New world note in Earth 作:YUKANE
余談ですが、大阪万博が終わってしまいました。ずっと行きたいと思っていたのですが、行けずじまいでした。日本でやる次の万博には絶対に行こう。
日本の東に広がっていた太平洋は世界最大の海洋であり、長きに渡る親しみからか、日本の転移以降も同じ名で呼ばれていた。
そんな広大な海はティアンワの船団に対する被害を未然に防ぐべく、漁船含む民間船舶の往来が禁止された事で人工物の無い自然へと還っていた。警戒中の海自艦や海保船こそいれど、すれ違う船がいなくなった自然に近い海を進む唯一の商船が日鉄物流が保有するの「ブルーアクア」であった。
元々はフィリピン向けのばら積み貨物船として尾道造船で建造されていたが、転移で納入先が消えた為に日鉄物流へ引き取られて鉄鋼や屑鉄専門の内航貨物船として使われていた。
今回の航海は室蘭港から鹿島製鉄所へ屑鉄を運ぶものであり、太平洋の航行禁止を受けて日本海回りで向かう筈だったが、天候不良で津軽海峡が通れなかった影響と出発地と目的地がどちらも太平洋側である事から、例外的に海保の護衛付きでの太平洋航行が認められていた。
室蘭から石巻沖までは第二管区八戸海上保安部に属する「PM-40 まべち」が護衛し、石巻から大洗間はティアンワの船団が目撃された海域でもある為か、「PL-34 まつしま」と「PM-58 なつい」、「PM-31 あぶくま」の3隻によって厳重に護られていた。
「船長。約1時間程で第三管区への引き渡しポイントの大洗沖へ到達します。」
「あと1時間か。もう少しだからと油断はするな。未だに見つかった報告は来てないからな。」
最後尾を航行する「あぶくま」の船橋では、船長の
ティアンワ船団が確認された海域は暫く前に通過していたが、未だに発見されていない為に何処に現れてもおかしくなかった。
ティアンワ船団の全艦艇は10cm超えの砲を搭載しているのに対し、海保の船舶は大きくても30mmの武装しか搭載されていない上に、装甲も無い為に戦った場合は負けるのが確定している。しかしながら、民間人を護る為に無謀な相手に対しても戦う覚悟を決めていた。
「っ!?───低気圧の中に黒煙らしきモノを視認!!」
「低気圧の中だと!? 帆船にそんな事が出来る筈が····」
船橋左舷側に立つ見張り員の報告に喜里川は驚く。彼自身も左舷側へ向かい、支給された双眼鏡でその方角を眺める。
船団の東側に鎮座する低気圧は勢力が強いのか、曇と見間違う程に深い靄が覆っていた。その中から炭の如く真っ黒な黒煙が時折立ち上り、間もなくして靄の中に船首から伸びるバウスプリットが特徴的な帆船の姿が複数映し出された。
「10時方向に複数の帆船を確認!! 不審船団と思われます!!」
「よりにもよって、ここに来やがった!! 「まつしま」に船団接近を報告!! 相馬沖の「PLH-05 ざおう」と宮城海上保安部にも連絡を入れろ!!
本船はこれから退去勧告を送るべく船団に接近する!!」
喜里川の発言に船橋の面々は覚悟を決める。
「あの帆船には護衛艦を凌ぐ砲が搭載されている。この船など直撃すれば一撃で海の藻屑だ。
だが、我々が引きつける事で「ブルーアクア」が逃げられる確率は高まる。市民を護る為の犠牲となるのだ、許してくれ。」
1000t超えと思われる帆船に対して、350tの中型巡視船など勝ち目があるとは思えないが、それでも海に生きる仲間を護る為にこの命を捧げる覚悟を船員は既に決めていた。
「取舵いっぱい!! 総員気を引き締めろ!!」
喜里川の指示で操舵手が舵輪を回し、「あぶくま」の進路をティアンワ船団へ向ける。「あぶくま」が向かっている間にもティアンワ船団は低気圧から脱出し、「ブルーアクア」ら船団を視認して直ぐに接近する「あぶくま」の存在を認識した。
『こちらは日本国海上保安庁。貴艦隊は日本国の領海へ侵入している。速やかに···!?』
船員の一人がスピーカーを用いて海域からの退去勧告をティアンワ船団へ伝えている中、船団の先頭を進む2隻の副砲が「あぶくま」へ向けられる。
「奴らやる気だ!!」
「こっちの話は聞かないようだ。そっちがその気ならやるしかない!! 機関全開!!」
