New world note in Earth 作:YUKANE
深夜の首相官邸に集まった官僚らが日本の行く末をかけた会議を行っている最中も、日本の国家機能が集まった首都 東京は静けさを失っていた。
物資を少しでも多く確保すべく店舗に集まった人同士で争い出し、この混乱に紛れて店舗荒らしや自販機荒らし・車上荒らしなどの犯罪も複数箇所で起きていた。加えて母国と連絡が取れなくなった絶望した外国人が自棄になって強盗等の犯罪だけでなく、店舗やオフィス・自動車のガラスを割る暴動紛いの騒動まで起こし出した。
これらが同時に起きるという前代未聞の事態に東京の警察を纏める警視庁は、非番の警官や出張で来ていた県外の警官すらも総動員して事態の鎮圧を図っていたが、想定以上の混乱ぷりに対処が追いつかなくなっていた。
それは総理官邸や国会議事堂・最高裁判所といった日本の首都機能が集中し、丸の内を代表とする大企業や金融機関が集まったオフィス街も存在する千代田区も例外ではなく、日本の政治と経済の中心である街はガラスの割れる音と人々が言い争う喧騒が包み込んでいた。
「こんな光景が日本だとは思えんな·····まるで海外のデモを見ているようだ。」
千代田区を覆う様に建てられたオフィスビルの一つに本社を構えるネットニュース会社 OREジャーナルの社長兼編集長の荻窪大介は、道路を挟んだ向かいのオフィスビルの窓を叩き割った外国人が警察によって逮捕・連行される光景を窓越しに眺めつつ零した。
朱雀戦争後に大躍進を遂げたOREジャーナルの要因となった彼は、工事会社の都合で予定より大幅に遅れて始まった本社のネット回線張り替え工事を、責任者として最後まで見届けるべく残って起きていた事でヒビ割れ現象の全てを目撃した。
一目で朱雀戦争以上の大事だと直感した彼は社員に朝方の緊急招集を呼びかけ、日本中から情報を集めるべく回線工事を急かした。
彼は回線工事の終了と同時にパソコンを開いてネットが繋がっている事を確認し、ビデオ会向けのアプリを開く。あの現象後に衛星通信は繋がらなくなったが、それ以外の通信は難なく動いていた為に無事稼働出来たアプリでビデオ会議を開始する。
開始したビデオ会議のIDを社員の一人にLINEで送ると、返信代わりとしてその社員がビデオ会議に入って来る。
『あ〜編集長、聞こえますか?』
「ああ、新一の声がクリアに聞こえているよ。ビデオもONに出来るか?」
パソコンの画面越しに自社の記者である木戸新一が写ると、荻窪は安心した表情になる。
「
『はい、ここの温泉中々良かったもんで。あ、上川先生お疲れ様です。今、うちの編集長とビデオ会議していまして····何で温泉まんじゅう持っているんですか?。』
2組の布団が直引きされた畳と障子で構成された和風旅館の部屋に似合う浴衣姿でいる木戸に、冗談交じりの嫌味を言っているとこの部屋を使っているもう一人が帰って来た事を察した。
「上川先生お疲れ様です。顔を見せて貰えますか?」
『その声は荻窪編集長ですね。こんな夜更けにお疲れ様です。』
木戸の脇から彼と同じく浴衣を着ながらも、トレードマークである黒いハット帽を被った小説家 上川冬馬が写ってくる。日本で名の知れた売れっ子作家である彼は、OREジャーナルに就職した幼馴染の
「イベントの真っ只中でお疲れしてるだろうにわざわざお疲れ様です。」
『いえいえ、寧ろ人類が体験した事が無いであろうこんな現象を見れたので、疲れが吹っ飛びましたよ! 』
「は、はぁ·······」
『
「上川先生って意外と記者向いてますかもね?」
人類史でも経験が無い現象を目にしても動じるどころか、小説に組み込もうとする上川の行動に木戸は疎か荻窪も若干引き気味になる。荻窪に関してはあの現象による混乱を目の当たりにしているからこそ、彼の様に恐怖より好奇心が勝っていればこんな騒ぎにならなかっただろうと思わされた。
『編集長どうしました?』
「いや、
荻窪の問いかけに木戸は自らの手帳を開いた。
『短時間の取材なので情報自体は少ないですが、旅館の従業員も宿泊者もあの現象に困惑してましたね。けれども、東京と違って落ち着いてますね。』
「意外だな。日本全国で同じ様になっていると思っていたんだが····」
『何ででしょうね?
