New world note in Earth   作:YUKANE

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今回は久々に市民の目線から東和の変化や、伏線について語ります。

読者は1年以上こんな事をうだうだやってないで早くドンパチパートに行けと思っているでしょうが、作者が一番痛感しています。ガチガチに作りすぎると展開が遅くなる弊害があると知れたのは良い戦訓でしょう。


Episode.49 ニホンの名前

都内の雑居ビルの1階に構えるカフェに、OREJournalの記者 城戸新一はいた。転移の食料不足を機に起きた閉店ラッシュを潜り抜けたこのカフェは、令和の時代に古き良き平成初期の雰囲気を残していた。

 

城戸は店の名物でもあるベーコンエッグトーストを食べ、蒲公英(たんぽぽ)を用いた代用コーヒーを飲みながら、取材相手の到着を待つ。

コーヒーこそ代用のままだが、油でカリカリに焼かれたベーコンと、半熟の鮮やかな黄身の目玉焼き、黄金色の焼き色がついたトーストが安価で食べれる様になった事は、外食産業が少しずつ転移前の日常へ戻りつつあると実感していた。

 

「城戸新一で合っているでしょうか?」

桜崎(さくらざき)渓和(けいわ)さんですね。どうぞ、お座りください。何か頼みますか?」

 

カフェの雰囲気に浸っている中、名前を呼ばれた城戸が振り返ると、スーツ姿の若い男が立っていた。城戸はその人が取材相手だと確認すると、対面の席へ座らせる。桜崎がカフェオレを注文すると、それぞれ出した名刺を交換する。

 

「本日は取材を引き受けて頂き、ありがとうございます。」

「こちらこそ宜しくお願いします。」

 

社交辞令交じりの挨拶を交わした城戸はスマホで録音を始め、愛用する手帳とペンを構えると桜崎への取材を開始する。

 

「まず桜崎さんはヤンマーに営業で勤めており、農業機械の売り込みで東和へ向かったと言う事で宜しいですか?」

「合っております。東和(あの国)は農業が盛んですので、上層部は良い市場になると踏んだらしく、市場の確認や会社の認知・製品のデモンストレーションを行うべく、東和の内務省から進出の認可が下りて直ぐに私含む複数の社員が送られました。」

「ここ数ヶ月で農業機械の売り上げは国内も上がっていますが、その中で国外市場の開拓を進めるとは強気ですね。東和へは勿論フェリーで?」

「えぇ、最近出来たばかりの新日本海フェリーのはまなす(神戸から出ている東和行きフェリー)で1日かけて向かいました。

フェリーでしたらデモンストレーションに使う農業機械も一緒に運べるので、非常に有り難かったです。」

 

事前に頂いた相手の情報を再度確認し、時折会社や国内の話題も混ぜて取材は進んでいく。

 

「東和に着いたら目的地まではやはり鉄道で?」

「えぇ、東和横断鉄道(鉄道)で東和一の農業都市 平炉に行きました。持ってきた農業機械らは煤がつかないようにカバーをかける必要がありましたが、貨物列車に載せて運びました。」

「聞いた通り、東和は鉄道が移動の主流ですね。因みに持っていた農業機械の種類を教えて貰っても良いでしょうか?」

「今回持っていったのはトラクターとコンバイン・田植え機・耕耘機・草刈機・除雪機ですね。我が社を代表する農業機械を一通り持っていきました。」

 

取材している間に頼んだカフェオレが届き、代用コーヒーと脱脂粉乳が混じった未知なる味を感じながら桜崎は城戸の質問に答えていく。

 

「東和での生活を詳しく聞きたいところですが、本題に入りましょう。訪れた平炉であった出来事を知って欲しいが故に、今回取材を自ら申し出たのですよね?」

「えぇ、平炉では比楽木(ひらき)農林大臣ら農林省幹部や、現地の農林支局・豪農らを前に持ち込んだ農業機械の実演を行っている中でソレは現れたんです。」

「“ソレは現れた”───熊や鹿とかの動物ですか?」

「動物なのは合っていますが、現れたのは熊や鹿でもなく狼でした。」

「狼!?」

 

桜崎の語る一語一句を速筆で書き記していた城戸だったが、彼の口から狼と言う単語が出ると、思わず書く手を止める程に驚く。城戸の大声にビックリした周りのお客に謝ると、狼の詳細を聞くべく桜崎へ詰め寄る。

 

「狼ってあの狼ですよね? 東和ではどんな扱いを受けているんですか?」

「聞いたところ、農作物や家畜に被害が出た場合にだけ駆除出来る害獣だそうです。

害獣認定されているのは他にも鹿や熊に猿などで、駆除には猟師だけでなく軍隊が加わっていると聞きました。」

「軍隊までもが害獣駆除ですか──“熊を殺すな”と喚いているクレーマーが聞いたら激怒不可避な話だ。」

 

