New world note in Earth   作:YUKANE

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今回は政府閣僚の目線から転移から暫く経った日本の変化を見ていきます。

現実では前作の執筆中に海自の観艦式が無期限見送りになったかと思えば、オーストラリア海軍の次期フリゲートとしてFFMの輸出が決まり、短期間で世界情勢が変遷しているのを目の当たりにして驚いています。この世界情勢の不安定さが第三次大戦にならないのを祈るばかりです。

日本が消えた今作では、オーストラリア海軍の次期フリゲートは対抗馬だったドイツ製に変更でしょうね。

最後にUA21000突破ありがとうございます!


Episode.48 率いる者の苦労

都内に構える高級レストランで、官房長官 大洋洋司は友人の到着を待っていた。このレストランは政府閣僚や芸能人・海外セレブも愛用する人気店で、転移によって経営は傾いていたが辛うじて営業を続けられていた。

 

「久しぶりだね、洋ちゃん。ここ数ヶ月は休み無しで働いてたって聞いてるよ。」

「この国家存続の危機に官房長官が休みなんて取ったら、非難殺到だ。それに、そっちだって関係各社との話し合いで日本全国を飛び回っていたと聞いているよ。」

 

官房長官にも関わらず、堂々とあだ名で呼ぶ友人の到着に大洋も久しぶりに気を安らげる。

真っ白な生地を金色の糸で紡いだ高級スーツに身を包んだGoogle日本法人代表取締役 福島龍は大洋の親しい友人であり、双方ともに多忙ながら年に何回か会うのを欠かしていなかった。

 

転移後から大洋は官房長官として日本の存続を賭けて、福島は外資系企業の優として社員や同種の企業を守るべく奔走していた。それ故に転移から4ヶ月以上経過した今日が久々の会合となった。

 

「ご注文はいつものオススメセットで宜しいですか?」

「勿論だ。アルコールは要らないか?」

「転移からお酒全般の値段は上がりっぱなしだから止めておこう。オススメのソフトドリンクがあったら、持ってきてくれ。」

 

顔なじみになってしまったウエイターにいつものコースを頼むも、いつも頼んでいたワインやシャンパンが貴重品になってしまった為に、飲み物がソフトドリンクになる些細な違いが生じた。

注文を受け取ったウエイターが去ると、福島は意地悪そうな笑みを浮かべて大洋へ話しかけた。

 

「それにしても、洋ちゃん、思い切ったね〜」

「どの話だ? 色々ありすぎて、どれを指してるか分からん。」

「資源を集めるとして違法駐車を回収。外国人の住まいを確保するとして空き家の引き取る。更には中国人が買った土地の中で、物理的に連絡が取れなくなった人のモノは無償で買い戻す。

転移関連の名目で国内の問題を解決するなんて、洋ちゃんはやり手だね〜流石次期総理候補。」

「失ったモノを補填していたらたまたま社会問題を解決しただけだ。仮に転移のドサクサに解決したとしても、失ったものが多さには釣り合わないぞ。」

 

違法駐車や空き家・中国人による日本の土地購入は転移以前からの社会問題であり、メディアによって取り上げられた事で問題視されていたが、行政は具体的な対策を打てずにいた。

しかしながら、転移で発生した各種課題への対処を任された日本政府は“ある物は全て使う”の方針でこれらへの措置を断行した。レアメタルの確保、外国人の住居確保、所収者がいなくなった土地の管理といった名目で回収や引き取りを半強制的に断行した。勿論、この措置へ反対する声が野党内やネットで上がったが、転移と言う国難に与野党合同で当たっている状態だった為に与党や国民だけでなく、同じ政党からも冷たい目で見られる結果に終わった。

 

「失ったモノか───外貨に人材に今後の計画。軽々と補填出来ないモノばかりだ。

ウチみたいな外資系企業だと、本社との繋がりが無くなったのが致命的だ。日本コカ・コーラは原液が、ケンタッキーは社外秘のスパイスが入手出来なくなった影響で高騰し続けている。」

