New world note in Earth   作:YUKANE

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今話で前回登場した船団が所属する国家の名前が判明したり、それに関する不自然な点、日本の対応が一気に語られます。

軽装甲機動車の後継車として国産の民生用車両が浮上してきましたが、折角輸入したイーグルやハーケイはどうするんでしょうか? 廃棄するのであれば、何処かで展示して欲しいものです。

最後にUA24000突破ありがとうございます。


Episode.53 誰も知らない敵に備え

国籍不明船団の発見から数日後。世論は2日後に控えた転移後初のクリスマスに沸き立っていたが、首相官邸には張り詰めた緊張感が漂っていた。

 

政府閣僚が一堂に介した首相官邸では、「第三海神丸」で発見された小銃や「PL-74 まつしま」が撮影した写真で判明した国籍不明船団の情報共有と、防衛省と海上保安庁が共同で立案した捜索活動の説明が行われていた。

 

「結論から申し上げますと、「第三海神丸」を襲った勢力は“ティアンワ”と呼ばれ、この船団もその勢力もしくは国に所属している可能性が非常に高いと推測されました。」

 

説明役として防衛省から送られた榑木渡 統合幕僚監部運用調整官の話す内容を、鈴村隆治総理ら閣僚面々は黙って傍聴していた。

 

「国名に関しては撮影された写真に写っている帆船の船体に書かれていた文章と、東和が鹵獲した小銃に刻まれていた言語の解読で判明しました。

船体に書かれた言語が()()()()()()()であった事から、ティアンワはインドネシアに類似した国家と考えて良いでしょう。」

「インドネシア───唯一類似国の無い東南アジア国家だと思っていたが、やはりあったのか。ティアンワの陸地が何処にあるかは、分かってないのだろう?」

 

外交に精通しているが故に、TRM諸国の中にインドネシアに当てはまる国家が無いと気付いていた安川外務大臣は、榑木の説明を素直に納得した。

 

「正確な位置は分かっておりませんが、排他的経済水域(EEZ)よりも東側にあるのは間違いないです。東和も“東側に国がある事は知っていたが、余りにも距離が離れている為に確認出来てない”と証言していたので、1000km以上離れている可能性が上がっています。」

「東和は国があるのを知っていたのか? じゃあ何故接触しなかったのか?」

「それに関しては前述した距離の問題もありますが、当時は冷軽大陸への進出と開発が最優先された為に行われなかったとの返答です。」

「あるか分からない見えない国よりも、見えている国への対応に当たるのは間違ってない。航行技術も未熟な状態で長期間の航海は酷ですし、不可抗力でしょう。」

 

榑木の返答内に東和がティアンワの存在を認知しているにも関わらず、何故確認しなかったのかと大森総務大臣は突っかかったが、東和からの返答と安川の補足に納得するしか無かった。

 

「あの船団はインドネシア語を用いるティアンワが持っているのは分かった。奴らの船と武装に関する情報はあるか?」

「それに関しても今から申し上げます。奴らの船は知っての通り、蒸気機関で動く帆船です。防衛省の資料で整合した結果、創成期の日本海軍が保有していた帆走の軍艦に類似していると判断されました。」

 

鈴村総理がティアンワの帆船に関する情報を求めると、榑木は右手に持つタブレットに記載された報告内容を読みながら、左手に持っていたリモコンを器用に弄る。プロジェクターによって閣僚らの眼前に下げられた垂れ幕式のスクリーンに「まつしま」が撮影した帆船と、創成期の日本海軍が保有していた帆走軍艦の写真が映し出される。

「まつしま」の写真はフルカラーで船体の文字が読めるほどに鮮明に写っている片や、日本海軍の帆走軍艦の写真は白黒で見るからに古い代物だったが、双方の写真に写っている帆船の姿は類似していた。

 

