New world note in Earth 作:YUKANE
余談ですが新田原基地へのF-35B配備が決まりましたね。今作では既に海自の機動部隊に数十機配備されてますが、これの配属基地を決めてないのに気づいたので新田原基地配備としましょうか?
最後になりましたが、UA20000突破しました! こんな遅筆作品を読んでくださってありがとうございます!!
日東大演習終了から2週間後。防衛省の大会議室に多くの人々が集結していた。
集まった人々は防衛大臣 栃木昇司を筆頭に、陸海空各自衛隊の首脳陣・在日米軍・海上保安庁・
(何故私がこの場に呼ばれたのか──さっぱり分からない)
日本の国防に携わる主要人物が集結する中、栃木の隣に座る経済産業大臣 音次辰馬は、軍事に関してはド素人な部外者ともいえる自分が何故呼ばれたのかを脳内で繰り返し考えていた。
「何故ド素人の自分が呼ばれたか、気になってますか?」
「当たり前でしょう。私は経済の専門家ですが、軍事の専門家ではありませんから、ここに呼ばれるのは不適切でしょう。」
「経済の専門家だからこそ呼んだのです。」
「何ぃ?」
その様子を察してか、あるいは予測していたか、栃木防衛大臣が話しかけた。場違い故の気まずさが混じった心中を零した音次だったが、彼の返しに反応した。
「これから行われるのは自衛隊の増強計画の説明。転移でこれまでの方針を一変させたり、転移以前からの課題を解決すべく様々な意見が出される。そして、それを達成するのは莫大な予算と人員・企業が必要となる。」
「意図が読み取れた。防衛費増大に野党が反発するだろうから、この防衛費増大が日本経済の立て直しにどれだけ貢献するかを説明させるべく、実際に聞かせて理解させる為に招いたと言う事だな。」
「まあ、そう言う事にしてくれ。」
栃木の説明で自分が呼ばれた理由を理解した音次は、自らの得意分野を活かすべく事前に配られた資料に目を通りだした。
「参加する面々が集まったので、これから次期防衛方針の共有会議を始めます。
この会議は転移によって改められた防衛方針に基づいて、陸海空自衛隊や関係機関が提唱する要求を共通するのが目的です。」
予定されていた面々が集まり終えると、進行役を任された統合幕僚監部運用調整官
「それぞれの要求に入る前に、各自衛隊全般の要求について説明します。自衛隊共通の最重要科目として、定員の増加が求められます。これは転移に伴う防衛態勢の変化に、既存の隊員数では対応出来ないためです。またこれに伴って給与増額や老朽化した駐屯地の改修も必要だと見込まれます。」
「これは転移前からの問題だな。ただ、ここまで定員数を増やしても、入隊する人がいなければ元も子もないだろう。ただでさえ社会は人手不足だと言うのに。そうでしょ、音次大臣。」
栃木は手元の資料に記載された定員数を見て思わず苦言を呈し、音次に話を振る。音次も既存の数を大幅に超える定員数に口答えをすると見込んでいたが、予想とは真逆に何処か歯切れの悪い表情を浮かべていた。
「それに関してだが───転移してから企業は外国人を積極的に雇い出した事で、日本人失業者の割合は寧ろ増えている。
外国人は母国を失った悲しみを乗り越えて働かなきゃいけないドラマ性があるから、養っていかなければと日本人を差し置いて雇っているらしい。」
「なんだそれは。転移前から外国人労働者の進出があったとは言え、転移から僅か数か月でそんな有様になっているのか。この調子だと日本が外国人に乗っ取られるぞ。」
「それに関しては問題ありません。何せ外国人は母国という強力な後ろ盾を失っているのですから。」
音次から語られた想定外の内容に室内はざわめくも、理由こそ違えど失業者が増加した就職氷河期に自衛隊への入隊が増えた経験から、隊員不足の解決が果たせる可能性が高まった事に複雑な心境になるしかなかった。