「これからの計画が年単位でパアだからな。我々もだが、取引していた地球の国々も頭を抱えているだろう。

政府や企業の損失はTRM諸国を相手すれば補填出来るが、オリンピックやワールドカップを見れなくなったのは悔しいな。」

「国際的なイベントだけじゃない花火大会にモータースポーツに。物資不足の影響で休止され、未だに再開されてない。高校野球なんかは戦後初の中止になったから、これらの関係者は政府に恨みを持ってもおかしくないぞ。」

「それは問題ない。政府ってのは国民の不満を引き受ける存在だからな。」

 

大洋の思い切った発言に福島が苦笑していると、先ほど注文を受け取ったウエイターが飲み物を持って2人のテーブルへやって来た。

 

「おまたせしました。こちら東和国の千月(ちづき)島産のマンゴーで作られたジュースです。日本に輸入され始めたばかりの珍品です。」

「東和産のマンゴージュースとは──面白いモノを持っているな。」

「こんな珍品に出会えるなんて、お任せにして正解じゃない。」

 

ウエイターが持っていた東和産マンゴージュースと言う珍品に、大洋と福島は興味と面白さが混じった視線を向ける。ウエイターによって濃い橙色の液体がグラスへ注がれ、2人はガラスがぶつかる音を響かせると口へ運ぶ。

 

「濃厚ながら甘みもしっかり感じれる。中々良い味じゃないか!」

「日本でも充分通用する品質だ。ウエイター、千月島産と聞いたがどういう島か知っているか?」

「少しばかりですが知っています。沖縄と同緯度にある最南端の島で、サンゴ礁やマングローブ林目当てに多くの観光客が来るそうです。

温暖な気候を活かして熱帯の作物が栽培されているそうで、このマンゴーも島の南の荒美(あらみ)で栽培されたモノと聞いております。」

「いわば“東和の沖縄”か。観光関連で何か関われるかもな。」

 

東和産マンゴージュースをじっくりと味わう大洋の傍ら、ウエイターから産地の千月島の情報を聞いた福島は、自分の会社が日本人向けの観光キャンペーンで関われる可能性を探った。

 

「こんな話からも仕事に持っていくとは。そっちこそやり手じゃないか。」

「私は社員の命運を背負わされているんでね。最も洋ちゃんが背負っているのは国民か。」

 

大洋は些細な会話から仕事に繋げようとする福島の貪欲さを茶化すも、福島自身は嫌気を感じずに茶化した方がより重いものを背負っていると返した。

2人が会話を続ける中、先程のウエイターが前菜を運んできた。

 

「鯛とトマトのレモン風味カルパッチョです。こちら、全て国産の品で作っております。」

「国産品だけ作ってとは───やはりこの店は別格だねぇ。」

「この経済難の中で閉店してないんだ。この店も我々と同じく、相当やり手だよ。さあ、早く食べようか。」

 

福島は驚きながらも店の凄いを改めて思い知り、大洋は未だに閉店が相次ぐ現状を生き残っている店がやり手だとほくそ笑んだ。

2人は銀色に光り輝くフォークに刺された鯛の切り身と、輪切りにされたトマトを口へ運ぶ。レモンソースの甘酸っぱさが広がる。

 

「そう言えば、噂程度に聞いた話だが、外来種の調理法を東和から輸入すると聞いたが本当かい?」

「本当だ。農水省では城山農水大臣を中心に外来種の調理法を東和から導入する話が本格的に検討されている。大臣は食料自給率の向上に熱心だからな。」

「城山大臣の本気具合は相当だな。これも転移で国民の協力が得られやすくなった恩恵かもしれん。」

 

日本は東和から小麦や大豆・を、チャルネスからはと、TRM各国ごとに担当を分けて食料を輸入している。多くの食料を海外から輸入する体制に変わり無かったが、国交が締結されるまでは全土で深刻な食料不足が発生していた。

備蓄されていた米や食糧用小麦・大豆だけでなく、保存が効くアルファ米やレトルト/インスタント食品・ミネラルウォーター等が給付されたが、それでも転移前の食料事情へ戻るには国交締結から数ヶ月が必要だった。