桜崎の語る内容を聞いた城戸は、今の日本で起きている熊駆除の賛否を思い出す。実際に人を襲った熊の駆除にすらクレームを寄せる人が、東和で自衛隊に相当する軍隊も協力していると知れば怒り狂って、ネットで見ず知らずの人々とレスバを繰り広げるのが容易に想像出来た。

城戸は日本の生命線を握っているとも言える相手に、そんな馬鹿げた意見をぶつけられる度胸を他に活かせないか内心で呆れながら、取材を再開する。

 

「それでその狼の種類って何でしょうか?」

「それが··········───オオカミです。」

「はいはい·············はい?」

 

桜崎の話す内容を手帳に書き記す城戸だったが、桜崎の発した単語を脳内で反芻すると、硬直した。そこで出てきたワードは東和にあってはいけないものであった。

 

「もう一度言って貰っても良いですか?」

()()()()()()()です。農林大臣がハッキリとそう言いました。」

「なんてこった·······」

 

桜崎の返事に城戸は頭を抱えた。

 

ニホンオオカミそのものが100年近く前に絶滅したとされている幻の存在だったが、それに似た狼が別の星にいるのは何ら問題は無い。それよりもニホンオオカミに類似している狼に、同じ名前が与えられているのが大きな問題だった。

 

「聞き間違えとかじゃないですよね?」

「間違いないです。誰に聞いても“ニホンオオカミ”と答えました。」

「·····実は東和の人々が話している事が日本語へ自動翻訳されているとかありませんかね?」

「発音はまだしも、書いてある文字を翻訳は出来ないのは貴方も分かっているでしょう。それにこんなこともあろうかと、東和で売られていた動物図鑑を買ってきたんです。」

「それを見せてもらっても?」

 

桜崎の解答で更に矛盾していく城戸だったが、彼が東和で買ってきた動物図鑑を読んでいくと一層脳内は混乱していった。

東和大手の新聞会社が出資して設立された出版社が創り上げた動物図鑑は、子ども向け故に数多くの動物が記載されていたが、そこには堂々と“日本狼(ニホンオオカミ)”の名が載っていた。

 

「子ども向けの図鑑にこうもハッキリ載っているのなら、あっちでもこの名で通用しているのは間違い無いですね。」

「えぇ、他のページも見てください。色んな動物が載っているので。」

「拝見します────“ニホンカワウソ”に、“ヤンバルクイナ”に、“アメリカザリガニ”·······日本だけでなく地球の地名もあるとは······」

「明らかにおかしいですよね。他の社員も疑問に思っていましたが、私以外の社員は東和への支社設置で忙しいので、本社への報告で帰国した私が代表して連絡させて頂きました。」

 

桜崎の語る内容に城戸は納得して頷く。日本や地球の絶滅種が別の星にいるのは驚きこそすれど納得出来るが、それに地球の地名が付いているのは明らかな矛盾だった。

 

ただでさえ、月日が日本と同じで、言語や文化が類似している国々は地球国家との繋がりを示唆するには充分過ぎるモノであり、現に転移直後の絶望感からか急増した陰謀論者は“東和は日本人が作った国家”だと訴えていた。

 

日本国民の大半は陰謀論者の言う事など信用していなかったが、もしこの事実が広まれば根拠の無い妄言が不可解な疑惑へと変貌する。

陰謀論者が日東の交友関係に影響する可能性は限りなく低いが、ここまで興味深いネタを拾わないであろうメディアによって両国を巻き込む大きな騒動になるのは、馬鹿と言われている城戸ですらもハッキリ分かった。

 

「確かにこんな内容は我々の様なメディアが広めるべきですね。公開した暁には、どんな形にしろ国内が騒ぎになるのは確定でしょう。

ただ、何故大手ではなくマイナーなウチを選んだのですか?」

「大手に持ち込むのも考えましたが、ああ言うところは客稼ぎの為に話を脚色して話を盛ったり、真偽不明な意見で伝えたい事を変えかねないのでやめました。

その分、自衛隊から記事の制作依頼を受けた貴社であれば、信頼に当たると判断して連絡させて頂きました。」

「アレは編集長の暴走の副産物です。ただ、それで貴方の信用を得れたのならなりよりです。東和の動物に関する情報は他にありますか?」

「私が話したい事は以上ですが、折角でしたらこの図鑑も持っていって下さい。1000円程ですし、私が持っているよりも貴方がたが持っていた方が有効的に使えるでしょう。」

