New world note in Earth   作:YUKANE

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前述した通りこの話で使節団編を終わらせるべく、3日間の内容をこの1話で纏めました。

余談ですが前回は投稿時間をミスって変な時間に投稿してしまいました。


Episode.32 使節団の日記帳

オーストラリア大陸の半分程の大きさを持つ東和大陸の中心には、気高い咫野(あたの)山脈が東西を分断するかの如く鎮座していた。

1000m超えの山々が連立する山脈は長らく人を寄せ付けない未開の地であったが、近代化による技術進歩によって到達した人々によって石炭や鉄・金・銅の鉱脈が複数発見された事で、現在は東和を代表する鉱山地帯へ変貌していた。

 

その変貌を象徴する存在が山脈に沿って東西を結ぶ鉄道であり、奥羽貨物鉄道 通称OFRによって敷設された3つの路線は鉱山地帯と沿岸の工業・経済都市を繋げる重要幹線であった。

大型なマレー式*1機関車によって牽引される貨物列車が毎日行き交う路線にとって深夜は束の間の休息を与える時間であったが、17日(この日)に限っては深夜にも関わらず1本の列車が南へ向けて走っていた。

 

その列車は綺羅びやかな色彩と装飾を施した一等寝台車と食堂車を赤色の流線型カバーで覆われた機関車で牽引しており、綺羅びやかさよりも実用性を重視する奥羽貨物鉄道(OFR)が持っている筈の無い存在であった。

その列車は氷海鉄道(HR)が保有しているHC-60型蒸気機関車と一等寝台車で構成されており、本来は東和と氷海(ひょうか)を結ぶフラグシップ特急に使われる車両はとある国賓を乗せて、いつもは走らないOFRの線路を走っていた。

 

既に時刻は23時を回った深夜の山脈には生き物も寄り付かない為に標準軌を走る列車の音しか響いておらず、レールの接合部を通った際に鳴る重いジョイント音が静かな車内を支配する。

 

一等寝台車の車内は与えられた位に相応しく全て個室になっており、その個室に敷かれた高級カーペットの上に置かれた河野産の高級檜で作られた机に園田麗音が向き合っていた。

彼女は一定の間隔で鳴り響くジョイント音をBGMに、シャンデリアを思わせる電灯にぼんやりと照らし出された小さな手記にボールペンで文字を刻んでいた。不規則で予測不能な揺れと戦いながら書いていると、シャワーを浴びてきた姉 凜音が部屋に入ってくる。

 

「揺れながらシャワーを浴びるのは疲れるけど、何だか慣れてきた気がするよね?───あ、日記書いてたの?」

 

墨の様に真っ黒な長髪に水の輝きを纏わせた凜音は、外的要因で揺れながらシャワーを浴びる行為に慣れて来たか麗音に聞いたが、当の麗音は手記を書くのに夢中だったのに気付いた。

 

「えぇ、こう言う時間でしか書く時間が取れないから。」

「日中は何かしら見てるか、説明を受けているかだしな。日記見ても良い?」

「髪をもう少し拭いてからね」

 

姉妹だけの空間故か砕けた口調になった凜音の頼みに、麗音は見るからに水分をたっぷり含んだ髪の毛を指差す。肩にかけたバスタオルで長い髪を一通り拭くと麗音の手元に置いていた日記が手渡され、小さな手帳に書かれた日記を丁寧に読んでいく。

 

「今日の目玉はやっぱし奥羽(おくは)の露天掘り鉱山よね。あんな光景なんかオーストラリアでしか見れないと思ってたわ。」

「同感。あんな馬鹿でかい上に露天掘り鉱山が国内にあるのはは羨ましいよ。」

 

急峻な咫野山脈の東に位置する都市 奥羽(おくは)は国内最大の鉱山都市であり、市街地を囲む山々には年々深くなる露天掘りの鉱山と、対照的に高さを増す鉱滓(こうさい)ダム*2が点在していた。

海外でしか見れない巨大な露天掘り鉱山と、見るからに有毒そうな色味の水を溜めた鉱滓ダムの組み合わせは使節団の面々に強いインパクトを与えた。

 

「てかあんな山奥なのに百貨店や室内プールがあったの凄くない?」

「流石は鉱山都市って事かしら? 軍艦島や夕張だって最新設備が集まっていたと言うし。」

「確かに───東和でああ言うのがあるのって、首都の他には前日に泊まった見浜(みはま)ぐらい?」

「上手い具合に話を持っていったわね。」

 

