New world note in Earth   作:YUKANE

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前話を投稿したら、当日中に評価が赤バーになって驚いています。その日からUAやお気に入り数が一気に上がったので、赤バーにここまでの集客性があるのかとビックリしました。
その影響なのかUA数が27000を突破しました! ありがとうございます!

今回はティアンワとの二度目の海戦です。前回と同じこの一話で纏めますが、ティアンワ側の視点が加わります。そのせいか、本文の字数が1万字を超えましたw


Episode.57 南鳥島沖海戦

ティアンワの宣戦布告を受けた日本政府は在日米軍や東和国と合同での反攻作戦を実行へ移すと同時に、その際の日本領土の占領宣言を受けてそれを迎撃する対応にも迫られた。

 

しょうかく型航空母艦2隻を主格とした第1機動部隊は小笠原諸島を中心に広範囲へ布陣し、東和への牽制も担う第5護衛艦隊は三陸沖から北方領土の沖合に展開していた。これに加えて米海軍第7艦隊も関東沖合に陣取り、東和海軍基地から急行した東和海軍第2艦隊は第5護衛艦隊と合同で警戒に当たっていた。

 

4つの艦隊で固められた水上に加えて、海自の海洋観測艦や海保と民間の測量船による海底地形の測量が終わった為に、横須賀基地で長らく閉じ籠もっていた第2潜水隊群の3個潜水隊も太平洋に散らばって、海中からの捜索に参加していた。

更にはさくら型哨戒艦「OPV-901 さくら」と「OPV-902 たちばな」も伊豆大島沖へ向かい、搭載された垂直離着陸(VTOL)無人航空機(UAV) V-BATを発進させて、後方から捜索を行っていた。

 

空の面では小笠原諸島沖のしょうかく型と関東沖合の「CVN-80 エンタープライズ」は、少しでも長い時間を飛ばして来襲するであろうティアンワ艦隊を探すべく、増槽を出来る限り積んだF-35(ライトニングⅡ)を発艦させていた。また海自は不審艦隊捜索に加わった八戸基地の第2航空群第2航空隊と、厚木基地の第4航空群第3航空隊のP-1も出撃させただけでなく、嘉手納基地から送られた在日米軍のP-8も捜索に加わっていた。

空自も三沢基地に配備された唯一の偵察航空隊が有する無人偵察機 RQ-4B(グローバルホーク)だけでなく、同じ三沢基地に配備された第3航空団第302/第4飛行隊、百里基地の第7航空団第3/第304飛行隊、千歳基地の第2航空団第201/第203飛行隊のF-35JAやF-2B・F-15DJと言った戦闘機すらも、海自の艦載機と同じく増槽を付けてティアンワ艦隊の捜索に加わっていた。

更には米空軍も三沢基地の第35戦闘航空団第13戦闘飛行隊のF-16DJ ブロック50と、嘉手納基地から派遣された第18航空団第18航空群第44戦闘飛行隊のF-15EXも同じく捜索の戦力に加わり、空自と海自・在日米軍・東和海軍が合同で海と空に数重の警戒網を敷いていた。

 

また、厳重な警戒網を突破された場合にも備えて、88式地対艦誘導弾(SSM-1)を装備する第1特科団第3地対艦ミサイル連隊の各中隊が函館・日高・根室・択捉島に、12式地対艦誘導弾(12SSM)と改良型を装備した東北方面隊第4地対艦ミサイル連隊は下北半島・八戸に展開していた。これに加えて、96式多目的誘導弾システムを有する第2師団第2対船艇対戦車中隊も室蘭港に展開し、万が一の襲撃に対して待ち構えていた。

 

ここまで厳重な警戒網を敷いた背景には国土の占領宣言を受けたからには、一兵たりとも上陸させない処か攻撃すらさせないとする政府や自衛隊の意地が込められていた。また、日東の貨物船を問答無用で襲撃しただけでなく、それに対する反省をするどころか宣戦布告をしたティアンワに対する国民の怒りも含まれていた。

 

数重にも及ぶ警戒体制は1週間近く続き、この体制の維持に問題が出始めた頃、硫黄島航空基地を経由して哨戒に当たっていた第3飛行隊のP-1が、東から向かってくる2つの船団をHPS-106レーダーで捉えた。

機体は反応の元を確認すべく近づき、機首から迫り出したHAQ-2光学/赤外線探査装置(FLIR)ターレットによって赤外線画像には黒煙を幾つも棚引かせ、海面に波跡(ウェーキ)を刻みながら東へ突き進むティアンワ海軍の艦隊が写された。

