New world note in Earth   作:YUKANE

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高市さんが日本初の女性総理になりましたね。前作に多大な影響を与えた空母いぶき GREAT GAMEに女性総理が出ていますが、まさか現実に追いつくとは·····
防衛大臣には小泉さんが就任しましたが、横須賀生まれなので追浜の日産工場跡地の話が進むかもしれませんね。

最後にUA25000突破ありがとうございます!


Episode.55 焚き付けられた開戦

12月26日の東和は全土で雪が降っていた。クリスマスが終わり、町中に設置されていたクリスマスツリーや路肩のお店に施されたクリスマスの装飾が片付けられていた。クリスマスセールが行われていたデパートや商店は、年越しセールへと切り替えて品物を売っていた。

 

東和へ赴任した日本人の中にはクリスマスの文化が何処から来たかに疑問を抱く者もいたが、日本と似て非なる異国のホワイトクリスマスを楽しんでいた。

しかしながら、クリスマス中でも世論はいわき沖海戦の衝撃が支配していた。「第三海神丸」の事件発覚からまだ日が浅い上に、襲撃した相手とされるティアンワ船団が起こした事もあって、衝撃はより一層強かった。

 

いわき沖海戦の報は無論東和政府にも伝わり、外務省や東和軍は徹夜で日本と連絡を取り合い、ティアンワに関する情報の収集に努めた。

関係者の睡眠時間を犠牲にしてティアンワの情報を纏められたレポートは完成し、東川大統領の元へ渡すべく寺済外務大臣は大統領官邸へ向かった。

 

「こんな朝早くに訪れて申し訳ありません。」

「構わんさ。資料が完成次第来る様にと言っていたからな。寧ろ君の方が寝てなさそうで不安になる顔になっているぞ。」

 

和装の寝間着姿の東川大統領は寺済外務大臣が持ってきたレポートを居間で向き合いながら受け取り、殆ど睡眠を取っていない為に目の下に薄っすらと隈が出来ている寺済に心配の言葉をかける。

 

「日本側もかなりの被害が出たと聞いていたが、貨物船1隻沈没に巡視船1隻大破、巡視船2隻損傷とはかなり酷いな。犠牲者もかなり出たのでは無いか?」

「現在把握している時点では副船長含む10名の貨物船乗組員と、「PM-31 あぶくま」(大破した巡視船)の船長ら8名の18名が犠牲となりました。」

「そうか·······戦闘した海上保安庁は海上警察扱いだと聞いているが、帆船とは言え軍艦相手によくぞこの犠牲で済ませた。

確認するがティアンワの船団に関しては全滅したのだな?」

「急行した「PG-825 わかたか」(海上自衛隊の高速艇)によって確認済みです。撃沈した艦船の乗組員は救助した上で、現在は黒羽刑務所(閉鎖された刑務所)を利用した収容所に収監されています。」

 

座布団に座る東川は日本製ホッキチスで纏められた冊子を丁寧に読み、疑問点を1つずつ対面に座る寺済へ聞いていく。

冊子内には大破した「あぶくま」が第三管区から急行した「PL-31 いず」の曳航でユニバーサル造船 京浜工場に入渠した事や、収容された乗組員の中に船団の司令官がいた等も記載されていた。

 

「「第三海神丸」襲撃から危険な相手だとは思っていたが、まさかここまでとは·····」

「被害が出てしまったのは残念ですが、これ以上被害が出ないのは安心してください。

加えまして、捕虜となった乗組員の聴取からティアンワ本土の位置が判明した為に、外交官の派遣と護衛を兼ねた艦隊の派遣を海軍に頼んでおります。」

「本土の位置が分かったのは大きいな。国の存在は分かっていたが、その情報だけで捜索するのは無鉄砲にも等しいからな。」

 

寺済からティアンワの本土位置と、外交官を載せた艦隊の派遣を宣告された東川はそれに同意する。東和もティアンワによって国民に犠牲が出ている以上、砲艦外交をしてまでも相手から謝罪を引き出す必要があると分かりきっていた。

 

「その話は日本に伝えたか?」

「大使館経由で伝えました。返事の方はまだ──」

 

寺済が話している中、2人の間にある机に置かれていた固定電話がなる。日本からすれば古めかしい黒電話の受話器を東川は取った。

 

「私だ───外務大臣。君あての電話だ。」

 

東川から渡された受話器を受け取った寺済は、受話器越しの相手と話す。暫くして受話器を本体へ戻した寺済は、東川へ向き直る。

 

