New world note in Earth   作:YUKANE

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前話は長すぎる本編を書き終えたのに満足して、脚注(きゃくちゅう)を一切書かずに投稿してしまいました。投稿当日に修整しましたが、気づいた時の肝が冷える感覚は嫌ですね。

現実では3月23日付で護衛隊群が廃止され、水上艦隊へ再編されました。本作では機動部隊と護衛艦隊が3つずつの編成ですが、一先ずこのまま継続します。編成の詳細が分かり次第、作風に合わせて適合させていこうと考えてます。

※2026/5/5
CVA-80をCVN-80へ訂正


Episode.67 亡国の維持

ティアンワ王国を構成するスラルヴェア列島の最北端に位置するスパヴィン島。

東西130km・南北90kmの小島ながら、北に聳える3000m近い標高の活火山 ラスティッシュ山の噴火によって高低差の激しい複雑な地形と火山湖が点在し、列島とは異なる地形と気候から固有種の存在する生態系が形成されていた。国外からも注目される生態系を持つ傍らで、最北に位置する立地から島内最大の港湾都市 マルキワはティアンワの東西を結ぶ航路の中継地として古くから栄え、かつて島を治めた国は首都を置いていた。

 

バウラット計画の始動後はジャドリンド島との間に存在する幅50kmのマンアラズ海峡に面する為に、敵国が攻めてきた際の最北の防壁となる砲台や海底ケーブルで本土に繋がる通信所が建設されていた。

 

「交代だ。様子は変わらずか?」

「今のところはな。守備艦隊も予定通りの動きだ。」

 

通信所に併設された木造の見張り台では昼夜を問わずに海峡の監視活動が行わていた。18日の朝方から担当する三等兵 マガウは島内産の材木で造られた見張り台の梯子を登り、深夜帯の担当した同期のテヘルへ交代を告げる。

 

「なあ、日本と東和って奴らはここに来るんだよな?」

「恐らくな。タンキル海峡は通る船も見張り所も多いし、見つかるリスクが高い。マンアラズ海峡は大回りになるが、見つかりにくいと上は考えているそうだ。」

「なるほどぁ。果たしてどうなるか──────砲撃音?············っ!?」

 

マンアラズ海峡を昼夜問わず見張る必要性を語り合うマガウとテヘルの耳に砲撃音が聞こえたかと思えば、海峡を航行していたマルキワ守備艦隊のコルベット「クライア」とスループ「ファクティナ」が爆発を起こす。

朝日よりも強烈な光を撒き散らして鉄骨木皮の船体は破壊され、黒煙を上げながら海中へと沈んでいく。

 

「敵襲だ!! 鐘鳴らせ!!」

「敵は何処だ!?」

「今探して、いたっ!?─────遠すぎる!?」

 

マガウが敵襲を知らせる鐘を鳴らし、テヘルは眠気に襲われていた眼と双眼鏡で敵を探す。敵の襲来方向が分かっていたからか、攻撃したと思われる相手は直ぐに見つかったが、ティアンワでは常識外の遠さにテヘルは驚かされる。

その間にも2隻の敵艦の砲撃は守備艦隊へ迷わず命中し、旗艦のフリゲート「ズワンム」含めて6隻の艦隊はあっという間にして海上から姿を消した。

 

「守備艦隊がこんな短時間で··········日本と東和の船ってのはこんな恐ろしいのか!?」

「あぁ、あり得ない射撃精度だ。一体どんな船なん─────なっ、なんだあの見た目は!?」

「どれだ!!────っ!? なんだあれは!? 亀の甲羅でも背負っているのか!?」

 

守備艦隊が呆気なく全滅する光景を目の当たりにしたガウルが日東の恐ろしさに慄く中、双眼鏡で敵艦を探していたテヘルが何かを目にして驚愕の声を上げる。

ガウルも首から下げた双眼鏡で東の海域を覗くと、ティアンワの艦船とは全く異なる見た目の軍艦が2隻航行していた。灰色一色に塗られた幅広の船体は鯨の様に大きいにも関わらず、大砲らしきものは艦首の1門しか見えない。だが、小さな大砲の背後には巨大な八角柱と見張り台らしき塔を組み合わせた巨大構造物が聳え、その見た目は亀の甲羅を背負ったとしか体現出来なかった。