 

ティアンワ艦隊発見の報告は直ぐに小笠原諸島沖の第1機動部隊と横須賀の護衛艦隊司令部へ送られ、発見された位置と進路から標的は日本の最東端 南鳥島だと推測された。

この推測は第1機動部隊から南鳥島沖へ送られた「DD-101 むらさめ」に伝達され、ティアンワ艦隊の詳細を探るべく画像データ収集の機器を積んだ第31航空群第81航空隊第811飛行隊のOP-1も急行した。

 

OP-1はティアンワ艦隊にマトモな対空火器が無いのを利用して、高度1219m(4000ft)を維持したまま船団の真上へ堂々と向かう。2つの船団はガンカメラで悠々と撮影され、撮影された写真はデータとして「むらさめ」へと送られた。

 

「装甲巡洋艦がいるのは想定外だ───ただ、相手の射程に入らなければ問題無い。それよりも後ろの船団をどうするかの方が悩ましい。」

「後方の船団については「DD-121 てるづき」が急行して対応するとのこと。本艦は前の艦隊のみを迎撃するのが役目です。」

「そうか。ならば前の艦隊を全力で迎撃させて貰おうか。」

 

戦闘指揮所(CIC)にいる「むらさめ」艦長の柳川(やなぎかわ)一喜(かずき)二等海佐は、ティアンワ艦隊に帆船だけでなく装甲巡洋艦がいた事に驚くも、それでも日本が圧倒的に優位な状況にいる上に、前の艦隊だけを殲滅すれば良いと分かった事で、単艦で堂々とティアンワ艦隊へ挑む覚悟を決めた。

 

「右舷90式艦対艦誘導弾(SSM-1B)発射用意! 目標フリゲート艦! 発射次第180°回頭して、左舷も同様の目標へ発射!」

「装甲巡洋艦を標的に入れなくて宜しいのですか?」

「大きさ的に旗艦と思われる。統率を失って下手に散らばられるのなら、残しておいた方が楽だ。」

「了解──SSM標的情報入力!」

 

艦長から装甲巡洋艦の標的除外の意図を汲み取った砲雷長の指示でSSMの発射準備に入る。既に総員戦闘配置に入っていた為か、乗組員はキビキビと動く。

彼らは南鳥島に駐在する海自隊員や気象庁・関東地方整備局の職員23名を護るべく、民間船舶を襲撃した挙げ句宣戦布告したティアンワを打ち砕くべく、単艦で何十倍もの数の艦隊と戦う覚悟を決めていた。

 

「右舷艦対艦誘導弾(SSM)発射準備完了!!」

「てぇー!!」

「SSM発射(サルヴォー)!!」

 

艦長の指示を復唱した砲雷長が発射のスイッチを押す。船体中央に上を向けて置かれた灰色の包から白い煙が勢い良く噴き出し、中に搭載された90式艦対艦誘導弾(SSM-1B)が包の蓋を突き破って飛び出す。4発の誘導弾は白煙を吐き出して初動を担った固形燃料ロケット・ブースターを切り離し、ターボジェットと慣性航法装置(INS)を用いたシースキミングへ移行し、目標の艦隊へ突き進む。

 

「180°回頭! 面舵いっぱい!!」

『面舵いっぱい!!』

 

艦長の指示で艦橋にいる航海長が舵輪を回す。舵輪と繫がった舵が曲がり、ゼネラル・エレクトリック製LM2500と、ロールス・ロイス製スペイSM1Cのメーカーが異なるガスタービンエンジンで構成されたCOGAG方式の機関が、4550tの船体を右へ回していく。

 

『180°回頭終えました!』

「左舷SSMてぇー!!」

 

180°回頭を終えて間もなく、左舷に向けて配置された4本の包から90式艦対艦誘導弾(SSM-1B)が飛び出していく。円筒型のブースターを外し、海面スレスレで突き進むソレはティアンワ艦隊には迎撃不能な死神の一撃でもあった。

 

 

ティアンワ海軍第3艦隊はバウラット計画に合わせてスワンカ港で編成された新参の艦隊だった。ベルリナ級フリゲートを主軸にクレイア級コルベット*1とファクティナ級スループで組まれた艦隊は、派遣艦隊と同じく新規に作られた為に構成する艦は新しかったが、乗り込む水兵も未熟な者が多いからか戦闘力には疑問が残っていた。

 