「敵艦発砲!!」
新潟原動機ことIHI電動機製の16V20FX ディーゼルエンジン 3基が瞬く間に全開となり、15000馬力もの出力が同じく3基のウォータージェット推進器に伝わる。太平洋と言う青いキャンパスに白波を描く様に駆け出した直後、帆船コルベット「ナハイア」・「メレイア」が向けた15cm砲が火を吹いた。
轟音を立てて放たれた15cm砲弾は「あぶくま」の元へ飛んでいくが、最高速力と言える35ノットを発揮した「あぶくま」は既に着弾した海域からは離脱していた。砲弾は標的に着弾する事なく落ちた海中で爆発し、マストを越える水飛沫を起こした。
「あんな砲弾を撃てるとは!!」
「より一層近づけちゃいけないな!! 機銃の射撃を準備!! 標的は小さめの帆船だ!」
船長の指示を受けて、船橋前に鎮座するJM61-RFS 20mm多銃身機銃が船団に向けて旋回し、航空機搭載機銃から軍艦の
船体と同じく白い箱に囲われた機銃は、操舵室上の赤外線捜索監視装置を用いた
命中した20×102mm弾は鉄骨の骨組みに貼りついた石油製の
「1隻が爆破!! 大破······いや、撃沈確実!!」
「木造の船体で助かった。「ブルーアクア」が逃げ切るまで引きつけるぞ!!」
1隻を沈めた結果は船員の士気を大いに高める。海保で初めてであろう撃沈戦果を得ただけでなく、5倍近い相手へ自らの武器も通用するのが証明された事は、勝ち目が無いであろう敵に抗える希望を与えた。
しかしながら、56mしかない小型船に軍艦を沈められたティアンワ側も警戒すべき相手と認識したのか、艦隊の一部を仕向けてきた。
「敵船団の一部が分離! 大型1、中型2、小型2隻が接近!!」
「この一隻に5隻か。厳しいが、やるしかない!!」
「あぶくま」はヘリ搭載型巡視船並みの軍艦を5隻も相手する羽目になったが、船員には同じ海の仲間を護るべく逃げる選択肢は無かった。
「あぶくま」はディーゼルエンジンを全開に回し、ウォータージェットで海面を高速移動しながら5倍の相手を撹乱していく。大型のフリゲートは37mm速射砲を、中型のコルベットは76mm砲を、小型のスループは127mm砲で攻撃するも、帆船では発揮不能な速力に対応出来ないのか、水柱を上げるだけだった。
「中型と大型の船はやれるだろうか?」
「その2タイプは舷側に鉄板を貼っているので分かりません!」
「小型の船をやっつけるしか無いか──っ!?」
喜里川は「あぶくま」唯一の武装 20mm多銃身機銃でフリゲートとコルベットを撃破出来るか問いかけるも、船内から観測を続ける見張り員は舷側に貼られた鉄板を理由に不明と答える。
「あぶくま」が対抗できる限界を察した瞬間、その船体を大きな振動が揺らす。揺れが収まらない内に天高く上がった水飛沫が、50mの船体に降り掛かって全てを濡らした。
「進路上に砲撃を食らいました!!」
「やられたな·······」
「大型船の砲がこっちを向いてます!!」
「っ!?」
ティアンワ側は当たらない砲撃に苛立ったのか、進路を止める選択を選んだ。その選択は当たり、進路上に砲撃を受けた「あぶくま」は急停止を余儀なくされた。
船体を包んだ水飛沫が剥がれた途端、「あぶくま」に照準を合わせたフリゲートの上甲板に備えた18cm砲が撃たれる。フリゲート「エシェリヌ」が放った18cm砲弾は、海上で停止して逃げる事が出来ない「あぶくま」の船橋へ直撃した。
装甲が無さすぎた為か、18cm砲弾は爆発することなく船橋を貫通するが、その衝撃は内部の船員ごと船橋を破壊していく。貫通しきった砲弾は海面へ着弾し、爆発で上がった水飛沫は紙の如く壊れかかった船橋にダメ押しをかけた。
「あぶくま」の船橋は原型を留めない程に壊れ、その中にいた喜里川ら船員は一瞬にして命を奪われた。
◇
「「あぶくま」が被弾!!」
「あぶくま」の被弾は「ブルーアクア」を護衛しながら、ティアンワ船団を迎撃していた「まつしま」の船橋からもハッキリと視認出来た。
「被害状況は!!」
「船橋が全壊しています!! 船員の有無は不明!!」
「くそっ!!」
「まつしま」船長の加藤洋貴三等海上保安監は、見張り員の報告に思わず声を荒げる。