「数だけとは言え、隊員数の問題は解決しそうだ。それ以外の要項はあるか?」
「次に自衛隊全般に関わる要綱としては、クラスター弾禁止条約ことオスロ条約からの脱退によるクラスター弾の配備です。
クラスター弾とは地雷をばら撒く兵器で、自衛隊では加盟した2008年から同様の兵器は廃棄されています。」
「つまりは各国で問題視されている地雷の使用を禁止する条約を破棄する事だな。わざわざ禁止してたのに何故脱退するんだ?」
音次の質問は軍事的な素人としては最もなものであり、榑木自信もその質問を予測して返答を既に用意していた。
「理由としてはTRM加盟国の軍隊を相手とした場合、現在主流の精密攻撃が可能な兵器よりも、安価で面制圧を行えるクラスター弾の方が費用対効果の面で有効だと判断された為です。加えて爆発しなかった地雷に関しても、日本の地雷処理能力で大半が除去出来ると見込まれます。
最も現在の日本は地球から別の星へ転移してきた状態です。つまり“地球で結んでいた条約は別の星に来た事で無効、もしくは強制的に破棄された”と言う解釈です。」
「そんな馬鹿げた理論で良いのか······」
「馬鹿げたも何も我々が世界初の事例だ。前例があったらおかしいだろ。」
音次の呆れた発言に、栃木の最もな返事を返す。
「最後の要求としては、兵器や弾薬・各種部品の増産です。これは現在進行形で生産している物だけでなく、生産を終了した物も対象とします。
これらの生産ラインは転移による生産数低下で、事実上の閉業状態にある工場のモノを再利用して、出来る限りコストを抑えて行うと構想しております。」
「休業状態の工場を活用するわけか。これなら工場勤務者だけでなく、失業者を減らせる場所が出来るだろう。」
既に転移してから4ヶ月以上経過しているが、現時点でも閉鎖されている工場は国内各地に存在しており、それを持つ企業は工場勤務者をリストラするか、経営難の現状でも賃金を払い続けるか決断を迫られる苦しい状態に陥っていた。
そんな中で、休止状態のラインを用いて自衛隊関連の部品製造を行う事は工場を持つ企業だけでなく、勤務する人々を救う大きな一手だと音次は納得した。
「最後に鹵獲したシ連兵器の積極活用です。朱雀戦争によって艦船と航空機を中心にシ連製兵器を複数入手しました。
これらは詳細な調査と比較試験を行った後に統一を果たしたロシアにでも売り捌く計画でしたが、転移によってそれらの現役復帰もしくは生産する必要性が高まりました。」
「あるならばトコトン活用しようという魂胆か。だが、シ連の兵器は所謂東側国家のモノだろ? 西側どっぷりの日本で使いこなせるのか?」
栃木はシ連兵器の積極的な活用を理解しつつも、それを使いこなせるか不安を抱く。冷戦によって東西の概念が誕生した当初から西側諸国に加わっていた日本にとって、東側諸国の兵器は対戦相手であり、自国での運用など考えるまでも無いが故に未知の領域だった。
「それは自衛隊も重々承知しています。ですが、東側兵器の中には西側兵器で使われてない機構もあり、それを使いこなせれば大きな利益となるでしょう。
それに鹵獲した空母に巡洋艦に潜水艦、全てが原子力で動く船です。原子力艦の経験も少ない日本にとっては、貴重な経験を積める重要な存在でしょう。
加えてここにシ連軍関係者と言う大きな味方がいます。実際に運用していた者がいるのは、大きなアドバンテージになり得るでしょう。」
榑木がシ連兵器を活用する意義を唱え終わると、面々は最後に話に出てきたシ連軍関係者を一斉に向く。
視線の先には朱雀列島を占領した陸軍第3軍で司令官を務めていたユラージ・チュイコフ中将と、第2機動部隊と戦いを繰り広げた海軍太平洋艦隊司令官だったレバル・スグワーク中将がいた。ユラージはB-1爆撃機の爆撃で負った骨折のリハビリ中に、レバルは難航していた旧ソ連艦艇の解析の助っ人として来日中にと、経緯こそは違うが転移に巻き込まれた者同士だった。