そんな第3艦隊は日東への宣戦布告に伴い、南鳥島(無人島)を前線基地として占領する陸軍部隊の護衛と、上陸時の砲撃支援を行うべく出撃した。派遣艦隊が日本の海上自衛隊(海軍)に文字通り壊滅した結果からか、虎の子である装甲巡洋艦が増援戦力として送られてきた。

フラスタリアから2隻だけ供与されたクエリオル級装甲巡洋艦*2の存在は、第3艦隊の乗組員に絶大なる信頼と威厳を与えた。

 

1月中旬にスワンカを出航した艦隊は、艦隊に付随するエネプス級補給艦*3から時折補給を受けながら、南鳥島へ西進していた。島すらない大海を航行し続け、目標へ近づいて来た頃に突然ソレは起きた。

 

西方から高速で飛んできた4本の物体は艦隊の眼前で垂直に上がり、重力を味方につけてフリゲート「ネルシェーク」・「オミオン」・「タスクフェル」・「フェルパール」へ1発ずつ直撃した。頭上から突き刺さった巨大な矢型のソレは甲板を軽々貫き、爆発を起こす。260kgの榴弾が船内で炸裂したフリゲートの全鋼鉄船体はいとも簡単に壊れ、4隻とも真っ二つに引き裂かれた。

 

ティアンワ海軍の実質的主力とされるフリゲートがあっという間に轟沈した光景は、各艦の乗組員に絶大な衝撃を与えた。それを理解する前にソレはもう一度現れた。さっきと同じく水面近くから天高く上昇し、フリゲート「レビノス」・コルベット「レライア」・「チライア」・「ナドイア」に突き刺さり、その爆発が船体を砕いだ。

 

第3艦隊は僅か数分にして主力たるフリゲート全隻とコルベット3隻を喪失し、大幅に戦力を失った。

 

「救助を急げ!! 一兵でも多く救うのだ!!」

 

第3艦隊旗艦「クエリオル」の艦橋で、司令官のポルディオ・ベッド・フォンゴノーロ中将は撃沈された艦の乗組員救助を陣頭指揮していた。

彼はフラスタリアへの留学で前弩級戦艦や装甲巡洋艦の運用を学んだ為に海軍学校で乗組員育成に尽力していたが、クエリオル級の第3艦隊配備に合わせて司令官として赴任した。南鳥島への上陸支援が初陣であったにも関わらず、島の姿すら見えない内に艦隊戦力の根幹を失う事になり、予想だにしなかった現状の理解に苦しめられた。

 

「あの攻撃は何だったのか········もしかして──ミサイルと言う奴か?」

「ミサイル?とは何でしょうか?」

「フラスタリアで()()()()()だ。簡単に言うと自ら動き、目標へ向かう砲弾だ。トラクティア諸国ですら実用化出来てないとか言うアレを日本は使えるのか!?」

 

ポルディオの説明に士官は目を開く。自ら目標を定め、そこへ動く砲弾。それは先ほどフリゲートを沈めた攻撃と一致していた。それを日本が持っている確証は無かったが、この目で見た光景と派遣艦隊全滅の事実が裏付けていた。

 

「2時方向に艦艇!! 単艦です!!」

 

乗組員救助の為に定員より増えていた見張員の1人が艦隊へ近づく「むらさめ」を発見した。ポルディオは据え付けられた固定式の双眼鏡をその方向へ向け、覗きながらピントを調整してその姿を視認した。

 

「のっぺりとした見た目だ。砲はあの1門しか無いのか?」

「あの砲は小口径と思われます。砲撃戦ならばこちらが圧倒的優位に立てます!」

「落ち着け。もし、あの艦がさっきの攻撃を行ったのであれば、砲は1門でも問題ない。それにあの艦が未だに同じモノを隠し持っている可能性もあり得る。」

 

士官は1門の単装砲しか持たない「むらさめ」に勝機を見出すも、ポルディオはそれを否定する。さっきの攻撃手段がまだ残されている可能性を危惧するも、「むらさめ」にSSMは残っていなかった。

 

「クエリオル」ら艦艇は救助中の乗組員を護るべく前進する。第3艦隊と「むらさめ」の距離は縮まっていき、30000mを切ると「むらさめ」の艦首に搭載されたオート・メラーラ76mm単装速射砲が第3艦隊へ向き、火を吹いた。

 

「敵艦発砲!!」

「この距離でか!?」

 