 

桜崎は動物図鑑を城戸の近くへ運ぶ。城戸は桜崎の話を受けて、図鑑を受け取る。図鑑は子ども向けながら分厚く、陸上だけでなく水中生物や鳥類も載っている為に有意義に長らく使えるだろうと確信できた。

 

「本題の取材はここまでですが、もし時間が許すのであれば東和を訪れた話を聞きたいのですが、宜しいですか?」

「30分程であれば、大丈夫です。私も新鮮な経験を他の人へ伝えたい気持ちがありますので。」

 

桜崎に確認を取り、手帳のページを変えて城戸の取材は再び始まった。

 

「東和の町は中央の都市圏を新興住宅地が囲っていまして、住宅地からは路面電車やトロリーバスで近郊を走る鉄道の駅へ迎える様になっています。パークアンドライド方式と言う様で、自家用車の無い人々も楽に通勤・通学出来る様になっていると、あっちの人は言ってました。」

「海外で導入されているとか言う奴ですね。日本ですら実例が少ないと聞いた事があるので、既に導入済みの東和はかなり先進的ですね。」

 

日本での導入例が少ないパークアンドライド方式が東和で大々的に使われていると聞いた城戸は、東和の先進性を認識する。

しかしながら、パークアンドライド方式は自家用車や自家用バイクが普及しているのが前提になっており、発祥とされるアメリカですら戦後の1960年代に始まっていた。知っている人であれば戦前の雰囲気を醸しているにも関わらず、考えだけは戦後へ踏み入れているのは違和感でしか無かったが、編集長が認める愛すべき馬鹿だった城戸に疑問を抱く術は無かった。

 

「そう言えば、東和で日本の製品ってちゃんと売られているんですか?」

「えぇ、勿論。東和や平炉のデパートで日本製の腕時計や自転車、双眼鏡などが売られてました。

デパートの店員さんが私が日本人だと気づくと、“素晴らしい製品をありがとう”って言われてしまいました。」

「日本人ってだけで感謝されたんですか! そんなに言われる程に、日本製品は人気みたいですね。」

「そうでしょう。平炉の豪農も“魔法瓶を重宝してる”や、“息子の誕生日プレゼントで買った天体望遠鏡の精度が凄すぎる”って言ってましたから。」

「そこまで言われるなんて相当ですね。少し前に中古の壊れた品を東和の人に高値で買わせようとした人が逮捕されたニュースがあった位だから、そうしてまでも日本製品が欲しいって事ですか?」

「確かにありましたね。飼えないからペットを手放す人も増えているって聞きますし、国外は明るくなった代わりに国内は暗い話題が増えた様な気がします。」

 

東和に関する話題がいつの間にかに転移が招いた暗い話題へ変わり、2人の雰囲気も話に吊られて暗くなっていく。この状況を変えるため、もしくは取材のネタを引き出すためか、城戸は話を切り出す。

 

「で、ですけどだからってここまで暗い雰囲気になる事は無いでしょう。

それよりも東和に関する話をもっと聞かれて下さい。」

「勿論良いです。そうですね──食事の話とか·······」

 

とある喫茶店で2人の取材は続いていく。




・代用コーヒーと脱脂粉乳
前話で語った代用食品の一例です。代用コーヒーに関しては戦時中の枢軸国でも飲まれてたらしく、たんぽぽ以外にもどんぐりとか色んなモノが使われていたそうです。(Wikipediaより)
脱脂粉乳に関しては牛乳を安価で長期保存するべく採用されました。戦後を思い出すとかイチャモンつけられそう·····

・桜崎渓和
モデルは令和ライダー4作目の2号ライダーです。あの作品、2号ライダーが分かりにくい····
城戸も平成ライダー3作目の主人公がモデルですが、あんま似てないような·····

・東和の内務省から進出の許可が下りて·····
東和の内務省は国内の行政や警察・消防・インフラ機構を統括しながら、地方のインフラ整備や観光地開発を行う地方管轄局も有しているので、日本企業が東和へ進出する際には内務省による確認が入る。

・東和の害獣事情
今回の伏線パートですね。こんな描写をやったからには、東和の描写に動物を出した方が効果的か?

補足ですが、作者は熊の駆除に賛成派です。同じ人同士に例えると、“殺人を犯した犯罪者を説得しますか? 警察に捕まえてもらう”となりますよね?

・転移後のリサイクル店事情
転移直後の株価暴落で大損した者や景気の悪化によるリストラ・倒産で職を失った者が、生活する資金を得るべく質店やリサイクルショップへ駆け込んだ結果、買取価格が下落する二次災害が起きている。
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