「ワタシはジエイタイにキョウリョクします。コッセツをナオシテくれたオンがアルから、ソレをカエサナキャいけない。ゴオンとホウコウ。」
「“日本に残された同胞の纏め役もやっているから忙しいが、私も出来る限り協力する。”と述べています。」
1年以上自衛隊阪神病院のお世話になっていたユラージは途切れ途切れながらも覚えた日本語で応え、来日間もないレバルはロシア人の翻訳を通して自衛隊への協力を約束した。ユラージが何処で学んだのやらご恩と奉公を言った事に、面々は微笑しつつも無事協力を得られた事に安堵した。
これをもって自衛隊共通の要項提示は終了し、陸上自衛隊が提案する要求提示へ移った。
「陸上幕僚長の周防憲司陸将です。陸自の提案として真っ先に求めるのは、12式地対艦誘導弾の巡航ミサイル化です。」
陸上幕僚長の発言に室内はざわめく。日本初の国産巡航ミサイルであるだけでなく、先ほど精密攻撃兵器より面制圧兵器の方が優れていると言われたにも関わらず、精密攻撃兵器の代表格とされる巡航ミサイルを導入すると宣言した事がざわめきを大きくしていた。
「この現状で巡航ミサイル開発を行うのを不思議に思ったでしょう。ですが、これにもしっかり開発の意義はあります。
現時点で自衛隊が保有している巡航ミサイルはひりゅう型原子力潜水艦*1に積まれた
ならば国産の12式地対艦誘導弾をベースに開発する事で、かかる費用やコストを抑えられる上に、陸海空全てに応用出来ると結論付けられました。」
周防の熱弁に聞いていた面々は圧倒されつつも、巡航ミサイル開発の理由に納得した。12SSMをベースにした巡航ミサイル開発は幾度も提案されていたが、機動部隊の整備や原子力潜水艦の導入に予算が回された為に毎度見送られていた。
しかしながら、転移で巡航ミサイルを輸入していたアメリカと切り離された事が、皮肉にも国産巡航ミサイル開発を大きく後押しした。
「確かに巡航ミサイル開発の価値は寧ろ高まった。東和大陸は大きい上に、冷軽大陸には内陸国もある。海上や戦闘機から攻撃出来る巡航ミサイルが国産開発されれば、抑止力としてかなり強い。
仮に日本と同レベルの国と相対した場合でも、充分対応出来る見込みが経つな。」
海自側の参加者として招かれた自衛艦隊作戦主任参謀 桐島龍樹一等海佐は、国産巡航ミサイルの重要性を理解する。朱雀戦争の指揮を取り、日本使節団として東和に赴いた経験を持つ彼が言った事で室内は賛同の方針へ傾いていく。その空気の中で意外にもJAXAが発言をぶち込んだ。
「国産巡航ミサイル開発はJAXAからも求めます。日本は転移でこの星へやって来ましたが、最悪な事に人工衛星は全て地球へ置いていかれました。
この影響で
そこでロケット打ち上げ費用を削減すべく、民間企業の参入を拡大しようと考えております。そこに巡航ミサイル開発で得られた動力類のデータや部品類を使えれば、少ないコストで民間ロケットを打ち上げられるかもしれません。」
「確かにGPSや通信、気象衛星は市民生活にも大いに役立つ。打ち上げコストを削減出来れば、転移前への回復も進む可能性が高まる。それならば野党も巡航ミサイル開発に理解を示すでしょう。」
JAXA長官の熱弁に音次も同意する。
転移によって人工衛星は全て失われ、GPSや通信、気象などのありとあらゆる分野で大きな影響を齎していた。人工衛星消失による影響は応急での代用が不可能なモノも多数あり、この状況を早急に補填する必要性が国民から求められていた。
「その開発に海自も1枚噛ませて貰いましょう。
「分野こそ違えど同じミサイル。共同開発の難度は高いでしょうが、やってみる価値はあるでしょう。」
