林省職員は都市から離れれば見かける生き物が絶滅している事実にと、理由こそ違えど2人とも驚愕していた。

2人の視線の先で羽を休める鳥は資料で見たコウノトリそのもので、日本であれば限られた場所でしか見れない希少な鳥が平然と存在していた。

 

「コウノトリが一度絶滅していたとは驚きですね······我が東和では環境保全の政策を進めているのですが、ソレが影響しているのでしょうか?」

「環境保全政策───確かに川の水は綺麗で、工場の煤煙も薄い、コウノトリは地道な環境保全が実を結んだ象徴かもしれんな。」

「そう言って頂けるとコウノトリも喜ぶでしょう。さあ、今度こそ東和市場へ向かいましょう。あそこは農作物から畜産物・水産物が集まるテーマパークですよ!!」

 

農林省職員に連れられて国山は東和市場へ向かうべく貯木場から離れ、待機していたIU-4の元へ向かう。

 

(産業発展や生産力向上に優先されて二の次どころか忘れ去らる環境保全を優先しているのは素晴らしいが、どうしても疑ってしまうな。日本の絶滅危惧種が平然と暮らしているのを見ると、まるで日本の歴史を知っているみたいに思えてしまう·······)

 

歩く間も東和に向けて抱いた疑問について思考する国山を乗せたIU-4が東和市場へ出発して間もなく、貯木場で休息を終えたコウノトリも白と黒の翼で空へ舞い上がった。

 

 

東西約2000km、南北約1000kmにも及ぶ広大な東和大陸に血管の如く張り巡らされた鉄道網は4つの大きな鉄道会社によって管理されていた。4つの鉄道会社は本社が置かれた都市の名前を冠し、それぞれがその地にあった運行形態と車両によって個性を得ていた。

 

この4社の中で東和へ乗り入れるのは東和横断鉄道(TCR)氷海鉄道(HR)の2社で、両社はトップの座をバチバチに争いつつも行き先が違う為に共存していた。

その歪な共存を象徴しているのが東和中央駅に隣接した車庫であり、目的は同じでもその達成に選んだ手段が異なる両社の車両が並んで休めていた。鉄道車両と言う同じ存在でありながら、外見が全く違う2車が並ぶ車庫を吉田正文 国土交通審議官は見学していた。

 

「漸く慣れてきたとは言え、姿が全く違う2社の機関車が並んでいる光景は面白いですね。」

「この2社は東和一を争っているライバル同士ですから、見応えがあるのでしょう。」

 

吉田は同伴している交通省職員と会話をしながら車両基地を歩いていく。車庫には蒸気機関車の煙突から灰色の煤煙が勢いよく吐き出される音が幾つも反響し、車庫横の本線からはSL牽引の列車と東和近郊で通勤路線を運営する東和首都電鉄(TCE)の電車が通る走行音が耐えず聞こえていた。

鉄道の音しか聞こえない車庫内をヘルメットを被りながら歩く吉田の前に、並んで止まっている東和横断鉄道(TCR)とHRの蒸気機関車が現れる。

 

右側の線路にいた東和横断鉄道(TCR)の機関車は鮫を思わせるシャークヘッドを取り入れた個性的な流線形を持ち、横灘浜から東和間で乗った特別列車を牽引したTD-54型と似た雰囲気を醸し出していた。

左側の線路で身を休めていた氷海鉄道(HR)の機関車も流線形のカバーで覆われているが、その形状は丸い曲線を主体とした全く違うモノだった。

 

「右側の機関車は東和横断鉄道(TCR)のTE-52型蒸気機関車で、左側は氷海鉄道(HR)のHC-60型ですね。両社のフラグシップ特急を牽引する機関車が丁度揃っていましたね。」

 

吉田は交通省職員の説明を聞きながら、自らのスマホで両車を撮影する。吉田は日本では絶対に見れない姿のSLに興奮している様にも見れた。

 

「まさかこれが見えるとは思いませんでした。それも並んで見れるとは·······」

「喜んでもらってなりよりです。あ、あっちを見て下さい! 1両しかいないTD-60型がいますよ!!」

 

政府から支給された太陽光発電が可能なモバイルバッテリーで動作するスマホで一通り撮り終えた吉田は、若干興奮した口調で交通省職員へ話しかけるが、当の交通省職員も返事しながら横目にある機関車を見つけると興奮した様子で指さす。

交通省職員の指先には寸胴の如く太いボイラーを持った巨大な機関車が止まっていたが、4軸の主動輪の上には他のSLでは見られないターボチャージャーが置かれていた。

 

「主動輪の上にあるのはターボチャージャーですか? 珍しいですね。」

「あのTD-60型は船舶に用いられるタービン機関を主動力としてまして、加減速性能と燃費を代償にした高出力と高速性を持っております。」

「蒸気タービンを使ったSLですか──面白いですね。」

「喜んでもらってなりよりです。次は東和首都電鉄(TCE)の車両基地へ向かいましょうか。」

 

一通りの車庫見学で吉田が満足したと判断した交通省職員は、彼を東和で最も電車が集まっていると言われる東和首都電鉄(TCE)の車両基地へ誘う。

 

(前々から思っていた通り、東和横断鉄道(TCR)の機関車はどれもアメリカのペンシルバニア鉄道ソックリだが、氷海鉄道(HR)の機関車がイギリスのLMS*1とは思わなかった····

何故東和の機関車は地球国家とソックリなんだ······これだと地球人がやって来た冗談が笑えなくなってきた····)

 

次なる目的地へ向かっていく中で吉田は不可解な疑問を考えていたが、その疑問が解ける事は無かった。

 

 

「シャルハの言い伝え?」

 

