New world note in Earth   作:YUKANE

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活動報告にも書きましたが、前話を投稿した日に今作がランキングに載りました。評価が赤になったからは分かりませんが、ランキングに載ると信じられない程にUAとお気に入り数が伸びるんですね···
お陰でUA数も28000どころか29000突破致しました。

今回は捕虜となったティアンワ軍人と、戦いへ望む日本を政府と民間の両方から描写します。

※2025/12/23 東和軍の描写を追加


Episode.58 81年目の決断

栃木県の北東に位置する大田原市。松尾芭蕉が辿った“奥の細道”と縁が深く、那珂川と山々が齎す自然に恵まれたこの市には2022年3月末で閉鎖された黒羽刑務所が存在する。

閉鎖後は映像作品の撮影やイベントで活用されていたが、現在はいわき沖海戦で救助したティアンワ海軍派遣艦隊の乗組員を収容する捕虜収容所へ変貌していた。

 

「も、もう。おしまいだ·······」

 

独居房(単独室)をそのまま流用した一室に収容された派遣艦隊司令官を努めたジェリト・ゼミヌ・アンフリオは、朝食と一緒に渡された英字新聞の朝刊を見るや悲壮感に包まれた表情になる。

 

「“海上自衛隊第1機動部隊、本日ティアンワに向けて出撃”───日本の主力艦隊が我が国の攻撃へ·······あの一撃が本土へ降り注いだら間違いなく滅ぶ!!」

 

ジェリトは朝刊の一面に書かれた見出しを復唱し、受け入れ難い事実に直面しつつ、脳裏に焼き付いた光景を思い出す。

 

彼はティアンワ海軍艦隊の行動範囲を広げるべく、燃費を抑える手段の研究や補給艦の大量配備の訴えを行った。その熱意と専門性が認められてか、バウラット計画で進出する海域の調査と存在する国家の文明レベルを図るべく編成された艦隊の司令官へ就任した。

1671年(昨年)にスワンカを出航した派遣艦隊は数ヶ月に及ぶ航海を経て、接触した東和や日本がトラクティア大陸諸国並みの文明を持っている事を突き止めた。しかしながら、高い文明を持つ証拠を得る為、少なくなっていた食糧を入手する為に非武装の貨物船を襲う決断をしたのが転機だった。

 

「第三海神丸」(最初に狙った貨物船)は難なく成功したが、2度目の襲撃では「ブルーアクア」(目標)こそ沈められたが、海上保安庁の巡視船(小さな白い船舶)に所属艦艇を何隻も沈められたどころか、何処からともなく飛来した攻撃によって乗艦していた旗艦「エムテンス」は一瞬で轟沈した。

彼は90式艦対艦誘導弾(SSM-1B)の爆発によって海へ放り出され、混乱の末に母国の方向へ逃げていく残存艦艇を遠目に見ながら海保の巡視船「PLH-05 ざおう」に救助された。

 

救助された船上では同じく撃沈された艦から放り出された乗組員と一緒にいたが、軍服についた階級の数と乗組員が彼の元へ群がる様子から司令官だと気付かれ、英語での確認を経て個別に対応される事になった。

 

船を降りてこの場へ収監され、英語とティアンワ語(母国語)を用いた尋問が行われていたが、日本がティアンワとは比べ物にならない文明を持っているのは収監されていてもハッキリ認識出来た。

小名浜港(降り立った港)から見えた街並みは国内最大の港湾都市 スラヴァよりも発展し、遠目に望んだ鯨を思わせるアクアマリンふくしま(硝子張りされた施設)は高い技術力を示していた。港から黒羽刑務所(収容所)までの移動ではトラクティア大陸諸国で普及している自動車に乗せられたが、馬車とは比べ物にならない速さと快適さに彼は圧倒されていた。

 

収容所自体も数年使われてないと言っていたが、ティアンワ国内にここ迄の設備が揃った捕虜収容所はなく、下手すれば兵舎よりも整って見えた。ここでの生活は尋問こそあれど、健康的な三食の食事が出る上に、捻るだけで清潔な水が出る水回りを持ち、挙句の果てには毎晩大浴場に入れる至れり尽くせりだった。本国でもトラクティア大陸諸国に倣って捕虜の処遇改善は進められていると聞いていたが、ここまでの設備は揃えないだろうと確信出来た。