「この際だから我々JAXAも海自に要求がある。貴方がたが実用化を進めるレールガン開発に我々も噛ませて欲しい。」
巡航ミサイル開発に協力を示した海自へ、JAXAは意外な要望を突きつけた。海自は次世代の艦砲としてレールガンに注目しており、実際に試験艦「あすか」での艦上発射試験にも成功していた。
地球でも進んでいると言える艦上レールガン開発にJAXAが興味を示すのは想定してなかったのか、幕僚長ら海自の面々は顔を見合わせていたが、桐島だけは興味を示した理由を推測していた。
「JAXA、艦上レールガン───マスドライバー開発の為に、データが欲しいと言う訳ですか。」
「御名答です。ロケットの打ち上げには従来の垂直発射だけでなく、コイルガンやレールガンによって加速させるマスドライバー方式も存在しています。
この方式は従来の発射方式より打ち上げコストを削減出来る可能性があり、数多くの人工衛星打ち上げを大きく助ける手段だと見込まれています。現に北海道の十勝地方にマスドライバー方式のロケット発射施設を建設する計画も浮上しています。」
「人工衛星が早期に揃えば、海自としてもありがたい。それにレールガンは次世代の艦砲として期待視されている。それの開発が進むのであれば、我々としても協力体制を組むのも悪く無いでしょう。」
桐島が理由を言い当てたのをきっかけにJAXA長官はマスドライバー方式の意義を唱え、それを聞いた海上幕僚長 藤崎忠敬海将はJAXAとの協力に好意的な返答を返した。
それを確認した周防陸上幕僚長は長く話題を攫った巡航ミサイル開発の話を切り上げ、次の要求を話していく。
「区切りが良いので、巡航ミサイルの話はここで終えましょう。陸自が次に求めるものはUH-2の海洋飛行仕様開発です。
陸自は中国相手の島嶼強襲作戦に用いる海上飛行に特化したヘリを長らく求めており、参考として導入されたUH-1Yが朱雀戦争に使われたのはご存知でしょう。
ですが、AH-1Zと部品を共有出来るメリットよりも配備数の少なさ故のコストパフォーマンスが問題視され、充分なデータを得られた事からも国産のUH-2をベースにした機体の開発を進めるべきとの方針になりました。」
「それでしたら、海自も協力しましょう。我々のSH-60シリーズの塩害対策や艦載装備を応用すれば、開発期間とコストを下げられるでしょう。」
「その言葉を待っていました。是非開発実験団飛行実験隊のメンバーを、厚木の第51航空隊へ送らせて頂きたい。」
陸自と海自が海洋向けのヘリ開発でタッグを組むとすんなり決まり、今まで主な発言が無く空気の様な扱いを受ける空自の面々は苦虫を噛んだ様な表情になっていたが、海自との協定を結んだ周防は空自の方を向いた。
「ついでですから、空自への要求も提示しましょう。我々は日東大演習の結果から、陸上部隊向けのガンシップが必要だと結論付けました。」
「ガンシップだと!?」
陸自から出たとんでも発言に空自どころか陸自以外の全てが思わずざわめいた。
輸送機に火砲を積み込んだガンシップは地上戦力相手に絶大な攻撃力を有しているが、制空権を確保しなければ運用出来ないピーキーな機体で、世界の警察こと米軍のみが運用している事実がそれを証明している。それ故に陸自のガンシップ配備要求は、予想だにしない衝撃的なモノであった。
「ガンシップの運用の難しさは陸自も理解しています。ですが、TRM加盟国には未だに軍馬すら使っている軍隊もあり、空から攻撃すれば無誘導爆弾やロケット弾でも過剰戦力でしょう。加えてTRM国家の空軍は最新でもレシプロ機で、ジェット機相手に制空権を奪うのは不可能でしょう。
これらの情報から銃火器や火砲で攻撃するのが最も効率的だと判断し、それら火器を集中して運用するガンシップの導入が必要だと結論付けました。」