 

「あれが日本と東和の軍艦なのか··········」

「あんな小さな砲で守備艦隊を全滅させたのか? 見た目はシンプルだが、恐るべき船だ───んっ! 奥の艦の大砲が動いた!!」

 

ガウルとテヘルは双眼鏡越しに見える2隻の軍艦に対し、シンプルな見た目とは裏腹に予測出来ない恐ろしさを秘めていると怯えを抱く。

2人は亀の甲羅こと八角形のAN/SPY-1Dフェーズドアレイレーダーは300kmの遥か彼方にいる存在すら見透かし、イージスシステム(AWS)と組み合わせば複数の目標を同時に攻撃出来る恐るべき代物であり、最も今見ている船が日本でも東和の艦船でも無いのを知る由も知る術もない。

 

ジャドリンド島沿いを航行する奥の艦ことアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦の「DDG-76 ヒギンズ」は、54口径長のMk.45 5インチ砲 Mod2の長い砲身を左へ回し、対岸に聳えるカンラカム砲台に定めた砲口が破壊の礫を撃ち込む。

 

30kg超えの5インチ砲弾はライフリングで与えられた回転でブレずに朝焼けの空を飛び、目標であるカンラカム砲台へ着弾する。奇しくも同口径のイルタ-127mmカノン砲は直撃で哀れにも壊され、即応弾として置かれていた127mm砲弾も巻き込んで爆発する。

 

「砲台がやられた!!」

「このままじゃここもやられる!! 急いで降りるぞ!!」

 

対岸にも伝わる程の爆煙と爆発音を起こして、破壊されるカンラカム砲台を目の当たりにしたガウルとテヘルは、この通信所が次なる砲撃目標だと直感し、生き延びるべく見張り台の梯子を降りていく。

 

2人が見張り台から降りたのとほぼ同時に、スパヴェン島沿いを進む同型艦の「DDG-105 デューイ」が通信所へ向けた62口径長のMk.45 5インチ砲Mod4を発砲した。大気を揺るがす轟音を響かせて飛翔する5インチ砲弾は2人がいた見張り台の根元へ命中し、爆発でバラバラに崩していった。

「デューイ」は見張り台の倒壊を見届けずに砲口を次の目標である通信所へ定め、自動装填装置で送り込まれた5インチ砲弾によって文字通り吹き飛ばされた。

 

「建物が!! これじゃあ通信出来ない!!」

「いや、狼煙(のろし)を使おう!! この火を使えばいけるぞ!!」

「それだ!! やるぞ!! 急げ!!」

 

奇跡的に砲撃と見張り台の倒壊から免れたガウルとテヘルは、跡形も無く爆散した通信所に絶句していた。幸いにもカンラカム砲台が砲撃される光景を目の当たりにした為か、建物内の要員も逃げ出していた事で人的被害は比較的軽微だった。

しかしながら、建物の倒壊は対岸への通信が出来なくなったのを意味していた。だが、テヘルは砲撃によって生じた火災を狼煙として用いれば、対岸へ敵艦隊襲来を通達出来るアイデアを思いつく。彼の機転の効いた提案にガウルは即座に納得し、動き出す。

 

軽症だった通信所の要員も加わって行動は早く進み、辛うじて残っていた大きな布と、通信所故に保管されていた狼煙のマニュアルを用いて見様見真似で狼煙による通信が行われた。

 

ガウルとテヘルらが狼煙を上げている中、マルキワへの攻撃を終えた米海軍第7艦隊はマンアラズ海峡を堂々と通過していく。攻撃を任されたアーレイ・バーク級の2隻を先頭に、残る3隻が朝の海峡を抜けていく。

亀の甲羅を背負った艦に、崖のように切り立った艦、平べったい巨大艦。ティアンワの艦を体当たりで沈められる程に大きく、似ても似つかない姿をした艦隊はこの戦争を終わらせる一撃を加えるべくジャドリンド湾へ到達した。

 

 

