New world note in Earth   作:YUKANE

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前回の後書きで書き忘れたのですが、第8師団は海自の輸送船不足から米海軍の揚陸艦も使用してます。陸自車両が米艦艇に載るか不安でしたが、前作連載時にコメントで問題無いとの回答を得たので採用しました。

つまり前作連載時から今作の構想が組まれていた訳ですが、前作終了から今作連載開始まで3年3ヶ月もかかっている遅筆さに愕然としてます。

今回はヴィジランドの観戦武官の別れた命運が描かれます。最後にUA40000突破に感謝致します。


Episode.70 観戦武官の宿命

18日早朝にスワンカへ上陸した日米合同軍は当日中にスワンカ要塞と市街を制圧し、3月21日には降伏に従わなかった残党掃討も終えて、完全な占領が宣言された。

 

スワンカの戦いで主力を務めた第12普通科連隊含む第8師団は数日後にティアンワ王国の首都 ジャラカへの進軍を開始する予定で、その補給拠点となるスワンカは第31海兵遠征部隊が警備を一任する。即時展開能力に長けた海兵遠征部隊の総員は最大でも2200名と少ないながら、最前線だった故に申し分ない練度と世紀単位の差が存在する兵装によって防衛に問題は無かった。

 

市街戦で消耗した装備品や弾薬類・医薬品の補給を第8師団が受けている中、海岸沿いの広場に設けられた第8師団司令部に現れた1人の男にその場にいる全員の目が注がれていた。

白き肌に金髪をなびかせ、サファイアを思わせる碧眼を光らせる。その有様は有色人種のティアンワ人とは似ても似つかず、ヨーロッパで何世紀も渡って世界の中心を担い続けた白人であった。

 

事実上のトップを務める第8師団師団長の二階堂完治陸将を筆頭に、幕僚長の沢田明寿一等陸佐・第12普通科連隊連隊長の稲郷重治一等陸佐と言った陸自の面々は未知なる世界への興味と疑心の混じった目線を向ける。対して第31海兵遠征部隊を率いるブレイン・ミラー大佐ら米海兵隊は疑心と同胞かもしれない期待の混じった目線を向けていた。

 

「ロイズ・リヴァーベル少尉。ヴィジランド陸軍ポートリア方面軍第12師団参謀官。観戦武官としてティアンワを訪れ、スワンカ要塞にいた────で、間違いないか?」

No doubt(間違いない)

 

米海兵隊の尋問で話された自己紹介と所属部隊に関する情報を沢田が言うと、ロイズは英語で返答した。既に東和で英語が日常使用されている為に驚きこそ少なけれど、流暢な話し方はこの世界に英語圏の地域が存在する裏付けでもあった。

 

「ネットで噂されていた通り、やはりヨーロッパの様な英語圏がこの世界にもあったのか。」

「えぇ、それを聞き出せたのは在日米軍(我々)には大きい。簡単に口を割ったので助かりました。万が一口を割らなかったら、アフガニスタンでやった尋問方法をやるところだったので。」

 

ブレインの言葉は亡国となり、似た仲間もいない面々にとって待ち望んでいた結果だと表す。彼は最後に物騒な発言をしていたが、陸自面々は聞かなかった事にした。

 

「まあ、それも重要ですが、もう一個聞いておきたい事がある。彼は我々の国名を知っていたのです。」

「ティアンワから聞いてだけでは?」

「最初はそう思ってましたが、話を進めていくに連れてイギリスやらフランス・中国の名前すら出て来ました。」

「何?」

 

短時間の尋問で発覚した不可解な点を聞かされた二階堂らは、張本人であるロイズへ目線を向ける。

 

「世界を救った国々の2国に会えてしまったから、思わず聞いてしまったのさ。しかし、“イージス艦”に“攻撃ヘリ”・“主力戦車(MBT)”。流石は()()()。何処まで我々の上を行く最新技術を持っているのか。*1