 

母国より隔絶して快適な環境におり、尋問も体罰の無い緩いものだった事が影響してか、ジェリトは日本に対する恐怖を無くしてすっかり腑抜けになっていたが、今日の朝刊を見た事でそれは全て吹き飛んだ。

 

「我が国は間違いなく負け、植民地もしくは属国にされる。私に出来る事はあるだろうか······」

 

自らの経験から母国の敗北を確信したジェリトは、自分に何が出来るか熟考する。収監されている身ではあるが、それでも日本で得られる情報や経験はティアンワの未来に繋がる。冷め続ける食事を前に頭を抱える彼だったが、熟考は1つのアイデアに辿りつかせた。

 

「この国にいるインドネシア人(同胞)に活動して貰うんだ! 例え世界が違っても、同じ言語を話す者同士! 母国に似た国が滅ぶのは頂けない筈だ!!」

 

それを思いついたのは尋問に駐日インドネシア大使が来た為か、彼を介して同じ言語を話す同胞を知ったからか、両方かはジェリトにしか分からないが、匙加減1つで命を失いかねない立場ながら、母国を救うべく動く事を彼は決めたのだった。

 

 

神奈川県横須賀市は白い雪が降り続ける。転移で平均気温が下がった影響か、関東平野の積雪量は昨年より増えており、降雪による公共交通機関の遅延が齎す交通障害が社会問題として浮上していた。

 

しかしながら、今日に限ってはどのテレビ局もそれを一切報していない。テレビ局や新聞各社と言った報道は海上自衛隊横須賀基地に集まり、日本のあり方を変えかねないそれをこぞって特集していた。

 

「私の代でこの様な事が起きてしまうとは·······」

 

逸見(へみ)岸壁に佇む第100代内閣総理大臣 鈴村隆治は雪が降り続く中で傘も差さずに、目の前に停泊するしょうかく型航空母艦「DDH-189 しょうかく」を見上げる。

シ連海軍太平洋艦隊に対抗する切り札として、アメリカから購入したキティホーク級航空母艦を改造したしょうかく型航空母艦。1年前までシ連への威圧手段であり、有事の際には主力として動く事を期待されていたが、今は日本に宣戦布告したティアンワへの出撃を待っていた。

 

「威圧だけの存在が立て続けに戦場へ赴く。長く続いた非戦は、私の代で2度も破られた。軍人擬きがトップについた当てつけか·····」

 

雪に打たれながら思考に浸っていた鈴村だったが、その姿に哀れみを抱いたのか、総理秘書官の本庄香月が黒張りの傘を持ってくる。

 

「訓示まではもう少しあります。それまでの間であれば、傘を指すべきかと。」

「構いません。隊員達は上っ張りも着ずに聞くのなら、こっちも同じにしなければなりません。」

「平等意識は素晴らしいですが、今の貴方は自衛隊員ではなく内閣総理大臣です。国のトップたる者が、雪のシミがついたスーツで演説したら威厳が失われるどころか、こんなだらしない者に任せられるかと野党から反発される恐れがあります。」

「まるで母親みたいな言い方ですね。」

「総理秘書官ですから。」

 

鈴村と本庄は開かされた傘の下で会話を交わす。還暦間近の総理と、彼の半分しか人生を歩んでない総理秘書官が話し合う姿は親子の様に見えていたが、実際の話は本庄の方が総理を否めていた。

総理と秘書官と傘を指すか指さないかの攻防戦を繰り広げていると、第1機動部隊の出撃に立ち会う大洋洋司官房長官と栃木昇司防衛大臣が2人の元へ歩いてくる。

 

「相変わらず親子の様ですな。」

「私が諭される立場ですがね。だが、いつもの日常が崩れたとしても、国を率いる我々がいつも通りであれば国民も安心するでしょう。」

「そうだと良いのでしょうが───基地の入り口付近では未だに反戦デモが続いています。沖縄からやって来た連中でしょすが、こんなに雪が降っているのにご苦労なこった。」

「批判する者がいるのは、世論が保たれている証です。最もこの状況を中立して見れる者は限られているが。」

 