ジャドリンド湾へ到達した米海軍第7艦隊は、ジャドリンド島北部に鎮座するアオン山脈に沿って凪いだ海を南下する。

活火山が密集した山脈を横目に5隻の艦隊を率いるのは米国最新の原子力空母であるジェネラル・R・フォード級航空母艦の3番艦 「CVN-80 エンタープライズ」。7度も撃沈認定された幸運艦や世界最初の原子力空母へ与えられた伝統の名を受け継いだ彼女は、米海軍唯一の巡洋艦であるタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦の「CG-54 アンティータム」と、アーレイ・バーク級の「DDG-115 ラファエル・ペラルタ」以下3隻に護られて航行する。

 

ニミッツ級の構造を踏襲しつつも新開発の高強度強靭鋼HSLA-115で組み上げられ、ステルス性を意識して多角化と小型化が図られたアイランド艦橋が艦尾に聳える航空甲板上では、第5空母航空団の第27戦闘攻撃飛行隊に属するF-35C(ライトニングⅡ) 12機と第141電子攻撃飛行隊のEA-18G(グラウラー) 1機が出撃の手筈を整えていた。

 

F-35Cのプラット・アンド・ホイットニー F135-PW-100 ターボファンエンジンと、EA-18Gのゼネラル・エレクトリック F414-GE-400 ターボファンエンジンが奏でる轟音の中で、色鮮やかなベストを身に纏った甲板作業員(レインボーギャング)がそれぞれの役目を果たす。

レッドシャツの航空火器整備員がウェポンベイに爆装を取り付け、火薬取扱員が安全ピンを抜く。パープルシャツの航空燃料作業員が鋼鉄の鳥を飛ばすJP-8 ジェット燃料を注ぎ込む。ブラウンシャツの機体担当整備員は出撃前の最終確認として担当する機体を確認する。

 

安全管理を担うホワイトシャツに監視されながら各々の作業が完了すると、ハンドジェスチャーでそれがパイロットへ伝えられる。

 

「第27戦闘攻撃飛行隊全機発艦準備整いました。」

『了解した。隊長機を先頭に各機は発艦せよ────ん? あぁ、なるほど。艦長から激励があるそうだ。』

 

第27戦闘攻撃飛行隊隊長のメリス・キャンベル上級曹長は、艦橋に備える管制塔(プリフライ)に佇む総責任者 エアボスへ発艦準備完了を伝える。通信機越しに報告を受け取ったエアボスが発艦手順を伝え終わると、パイロットへ激励の言葉を労うべく訪れた艦長へ通信機を手渡す。

 

『艦長のライダーだ。メリス飛行隊長。実戦に出る気分はどうだ?』

「正直なところ、非常に高揚してます。北方領土の時に海自が戦果を上げるのを焦れったく見ていたからでしょう。」

 

「エンタープライズ」艦長のライダー・J・マッカートニー海軍大佐は初の実戦に関する想いをメリスへ聞いたが、当の本人は抑えきれない高揚を自信げに応えた。

2年前の朱雀戦争で勃発した北方領土奪還作戦こと“Operation蒼龍”は第1機動部隊で行われ、合同演習中だった「エンタープライズ」も巻き込まれる形で同伴した。この時は米軍は一切攻撃を行わなかったが、当時は役職の無いパイロットだった彼女は輝かしい戦果を上げたしょうかく航空隊を目の当たりにし、一種の嫉妬心を抱かせた。

 

奇しくも2年後に同じ第1機動部隊と行われた今回の紺色作戦で出撃の機会が与えられただけでなく、作戦で最も重要な攻撃目標が与えられた事でメリスのやる気は満タン近くに満ちていた。

 

『心配は杞憂だったな。慢心せず目一杯やりきってこい!』

「全機でこの艦へ帰ってまいります。」

 

慢心防止も兼ねた艦長の激励を受け、イエローシャツの航空機誘導員のハンドジェスチャーに従って隊長機を先頭に発艦が始まる。メリスの機体がEMALS電磁カタパルトに到着すると、グリーンシャツのカタパルト整備員が機体を接続する。

 

ジェットエンジンの排気から甲板作業員を護るジェット・ブラスト・デフレクターが立ち上がり、全ての準備が整うとイエローシャツのカタパルト発射士官が発艦のハンドサインを作る。上に振り上げた片腕を振り下ろし、水平にする動作を確認したグリーンシャツがカタパルトを作動させた。

 