「あぶくま」の損傷具合は遠目でも分かるほどに酷く、船長らが助かっている見込みは無いだろう。喜里川船長とは同僚として、仲間として親しんできた為に、彼を失った悔しさが彼の中で舞い起きる。
「「あぶくま」と戦っていた帆船がこちらへ転舵しました!!」
「やはり来たか!! ただでさえ芳しく無い状況なんだが····」
船橋を失った「あぶくま」が戦闘不能になったと確認した5隻は取舵を切り、船団の元へ進路を変えた。
「あぶくま」が時間を稼いでいる間に護衛対象の「ブルーアクア」を逃そうとしたが、「ブルーアクア」自体の航行速度が遅かった上に、ティアンワ船団が2つに分離して追いかけてきた事でそれは叶わなかった。
数で圧倒的に優位なティアンワ船団が接近してくると2隻とも唯一の武装で攻撃を始め、「ブルーアクア」を隠すように陣取る「まつしま」は船首に装備したブッシュマスターⅡ30mm機銃の射撃でスループ「ジェネメ」と「コルトナ」を沈め、機動力で足止めを行なった「なつい」もJM61-RFS 20mm多銃身機銃でスループ「カスティア」を沈めていたが、戦況は海保不利から変わらなかった。
「茨城県沖なら空自の部隊が来るんじゃなかったのか!?」
「百里の
「こんな大事な時に!!」
頼みの綱だった空自の戦闘機部隊が、天候不良で来ないのを知った加藤がまたしても大声を上げる。不満をぶち撒けたくなったが、それをやっても現状は変わらないどころか悪化する一方だった。
「大型船が接近!!」
「アレを近づけるのはマズい!! 大型船はマストを射抜いて足止めしろ!!」
船団に3隻しかいない帆船フリゲートの1隻 「トルトーク」が近づいてくると、それを優先して食い止めるべく指示を出す。左舷へ旋回した30mm機銃がフリゲートへ撃ち込まれ、狙い通り射抜かれたマストが甲板に倒れる。
「フリゲート艦! 戦闘不能に陥りました!!」
「よくやったぁ──っ!?」
重要な戦力であろうフリゲートの無力化成功に加藤ら船員が喜んだ瞬間、「まつしま」の船体を波とは異なる衝撃が揺らした。
「被害報告!!」
「砲弾が船首に命中!! 船首が無くなりました!!」
揺れを耐えきった加藤だったが、砲撃によって失われた船首を見て絶句した。鋼製の白い船首は紙の如く拉げ、その衝撃は錨を壊す程であった
「船首部に浸水!!」
「船首破損の影響で速度が落ちていきます!! 機銃にも不具合が出ております!!」
「なんてこった·······」
船首への浸水報告は全員を絶句させた。水に浮かぶ船にとって浸水は絶対に阻止しなければならない要素であり、速度を落として対処する必要があった。
しかしながら、速度が落ちた事で被さっていた「ブルーアクア」が丸見えになり、非武装の貨物船がティアンワ船団の格好の標的に晒された。
「「なつい」はどうなっている!!」
「砲撃で機銃を喪失しました!!」
「なんてことだ······」
「まつしま」と「なつい」両船が戦闘不能に陥り、加藤ら船員は反撃する手段が失われた事を察したが、どうする事も出来なかった。
「まつしま」を損傷させたフリゲート「エシェリヌ」は横を素通りし、後方から合流したフリゲート「ベリアレス」と丸裸にされた「ブルーアクア」へ接近していく。
「ブルーアクア」もディーゼルエンジンを全開に回して逃げ出そうとするが、それはフリゲート艦の18cm砲で防がれた。連射された18cm砲は瞬く間に「ブルーアクア」へ立て続けに命中し、船内から炎が立ち上がる。
「あぁ··········」
「なんてことだ·········」
ティアンワ船団の砲撃を一方的に受けた「ブルーアクア」は激しく炎上し、時折爆発も起こす。加藤ら「まつしま」船橋にいた船員はその光景を黙って見ているしかなかった。だが、悲劇的な状況を一瞬で挽回する切り札が、戦闘海域へ到着しようとしていた。
「7時方向から何かが飛んできます!!」
それに気づいたのは見張り員だった。4発のそれは海面スレスレを何十kmも飛翔し、加藤らが見ている眼前で天高く急上昇する。
それは気仙沼沖から急行中の「PG-825 わかたか」が発射した日本初の国産艦対艦ミサイル
1発ずつ命中した
鋼鉄製軍艦すらに致命傷を与える
「じ、自衛隊が·········来たのか?」