いつも通りの鈴村と本庄に何処となく安心感を抱いた大洋官房長官は、基地の外で戦争反対のデモ活動を続ける人々がいると報告する。鈴村は政府に公然と反対する動きこそ日本の世論が公平に保たれていると語るも、彼の考えに反して反戦デモ隊はティアンワへの報復を望むデモ隊との睨み合いを行っていた。

 

「ですが、海自だけでなく陸自や空自、更には米軍すら動くだなんて、朱雀戦争より大掛かりな気がします。」

「そうでしょう。朱雀戦争でも出なかった陸自師団が出撃するのですから。太平洋戦争以来の国家同士の正面戦争ですな。」

「既に複数の偵察機が出撃しており、前衛を受け持つ水陸機動団と西部方面隊の施設大隊も出撃体制を整えています。本命の第8師団と米海兵隊も数日後には出撃出来ます。」

 

ぼそっと零した本庄の言葉に鈴村が反応し、栃木がティアンワへ向かう部隊の準備が整っている事を報告する。

 

「朱雀戦争はなし崩しでしたが、今回は自ら戦いへ出撃する。まるでこの日本を試している───変えようとしている様だ。」

 

奇襲で始まった朱雀戦争を経て、敵国の宣戦布告で始まったティアンワとの戦争。それは平和主義に浸る日本を試す、もしくは変えようとする何処かからの思惑にも思えた。

 

2隻のしょうかく型航空母艦を主軸に、2隻のいぶき型イージス巡洋艦・1隻のイージス艦・6隻の護衛艦で構成された海上自衛隊第1機動部隊は訓示を行った鈴村総理や国民に見送られて、雪の横須賀基地を出港する。

第2潜水艦群や第7艦隊、更には国交締結に合わせて来日していたシーリア国防海軍艦隊の乗組員は、帽子を振って見送りに加わる。

 

同日には水陸機動団を載せた「LST-4001 おおすみ」と、第8師団第8施設大隊を載せた「LST-4002 しもきた」も佐世保港を出港する。残る「LST-4003 くにさき」や第7艦隊第11水陸両用戦隊、海上輸送群、高速マリン・トランスポートの輸送船は陸自の主力を任された第8師団と米海兵隊第31海兵遠征部隊等を積み込み、数日後の出港に向けて準備を整えていた。

 

空自や米空軍も任された役目を果たす準備を進めるだけでなく、一部は既に出撃してそれぞれの役割を実施していた。日本は戦後初の総力戦へ突入していった。

 

また横灘浜海軍基地を母港とする東和海軍第1艦隊と第7艦隊も同じ日にTRM諸国の観戦武官を載せて出撃し、陸戦の主力を任された陸軍第10師団と空軍第14航空師団も出撃の準備を進めていた。日東初の共同戦線が幕を開けようとしていた。

 

 

「遂にこうなったか。」

 

第1機動部隊が出港する光景は各テレビ局や映像メディアによって生中継されており、それをOREjournal社長 荻窪大介は会社のテレビで眺めていた。

 

「年明けてから、どこもこの話題しかやってませんね。年末には都心の降雪やら、TRM諸国民の教育実習生受け入れとかあったのに全部吹き飛びましたしね。」

「環境保護活動家が東和の海豚漁に抗議して、現地警察に捕まる事件だってあったのに、国民の大半はもう忘れているだろうな。」

「薄情ですね〜」

 

荻窪の横でテレビを見ていた瀧川沙織は、メディアがティアンワへの戦争に対する話題しかやってない事を突く。荻窪自身も数々のニュースや問題を差し置いて、戦争への問いかけをやっている為に国民に影響が出ている不安を抱く。

 