「日本側がティアンワへ派遣する艦隊に外交官を載せて欲しいと要請が来ました。」

「やはり来たか。日東2国を相手にティアンワはどの様な判断を下すのだろうな?」

 

日東両国がティアンワに対する外交官派遣を知った東川は、ティアンワが取る対応に興味を示す。果たして対話を選ぶか、それとも全面戦争を望むか、どっちに転ぶか思考している東川だったが、後ろの障子が開かれる。

 

「大統領。朝食が出来ましたが、お出しいたしましょうか?」

「では、私はこれで──」

「外務大臣、君の分もある。休まずに働いてマトモな飯を食べてないだろうから、食べていけ。」

「これは申し訳ありません。ご厚意に甘えさせて頂きます。」

 

寺済が東川へ礼をすると、大統領官邸の使用人が朝食を運んでくる。

朝食は鱈の煮付けをメインに、ほうれん草のお浸しと大根の漬物、豆腐の味噌汁、白飯で構成され、家庭科の教科書に出てきそうな典型的な様相を呈していた。

 

「教科書の如くバランスの取れた食事ですな。」

「大統領である以上、病魔で倒れて国家を停滞させてはいけないからな。冷めない内に頂こう。」

 

東川の助言もあって、2人は手を合わせ、目の前の朝食を食べ始める。殆ど休まず、マトモな食事を取れなかった寺済は疲れも相まってか、暖かい食事に心を癒した。

 

 

大統領と外務大臣が朝食を採っている頃。東和から南東に1000kmほど離れた日本の首都 東京も雪が降っていた。転移で温暖化まっしぐらだった気候が下がった影響か、降雪量は近年の平均を超えていた。

都会の人々は慣れていない降雪に交通網は混乱し、その影響は日本政府の政府機関が集まった霞が関にも響いていたが、その一角に構える外務省庁舎に朝早くから来客が訪れていた。

 

「外務大臣。(はざま)駐日大使が到着しました。」

 

冠城外務事務次官に連れられて現れたのは、駐日東和大使として赴任した間藤吉と補佐官の連月マナハであり、既に待っていた安川外務大臣へ会釈する。

 

「お久しぶりです。安川大臣。」

「こちらこそ赴任以来だな。時間がないので、早速だが本題に入らせて頂く。」

 

定型文通りの挨拶を交わした間ら大使館要員は、安川大臣の対面に着席する。

 

「単刀直入に言わせて頂こう。貴国がティアンワへ送る外交使節に我々日本国も加えて頂きたい。」

「──っ!!」

 

安川大臣の返答は分かりきっていたものだが、平和主義を重視していた日本国が自ら戦場へ足を踏み入れる覚悟を決めたのは大きな変化だと言えた。

 

「日本国の意思は受け取りました。しかしながら、海上自衛隊の護衛艦を使わずに我が国の軍艦に乗艦する理由をお聞きしても宜しいですか?」

「端的に申しますと、貴国の軍艦の砲が安全だからです。

海自の護衛艦は武装こそ強力ですが、その大半が船体に内蔵されている為に視認して威圧出来る武装が少ないです。加えて、護衛艦に装甲は付いていない為に、万が一攻撃を受けた場合には致命的な打撃を受ける可能性が考えられます。

それに対して、東和海軍の艦艇は大口径砲による視認での威圧が出来る上に、充分な装甲が施されている為に不意打ちの攻撃であっても耐えられると判断しました。」

 

安川が長々と話した理由に間は納得した。日本の護衛艦は東和の戦艦を凌ぐ力を有するが、見た目だけであれば大口径砲を複数備えた東和海軍艦艇の方が圧倒的強者の雰囲気を醸し出している。

 

「事情は分かりました。貨物船を襲う相手ですので、外交官を襲う可能性も否定出来ませんので、外交官を護る意味で賢明な判断だと私は考えます。」

「艦の違いを適応として活かしただけです。人は情報の80%を視覚から入手していますから、威圧と言うルッキズムを存分に使わせて頂きましょう。」

「砲艦外交はBMCでも効果的だと聞いてますし、ティアンワ相手にも効果があるでしょう。

話は変わりますが、ティアンワの本土に関する情報を入手したと聞いております。我が国も送る以上、どの様な内容か見せて頂いても宜しいですか?」

「勿論だ。」

 

安川が目線を向けると、脇で控えていた職員らが間らの前に大きめの紙を広げる。そこには一部が破れながらも、南北に並んだ2つの大きな島を中心に、大小の島々で構成された列島を記した地図が写っていた。