「日本海軍の帆走軍艦を元に武装を産出した結果、一番大きな帆船には20cmクラスと18cmクラスと推定される砲が片舷2門ずつ、中間サイズの帆船には甲板に18cmクラスの砲が2つと片舷に15cmクラスの砲が4門、小型の帆船には同じく2門の18cmクラス砲と片舷に12cmクラスの砲を2門搭載していると見込まれました。」

「帆船で20cm砲だと!? こんなのと海保の巡視船が相対したのか!? もし砲撃を受けたら一撃で沈んでいたぞ!!」

 

帆船に護衛艦の主砲を軽く凌ぐ口径の艦砲が積まれていた事実に、栃木防衛大臣は驚愕する。目視距離での砲撃戦を想定していない護衛艦に装甲など存在せず、海保に至っては反撃する武装すら積んでない船もいる。そんな艦船に20cmもの砲弾が直撃すれば、良くて大破の大打撃を被るのは目に見えていた。

 

「退去勧告で理解してくれたのは奇跡だったと言う訳か───待て、退去勧告に応じたと言う事はティアンワには日本語か英語を知っている者がいるのか?」

「その通りです。こちらをご覧ください。」

 

安川外務大臣の問いに返答した榑木はリモコンを操作し、スクリーンに映る写真を切り替える。

 

「これは東和が鹵獲された小銃で、名称は“ヴァレタ-77小銃”と判明しました。名称の判明に関しては弾丸を装填するボルト機構付近に()()で刻まれていた為に、ティアンワで英語が認知されているのは間違いないでしょう。

小銃そのものに関しては銃身の素材等は違っていますが、構造としては東和やチャルネスも用いているボルト式小銃と同じです。」

「東和やチャルネスはティアンワとやらに接触した記録すら無いのだろ? なのに何故英語を知っている───まさかとは思うがイギリスやアメリカの様に英語が公用語な国家が存在しているのか?」

 

退去勧告に応じた事や小銃に刻まれている証拠から、ティアンワで英語が通じているのは紛れもない事実だったが、問題は英語が何処から伝わったのかが問題だった。東和含むTRMにも英語が広まっているのも疑問だが、そのTRMとも接していない国にすら広まっているとなれば、英語の公用語としている国家がある可能性を高めていた。

 

「それに関しても話しておくべき内容があります。

TRM諸国の武器・火砲・車両・航空機が旧軍、もしくは二次大戦時の兵器に類似しているのはご存知でしょう。このヴァレタ-77小銃に類似している小銃を調べたところ───()()()()が開発したリー・メトフィールドライフルが当てはまると判明しました。」

「と言う事は、ティアンワにはイギリスらしき国家が武器供給をしているとみて間違いなさそうだ。イギリスであれば英語が広まっても何ら違和感は無い。」

「仮にイギリスらしき国家がティアンワを支援して、代理戦争をやらせているのであれば相当厄介だぞ。」

「東和が旧軍兵器を使っているのも不気味だが、イギリスらしき国も同じであれば最早可笑しいじゃあすまない案件だ。

神みたいな上位存在が密かに操作しているか、実は古い兵器が残っているとでも無いと説明がつかない。」

 

ティアンワの小銃がイギリス製小銃と瓜二つな事実は、イギリスらしき国家の存在をより強めた。日本語を話す東和が旧軍兵器を使っている前例から、イギリスらしき国家も同じ状況では無いかと抱かせるには充分すぎた。

ただ、イギリスらしき国家と東和の間に繋がりは無い筈にも関わらず、同じ様相を呈している新たな疑問が浮上した。東和が旧軍にそっくりな兵器を使っている理由も分かってないが、研究者を更に困惑させるであろう事実に閣僚らは現実的では無い意見を述べるしか無かった。

 

「問題はまだあります。この小銃が使っている弾のサイズは7.62×51mmとなっており、これはN()A()T()O()()()()()()()()()()()()()()()()()しているのです。」

「NATOって北大西洋条約機構の事か? その規格と完全一致しているなんてあり得るのか? たまたまでは無いのか?」

「直径だけでなく長さまで一致するのを、たまたまで済ませられますか?」

「ここまでの一致してると偶然では無いでしょう。そうなるとイギリスらしき国家はNATOの基準を知っているとなるが────一体何処から伝わったのか······」

 