「なるほど───確かに数で押されなければレシプロ機だけでの制空権の奪取は不可能。銃弾や砲弾だけで倒せる相手ならばガンシップを持つ意義もあるから、やってみる価値はある。
ただ、米軍がベースにしている
航空幕僚長の葛城
「了解しました。陸自側の大々的な提案としては以上になります。
小規模なモノであれば、軽装甲機動車の後継車として比較選考していたスイス製のイーグルⅣとオーストラリア製のハーケイは、将来の国産装甲車製造の経験を蓄積させるべく両車の採用を決定しました。
また、転移で敵対勢力が大きく変化した情勢に合わせて新型銃火器開発を行うべきとの意見もあります。これに関しては独島守備隊や朱雀戦争で手に入れた各種銃火器の性能試験を陸自が保有する各国製銃火器と行い、そのデータを元に議論を重ねていく計画です。」
陸自の提案が終わり、全てを話しきった周防陸上幕僚長はやりきったの表情で椅子に座る。周防と入れ替わりで藤崎海上幕僚長が立ち上がり、海自側の提案が始まった。
「続いて海自からの提案を述べさせて頂きます。海自からの要求で最も大きいものは護衛艦隊の拡張です。
現在の護衛艦隊は3つの機動部隊と、3つずつの艦隊と地方隊で構成されていますが、これを11個の艦隊へ再編します。」
藤崎の発言に室内は大きくざわめく。機動部隊によって海自艦隊の編成は大きく変貌していたが、今回提示されたモノはそれを遥かに上回る規模だった。
「現時点では11艦隊の内、10個は横須賀・呉・舞鶴・佐世保・大湊に、残る1個は東和の横灘浜に配備するのが妥当とされています。
増やされる艦隊に関しては機動部隊の後詰めとすべく、いずも型をベースにした軽空母を旗艦に、いぶき型イージス巡洋艦ともがみ型護衛艦の改良型で構成する計画となっています。」
「ちょっと待て。艦隊の増強もアレだが、いずも型をベースにした軽空母とは何だ? 前にF-35の運用能力を与える話があったが、もしかしてそれをやるのか?」
護衛艦隊の配備と編制予定を黙って聞いていた栃木防衛大臣は、いずも型ベースの軽空母を聞くや反射的に反応した。
機動部隊編成計画が進む中で、最大の護衛艦として君臨したいずも型に艦上機運用能力を付与する計画が持ち上がったが、キティホーク級の修繕費が膨大だった為にやむなくキャンセルされたのを彼は知っていた。それが故にいずも型の空母化に大きな衝撃を受けていた。
「これに関しては桐島作戦主任参謀から話して貰いましょう。」
「作戦主任参謀の桐島です。いずも型ベースの軽空母に関してですが、これが復活した理由はガンシップ開発の意義と類似しています。
東和やチャルネス海軍は未だに大艦巨砲主義が主流ですが、それ以外の国々は大半がフリゲートやコルベットを主体とした小規模な艦隊です。これらの艦隊は護衛艦数隻で対応出来るでしょうが、空母が入れば対空戦闘や対地爆撃にも対応出来るでしょう。
ですが、これら国家との戦争の度に正規空母を送るのは運用コストと得られる対価が釣り合わないのは明白です。故に運用コストが低いいずも型をベースにした軽空母を導入し、格下相手の戦争にも投入出来るのが妥当だと判断しました。」
「所謂、非正規戦争にも投入出来る空母を作ると言う訳か。戦前国家相手に正規空母は過剰戦力とも言えるし、費用対効果に見合った空母としていずも型は充分だな。」
東和とチャルネス以外のTRM諸国を格下と言い切った桐島と、それとの戦争をゲリラ相手に用いる非正規戦争とハッキリ言い切った栃木に室内はうっすらとざわめいたが、誰もが内心では思いつつも口に出さなかった内容だった為にそれを非難する者はいなかった。
「いずも型の空母化ついでにあまぎ型及びしょうかく型の後継艦に関しても話しましょう。