世界初の実用電磁カタパルトが爆装された機体をリニアモーターの原理で押し出す。航空甲板から射出されたF-35Cは空へ舞い上がる。

メリスの発艦が終えると部下の機体が次々と発艦準備に入り、ティアンワの空へ飛び立つ。

 

メリスの発艦から僅か十数分後には第27戦闘攻撃飛行隊の12機と第141電子攻撃飛行隊の1機全てが空へ舞い上がった。13機の編隊はこの戦争を終わらせるべく、ティアンワで最も重要な都市へ攻撃すべく空を飛んでいく。

 

12機のF-35C(ライトニングⅡ)はティアンワに米国の強さを電撃の如く知らしめる為に。たった1機のEA-18G(グラウラー)は通信の繋がらない恐怖で多くの者を唸らせる為に。そして、二度と地を下ろせなくなった母国への哀愁を晴らす為に。

 

 

ジャドリンド島中央に位置する首都 ジャラカ。2000万人近い人口を抱える国内最大の大都市はティアンワ由来の旧市街とヴィジランド由来の新市街で構築され、街を二分するチルヴァラ川によって分かれている。ティアンワの王宮や政府の行政機関は旧市街は置かれ、トラクティア諸国の大使館も置かれていた。

 

ティアンワの建築用法で築かれた街並みにポツンと佇むヴィジランド建築の大使館では、業務の傍らで観戦武官から送られた情報の整理が行われていた。

 

「ヴィジランド海軍の主力艦隊が出撃したそうだ。前弩級戦艦が日東相手にどう立ち回れるか気になるな。」

「どうせ完敗ですよ。結果が分かりきっているのに面白いんですか?」

「あぁ、ここまで技術が隔絶した相手が戦う機会なんてそうは無い。折角ならば戦い方を知っておくべきだろ。」

 

観戦武官へ与えられた一室にて、観戦武官を率いるフレイズ・グローメウェル中佐は海軍艦隊に同伴したガーツから送られた電信を読み上げる。

実際には東和が単独で戦う事になったのだが、それを知る由もないフレイズが抱いた興味に部下のレンネ・パルフィン三曹が現実を突きつける辛辣な言葉をぶつける。ただ、当のフレイズ本人は気にしてないどころか、寧ろ今後集められないであろう重要な情報だと認識していた。

 

「幾度も観戦武官をやっている方が良いのであれば重要な情報なのでしょう。私はまだまだ未熟だと思い知らされてました。」

「生憎な。第3次ローボ戦争でローリアのサルウェルビスクに行った時は、極寒の進軍中でも暖かい飯を作る野外調理車を見せて貰ったさ。

ヴィジランド軍が極寒の地へ行く事例は考えられないが、万が一に備えて集めておくべきだろ?」

 

レンネへ自慢する様に観戦武官としての実体験を語ったフレイズは、ティアンワでよく飲まれるコーヒー コピトゥブルッを眠気覚ましに飲む。

 

「紅茶は飲まないんですか?」

ティアンワ(ここ)の紅茶も美味しいんだが、こっちの方が気に入った。コーヒーパウダーと水とミルクを混ぜてお湯を注ぎ、その上澄み液だけを飲むなんて初めてさ。折角ティアンワにいるんだから、ここでしか味わえない物を味わっておくべきだよ。」

「ふ〜ん」

「お二方、作業は終わったんですか?」

 

ティアンワ名産の料理や飲料を味わっておくべきだと語るフレイズと、それを半ば聞き流していたレンネの両者は第三者の声に震える。話し込んでいたが為に、ティアンワから派遣されたスイシャル・セヌ・リヴァオネが帰っていたのに気づかなかった。

 

彼女は元々経理の部署で領収書の集計作業を担当していたからか、多数の書類を素早く捌けた為に観戦武官の補佐についていた。だが、彼女の腕前は想定以上で、余りもの処理能力の高さから実質的な纏め役へと昇格していた。

国内に分散した観戦武官から集められた情報の処理能力でスイシャルへ一切勝てなかった両者は、実質的に尻に敷かれた状況となっていた。

 

「いや〜作業が一段落したから少し休んでいただけさ。」

「ほ、ほら。一度休んだ方が仕事の効率が上がるって、どっかの大学教授が言ってたような········」

「全く·······市場の露店(ワルン)揚げバナナ(ピサン・ゴレン)買ってきましたから、これ食べたら作業を再開しましょう。」

 