凜音は綺麗に話を別の話題へ繋げた妹に呆れつつ、話を続ける。

 

「冷軽大陸への玄関口になっている東和第二の都市は流石のデカさだったな。」

「デカさもそうだけど、戦前レベルの国で24時間営業の店が幾つもあるなんて衝撃だよ。」

「正に“光の消えない町”の別称が似合う町だわ。」

 

東和の北に位置する港湾都市 見浜は冷軽大陸各地への定期便が就役する国際貿易港であり、北を除く三方へ4つの線路が延びるこの都市は150万人もの人口を抱える東和第二の都市であった。

使節団は16日の21時頃に到着して駅直結の東和レールウェイホテル 見浜で一泊した後に、見浜の港や海軍工廠・郊外の工業地帯を見学していた。ひっきりなしに船が行き交う見浜港の光景は東和がTRMの中心として君臨している事を証明していた。

 

「日本からだと遠いけども、冷軽大陸への貿易航路の中継地としては役立ちそうね。」

「東和一の貿易港とまで言われるのだから、何かしらの形で関わるのは間違いない。」

「そうね········平炉(へいろ)の農作物は見浜から運ばれるかもしれないわ」

「お姉───私が自然に話を繋げた事に対抗したの?」

 

麗音は姉の大人気ない対抗心に呆れつつ、話を続ける。

 

「平炉の穀倉地帯は壮観だったね。北海道でもあんな広大な小麦畑は無いよね?」

「果たしてどうやら? でも穀物どころか野菜や飼料作物も栽培されているし、日本国民の生命線には間違いなくなるわね。」

「ついでにあの備蓄倉庫も作ってくれないかな?」

「建てられる土地があるかしら·····」

 

東和の中心に位置する都市 平炉は農地に適した神辺(かんな)平原と、国内有数の穀倉地帯になっている三栄(さんえい)平原に挟まれた立地から東和有数の食料生産地として古くから知られており、膨大な食料を余すこと無く活かすべく加工工場や備蓄倉庫・迅速な輸送設備が整えられていた。

 

「日本への食料輸出をすんなり認めたのに驚いたが、あんなデカい食料供給地を持っているなら納得だ。」

「日本って言う一大消費地を得れたんだし、東川大統領はウハウハじゃない?」

 

平炉について話し合っていた2人だったが、凜音は不意に欠伸(あくび)をする。目の前で欠伸をされた麗音も吊られて欠伸をした。

 

「もう寝よう。明日も早いんだし。」

「最終日に寝坊なんてかっこ悪いしな。」

「最終日───6日間の東和訪問も明日で終わりか。」

 

麗音の発言で明日で東和を去る事に気付かされた凜音は長い様に見えて短かった東和滞在を振り返りつつ、長きに渡って帰れてない日本を恋しんだ。

 

 

使節団を乗せた特別列車は18日へ変わる頃に咫野山脈を下り切り、最東端の都市を目指すべく方向転換して東へ進んだ。連結された食堂車で洋食スタイルの朝食を取った使節団は、1時間程して最終目的地となる都市へ到着した。

 

「これが氷海(ひょうか)ですか。名前とは違って暖かいですね。」

「海が流氷に覆われていると勝手にイメージしてましたが、この気温だと流氷どころか氷すら無さそうだ。」

「この氷海は東部に位置する都市では最大の規模を持っておりまして、海と河川の水産物がドッチも集まる漁業都市とすて栄えました。

都市の名前は目の前の手樽(てたる)湾が、かつて歩いて渡れる程に厚い氷の覆われていた伝説が由来になっています。」

 

東和最東端にして東部地域の中心都市 氷海(ひょうか)はその名前とは打って変わって暖かく、日差しが差し込む町には磯の匂いが充満していた。

国内最大の漁業拠点として知られる氷海へ降り立った使節団は、外務省の井都築(いつづき)大家(たいか)と情報省の大臣補佐官 上澤(かみさわ)全二(ぜんじ)の2人に案内されて漁港へ向かう。

 

氷海が面する手樽湾には礼羽(れいは)山脈戸妻川も流れ込んでいる為に漁港傍の海鮮市場には海洋と河川双方の魚が集まっており、国内最大の漁港拠点になっている証明でもあった。