「なっ!?」

 

ロイズの発言に日米の全員が絶句する。ヴィジランドの技術レベルは未解明だが、彼の発言からして日本よりは下だと伺える。にも関わらず、イージス艦や攻撃ヘリと言った日本だけでなく、地球各国の軍で主流となっている兵装を知っているのは絶対的にあり得なかった。

 

「何を驚かれてる。これは()()()()()()()()ではないか?」

「我々が伝えた!? 転移から半年しか経ってないのに!?」

「密航者がいたって言うのか!? 今の海上警戒網だったら見つからずに行けるか?」

「いや、だとしてら行方不明のニュースが出ている筈だ。現に転移直後にはラジオで船の捜索を呼びかけてじゃないか!!」

 

ロイズの二言目で面々は更なる衝撃を突きつけられる。転移から8ヶ月程度経過したとは言え、日本から位置すら分かってないヴィジランドへ誰にも気づかれずに密航し、観戦武官に最新の軍事技術を伝えるのは不可能に近かった。

混乱を招いた当のロイズ本人も、日米面々の予想外の慌て様に何処となく違和感を抱く。

 

「貴方は我々が伝えたと言っていたが、我々は8ヶ月前にこの星へ転移してきたばかりだ。しかも、ヴィジランドについてはティアンワとの開戦後に初めて知らされた。場所も分からない国に技術を伝えるなど不可能なのだ。」

「8ヶ月前に転移? 我々が()()()()()()()()()()()だぞ?」

「何世紀も前に接触だと!? なら絶対にあり得ない! そう言う話は一切知らないし、何世紀も前だと概念すら無いからな。」

 

沢田が日本の転移を含めて事実では無いと返答するも、ロイズの発言で更に司令部内は更にどよめく。余りにもあり得ない内容に思わず虚言だと考えるも、現代兵器を知っている発言との辻褄が合わない為に、結びつかない事実だけがぐるぐると回り続ける。混乱しているのはロイズも同じで、自らが対面している相手は救世主と同名の無関係な国ではと思ってしまう程であった。

 

「話がここまで噛み合わないとは······」

「それはこちらのセリフだ。一先ず、貴方から聞きたい話は沢山ある。これ以降は「LCC-19 ブルーリッジ」の方へ移送してやってもらおう。」

「同感だが、最後にこれだけ聞かせてくれ。この世界にアメリカと似通った国はあるのか?」

 

埒が明かないと判断した二階堂によって、ロイズへの尋問は沖合に布陣する旗艦「ブルーリッジ」へ移すことが提案される。ブレインもその考えには同意したが、その前に一つの質問を投げかける。

 

アメリカ人がそれを聞くのは必然だった。母国と物理的に切り離され、日本に取り残された同胞しかいなくなったアメリカ人にとって、英語圏の国家があるならばアメリカ擬きがあっても可笑しくないと考えるのは自然な流れだった。

それはロイズにも分かっていた様で、ブレインに対して返答を語り出す。

 

「やはり聞いてきますか。その返答はYesだ。トラクティア大陸の東3000kmにユートラジア合衆国がある。アメリカの血を受け継ぎ、大陸一つを治める強国だ。最も現在は我が国とキナ臭い関係になっているが。」

「ユートラジア───合衆国·······ソレが知れただけでなりよりだ。」

 

ロイズの返答にブレインは静かに返す。だが、そこには在日アメリカ人が望む回答への感謝も含まれていた。この星にも同胞がいる事実は、この世界で孤立していたアメリカ人に生きる希望を与える大きな意味を持っていた。

 

ロイズの後方移送が行われ、クルファら守備隊捕虜のバリア島移送が始まった3月25日。補給を終えた第8師団が進軍を開始する。

戦車に装甲車・自走砲・トラックと言った動く鉄の箱の群れは熱帯雨林に伸びる道を突き進む。目指す先は直線で南南東75kmに位置するティアンワ王国の首都 ジャラカ。直線上にテンバレー山脈がある為に最短距離では進めなかったが、迂回しても行軍距離は100km程度しか無かった。