榑木が続けて話した内容は、閣僚らの思考を更に混沌にさせた。

戦後に北米と欧州諸国を中心に創設されたNATOは、有事の際に加盟国同士で銃火器の銃弾や火砲の砲弾を共有すべく基準を設けていたが、NATOと縁もゆかりも無い筈のイギリスらしき国家がNATO基準の銃弾を使っているのは、地球と繋がってなければ明らかに説明不能な事実だった。

 

「イギリスが日本の様に地球からこの星へ転移してきているのでしょうか?」

「それなら何かしら通信が届きそうだが····」

「武器や言語だけ転移してきた───いや、それでもここまでソックリにはならないよな·····」

「逆にこっちの住人が地球へ行った可能性もありえますぞ。」

 

閣僚各々がこの疑惑に対する考察を述べていく。どれも現実味が無く、矛盾の多いモノではあったが、国家転移を体感した以上、あり得なくはないとしか言えなかった。

 

「NATO弾の件は後で良い。喫緊の課題はティアンワ船団に対する対処だ。

それに関して自衛隊はどの様な体制を敷いているのか?」

「その件に関しては桐島作戦主任参謀から説明があります。」

 

鈴村総理は雑談とも取れる考察を話し合う閣僚を窘め、ティアンワ船団に対して自衛隊が取っている体制を聞いた。

榑木は自らの専門外でもある為に、自衛隊の捜索体制を解説すべく自衛艦隊から派遣された桐島龍樹一等海佐へ役割を受け渡した。

 

「説明を引き受けた桐島です。ティアンワ船団に対する捜索体制としては、海自を中心に空自や在日米軍・海保と共同して捜索しております。」

 

榑木からプロジェクターのリモコンも引き受けた桐島は、リモコンを操作してスクリーンに写る画面を東日本全域の地図へ切り替える。

 

「艦艇としては大湊を母港とする第5護衛艦隊は、1隻のイージス巡洋艦と3隻の護衛艦で組まれた艦隊を作り、網走と襟裳岬沖に展開させています。

横須賀を母港とする第6護衛艦隊は各艦艇を関東沿岸から小笠原諸島へ展開しており、「DDG-177 あたご」が統率しています。この2艦隊に加えて函館基地隊の第1ミサイル艇隊が、1艇ずつ根室と気仙沼沖に展開しています。

航空機では八戸基地の第2航空群第2航空隊と厚木基地の第4航空群第3航空隊のP-1や、三沢基地の偵察航空隊第502飛行隊のRQ-4(グローバルホーク)、同基地に駐留する米海軍の第1哨戒偵察航空団のP-8(ポセイドン)も船団を捜索していますが、太平洋沖には低気圧がある為に未だ発見出来ていません。

また、万が一の事態に備えて哨戒機には空対艦誘導弾(ASM)を搭載させ、百里基地所属の第7航空団第3航空隊のF-2Aには、爆装状態でスクランブル待機させる指示を、太平洋沿岸の陸自部隊にも展開指示を出しました。

海上保安庁に関しては関東沖合には「PLH-03 さがみ」率いる第3管区の、東北の太平洋側には「PLH-05 ざおう」率いる第2管区の船舶が展開しております。

これに加えて羽田航空基地に配備された救難捜索機 「LAJ500 うみわし1号」と「LAJ501 うみわし2号」が伊豆諸島と房総半島沖合で、同じく仙台航空基地からも救難捜索機の「MA727 おおたか」が福島県沖合で空からの捜索に参加しています。」

 

桐島は説明していく度にリモコンのボタンを押し、展開した艦隊や航空機をスクリーンの地図へ写していく。自衛隊と在日米軍・海保が共同で組み上げた捜索網は隙間の無い様に広げられ、ティアンワ船団を捜し出そうとする圧倒的な熱意を感じられた。

 