両手でも数え切れない程の魚介類が集まる海鮮市場を使節団は見ていたが、農林水産副大臣の国山がふと周りを見ると多くの観光客も訪れているのに気がつく。

 

「この市場は地元民だけじゃなく多くの観光客も訪れているのか。」

「どうやらそのようで──まるで函館の朝市です。」

「市場の観光客に驚かれたようで。氷海(ここ)は長らく船でしかいけない僻地でしたが、鉄道が開通してからは海産物を迅速に輸送出来るだけでなく、乗り継ぎ無しで行ける様になったので観光客数は年々右肩上がりです。」

 

国山の発言に反応した凜音が例えを付きで同意すると、話が聞こえたらしい井都築が補足の説明を付け加える。

一種の観光地になっている海鮮市場を見終えた使節団一行は傍の漁港へ向かう。漁港には木造の漁船が何十隻と並んでおり、その対岸の埠頭にはクレーンによって荷物を載せるであろう貨物船が停泊していた。

 

「おぉ、日本ではもう見れないであろう木造漁船だ。ん?───何だか殆どの漁船が似た形をしているような?」

「そこに気づかれるとは鋭いですね。これらの漁船は殆ど木造船建造に長けた綾野造船製でして、国内の木造漁船の8割近いシェアを同社が持っているのです。」

「木造船か───日本で消えかけている技術が残っているのは良いことだ」

 

上澤の説明を聞き終えるや、いきなり話し出した桐島龍樹に他の面々は驚かされる。

 

「海自って木造船持ってましたっけ?」

「古い掃海艇は専ら木造船です。機雷の中には船の磁気で爆発するのもあるので、強化プラスチック(FRP)船体が実用化されるまでは殆どがそうでした。」

「FRPとやらは分かりませんが、我が海軍の百級掃海艇も全て木造です。多分漁港の奥に泊まっていると思いますが───あぁ、あれですね。」

 

上澤が指差した漁港の奥には漁港には似つかない灰色の軍艦が複数泊まっていた。

停泊している艦の大半は説明された百級掃海艇や駆逐艦・水雷艇と言った小型艦で、その中に旗艦を努めているであろう戸妻級巡洋艦が隔絶した差を見せつけている様だった。

 

「漁港の直ぐ側に海軍基地があるんですね。ここまで近いと問題が起きそうだが、ここに基地を置く理由があるんですか?」

氷海(ここ)は我が国は疎かTRMでも最東端に位置する為に軍事的にもかなり重要でして、海軍だけでなく陸軍と空軍も最新装備を揃えた精鋭部隊が配備されています。」

「TRM最東端って事はこの先が未踏ってわけか。」

「でしたら部隊がこんなに充実しているのも納得だ。」

 

いきなり乱入した三田宗次も加えて基地の意味を理解した桐島だったが、ちょっと視線を反らした先に貨物船が停泊する対岸の埠頭を眺め続ける八巻耕司の姿を見つけた。

 

「八巻さん、ずっとあの埠頭を眺めていますがどうしました?」

「えぇ、あの貨物船を見ていると貿易が始まったとしても、我が国の外航貨物船がここに入れるか不安でして。入れたにしてもいつも通りに積み下ろしが出来るか·······いっその事自衛隊が導入するとか聞いた移動式桟橋を使った方が良いんじゃないかと思いまして」

海自(ウチ)が陸自と共同提案しているアレですか。移動式桟橋は徴用したフェリーに積んだ車両の揚陸用として使う予定ですが、アレを使えばカーフェリーやRORO船も東和で使えるかもしれません。

ただアレは漸く試作段階に到達したので、直ぐの実用化は難しいかと」

「やはりか·······これは中々の課題になりそうだ。」

「気は重いでしょうが、それの解決策は政府が決める事です。我々は最後の見学を目一杯しましょう。」

「そうだな───」

 

桐島の言葉に促されて八巻も思い詰めてた考えを一旦忘れて見学を再開した。漁港に続いて海産物の加工工場を見学した一同は氷海名物の海鮮と海鳥を使った料理を食べ終えると、東和政府が手配した客船 松谷丸に乗って6日間滞在した東和を後にした。