ポルディオらは自らの射程圏外から発砲した「むらさめ」に驚くも、62口径の砲身で解き放たれたVulcano弾はコルベット「キマイア」へ命中する。射程を伸ばす推進薬と弾丸が一体化したユニタリー弾は船内で炸裂し、砲弾の誘爆と合わさって鉄骨木皮の船体を破壊した。

 

「「キマイア」轟沈!!」

「砲撃でもこの命中精度だと!? こちらも反撃だ! 前部主砲を回せ!」

「射程圏外ですが宜しいのですか!?」

「今は相手を驚かして時間を稼ぐのが最適解だ!!」

 

ポルディオの指示は伝声管で伝えられ、ヴァリティアスCB型石炭燃焼缶で作られた力で楕円形の砲塔に内蔵された23.2cm連装砲が右へ旋回する。約3万m離れた「むらさめ」に照準が合わせられ、砲弾と円筒型の装薬が積められる。

 

「砲撃準備完了──っ!?」

「「トライア」轟沈!!」

「前部主砲てぇー!!」

 

「むらさめ」の射撃でコルベット「トライア」が文字通り轟沈する中、「クエリオル」の23.2cm連装砲が放たれる。砲撃の轟音が響き、灰色の爆煙が生じ、水面には波紋が広がる。空へ解き放たれた重い砲弾は海の上を飛んでいたが、「むらさめ」の遥か手前で海面に触れる。

海中へ突入した23.2cm砲弾の信管が起動し、炸裂した弾頭が海水を押し上げ、「むらさめ」を呑み込むかの如き高い白波を上げた。

 

「弾着!!」

「当たってないだろうが·······少しでも時間を稼げば───っ!?」

 

敵艦を視認出来なくなる程に高い白波に乗組員は命中したと歓声を上げるが、ポルディオら艦長要員は明らかに命中してない為に苦しい表情を見せる。その不安は直ぐに当たり、白波を裂くように現れた砲弾がスループ「レズリサ」へ直撃した。

 

スループが文字通り爆沈する傍ら、白波の先には一切傷つかず健在している「むらさめ」がいた。被弾処か波すら被っていない「むらさめ」は再度砲撃し、スループ「トーリト」を撃沈した。

 

「百発百中の砲撃なんて───どうすれば!?」

「勝ち目が無いではないか········空から何か来るぞ。」

 

ティアンワ海軍の虎の子の砲撃すら効かない上に、射撃した砲弾が全て命中する「むらさめ」に士官は顔を青ざめて、絶望めいた嘆きを見せる。ポルディオもこの現状を打開する術が見つけようとしていたが、不意に空から近づいてくる白い物体に気づいた。

 

「むらさめ」から発艦し、弾着観測を担っていたSH-60K(シーホーク)が「クエリオル」の頭上へ向かっていく。甲板上の乗組員は接近してくるSH-60Kに恐れを抱いたのか、40mm三連装機関砲を向けると発砲した。それに続いてか、コルベットやスループもヴァデナ-25 4連装機関砲をSH-60Kへ撃ち込む。

赤い線を描く曳光弾が混ざった40mm弾と25mm弾はティアンワ海軍で初となるであろう対空砲火を築くも、経験がないからその網目は薄い処か、SH-60Kがいる高度には1発も届いていなかった。

 

「一切当たってないではない!! 射撃をやめろ!!」

「もしやこれはヘリコプターでは·······何かバラまいたぞ!!」

 

全く当たってない対空砲火に嫌気を差した士官の声で機関砲の射撃が終わり、それから間もなくしてヘリの両脇から白い紙が「クエリオル」へばら撒かれる。

ばら撒かれた紙を掴んだポルディオはインドネシア語(ティアンワ語)が書かれている事に驚き、そこに書かれている内容を理解すると再度驚いた。

 

「降伏勧告か······」

「敵艦も発光信号で降伏勧告を送っています。」

 

紙面と発光信号の2つで降伏勧告を受けたポルディオは苦悩する。現状は射程圏外から一方的に百発百中の攻撃を受け、例え逃げようとしても追いつかけて撃沈されるのが目に見えていた。

しかしながら、派遣艦隊によって民間船を一方的に攻撃した相手でもあり、降伏勧告を受諾しても生命の保証があるかは分からなかった。

 

降伏を受け入れるか、無視か。どの選択肢が正解かはポルディオには分からなかった。

 

「我々はもう引き返せない········」

 

覚悟を決めたポルディオは閉じていた目を開く。第3艦隊は上陸船団の護衛も任されている。第3艦隊が退けば上陸船団が被害を被るのは目に見えている。千単位の陸軍兵と艦隊、どちらを取るかは明らかだった。