「市民ってのは恐ろしいもんだ。反戦を訴えたかと思えば、一転して攻撃を訴える。これを無自覚の内にやっているのだから、世論とは予測出来ないもんだ。」

「その市民に情報を伝えるのは我々メディアですよ。まあ、メディアがこの有様じゃあ機能してないですが───話題がここまで一辺倒なんて、洗脳しているみたいです。」

「今のメディアには公平よりもどれだけ見られるかが重視だしな。商売としては正解だが、メディアとしては不正解。だからこそ、何処かがそれを追求しなきゃいけないんだ。須崎、記事は出来たか?」

 

瀧川はまるで国民を操ろうと思える程に内容が偏っているメディアに不満を抱き、荻窪はシーソーの様に極端な感情を持つ国民に嘆きつつ、本来の役目から外れているメディアを指摘する必要があると決心する。

 

「勿論です! 今、社長のパソコンに送りました!」

「どれどれ───いい内容だ。夕方に早速上げよう。」

 

編集長は入社1年半の須崎(すざき)五月(めい)に声をかけ、彼女が書いていた記事の内容に問題無いと確認すると、今日の夕方に投稿する事を決める。

 

「入社1年半でここまでの記事を書けるなんて──彼女は化けますよ。」

「あぁ、彼女は大物になるぞ。」

 

須崎の記事を見た瀧川は入社1年半で書いたとは思えない文章から今後の成長を期待し、荻窪自身もそれを確信していた。

 

須崎の記事を投稿する操作を行っていると、テレビの画面が第1機動部隊の出港を見送った鈴村総理ら政府要人を写す。アナウンサーは鈴村総理が朱雀戦争に続いて、二度目の戦乱を招いた事を話していた。

 

「総理が戦争を招いた様に話してますけど、全く関係ないですよね?」

「そう、不満を抱くな。政府は市民の批判を一手に受け取る役目もあるからな。しょうがないと言えばそれまでだが、ここまで振り回されると可哀想だと思えるな。」

 

政府は国民に振り回される役目を担う事を零す荻窪は、須崎の記事を投稿する準備を整える。夕刻に投稿された“戦争一色になったメディアの状況を問う”記事は、メディアが偏った報道を続ける現状に一石を投じる事となり、国内に大きな議論を生み出した。




・ティアンワ捕虜の状況
いわき沖海戦で救助したジェリトら捕虜は日本に収容されているが、南鳥島沖海戦の捕虜はBMPで使用された収容所が現存している東和へ移送された。
日本に収容された捕虜へはインドネシア大使館職員も使った尋問で、国土や情勢・軍事に関する話を引き出している。収容所が閉鎖された刑務所を利用した関係で、刑務作業の設備が撤去されている為に労働は行われていない。

尚、転移後の日本では巻き込まれた在留外国人向けに多言語の新聞需要が増している為に、捕虜にもインドネシア語の新聞が渡される事がある。

・シーリア国防海軍艦隊
練習艦隊がTRM諸国を回る際に出す予定でしたが、出し忘れた為にここで登場。海防戦艦を旗艦に、複数隻のフリゲートで構成されているが、艦型の説明は果たしていつになるやら。

・TRM諸国民の教育実習生受け入れ
日本企業のTRM進出に際して、TRM諸国と日本に隔絶した技術差が存在している為に、現地の技術では効率的な運用や修理が難しいのが課題となった。
日本人技術者の派遣も技術者の数に限りがある事から、現地の国民に技術を教えるのが最適解とされ、その手段として教育実習生制度が用いられた。

先日のニュースで取り上げられていたのをきっかけに思いつきました。現実では問題ばかりですが、どうなるんでしょうね?

・環境保護活動家が東和の海豚漁に抗議して、現地警察に捕まる事件
東和の千月島には海豚の追い込み漁で栄え、現在も制限をかけた上で行われている街がある。水揚げされた海豚は港に隣接する加工場で加工された後に、名産品として出荷されている。
東和への旅行解禁に合わせて各地の観光地を紹介した際にこの街も紹介され、それに激怒した環境保護の活動家が現地に乗り込んで揉め事を起こして、現地の警察に逮捕された。

最近は熊関連で悪い意味で話題な環境保護活動家ですが、作者は海豚漁のツイートをしたら反対のアカウントから絡まれた経験があります。
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