 

「撃沈された船に積まれていたであろうティアンワ本土の地図が、奇跡的に無傷で入手出来ました。

原本は国会図書館で保存作業に入っているので、こちらはそのコピーです。」

「これがティアンワの国土──文字通り絶海の孤島だったとは····」

「絶海の孤島に関しては、周辺海域が載った地図が入手出来なかったから言い切る事は出来ん。ついでに支援していると思われるイギリスらしき国家の情報も入手出来てない。」

「それに関しては捕虜への尋問で聞けるかもしれません。しかしながら、今回の決断は国民世論を鑑みてですか?」

「そうまってしまいますな·······」

 

ティアンワ本土の地図を一通り見た間は、日本政府の決断には国民世論が影響しているか聞いた。

「第三海神丸」襲撃は転移の変化に慣れきって、TRM諸国の観光名所特集や激減したサイバー攻撃などの事柄が流れていた世論を凍りつかせ、いわき沖海戦の一報と犠牲は世論を怒りと報復へ向けた。

ネットではティアンワに対する謝罪や賠償請求を求める声だけでなく、自衛隊を動員して戦争を吹っ掛ける過激な意見も存在していた。

 

「朱雀戦争を経て、戦争に対するハードルが下がっているのでしょうか? 戦後80年の年に世論がここまで戦争を求めるなんて思ってませんでした。」

「我が国も今回の事案を受けて、ティアンワに対するBMC志向を訴えるデモが起きています。例え朱雀戦争を経験して無くとも、我が国に影響されて世論が傾いた可能性があったでしょう。」

「そうだな───世論は大波に乗られやすいのが常日頃だ。」

 

安川自身は平和教育を受けた世論が、戦争を求める現状に溜息を零す。間はその姿に憐れみを抱いたのか、東和本国のデモによってどちらにしろこの様な結果になったと補足した。

 

「思い出しましたが、「ブルーアクア」副船長の葬儀は今日だったか。」

「えぇ、先程始まった様です。東和大使館(我々)も香典を送りました。」

 

間はいわき沖海戦で犠牲となった副船長の葬儀が送られる事をふと思い出し、連月がスケジュールの補足と香典を送った事を伝える。

 

「外務省からも香典を送らせて頂いた。遺体は今も船体と一緒に眠っているだろう。遺体の無い葬儀なんて苦しいだろうな。」

「お気持ちは察せます。しかし──副船長は()()()()()ですよね。アメリカの存在は転移後の日本でも強いと聞いておりますが、あちら方はどう反応するのでしょうか?」

「それに関してだが───もし、日本がティアンワと戦争状態になった場合は、()()()()は全面的に協力すると昨日通達された。」

『っ!?』

 

安川の発言は間ら東和側の面々を驚愕させた。

 

 

雪が降り続く東京23区の中央に位置する港区。数々の超高層ビルが建ち並び、幾つもの企業の本社が置かれている日本経済の中心地だと言える。転移で外資系企業が経営難に陥っても、日本経済を回す動力源として揺るがない港区には、政府機関へのアクセスの良さから大使館の半分が集中している一面もあった。

 

その中の一つである在日米国大使館では、「ブルーアクア」副船長 アイク・ベールマンの葬儀が開かれていた。本来は葬儀場や教会でやるのが一般的だが、転移で本国へ帰れなくなって以降はこの世界で数少ない母国の地である大使館で行われていた。

 

「慰問客の列が止みません。事前に確認すべきだったでしょうか?」

「どっちでも同じだろうさ。」

 

駐日アメリカ合衆国大使 ローバー・ブレニヒットは職員の報告を聞くと、窓に被さった白地のレースをズラして外を見る。現在進行系で雪が降り続いているにも関わらず、大使館の前には慰問客が列をなしていた。警察の誘導で並ぶ慰問客の大半はアメリカ人が占めていたが、時折日本人や大使館から送られたであろう見覚えのある外国人が見えていた。

 

「他の大使館からも追悼の意を示しているのは、数少ない同胞を失った悲しみが大きいのだろうな。」

 

転移で母国を失った以上、残された外国人は日本で亡くなるしか無いのだが、受け入れようにも受け入れ難い事実は大半の外国人が心を痛めていた。そんな中で起きた今回の事案は外国人に衝撃と悲しみ、そしてティアンワに対する憎しみを与えた。

 