ティアンワに古くから根付く家族経営の小規模な売店や食堂を指すワルンで揚げバナナを買ってきたスイシャルは、サボっていた2人に呆れつつも揚げバナナを餌に積み上がった書類の束を片付ける作業へと誘った。

専門分野故に厳しつつも、しっかりとご褒美を用意してくれたスイシャルに感謝につつ、食べようとしたフレイズとレンネだったが、3人の鼓膜に届いた甲高い轟音がそれを妨げた。

 

「な、なんですか!? この音は!?」

「空から聞こえている!? 航空機ですか?」

「いや、本国でもこんな音の飛行機なんて知らな────まさか!?」

 

大気そのものを揺らすかの如き轟音にスイシャルとレンネは耳を抑えて困惑する。フレイズは困惑しつつもレンネがこぼした“飛行機”と言うワードから、ある仮説に辿り着く。

フレイズの思考がその仮説に辿り着いたと同時に、轟音を響かせる主が大使館の上空を切り裂いた。裂かれた大気で窓が震える中、外を覗いたフレイズの視界に灰色の鳥が写る。

 

「間違い無い、ステルス機だ!!」

 

フレイズの視界に写ったのはジャドリンド湾上の第7艦隊から飛び立ち、アオン山脈を超えて北東から飛来した第27戦闘攻撃飛行隊(ロイヤル・メイセス)F-35C(ライトニングⅡ) 12機。世界初の実用艦上ステルス戦闘機は悠々自適にジャラカの空を飛び、恐怖をばら撒く。

 

F-35Cの編隊は敵国の首都上空を飛んでいるにも関わらず、迎撃どころか一切の妨害すらも受けない。そもそもまともな対空火器を持ってないのもあるが、轟音を振り撒きながら空を自由に飛ぶ常識外の存在に対する言いしれぬ恐怖が兵士らの身体と心を強張らせる。

 

ディワダらティアンワ王族や政府閣僚・ジャラカ市民に恐怖と言う感染病を伝染させるF-35Cの胴体と一体化したウェポンベイの外扉が開き、1機辺り2発ずつ積み込まれたMk.82航空爆弾が姿を現す。227kgにもなる鉄のラグビーボールが空中へ投下され、尾部の誘導システムが4枚の尾翼を操って、先端部のレーザーシーカーが捉えた攻撃目標へ導く。

 

レーザー統合直接攻撃弾(LJDAM)と呼ばれるキットで精密爆撃能力を得た航空爆弾は、吸い込まれる様にして王宮を囲う石造りの城壁の胸壁(きょうへき)へ直撃した。

城壁の最上部には防衛砲台としてイルタ-127カノン砲が設けられていたが、重力と高精度の誘導システムを味方に直撃したLJDAMの爆発が呆気なく吹き飛ばす。ボルトン帝国に存在する高射砲台を思わせる配置ながら、動かせる仰角が狭すぎて対空砲になれないと言うそもそも論こそあれど、首都を護る砲台が一発も撃たずに失われた事実は、戦っている相手がどう足掻いても勝てない存在だと知らしめる。

 

「王宮の砲台が········」

「航空爆弾ってこんな命中するもんなんですか!?」

「いや、爆弾自体に誘導機構があるのだろう。そして、単発のステルス戦闘機と言う事は恐らくF()-()3()5()!! そして遠くいるのはF()/()A()-()1()8()!!」

 

スイシャルは護り神に相応しい砲台があっさりと壊れたのに絶句し、レンネは投下された爆弾の高すぎる命中精度に困惑する。

絶望感と困惑に陥る女性陣の傍らでフレイズは爆弾の命中精度の高さの原因を突き止めつつ、高速でジャラカ上空を旋回する機体を見ながら、脳内の知識から機種を特定した。

 

「やはりフィルムカメラじゃ駄目か······音速出せる相手だしな。」

 

F-35Cの姿を写真に収めるべく自前のフィルムカメラを構えるフレイズだったが、高速で飛び回る機影をレンズに捉える事は出来なかった。

 