*1
車体とは別に動ける台車を持つ間接式機関車の一種。

2組の走り装置を持っており、前側の走り装置は車体と繋がっていない為に曲線に沿って動く事で、一般的な構造で同じ大きさの機関車が走れない曲線も通れる。

*2
鉱物を精錬する際に発生する鉱滓(スラグ)を溜めるダム。

鉱滓には鉛やカドミウムと言った有毒である為に、ソレを水と固形物に分離する役目を持つ




・咫野山脈
東和大陸の中央に鎮座する巨大な山脈。白鷺川に代表される河川の水源になっているだけでなく、木材や鉱物の産出される地として知られていた。
大規模な鉱山開発が行われているものの、徹底的な公害対策によって旧来の自然が保護されている。

・奥羽貨物鉄道
奥羽から見浜などを結ぶ3つの路線を保有・運営する鉄道会社。通称はOFR。
奥羽で採掘された鉱物の輸送を目的にしており、急峻な咫野山脈に沿って敷かれた為に曲線の許容軸重を抑えられるマレー式機関車が多数導入されている。
貨物列車がメインながら、1日数往復だけ旅客列車も運行されている。

この鉄道はアメリカのユニオン・パシフィック鉄道をベースにしてますが、出てきませんでしたねww

・HC-60型蒸気機関車
東和横断鉄道の特急に対抗すべく運行が計画された東和〜氷海間の「ひょうか」を牽引する高速蒸気機関車として秋野重工業で製造された。
前級をベースに車体の拡大と出力増強を行っており、空気抵抗削減と乗客へ強いインパクトを与えるべく流線型のカバーで覆われている。
スペック
全長:22.5m
全幅:2.7m
重量:110t
車軸配置:4-6-2
シリンダー数:4
動輪径:2050mm
ボイラー径:5.8m
ボイラー圧:1.72MPa
最高速度:180km/h

数話前で登場しましたがその際に説明を書き忘れたので、ここで書かせて頂きます。

・河野
東和南部に位置する町で人口は3.2万。
町の周辺で大社向けの木々を栽培していた為に古くから林業で栄え、現在も建て替え用の材木を栽培しつつ発達した家具や木工細工が名物になっている。
また栽培されている松から生える松茸や、間伐材を用いた原木栽培で育った椎茸や平茸(ひらたけ)・榎茸が高級品として売られている。

・百級掃海艇
チャルネスが磁気に反応する新型機雷を開発している情報を得た為に、磁気機雷にも対処可能な掃海艇として建造された。
船体は非磁性化が求められた為に栂椹(トガサワラ)(ケヤキ)谷地梻(ヤチダモ)の3種の木材を組み合わせており、主機のディーゼルエンジンにも非磁性化処置を施している。
船体後部には掃海器具と機雷処分に用いる連装機銃や爆雷投射器を装備し、艦橋前には掃海作業中の襲撃に対処すべく退役した旧式駆逐艦から流用された単装砲が搭載されている。
掃海に充分使える性能を持っていた上に、船団護衛や沿岸警戒にも使える汎用性を持っていた為に何十隻もの建造が行われた。建造には木材船建造事例の少なさから不安視されたが、木造船建造を手掛ける造船会社の職員が各地の造船所で指導した事で無事成功した。
スペック
排水量:700t
全長:76.5m
全幅:8.15m
吃水:2.9m
主機:YN-56AA型ディーゼルエンジン 2基
出力:4200馬力
速度:21ノット
武装:8.4cm単装砲 1基
   43mm連装機銃 2基
   爆雷投射器 1基
乗員:114名

・綾野造船
駆逐艦や水雷艇と言った小型艦や民間船を建造する造船会社。木造船体の掃海艇建造を請け負った際に木造船専門の造船会社を買収した為に、国内の木造船建造と修理も担う様になった。

・移動式桟橋
前作の終了後から実用化に関する研究が始まった。研究は急ピッチで進み、転移半月前に漸く試作品が出来上がった。

南西諸島向けの移動式港とTwitter(X)で流れてきた中国軍の移動式桟橋から発想を得ました。これを観るまでカーフェリーを徴用しても、使い道が限られてるから使い勝手が悪いと思い込んでました。
これがあればカーフェリーやRORO船を使えるだけでなく、曳航するであろうひうち型の見せ場も作れて一石二鳥w



最後は駆け足気味になってしまいましたが、何とか使節団編は終わらせられました。
次回は東和政府の閣僚会議をして国交締結まで持っていきます。ここから早くドンパチパートへ進めよう。
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