宣戦布告したプライドが終結を邪魔する戦争を終わらせるため、陸自は進軍経験の無いジャングルの道を進んでいく。

 

 

ティアンワのジャドリンド島とヘレンリラ島にはヴィジランドによって敷設された鉄道が張り巡らせ、それらはティアンワ国鉄によって管理と運営が行われていた。地盤強度と建築費の問題からトラクティア大陸で主流の1435mm(標準軌)ではなく、より狭い1067mm(狭軌)で敷かれてこそいたが、徒歩はおろか馬車すらも凌ぐ速さと輸送量からティアンワ国内の一大交通網に君臨していた。

 

日常であれば海外製の蒸気機関車に牽引された旅客列車や貨物列車が日々国土を縦断しているが、戦時下に移行した現在は前線へ向かう兵士と食糧・医薬品・軍服と言った消耗品を運ぶ軍用列車が絶え間なく走っていた。

 

軍用列車の本数は本土上陸を許した直後から増加し、交換設備をフル活用して単線の線路に出来る限りの列車が運行されていた。

その中の1列車は後方要員を客車に載せ、貨車に積み込んだ混在スタイルで運行されていた。重い列車牽引するオルストラ王国製のT1500型マレー式蒸気機関車*2は、蒸気が煙突から噴き出す際に奏でるドラフト音を熱帯雨林に響かせる。

 

乗っている将兵らは補給を専門とする部隊に属し、直接戦闘には加わらないが、戦闘の勝敗を左右する重要な存在であった。その部隊を率いるティアンワ人将校は木製客車のボックス席に座りながら、対岸に座る人物と長く話し続けていた。

 

「やはり頭のお硬い貴族どもや戦闘狂は我々の重要性を理解しようとしない。誰のお陰で君達が使う弾薬や食べる食料を運べていると思っているのかね。」

「貴族ってのはそう言う物ですよ。ヴィジランド(我が国)も過去の栄光に縋る貴族が若干いますけど、貴族社会が根付いたオーティリア皇国なんかは平然と物言いしてきて迷惑だとか聞いてます。」

「やっぱり何処の国も変わらないのか·········しかし、ヴィジランドは先進的で羨ましい。こうして裏方の補給部隊にも目を向けてくれるのだから。」

「ヴィジランドも島国ですから。補給がより一層重要なのです。もし本土での戦いが起きた際、どの様にして補給を行き届かを知る為にも実戦での補給を記録する必要があるのです。」

 

将校の話し相手であり、彼の話を手帳にメモしていたのはヴィジランド陸軍の観戦武官のカーラ・スパンナ准尉。本国軍兵站局で横領や水増しの監視を行う監査官を務めており、その経験からティアンワだけでなく、敵である日東の補給能力を探るべく派遣されていた。

 

「確かに······島国である以上、限られた資源をどう効率的に輸送するかが重要。それを我々が理解しているか、自国で取り入れられる事は無いか探っているのですね。」

「えぇ。それにティアンワが戦っている日東両国の本土はここから西に2000kmと聞いてます。戦場と本土が段違いに離れている両国が、上陸させた部隊に充分な補給を行き届かせているか気になるところです。」

「それは私も気になります。ただ、それを知るには日東両軍の奥深くまで忍び込まなければなりませんから、現実味はありませんが。」

 

カーラと将校は敵国である日東の補給体制も知りたがっていたが、主力部隊がいるであろう最前線の後ろに行かなければいかなければいけない為に冗談程度だと理解していた。

 