 

「後方の上陸船団に転進を連絡する様に。艦隊は敵艦へ突撃する。補給艦は乗組員救助の為に白旗を上げるように。日本側にも伝えろ。」

 

ポルディオの決断を士官らは受け入れる。その内容は健在している艦へ手旗信号で伝達され、電信を用いて遥か後方の上陸船団と補給艦群にはそれぞれ連絡が送られる。「むらさめ」に対しても信号灯を用いた発光信号で上記の内容が送られる。

 

「クエリオル」は旗艦として突入の先陣を切るべく、24基の石炭燃焼缶が作った蒸気で2基のグラノーレSA-9型直立型4気筒レシプロエンジンを動かし、9540tの船体を2本のスクリューで前進させる。前進を始めた「クエリオル」に続いて、残存しているコルベットとスループ艦も進み出した。

 

降伏勧告の拒否を発光信号で受け取った「むらさめ」は、艦隊上空のSH-60Kへある指示を送る。SH-60Kはその指示に基づき、機体を「クエリオル」へ向けると両脇のスタブウイングにランチャーを介して取り付けられた翼がついた黒い円筒を放つ。

対戦車ミサイルでありながら対艦ミサイルとしても使えるAGM-114M(ヘルファイアⅡ)は、セミアクティブレーザー誘導システムが捉えた「クエリオル」の艦上構造物に向けて、固体推進ロケットを点火させた。

 

極短距離から発射されたヘルファイアⅡは寸分狂わずに「クエリオル」の艦上構造物へ命中し、爆破破砕弾頭がソレを粉々に砕いた。艦橋はマストを巻き込んで崩れ落ち、吸気と排気を同時に行える二重構造の煙突群も根元から折れる。爆発は艦橋にいたポルディオら第3艦隊首脳陣と艦長らを一瞬にして殺して指揮系統を失わせ、動力源に大きなダメージを負った装甲巡洋艦は少しずつ確実に速度を落としていく。

 

「むらさめ」側は旗艦喪失による随伴艦の降伏を望んでいたが、随伴艦はポルディオの遺言となった指示に基づいて「むらさめ」へ突進していく。石炭燃焼缶の黒煙を上げ、大砲を向けながら進んでくる随伴艦に降伏の意思が無いと判断した柳川は主砲による撃沈を決め、OPS-28対水上捜索レーダーに導かれた76mm砲が1発ずつ撃ち込んで残存しているコルベットとスループを全て沈めた。

 

全艦を全て沈めた「むらさめ」は前甲板に76mm砲の薬莢が転がる状態のまま、後方にいる補給艦群に白旗が上がっているのを確認すると撃沈した艦の乗組員救助を開始し、暫くして小笠原沖から急行した「DDG-201 いぶき」と乗組員救助を行われた。

同じく急行した「DDG-174 きりしま」は大破した「クエリオル」を鹵獲しようとしたが、船体の損傷具合から曳航に耐えられないと判断され、同艦の324mm3連装短魚雷発射管から発射された97式魚雷によって撃沈処分された。降伏した補給艦群は3隻に監視されながら小笠原諸島へ誘導され、そこで救助された乗組員諸共捕虜となった。

 

南鳥島沖海戦と名付けられたこの海戦は、ティアンワ海軍第3艦隊を海自の護衛艦1隻で全滅させた結果から日本の実力をTRM各国へ知らしめる事になった。ただ、この海戦の終了間際から後方の第1海上輸送隊を巡る戦闘が起きていた。

 

 

「転進だと!?───第3艦隊に何があったのだ!!」

 

「クエリオル」から転進の電信を受け取った第1海上輸送隊に属する揚陸艦「エルンディ」の艦橋では、第1海上揚陸旅団司令官のミラメン・コヲ・ゾルダート准将が艦長へ詰め寄っていた。

海兵隊をベースに新設された第1海上揚陸旅団は、文字通り上陸予定地の橋頭堡を確保する陸軍の上陸専門部隊であり、初陣として南鳥島の占領を命じられていた。

 

クレイア級をベースに小型舟艇の上陸機構を与えたティデアル級揚陸艦*4に隊員と弾薬・食糧・医薬品などの物資を詰め込み、スワンカからの長い航海の末に華々しい上陸作戦を行えるかと思った矢先に、護衛でもあり前衛でもある第3艦隊から転進の指示が下った事は彼女を大いに苛立たせた。