しょうかく型ことキティホーク級は最低で60年、あまぎ型ことフォレスタル級に至っては70年前に建造されており、だましだまし使っていたとは言え、限界を迎えつつあるのは報道でご存知でしょう。後継艦建造は幾度も検討されつつも見送られていましたが、朱雀戦争による酷使と転移によって宛にしていた海外からの購入が不可能になった為に、純国産での建造が決定しました。
艦型としては転移に巻き込まれた第7艦隊配備の「CVN-80 エンタープライズ」ことジェネラル・R・フォード級をベースとしますが、機関に関しては通常と原子力両方を選択できる様にします。発艦機構として電磁カタパルトの採用も考えられており、これの開発には先に述べた艦載レールガンのデータを応用出来ると見込まれています。」
一通り言い終えた桐島は支給されたペットボトルの水を飲み、その間に藤崎が海自の要求提示が終了したと述べる。各々が資料を交えて海自の要求を理解しようとする中、音次が動いた。
「確かに転移は日本の
だが、幾らなんでもこの規模の艦隊増強は無理じゃないか? 不足している艦艇は海外受注が無くなって冷え込む造船業界の希望の光となるが、予算や人員は何処から確保するんだ?
隊員数を増やすとは言え、船乗りなんかそんじょそこらの素人が直ぐになれるものじゃないだろ。」
彼が艦隊増強計画に異を唱えられたのは素人を代表している面もあり、海自側もそれを待っていたかのように直ぐ様説明を始めた。
「我々としても艦数や乗組員・予算の確保は最大の課題としております。
無論出来る限りの努力として、海自に割り当てられたシ連からの賠償金や転移で南極が無くなった為に無期限凍結となった「しらせ」の後継艦計画の予算を転用したり、フィリピンへの輸出で話が進んでいたあぶくま型を練習艦にして乗組員育成を進めたりします。」
「ですが、計画があまりに膨大過ぎて、雀の涙程度にしかならないでしょう。加えて現役の護衛艦も老朽化が進んでおり、置き換える必要があるのも鑑みると、10年経っても半分すら出来てないかもしれません。」
海自側も課題として挙がった案件への対応案を考えている旨を述べた藤崎だったが、桐島がツッコミの如く鋭い発言をすると室内に笑いが零れる。
「そう言えば──何処かの港に引退した護衛艦が係留されているとニュースで聞いたのだが、アレは使えないのか?」
「もしかして函館沖に係留してあるはるな型とたちかぜ型ですか?
あれは数年前まで練習艦として使っていたので再就役出来るか調べましたが、船体の老朽化が酷すぎて修理コストも高すぎるので解体処分となりました。」
「そうだったか·····」
藤崎と桐島の説明を聞いた音次はふと、何処かで護衛艦が留置されていると言うニュースを思い出したが、直ぐに何を指していたか把握した桐島がそれに関する話は既に行った事を伝えた。
これをもって海自側の提案が終わり、最後に残された空自の提案発表へ移行する。
「これから空自の提案に移らせて頂きますが、その前に海自へP-1及びP-3C哨戒機の爆装化による爆撃機化を提案させて頂きます。」
「哨戒機の爆撃機化だと?」
その場で立ち上がった葛城航空幕僚長は自らの要求を話す前に、海自へ提案を突きつけた。提案を突きつけられた海自は、哨戒機を爆装させて爆撃機化する予想打にしない内容に驚かされる。
「これは陸自のガンシップと同じく、TRM諸国の基地を無力化する場合は戦闘機による精密爆撃より、絨毯爆撃による面制圧が適していると判断されました。
これは日東大演習でも証明されましたが、日本が保有している爆撃機はB-1J 1機のみで、転移に巻き込まれた在日米軍機も同型機は存在しておりません。部品のみを生産している状況で国産ノウハウも無いので、爆撃機開発を一から行うのは年単位の期間がかかるのは確定でしょう。
そこで既に対潜爆弾や