「海上と空の2重でここまで徹底的な捜索網を広げているとは──帆船がこれを掻い潜るのは至難の業じゃないか?」

「万が一の事態は起きて欲しくないが、どうなるやら·····」

「今更だが、当該海域に民間船舶はいないのだな? 「第三海神丸」の二の舞になるのだけは避けなければならない。」

 

閣僚らは隙間なく作り上げられた捜索網に関心していたが、音次経済産業大臣が民間船舶に対する心配を口にする。それに返答したのは桐島ではなく、中川国土交通大臣だった。

 

「それに関しては問題ない。ティアンワ船団発見の翌日には太平洋を航行禁止にし、通る全民間船舶には運休もしくは迂回を命じた。漁船も含めて行っているから、民間船舶が攻撃に合う心配は無い。」

「中川国土交通大臣の仰った通り、現時点も太平洋海域の航行禁止は続いています。

ただ例外として、北海道の室蘭から日本海経由で茨城県の鹿島製鉄所へ屑鉄を運ぶ予定だった日鉄物流のばら積み貨物船「ブルーアクア」が、津軽海峡が天候不良で通れなかった為に海保の護衛付きで航行しています。」

「1隻だけとは言え、懸念事項だな。」

 

中川国土交通大臣の返答に補足した桐島は、咄嗟に切り替えたレーザーポインターでたった1隻の貨物船が通るルートをなぞっていく。

 

「低気圧が厄介だな。もし、その下に入れば見つけられないぞ。」

「情報収集衛星さえあれば影響を受けずに見つけられるかもだが、全て地球に置いていってきたからな。」

「転移から半年も経ってないのでやむを得ませんが、この事象で必要性が増しましたね。JAXAに最優先で開発してもらいましょうか?」

 

閣僚らは唯一の懸念である低気圧にティアンワ船団が重なっている可能性を危惧し、それを打開する術になるかもしれない情報収集衛星の必要性を強く感じ取った。

そんな閣僚らに対して、桐島と榑木は気まずそうな表情になる。

 

「JAXAって今、人工衛星の全てを引き受けているんですよね? そんな余裕あるんでしょうか?」

「知り合いからとんでもないブラック企業になったと聞いているが、もっとヤバくする気か?」

 

防衛省勤務の榑木と元空自の桐島は何かしらの情報筋でJAXAの現状を聞いており、その現状を閣僚は知らないどころか、更に悪化させようとしている事に頭が痛くなった。

そんな中、部屋に入ってきた職員が焦った様子で2人に小声で話しかける。その内容を聞いた桐島と榑木は一瞬にして青ざめる。

 

「最悪だ·····」

「何かあったか!?」

「一番最悪の事態が起きました。ティアンワ船団と「ブルーアクア」の護衛隊が接触、戦闘状態に入りました。」




・2日後に控えた転移後初のクリスマス
今話の日付は12月22日です。プロットでは日付もつけていましたが、これまで上手く出せる場所が無かった様に思える。

・ティアンワ船団の軍艦
一番大きな帆船は装甲艦 扶桑、中間サイズの帆船は金剛型コルベット、小型の帆船は葛城型スループをベースに作り上げました。外見も同じ感じで大丈夫です。
艦名も考えておりますが、それは次回以降で出てきます。

・イギリスらしき国家
国名に関しては後に出てきます。NATO弾に関する答えもちゃんと出せると思います。

・第5護衛艦隊が展開した艦隊編成
網走沖の艦隊
イージス巡洋艦「DDG-207 あだたら」
護衛艦「DD-107 いかづち」・「DD-116 はやなみ」・「DD-127 はるつき」
根室沖の艦隊
イージス巡洋艦「DDG-208 ばんだい」
護衛艦「DD-109 ありあけ」・「DD-118 おきなみ」・「DD-126 なつづき」

・情報収集衛星なら低気圧の下も見える
こんなとんでも技って出来るんでしょうか? 個人的には出来ないと思いますが、これはフィクションなので許してください。
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