 

「第3艦隊は日本の海軍と交戦に入ったと聞いておりますが───それ以上は何とも······」

「既に交戦状態ならば相手次第で不利になった可能性はあり得ます。」

「海上でこれなら島にもかなりの軍が待ち構えているかもしれないぞ·····」

 

ミラメンに詰められた「エルンディ」艦長はたじろぐが、副官が与えられた情報を元にした考察を口にする。島に上陸する前から強敵に当たったかもしれない事を嘆くミラメンだったが、それは突如として外から聞こえた爆発の轟音で掻き消される。

 

「な、何があった!?」

『フリゲート「アルフェリア」・「ベルウント」、コルベット「ハマイア」、スループ「アクティス」ば、爆沈!!』

「どういう事だ!? い、一体何処から攻撃を受けたのだ!?」

 

伝声管を通じて見張員から伝えられた情報にミラメンらはどよめく。いきなり護衛戦力が消滅した事実を受け、彼女らは木造の階段を駆け上がって見張り台へ向かう。

見張り台に辿り着いたミラメンらの目線には海面から黒煙が立ち上り、爆発で粉々に砕け散った船体の木片や装甲の鉄屑・乗組員が生死を問わずに浮いている様子が写った。

 

「本当に一撃でやられたのか·······」

「一体何処から!? 一体何処から攻撃されたんだ!?」

「わ、分かりません!! 本当にいきなり爆発したんです!!」

「ミラメン司令官! 今は相手を探すより、生存している乗組員を救助するのが最適解です!」

「そ、そうだな!」

 

現実離れした惨状に困惑したのか、ミラメンは見張員へ詰め寄るも、副官の指摘を受けて撃沈された艦の乗組員救助を命じた。

辛うじて生存した乗組員の救助には海上揚陸旅団の隊員も加わり、生存者の救出が完了したと同時に西から4隻に90式艦対艦誘導弾(SSM-1B)で攻撃を行った「てるづき」が姿を現した。

 

ステルス性向上として艦橋にはレーダーが埋め込まれ、傾斜がついた艦上構造物はその艦が次世代の護衛艦だと知らしめる。しかしながら、傾斜のついた艦橋を持つ灰色の巨大船は初見のティアンワ側に異質な恐怖心を与えた。

 

「ま、まさか、あの艦が攻撃したのか?」

「わ、分かりませんが───あっ!? 船の砲が動いた!!」

 

ミラメンらが不気味な威厳にたじろいでいる間に、「てるづき」は前甲板のMk.45 mod.4 5インチ砲が動き出す。西側諸国で多用されるアメリカ製の主砲はOPS-20C対水上捜索レーダーに基づいて照準を定め、射撃を開始する。

62口径の砲身の上から薬莢が甲板へこぼれ落ちたのと同時に、砲弾は残存していたスループ「ナイノ」へ命中し、内部から炸裂して船体を破壊した。

 

「たった一撃で·······」

「あ、あの艦がさっきの攻撃を!!」

 

ミラメンらが驚き、先ほどの攻撃を行った相手だと確信した間にも「てるづき」は砲撃を続け、3隻のスループに1発ずつ命中させて撃沈させた。

第1海上輸送隊の護衛戦力が全て消滅し、10隻の揚陸艦と4隻の補給艦だけが取り残された。陸軍部隊の輸送と補給を担う両艦に固定武装は無く、海上に佇む「てるづき」に抵抗する手段を持っていないのに等しかった。最も護衛戦力は1発も撃たずに沈められたのだが。

 

「あの艦から降伏勧告です!」

「既に戦える船はいません!! 逃げられるとも思えませんので、ここは降伏が最適解かと──」

「ば、馬鹿にしているのか!!」

 

「てるづき」から発光信号で降伏勧告が送られ、戦う事も逃げる事も出来ない現状を理解した副官は降伏を認める様に促すも、当のミラメンは怒り混じりの声で反論した。

海上揚陸旅団の初陣として華々しい上陸作戦を行えない処か、1発たりとも撃たないままに降伏する事をプライドが許せなかったのか、もしくは圧倒的な強さが彼女のヒステリックの引き金を引いたのかは分からなかったが、ミラメンは降伏勧告の受け入れを拒否した。

 

「栄えある水上揚陸旅団が1発も撃たずに降伏するのはあり得ない!! お前たち、船室から武器を取り出せ!! 迫撃砲でも機関銃でも小銃でも良い!! 何が何でも日本の海軍艦艇に反撃するんだ!!」