「確かにP-1やP-3Cは9tの搭載能力を有しているが、爆装となると話は別だ。ミサイルをつけるパイロンを改良すれば出来なくも無いが、搭載量に関しては妥協して貰う必要がある。」
「だとしても、戦闘機よりも多く積めるのであれば問題ありません。」
葛城航空幕僚長による爆撃機の必要性と国産化まで繋ぎとして対潜哨戒機が適している説明を受けた藤崎は、スペック上の搭載量をフル活用出来ない可能性に言及するも、F-2よりも航空爆弾を積める機体を欲していた空自側は難なく受け入れた。
空自と海自が哨戒機の爆装化で一定の合意を取ると、空自単独の要求提示へ移る。
「空自からの要求で最も重要な案件として、
「なっ!?」
空自から提示された要求に室内はざわめく。特にパイロットとして搭乗した経験のある桐島は、一段と驚いていた。
F-15Jは制空戦に特化したF-15Jは朱雀戦争までは空中戦で撃墜された経験が無い優秀な機体で、日本の空を守る最強の鷲として君臨しているのを陸自や海自も知っていた。
それ故に、制空戦全振りの機体を対地爆撃・対艦攻撃能力を付与してマルチロール機へ作り替える事は日本の防空体制を根本から変える事を意味していた。
「これも対潜哨戒機の爆装化と同じくTRM諸国との戦闘を想定した結果です。各国は空軍こそ持っていますが、どれも東和やチャルネスのお下がりばかり。それを受け渡した両国ですらプロペラ機が主流な状態である為に、動態保存機を残して引退したF-4EJでも制空権を獲得出来ると結論づけました。
この結果から制空権全振りのF-15Jは過剰戦力であり、対地・対艦攻撃にも用いれるマルチロール機へ改造する事で任務の幅を広げて応用性を高めるべきだとされました。」
「確かにこの世界では制空権特科の機体は持ち腐れで、ならばマルチロール機にしようという気持ちも分かる。だが、マルチロール仕様の
桐島は空自が提示するマルチロール化の意義を理解しながらも、これまでとは段違いに高いハードルが聳え立っていると忠告した。
「ハードルの高さは我々が一番分かっております。ですが、F-35の生産がストップし、イギリス・イタリアと進めていた次世代戦闘機開発が無期限凍結となった現状では、既存の機体を改造するのが最適なのです。」
アメリカやイギリスで製造された部品を元に作られていたF-35は転移から間もなくして生産が止まり、欧州国家と進めていた次世代戦闘機開発も頓挫した現状では、日本が製造出来る戦闘機は皆無であった。
それ故に一から作るよりも、既に扱い慣れた既存の機体を改造する方が手間がかからない考えこそは理解出来たが、それでもハードルが高いのは否めない。
「F-15Jのマルチロール化に関しては逐次開発状況を共有させて頂く予定です。
次の提案としては輸送機用誘導弾発射システム─CMLSの導入です。このシステムは文字通り輸送機から対地ミサイルを発射出来る様にするもので、転移の3ヶ月前に米軍で使われているラピッド・ドラゴンシステムの
発射するミサイルを
「輸送機にすら対地攻撃能力を与えるとは·····費用対効果を徹底的に追い求めてるな。」
「それだけTRM諸国との戦争が非経済なのでしょう。彼らとは友好的に貿易を行う事が日本経済に貢献すると分かっただけでも、この会議に参加する意義がありました。」
栃木は輸送機にも攻撃能力を付与すると聞いて思わず呆れたが、音次は軍事のプロからTRM相手の戦争が日本経済に不利益との言質を得て、未だ回復しきってない経済を立て直すには東和含むTRM諸国との密接な繋がり不可欠だと確証した。
「最後の要求提案となりますが、国際線の休止で全国の空港で留置されたままになっているボーイング機の中から、海外の航空会社保有の機体を購入します。購入した機体は朱雀戦争で失ったE-767を補填する早期警戒管制機や、より一層需要が高まった空中給油機・潜水艦を上空から指揮する空中指揮機・広範囲に電波妨害を行う電子戦機へ改造する見込みです。」