「大使。アンダーソン空軍中将とヘルナンデス海軍中将が参りました。」

「通してくれ。」

 

大使館職員に連れられて、在日米軍司令官を兼任するアメリカ空軍第5空軍司令官 キルキス・アンダーソン空軍中将と、在日米軍の一環を担うアメリカ海軍第7艦隊司令官 ブレイン・ヘルナンデス海軍中将が大使の部屋へ入る。

 

「久方ぶりですな。こう言う形では会いたくありませんでしたが。」

「それは我々も同じです。大使、この度の参戦に賛成して頂き感謝します。」

「私としては未だに反対だが、同胞の気持ちを考えると賛成するしか無いだろう。」

 

ローバーは仕方ないと口では言っているが、革靴の先をその場で上下に動かし続けている姿が、未だに納得しきってはいないと読み取れた。

アイク副船長殉職の一報から間もなくして、在日米軍から合同会議が申し込まれた。ローバー自身は申し込みの時点で嫌な予感がしていたが、予想通り在日米軍から自国民殺害の報復を兼ねた参戦が提案された。

 

ローバー自身は同胞の死者を出す恐れがあるとして反対したが、彼の懸念はそれだけではなかった。

 

アメリカ軍が日本に展開する戦力は国外最大規模であり、1年前までシ連に対する最前線であった事から、ジェネラル・R・フォード級原子力空母やF-15EXと言った最新鋭兵器だけでなく、イラクやアフガニスタンでの実戦経験を持つ兵士が集められており、正真正銘の精鋭軍であった。

そんな強力な軍が母国の後ろ盾を失った。例え自衛隊に匹敵する力こそあれど、本国を失った事で日本に対する優位は完全に失われていた。ただでさえ、日本政府の提案を拒否し難い危うい状況なのに対して、一度でも参戦してしまえばそのまま自衛隊の一角として戦いに巻き込まれるのではと、ローバーは恐れていた。

 

ローバーの不安をよそに、アンダーソンら在日米軍は参戦を訴えた。

その理由には報復だけでなく、自ら参戦を申し出て功績を上げる事が在日米軍の立場を安定させると言う思惑や、母国を失って意気消沈している兵士らのメンタルや士気を高める等も含まれていた。

 

中でもローバーを刺激したのが、“同胞を失った在留アメリカ人が納得しない”と言う意見だった。アメリカ自体は数々の理由で世界中の戦争へ関わってきたが、その中に数えられるアフガニスタン紛争は9.11同時多発テロが主要因だった。

3000人近い犠牲を出した世界最悪のテロは世論に衝撃を与え、対テロ戦争が始まるきっかけでもあった。ローバー自身はテロそのものと対テロ戦争への傾く世論を目撃しており、この事態が同じ事を起こしかねないのではと抱いた事で参戦を認める判断を下した。

 

「果たしてこの判断は合っていたのだろうか······」

「大使。それは後世の歴史家が決める事です。」

「そうだな·····」

 

アンダーソンの言葉に返したローバーは雪が降り続く外を眺め続ける。あの日から降り続く雪は在日アメリカ人の悲しさを現していたかもしれない。




黒羽刑務所(閉鎖された刑務所)を利用した収容所
戦争が起きると捕虜問題が不可欠ですが、日本には捕虜収容所なんて無いので悩んだ結果、刑務所を使えば良いと思いつきました。
丁度劇中の3年前に閉庁された黒羽刑務所があったので使いましたが、調べたら同じ日に滋賀刑務所も閉庁した事を知りました。

・東京の降雪量
転移の影響を現す描写です。四季が逆になる描写の名残になったか?

・駐日東和大使として赴任した間藤吉
ファーストコンタクトを担当した彼を再登場させました。駐日大使になった理由としては、初接触で使節団派遣までに纏め上げた功績です。
因みに駐日東和国大使館は港区の旧シ連大使館を再利用しています。

・「ブルーアクア」副船長 アイク・ベールマン
前話で亡くなったと明記した副船長はアメリカ人でした。彼自身は研修中に転移に遭遇して残された為に、自らの経歴を活かして副船長になっていました。
余談ですが、今話を書くまで名前を用意していませんでしたw

・今作の在日米軍
1年前までソ連を引き継いだシ連の最前線だった為に、現実と違って最新兵器が配備されています。
プロット段階ではF-15EXは現実と同じくF-15C/Dでしたが、最前線で古い機体は可笑しいと判断して変更しました。F-22じゃなくてまだ良かった?
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