 

この経験は国民の大半に食料自給率の低さを改善すべくと言う意思を芽生えさせ、これをチャンスと見た城山茂 農林水産大臣の主導で食料自給率の向上計画が始まった。

耕作放棄地や公園・所有者不明の土地の耕作地化や野菜工場増築・植物性代替食品の開発促進に助成金を出すだけでなく、東和から日本の外来種の調理法を輸入するなどを行っていた。

増加した失業者が農業に活路を見抱いた事も相まって、日本全土で耕作面積は増加傾向にあり、外来種の食用化に関しても政府が真っ先に食した事もあって徐々に受け入れられ始めていた。

 

「食料自給率は転移で改善しつつあるが、寧ろ深刻になった問題だってある。メガソーラーが代表例だな。」

「確かにここ最近でその言葉をよく聞く様になった。他人伝いの話だが、日本全国に作ろうする声が上がっているらしいな?」

「あぁ、メガソーラーは色んな問題を抱えているのだが、手軽に発電出来るとして推している短絡的な連中がうじゃうじゃ提案している。

一応水力や地熱・風力・波力と言った再び転移しても、稼働出来る再生可能エネルギーの発電施設建設が計画されているが、稼働までに年単位かかるからそれまでは再稼働した原発で賄うしか無い。」

「長かった節電がトラウマなんだろう。日本の電力は火力発電に頼りっきりではあるのは否めないが、太陽光以外の発電方法は思い浮かばないものなのか。」

「さあな。連中の中には申請が下りない内に工事を始めて、逮捕される案件も起きている。

だが、未だに原発稼働に反対している人も少なからずいるから、原発再稼働もかなりの難題だ。」

 

火力発電が未だに主力の日本だが、その燃料たる化石燃料を自力調達出来ない為に発電量を落とさざる終えなかった。その上、その少ない電力を行政機関や病院・生活インフラ設備へ優先供給した事で、民間に回せる電力が更に減った為に全土で節電が呼びかけられた。

東日本大震災以来となる節電は食料と同じくTRM諸国との国交締結まで続いたが、長きに渡る節電は市民に大きなトラウマを与え、資源無しで発電可能な再生可能エネルギーを求める声を高めた。

 

だが、この動きは問題視されつつあったメガソーラーに追い風となった。再生可能エネルギーで電力不足を解消する・失業者に職を与え、経営難の企業を助けると言った名目でメガソーラーの建設申請が全国で起こった。

大規模な環境破壊を招く上に有害物質をばらまて土地を汚染し、火災や地震が起きると大きな被害を齎す事が近年問題視されているが、そのデメリットよりも再生可能エネルギーの中で最も手っ取り早く作れるメリットが強調されており、日本の新たな問題として急浮上していた。

 

2人はメガソーラーへ話し込んでいる間に、ウエイターは前菜を食べ終えて空になった食器を下げ、入れ替わりでカリフラワーとほうれん草ののスープを持ってくる。

 

「資源の話題で思い出した。この間のガス田爆発事故は政府が増産を指示したとして相当批判を受けたらしいね。」

「南関東ガス田の件だな。アレは急かした政府(我々)も悪いが、どっちかと言えばメディアが主要因だろう。

早く増産しろと煽るだけ煽って、その過程で事故が起きたら過度な増産を批判する。掌返しはメディアの十八番だしな。」

 

福島の投げかけに大洋は苦虫を噛みつぶしたような表情になる。

 

実質的な無資源国である日本は政府主導で石油やレアメタルの備蓄こそせれど、転移で資源の重要性をより一層思い知った事で自国で出来る限り資源を賄う計画が立てられた。

国内に点在する閉山した鉱山や海底資源の再調査を皮切りに、少ないながら存在する油田とガス田の設備増強・都市鉱山と呼ばれる電子部品のレアメタルを廃棄予定の車や家電から回収・植物由来のバイオ燃料の生産量増産・製品のリサイクル率向上などが政府主導で実施された。だが、早急に進めすぎたが故に生産量の増加に安全性が追いつかず、日本最大の天然ガス田 南関東ガス田の採掘施設で7名が死亡する爆発事故が起こる最悪の結果となった。