「国内線ですら半数近いが運航出来てないらしいから、航空会社や空港としても有り難い話だ。ただ、機種をボーイングに絞っているのは、何かしらの意図があるのか?」
「これは空自の運用している旅館機ベースの機体が全てボーイング製で、同じ会社の機種で揃えた方が整備や運用面の都合が良いからです。」
「民間から調達する話なら、海自も「飛鳥Ⅱ」や「ぱしふぃっくびいなす」と言った引退した豪華客船を病院船へ改造いたします。
商船三井フェリーや新日本海フェリーの引退船も高速マリン・トランスポート保有の兵員及び車両輸送船にする計画がありますが、こちらは船が日東の定期航路に使われている為に、改造の目処は立っていません。」
「海保です。海自の輸送機改造に一枚噛ませて頂きたい。29年度に就役予定の3万t巡視船のデータ収集を行いたい。」
「在日米軍だ。民間船改造の輸送船に関するデータがあるので、それを提供させて頂きたい。」
世界が変わった事で在り方を変えようとする自衛隊の議論は、部外者も交えて進んでいく。
長らくシ連に対する抑圧として機能していたが、導入当初からVLS非搭載だったのが問題視されていた。
・榑木渡
プロットではもう少し後で登場させる予定でしたが、会議の進行役にピッタシだったので急遽登場させました。
・転移してから企業は外国人を積極的に雇い出した
“帰れない母国を思いながら、異国の地で働き出す”。文面だけ見れば感動モノの話ですが、クルド人問題とかを見ると感動出来ない案件ですね。
・ユラージとレバル
前作で自衛隊と戦った将軍が今作では味方として登場させました。他のシ連軍人に関しても登場させる予定があります。
・マスドライバー方式のロケット発射施設
現実味こそありませんが、レールガンで宇宙船を打ち上げるとかロマンですよね。
発射施設の建設地に十勝地方を選んだのは、住人の少ない広大な平野が広がっていたからです。ふと農道空港を活用出来ないか考えましたが、Googleマップで見たら思ったより人家が近かったので却下しました。
・C-2ベースのガンシップ
執筆中でジェット機にガンシップが出来るのか不安になりましたが、これはフィクションなので可能って事にしましょうw
・あまぎ型としょうかく型の後継艦
何度も書いてますがどちらも冷戦初期建造なので、運用出来てる方が凄い状態になってます。でも、後継艦建造に何年もかかるから、それまではこき使う事に。
・はるな型とたちかぜ型
現実だと遥か前に解体もしくは撃沈処分されてますが、今作では機動部隊編成による人員増加に対応すべく練習艦として使っていました。
・対潜哨戒機の爆装化
まんま日本国召喚ですね·········書籍化なんてあり得ない作品ですし、機体は違うのでご了承下さい。
・F-15Jマルチロール化
今回挙がった案件の中で一番ヤバそうな話。因みに似た話は現実でもJSIとして検討されてました。今作では機動部隊編成で話が飛んでそう。
・ぱしふぃっくびいなすの病院船改造
前に輸送船にすべく保管していたと書きましたが、“輸送船ならRORO構造のフェリーの方が適しているし、病院船にした方が良いのでは?”と思いついたのでそう変更しました。
前の描写も直に変更しましょう。
・全国の空港で留置されたままになっているボーイング機
転移から4ヶ月以上が経過していますが国際線は向かう先が無いので、機体は日本各地の空港で留置したまま放置されており、扱いが問題になっていた。
国内線航路に関しても近距離路線を中心に、半分近くが運休したままになっている。
◇
今回は《ref》を一つしか使って無いのに、説明文を大量に用意した結果、1万字を超えてしまいました。お陰で7月は2つしか更新出来なくて悔しい。