「司令!! 落ち着いて下さい!! あの様な火器では当たりすらしません───」

 

部下に船内から旅団の火砲や小火器を取り出して反撃する様に指示したミラメンを副官が諌めるも、遅すぎた。双眼鏡で小銃やを取り出した海上揚陸旅団隊員の姿を双眼鏡で確認した「てるづき」は、「エルンディ」に向けへ5インチ砲を撃ち込んだ。5インチ砲弾は寸分狂わずに鉄骨木皮の船体へ突き刺さり、信管によって炸裂する。爆発は船内の迫撃砲弾や野砲の砲弾を瞬く間に誘爆させ、ミラメンら諸共73.5mの船体を粉々に破壊した。

 

ミラメンが載った「エルンディ」が一撃で沈む光景を目の当たりにした他の揚陸艦と補給艦は恐れを抱いたのか、白旗を揚げて降伏を受け入れた。

第1海上揚陸旅団は初陣ながら1発も撃たずに大半の兵が捕虜となった結果は屈辱であったが、結果からすれば収容された東和での経験がティアンワの再興に大いに貢献する事となった。

*1
クレイア級コルベット

ファクティナ級の建造経験を元に装甲を貼って防御力を高めつつ、航行能力と砲撃力を強化した帆走コルベットとして建造された。

船体は鉄骨の骨組みに瀝青を塗った木皮を貼り付けた鉄骨木皮製で、機関もカシフィム株式会社とベルタ重工製を搭載しているが、舷側と水線部に錬鉄製の装甲を設けて防御力を向上させている。

主砲としてファクティナ級と同じ180mm砲を前部に2基・後部に1基ずつ旋回砲で搭載しており、舷側には150mm砲を片舷 4門ずつ搭載している。速射性が求められる近接戦闘用には76mm砲と37mm速射砲を2基・25mm4連装機関砲 4基ずつ備えている。

ファクティナ級を上回る攻撃力と防御力を持っていた為に、艦隊のワークホースを担える軍艦として各艦隊へ配備された。

スペック

排水量:3300t

全長:73.5m

全幅:13.8m

吃水:5.68m

主機:ベルタEV-71型横置き式2気筒レシプロエンジン 1基

ボイラー:カシフィムA-5a型石炭燃焼式スコッチボイラー 6基

出力:2200馬力

速度:14.6ノット

武装:イルタ-180砲 2基

   イルタ-150砲 8基

   イルタ-76砲 2基

   ヴァデナ-37 速射砲 2基

   ヴァデナ-25 4連装機関砲 4基

装甲:舷側 40mm

   水線部 120mm

乗組員:297名

*2
クエリオル級装甲巡洋艦

新造艦によって余剰となったフラスタリア海軍の装甲巡洋艦 2隻が、基地用地や燃料・各種資源・周辺国の情報を提供したティアンワに対する見返りとして供与された。

ティアンワ初の装甲巡洋艦として既存の軍艦を大きく上回る性能と同時に供与された前弩級戦艦よりも安価で多種多様な任務に投入出来る汎用性を有していた為に、前弩級戦艦では過剰戦力となる遠征や通商破壊などを実施に合わせて艦隊に配備する形を取った事から2隻とも練習艦隊へ配備された。

スペック

排水量:9540t

全長:138.1m

全幅:18.7m

吃水:7.6m

主機:グラノーレSA-9型直立型4気筒レシプロエンジン 2基

ボイラー:ヴァリティアスCB型石炭燃焼缶 24基

出力:17700馬力

速度:20.7ノット

武装:23.2cm連装砲 2基

   17.7cm単装砲 10基

   7.6cm単装速射砲 10基

   40mm三連装機関砲 4基

   48cm単装魚雷発射管 2基

装甲:舷側 194mm

   甲板 112mm

   主砲塔 159mm

乗組員:671名

*3
エネプス級補給艦

バウラット計画実施に合わせて遠征を行う艦隊に随伴して艦艇に燃料や食糧・弾薬の補給を行う補給艦が求められた為に、クレイア級をベースにした揚陸艦を参考に補給設備を設けた帆走補給艦として建造された。

船体は武装と装甲を撤去したクレイア級の設計を流用しているが、機関をヴィジランドの支援を受けながら開発された燃費に優れた新型へ変更されている。船内に設けられた補給用の燃料庫や弾薬庫・食糧庫の壁には防弾と火災対策として自国産の防弾ゴムが貼られている。甲板上には補給物資の運搬に用いるクレーンと給油を行うポンプが置かれており、使用時以外は格納できる様になっている。