東和使節団の中心的存在である園田姉妹は東和市街を回っており、東和の技術を図る参考品として服やシャープペンシル等を購入していた。日本へ帰れないストレス発散も兼ねた買い物と市街散策を続ける園田姉妹は、露店で売っていたクレープを公園のベンチに座りながら食べて休んでいたが、唐突に問いかけられた姉の凜音はイチゴと生クリームのクレープを食べながら疑問交じりに返す。

 

「えぇ、間に見ていた本屋で気になったので購入して来ました。」

 

問いかけた妹 麗音はバナナと生クリームにチョコソースがかけられたクレープを食べながら、折り畳み式の手提げカバンから一冊の本を取り出す。大きいながらもページ数が少ない正方形の本を見た凜音は意外そうな目線を向けた。

 

「専門書かと思ったら子供向けの絵本じゃないの····親戚の子供にでも渡すの?」

「逆に絵本の方が分かりやすく纏められているから分かりやすいんじゃない?」

 

片仮名と平仮名が混じった表紙はその本が子供向けの絵本である事を証明しており、凜音は28歳の独身女性がわざわざ買ったのかと弱冠引いていたが、麗音は気にするどころか寧ろ分かりやすいと開き直っていた為に指摘は無駄だと判断した。

 

「それでその言い伝えはどんな内容なの?」

「端的に言うと“かつて白き肌の人間が世界を支配した。白き肌の人間は人類の文明を全て破壊し、自分たち以外の全人類を奴隷とした。

しかし、それでも満足できなかった白き肌の人間は別の世界も手に入れるべく向かったが、シャルハと呼ばれるその世界に住む人々に敗れた。敗れた白き肌の人間はこの世界へ逃げたが、シャルハは追いかけてこの世界へやって来て白き肌の人間を倒した。

シャルハは奴隷だった人類達に自らの文明を教えて去り、教えられた人類はソレを元に世界を作り直した。”って感じ。」

「そんな中身なら絵本の方が良いわね·········」

 

凜音は言い伝えの中身が思っていたよりも重いモノだったのに驚きつつ、麗音がわざわざ絵本を買った理由を理解した。凜音は“白き肌の人間”や“シャルハ”などの初見の単語にツッコミを入れたかったが、麗音自身も分かっていないだろうと判断して食べかけのクレープを口へ持っていく。

 

「でも、もしこの言い伝えが事実であれば東和に英語や西洋の文化がある理由の裏付けになるよね?」

「それはそう。クレープやチョコなんか明らかに明治以降に入って来た産物だからね。シャルハとか言う連中が持ってきたとなれば説明はつくけど───それもそれでとんでもないけど。」

 

東和市街を散策した姉妹は英語が市民にも浸透している事や、西洋生まれの産物が違和感無く溶け込んでいる光景を目撃していたが故に、この言い伝えが年月日の一緒とアルファベットの普及と言った今まで抱いていた違和感に対する答えになっている仮説を立てたが、それでも現実味の無いぶっ飛んだモノだった。

 

「そもそもシャルハって何でしょうかね?」

「分かる訳無いじゃない。別の世界から来たのは確定だけど、別の世界が地球じゃ無いのは間違いないわね。」

「専門書にはより詳しい話が書いてあったりするんですかね〜」

 

園田姉妹はシャルハについて話し合いながらクレープを食べ終え、紙包みをしっかりと分別されたゴミ箱へ捨てると再び買い物へ向かった。

*1
ロンドン・ミッドランド・アンド・スコティッシュ鉄道の略。

愛用している()では出せませんでしたw




・立葉山脈
塩王(しおう)山や楡目(にれめ)山といった複数の山々で構成された山脈。
白鷺川の支流の水源になっている他、良質な木々と天然氷の産地としても知られている。近年になって東和への電力供給を担うダムや、軍民共用飛行場が建設された。

鴻鳥(コウノトリ)
東和には日本の絶滅危惧種が数多く生息しており、それらは日本と同じ呼び名で呼ばれている。

日本と東和の差異として設けました。

・氷海鉄道
東和と最東端に位置する都市 氷海を結ぶ氷海本線を保有・経営する鉄道会社。通称はHR。
東和横断鉄道(TCR)の次に大きな鉄道会社で、多くの特急列車と寝台列車の運行や機関車への流線形カバー装着で対抗している。

当鉄道の車両は全てLMSをベースにしていますが、大半の車両に設定が出来てないので出すのは暫く後かも。

・東和首都電鉄
東和近郊で環状線を筆頭とする近郊路線や、市内に張り巡らされた路面電車を運営する鉄道会社。東和横断鉄道(TCR)の子会社で、通称はTCE。
通勤需要がメインで駅間が短い近郊路線は第三軌条方式で直流750Vの電化が行われており、各路線ごとに色付けされた客車改造の電車で運行されている。市内の路面電車も架線を用いて電化されており、連接式の車両で運行されている。

・東和の技術を図る参考品
前話で日本からの輸出品として衣類や文房具が上げられましたが、東和のレベルを知らないいけないという名目で買っています。
料金は東和側が一時的に立て替えるが、国交締結後の通貨レート策定後に請求される感じかな?

・シャルハ
あからさまですが今作で最も重要な単語です。尚、正体が明かされるのは何時になるのか分からない。
連載当初はシャトラと書いてましたが、シャルハへ変更したのを思い出したので、しれっと訂正しました。

・クレープやチョコなんか明らかに明治以降に入って来た
Wikipediaによるとクレープは昭和初期のレストランメニューに記載があり、チョコは江戸時代中期の文献に記載があるらしいです。
思ったよりも昔にやって来たのにビックリしましたww

因みに作者はチョコバナナクレープが一番好きです。
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