 

メディアはこの事故を政府が無理にでも推し進めたが故の人災だと挙って非難したが、メディアも事故発生までは資源の早急確保を積極的に煽ったのも一因だった為に、市民どころか野党までもが冷ややかな目線を向ける事態になった。

 

「メディアと言えば世論に合わせて掌返しをするのが役割とも言えるが、転移当初は“救世主”と持ち上げた東和を“大日本帝国の血を受け継ぐ危険国家”と非難したのは流石にアレだったが。」

「アレは東和大使に謝罪する事案になったからな。最も東和もメディアはあんな感じらしい。世界が違ってもメディアのやる事は変わらないらしい。」

 

福島は爆発事故の原因は政府だけではないと大洋を励まし、当の大洋はメディアが引き起こした騒動に政府が対処せざるおえなかった事を述べつつ、国や世界が違っていてもメディアの本質が変わらないと愚痴をこぼす。

 

「メディアの話で思い出した。地球国家の存在を語り継ぐ場所として大阪万博を残す案が発表された際に、メディアごとに“それに使う費用を他に回せ”と“地球にいた歴史を残すべく必要だ”と意見が分かれたのは面白かったな。」

「大阪万博は赴任したTRM諸国の大使に地球について知ってもらうべく見せてるが、どの大使も好印象だと聞いてる。

TRM側の国民も興味を持ってくれるだろうし、残す価値は充分あると思うが、メディアは開幕前の万博の印象が残っているのかもな。転移ついでに無くなってくれると有り難かったが·····」

 

地球国家の存在を残すべく大阪万博を保存する話に対する批判が出ているのに福島が笑っていると、ウエイターがメインの松坂牛のフィレステーキを運んでくる。ブランド牛は輸出先こそ失えど格は失っておらず、飼料作物を輸入しているTRM諸国への輸出も考えられていた。

 

未だ不安定な日本を政治と経済から支える重鎮でもある2人は、久々に会った友人との一時を高級料理を味わいながら過ごしていく。




・福島龍
モデルから名前もあまり変えてないので、直ぐに分かってしまいそうですw あだ名に関しては本人が言ってるまんまですしww

・食品の原料を入手出来なくなった影響で高騰し続ける
外資に限りませんが原料や肝となる品を海外に一任している企業って、繋がりが絶たれただけで致命傷になりそうですね。
今作では実在の企業はそのまま出すスタンスで行ってますが、今更ではありますが大丈夫ですよね?

・高校野球は戦後初の中止
今作の世界はコロナ禍───そもそも新型コロナウイルス自体ありません。
これは前作の執筆開始が2020年で新型コロナの流行開始と丁度被り、予想打にしない状況を作中へ落とし込むのが難しいと判断した為に、“この世界はコロナ禍が無かった”としてやり過ごす事にしました。
故に東京オリンピックは無事2020年に開催出来ましたが、コロナ禍で広まったリモートワークやらは遅れてそうですね。

・荒美
千月島の南に位置する町人口は3.8万人。
マングローブ林やサンゴ礁が広がっている為に千月島南部の観光拠点として機能し、自然を活かした水族館や動物園・植物園・観光ホテルが建っている。
町の郊外には温暖な気候を利用してマンゴーやカカオ豆・コーヒー豆を栽培する大規模農園が広がり、国内で流通するだけでなく、日本含むTRM諸国へ輸出されている。

・メガソーラー問題
現実の問題を取り入れてみました。地元の福島市でも問題提起されていますが、どうなるんでしょうか? 因みにソーラーパネルって国産で賄えますよね?

・地球国家の存在を語り継ぐ場所として大阪万博を残す
万博開催期間に転移したのであれば、徹底的に利用しようと考えた末におもうつきました。写真や文章で見るよりも、実際に体感した方が理解しやすいでしょうと言う安易な考えです。
万博行きてぇ·····
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