「案外あり得るかもな。」
記者として限られた情報から現状を冷静に分析する荻窪と木戸の様子を上川は興味深い目で見ていたが、思い出したかのように脇に置いていた温泉まんじゅうの箱を木戸へと差し出す。
『そういえば
『売店に売ってた奴ですよね? 非常食って事ですか?』
「饅頭が非常食とは聞いたことが無いな〜でも手軽に食える点は良いか。」
『今直ぐにでも帰りたいと言っている宿泊者もいたので、そう言う人達に対して旅館が出来る事をやっているのかもしれないですね。』
木戸の考察を聞いていた荻窪だったが、道路から響いてくる聞き慣れない音に注意を奪われた。聞き慣れない音の元を探るべく窓から外を見てみると、麒麟を模したマークが描かれた96式装輪装甲車や87式偵察警戒車・軽装甲機動車を先頭にした陸自の車列が本社前の道路を進んでいた。
「
『編集長どうしましたか?』
「
荻窪は自らのミリタリー知識で現状を分析する。自衛隊側からも認められる程の知識量を持った分析は根拠のない仮説であったが、充分に納得出来る物であった。
『自衛隊まで動くなんて、やっぱり相当ヤバい事態ですよね?』
「だろうな。一年前に約80年ぶりの戦争も経験したからより気がたっているかもな?」
『アレからもう1年って早いでs上川先生スマホなってますよ?』
木戸の話を遮る様にかかってきた電話に上川は出る。5分にも満たない短い会話であったが、それで全てを理解した上川は電話を切った。
『イベントの運営会社からの連絡で、こんな状況だから
「地方都市も少なからず混乱してそうだし、妥当だな。早く帰ってきて欲しいと言ってもこの時間と混乱じゃ何が起きるか分からんから、日が昇ってからの方が良いんじゃないか?」
『俺もそう思います。朝飯食べたら直ぐに出れるよう準備するので切りますね。』
『そもそも太陽が昇るかすら分からないですけどね?』
「······月が光っているから昇ると信じよう。」
荻窪が作家なりの疑問に感心している間にも、木戸はビデオ会議から退出する。ワイヤレスマウスを操作してビデオ会議を終了した荻窪が窓越しに地上を見下ろすと、73式大型トラックこそ3 1/2tトラックから降りる第31普通科連隊の隊員が見えていた。
まだら模様の迷彩服と同じ模様が施された防弾チョッキ3型を身につけ、同じく迷彩の戦闘
「朱雀戦争でも都心に自衛隊は出動していなかったから、それ以上の騒ぎだな。にしても80年ぶりの戦争をやった翌年にこんな事になるとか信じられんな·····神でも怒らせたか?」
荻窪の冗談めいた独り言は、騒動鎮圧に向かうべく普通科隊員が歩き出した音で搔き消された。
・OREジャーナル
特撮好きには分かると思いますが、仮面ライダー龍騎に出てくる会社をそのまま使いました。本編ではかなりマイナーな会社という扱いでしたが、本作では千代田区に本社を構える大きな会社になってます。
前作連載終了後に龍騎を映画やTVスペシャル含めて見ましたが、名前だけ同じで中身は全く違っていたなと思い知らされました。
今話で出てきた2人は原作から殆ど変わっていないキャラですが、2人以外にも別の仮面ライダーに出るキャラをモデルにした人もいます。
・岳温泉満喫している·····
何故岳温泉にしたかというと、ただ単に作者の地元である福島県を出したかっただけです。ただ完全な地元を出すわけにはいかないので、県内で有名な温泉地として岳温泉を選びました。
・小説家 上川冬馬
今作からの登場人物ですが、こちらも仮面ライダーセイバーの主人公がモデルです。ウェブのネットサイトで連載という変な形になったのは色んな諸事情でこうなりましたw
よくよく考えればあの部屋には仮面ライダーの主役が2人も揃っているという凄い絵面。
・朝霞駐屯地の第1偵察戦闘大隊か·····
こちらの部隊は陸自による鎮圧を前にして現状を把握すべく送られた設定です。この部隊は16式機動戦闘車も配備していますが、16式は威圧力が強すぎて使えそうにないと判断して待機させました。
・朝飯食べたら直ぐに出れるように·······
どっちかと言えば朝飯をキャンセルして直ぐに出発する展開の方が合理的でしょうが、朝飯キャンセルでその分の食事が無駄になるのは納得出来なかったのでこうしました。
作者は大食いで食品ロスが発生するのが大嫌いなので、劇中でも徹底的に食品ロスを抑える展開にしていきます。