帆船ながらも航行しながら給油可能な洋上補給能力と数隻分の物資を積める積載量を兼ね備えていた為に、艦隊の作戦行動範囲を広げられる重要な艦として多くの艦が建造された。

スペック

排水量:3930t

全長:73.5m

全幅:13.8m

吃水:5.68m

主機:ベルタHV-11a型直立型4気筒レシプロエンジン 1基

ボイラー:カシフィムA-6cf型石炭燃焼スコッチボイラー 6基

出力:2900馬力

速度:11.7ノット

乗員:85名

*4
ティデアル級揚陸艦

バウラット計画の実施に合わせて進出予定海域の土地へ素早い上陸を行える揚陸艦の必要性が増した為に、クレイア級をベースに揚陸設備を設けた帆走揚陸艦として建造された。

クレイア級から設計を流用しつつ武装と装甲を全撤去した鉄骨木皮の船体に小型艇を収容するスペースが設けられ、蒸気で開閉する船尾の門扉からスロープによって発進する方式になっている。船体前部には兵士の居住区や揚陸作戦に用いる各種物資の積載庫として使うスペースになっており、揚陸作戦時に指揮所を置く事も出来る。

武装や装甲を全て撤去して火力や防御力を無くした代わりに優れた輸送能力と迅速な上陸を行える揚陸能力を兼ね備えていた為に、バウラット計画に合わせて国内各地で多くの艦が建造された。

スペック

排水量:3700t

全長:73.5m

全幅:13.8m

吃水:5.68m

主機:ベルタEV-71Da型横置き式2気筒レシプロエンジン 1基

ボイラー:カシフィムA-5fb型石炭燃焼式スコッチボイラー 6基

出力:2800馬力

速度:12.4ノット

乗員:85名




・第2潜水隊群の編成
今作ではひりゅう型原子力潜水艦がいる関係でたいげい型の艦番号はズレている。
第2潜水隊
「SS-519 たいげい」・「SS-523 ちょうげい」・「SS-597 たかしお」
第4潜水隊
「SS-512 とうりゅう」・「SS-522 らいげい」・「SS-599 せとしお」
第6潜水隊
「SS-505 ずいりゅう」・「SS-506 こくりゅう」・「SS-509 せいりゅう」

・さくら型哨戒艦
現実では命名されたばかりですが、今作ではシ連との冷戦が継続していた関係で数年早く就役しています。
余談ですが、作者は艦名をはやぶさ型の前例から“しらたか型”と予測していました。流石に植物とは予想出来なかった·····

・地対艦ミサイル連隊について
今作では原子力空母有するシ連海軍太平洋艦隊に対抗する手段として重視された事で、現実とはかなりの違いが存在している。
第3地対艦ミサイル連隊の第4中隊は廃止されておらず、第4地対艦ミサイル連隊の第1・3中隊には12式地対艦誘導弾が、第2中隊には12式地対艦誘導弾の能力向上型が配備されている。
尚、第8地対艦ミサイル連隊が福井県の鯖江駐屯地に、第9地対艦ミサイル連隊が島根県米子駐屯地に配属されている。前作では第7地対艦ミサイル連隊が米子に配備されていたが、朱雀戦争後に現実と同じく南西諸島各地へ転属した。
また廃止された第6地対艦ミサイル連隊も存続し、新潟県の航空自衛隊佐渡分屯基地に特例で配置されている。

前作執筆時にはパラレルを示す存在として第7、第8地対艦ミサイル連隊を出しましたが、まさか実際に組まれるとは····

・OP-1
OP-3CのP-1型。尚、EP-3やUP-3C、UP-3DのP-1型も存在して岩国基地の配備されている。

・柳川一喜
彼もレーシングドライバーが由来ですが、2人の人物から取っています。日産系で調べれば由来が分かるでしょう。

・第1海上揚陸旅団
某国の海兵隊を元に設立された部隊。国土内に島嶼が多い事から、敵国が上陸した際も小型艇を用いた奇襲や強襲による反撃を担う。
実は今回の展開の為に作った部隊故に詳細は全く詰めていない。プロットでは全ての揚陸艦が砲撃で沈む展開だったが、あまりにも可哀想なので1隻だけに変更された結果、大半の兵が生き残りました。生き残ったのなら何処かで出さないと勿体ないかなぁ·····

参考にした海兵隊を持っていた国とやらは少し後に名前だけ出します。
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