「こ、これはチャンスだ! 「なつい」を「ブルーアクア」に横付けさせて、乗組員を救助させろ!!」
飛翔物の発見から一分足らずで、海保に猛威を振るったフリゲートが全て轟沈した光景に船員らは唖然としていたが、加藤は絶好のチャンスを逃すまいと指示を出した。
加藤の指示は生きていた無線を用いて「なつい」へ伝えられ、新潟発動機製V1620FXディーゼルエンジンとウォータージェットを組み合わせた25ノットの高速性で、転覆しかかっている「ブルーアクア」の元へ急行する。
ティアンワ船団は主力艦を一瞬で沈められた衝撃故か、呆然もしくは混乱して攻撃すら出来ていなかった。それを味方につけて攻撃を受けずに「ブルーアクア」の元へ到着した「なつい」は、沈みかけた船から脱出した乗組員の救助を開始した。
主力を失っていた混乱しているティアンワ船団だったが、その内の一隻スループ「ラティナ」が突如として爆発した。爆発した「ラティナ」が沈没していく内に、近くにいたコルベット「レレイア」も爆発して73.5mの船体が真っ二つに折れる。
この2隻を沈めた相手は相馬沖から急行した「PLH-05 ざおう」と「PL-64 くりこま」で、到着とほぼ同時に開始された攻撃は奇襲と同義だった。
主力艦を一瞬で失った上に、更なる増援の到着から不利を悟ったのか、ティアンワ船団はバラバラに海域からの離脱を開始する。合流したばかりの「ざおう」はエリコン 35mm単装機関砲とJM61-RFS 20mm多銃身機銃で、「くりこま」はブッシュマスターⅡ 30mm機関砲で逃げ出したティアンワ船団に追い討ちをかけ、35×228mm弾が連続して命中したコルベット「デメイア」は船内から誘爆して沈没した。
「ブルーアクア」から離れたティアンワ船団と入れ替わりで、急行した第三管区の「PLH-03 さがみ」や「PL-31 いず」などの船艇が海域へ到着し、損傷した海保船の対処を行いつつ、武装しながらティアンワ船団の乗組員救助を開始した。
暫くすると羽田航空基地を離陸した「MH805 わかわし1号」や「MH691 いぬわし」、仙台航空基地から駆けつけた「MH968 うみすずめ1号」・「MH965 うみすずめ2号」も合流し、ホイスト降下を用いてティアンワ船団乗組員の救助を行なった。
2隻の巡視船に追尾されていた残存しているコルベット2隻とスループ3隻は、巡視船が途中で離れて救助へ向かった為に安堵したのも束の間、先程フリゲートを全滅させた「わかたか」が
帆船では発揮不能な高速で動く「わかたか」に5隻は狭斜すら出来ず、寧ろ発射速度を向上させたスーパーラピッド仕様の62口径76mm単装砲で1隻ずつ沈められ、ティアンワの船団は全滅した。太平洋に放り出された5隻の乗組員も、勝浦沖から合流した「FFM-1 もがみ」と「FFM-2 くまの」に救助された。
この海戦は“いわき沖海戦”と呼称され、2001年の九州南西海域工作船事件以来となる海保の実戦となり、同時に海保初の戦死者を出す結果に終わった。護衛対象だった「ブルーアクア」も沈没し、副船長ら複数の乗組員が犠牲になった。
この海戦の結果は海保に護衛を任せた体制に非難が集まったものの、日本国民のティアンワに対する憎しみと恐怖を極限まで高める事になった。
・ブルーアクア
この船は今までとは違って、丸っ切り架空の船です。流石に実在の貨物船を沈めるのはマズいので·······保有会社が実在なのでこの配慮は無駄かもしれないけれど。
因みに副船長に関する騒動が次回で起こると言っておきます。
・帆船の低気圧内航行
実際に出来るかは分かりません。まあ、勝海舟ら遣米使節団を載せた咸臨丸も荒天を乗り越えたので、大丈夫でしょう···
・海保の被弾具合
砲弾の貫通した描写は日本国召喚の「しきしま」被弾描写をベースにしました。あちらは46cm砲弾でしたが、こっちは「しきしま」より小さいので18cm砲弾でもなるだろうとしました。
・百里の
初期プロットではF-2の精密爆撃でティアンワ船団を全滅させる筈でしたが、精密爆撃だとしても海保船や「ブルーアクア」に誤爆する可能性があるとして却下しました。
それでも少しぐらい出したかったので、こんな形になりました。