「これでハッキリした。我々が相手しているのは正真正銘の日本国。世界を救った救世主の一国だ。」

「で、でも救世主達って元の世界へ帰ったと聞いてます! なんでこの星に来ているんですか?」

「それは分からない。だが、どの様な形にしろ救世主が現れたと言う事は、()()の再来が近づいているのかもしれない」

「それって·············」

「まあ、全て仮説でしかないが。一先ず日本国に関する情報収集を最優先事項にすべきだな。」

 

まるで見せつける様にしてジャラカ上空を旋回する編隊を見あげながら、フレイズは断言する。レンネは絵本や歴史の授業で習った内容を思い出しながら疑問をぶつけ、フレイズが述べた一つの仮説に目を見開く。星を恐怖で覆ったソレの復活を仮説だと否定したフレイズ自身も、それを証明するべく散らばった観戦武官に対する追加指示を出さざるおえなかった。

 

米海軍空母航空隊によるジャラカ爆撃はティアンワ国内に大きな衝撃を与えた。一連の攻撃でマルキワ守備艦隊を失い、マンアラズ海峡沿いの砲台と監視所及びジャラカを護る20門の野砲を失った。

 

損失だけ見れば日東の攻撃を受けた各都市より軽微だったが、精神面に対する一撃は遥かに上回った。首都が一切の妨害を受けずに攻撃され、反撃すら出来なかった。市民に死者こそ出なかったが、爆撃を受けた3月18日は後世にも語り継がれる重要な日となる程の衝撃を市民に響かせた。

衝撃を受けたのは市民だけでなく王族や政府関係者も同じであり、自らが戦いをふっかけた相手が首都への直接攻撃を行えるまでの力を持っているのだと知らしめられた。戦いそのものが間違っていると同義ともとれる結果に、国を率いる上層部は大きな混乱に陥った。

 

だが、日東はティアンワの混乱の収束を待ってくれない。ジャラカ爆撃の同日には既にティアンワ戦を終わらせる行動が始まっていた。




・スパヴェン島
ジャドリンド島の北50kmに位置する東西130km・南北90kmの島で1300万人。
小さな島ながらも北側には3000m近い標高を持つ活火山 ラスティンシュ山が聳えており、この山の噴火によって島内には高低差の激しい複雑な地形や複数の火山湖が存在している。諸島内でも独特な地形や海底地形・気候を有している為に固有種が生息しており、固有種の研究をするべく国外の生物学者が訪れる事もある。
南部の平野ではタロイモや米・砂糖などの島民向け栽培と牛の放牧が行われており、特産のタロイモは国内各地へ運ばれている。山間部と平野の境界付近ではクローブやココナッツ・ナツメグなどの樹木が栽培され、香辛料やヤシ油へと加工されている。

・マルキワ
島の南東に位置する都市で114万人。
ジャドリンド島との間に通っているマンアラズ海峡に面している事から西海岸へ向かう船の中継拠点として栄え、ティアンワによって平定されるまで島を治めた王国が首都を置いていた。バウラット計画の実施が決まると未確認国が攻めてきた際に東海岸を守る防壁として通信所や砲台が建設された。
東海岸と西海岸の中間に位置する立地からマルキワ港には現在も両地域からの定期船が毎日来港しており、港から放射状に広がる町の市場では東西両方の品が販売されている。郊外にかつての王城がある街は島最大の都市である為に各省庁の支局や、島内で最大規模の学校や病院が建てられている。
郊外で栽培されている黒檀はその美しさから建材だけでなく家具や楽器といった様々な木製製品に使われており、木材から抽出された整髪用の油と一緒にヴィジランドへ輸出されている。

・ガウルとテヘル
両者はプロットになかった登場人物です。何処かで再登場させたいですね。

・今作のタイコンデロガ級
2年前までシ連との冷戦が継続していた関係で、Mk.41 VLS搭載艦は全隻が延命工事をした上で現役状態にある。シ連崩壊後は船体の老朽化と維持費の問題から、退役が検討されていた。

・第27戦闘攻撃飛行隊
現実ではF/A-18E Block3(スーパーホーネット)ですが、今作ではシ連の最前線に位置する為に全戦闘攻撃飛行隊がF-35Cへ機種転換されている。

・ボルトン帝国に存在する高射砲台
この1文でどの国がモデルか分かってしまうかもしれません。

・フレイズの発言
今回は彼が数々の意味深発言が多かったですが、これに関する説明は彼自身にさせようと思ってます。
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