尚、両者が気になっている日東の補給に関しては両国ともに輸送艦や徴用船のピストン輸送で行っており、「いずも」以下海自艦と東和海軍第6艦隊が警備に当たっていた。紺色作戦で出撃した艦隊に対しても海上自衛隊第1機動部隊には「AOE-423 ときわ」が、米海軍第7艦隊には「T-AO-191 ベンジャミン・イシャーウッド」が、東和海軍第1艦隊には角木級補給艦「阿見是(あみぜ)」が専属で付いていた為に燃料に関しては一切問題は無かった。

 

「あれ? 熱帯雨林が開けて───川を渡るんですか。」

「ランペル川ですね。今は乾季で水量が少ないですが、雨季はかなりの大河で───ん? 遠くの空に何かいるような···」

「あれは!? まさか!!」

「3時方向に飛行機の大群が!!」

 

長い列車が長らく走っていた熱帯雨林を抜け、テンバレー山脈から流れ出たランペル川を渡る橋梁に入った正にその瞬間、将校が蒼き空を飛ぶ何かを見つけた。将校が疑問を抱く中、ヴィジランドでそれを見慣れたカーラはその正体に気付き、周囲の警戒に当たっていた兵士も事前に教えられたが為に正体に気づいた。

 

それはテッラ基地を出撃した東和空軍第14航空師団の第187飛行隊に属する七式戦闘機の編隊であり、ティアンワ制空権の概念が無い利点を活かして、パータに上陸した東和陸軍を支援すべく後方補給線の破壊に従事していた。

 

「補給線にも攻撃とは用意周到だな!」

「褒めている場合ですか!? 航空機に反撃する手段はあるんですか!?」

「大丈夫だ──ほらな!!」

 

対空の概念が無いティアンワに航空機を迎撃出来るか不安視するカーラに対し、冷静に補給線攻撃の必要性を理解している相手を褒めていた将校が安心の言葉を投げかけて直ぐ、連続した銃声が鳴り始めた。

 

貨車を改造した対空車に取り付けられたカディファ-77重機関銃は射撃の反動で次弾装填と排莢を行う自慢の連射性能で対空砲火を形成するも、単葉機の東和空軍機にとって水冷式機関銃の弾幕は豆鉄砲にすらならない。“戦場の守り神”とも題されるカディファ重機関銃が機能しない様に絶望するティアンワ兵の目の前で、七式戦闘機が攻撃体制に入る。

 

翼下から発射された六十一式対地ロケット弾が橋梁に次々と命中し、翼内の六式十三粍機関銃の機銃斉射が全速力で橋梁を駆け抜けようとした列車へ降り注ぐ。

現地調査された木材で組み上げられた橋梁は対地ロケットの爆発で少しずつ損傷を負っていき、貨車に積まれた弾薬の誘爆がソレを致命傷へ変えた。

 

橋梁を支える橋台だった大木が真っ二つに折れ、倒れ始める。それに引きづられて他の橋台や上に載る橋桁も連鎖して、引き裂かれながら倒れてゆく。橋梁の上にいた列車はなす術なく、橋梁の崩壊に巻き込まれるしか無かった。

 

水量の少ない乾季だったのが幸いし、列車は川水が堆積させた砂地の上に落ちる。ただ、客車や貨車が木材で出来ていたが故に着地の衝撃でバラバラに崩れていく。

攻撃を終えた第187飛行隊は一瞬にして使い物にならなくなった鉄道路線と悲運にも攻撃に巻き込まれた列車を見下ろしながら、我が物顔で飛べる空で遠くに去っていく。

 

「ここまで派手にやられるとは·········カーラ殿? カーラ殿! 何処にいますか!!」

 

部隊将校は若干の傷を負いながらも健在だった四肢で壊れた客車から這い出る。周りでは同じく四肢が無事で重傷を負わなかった兵士らが仲間の救出を行っていたが、将校はそのタイミングでカーラの存在を思い出す。

呼びかけても返事が無い為に客車だった残骸の中にいると察し、将校自ら客車を構築していた木片を動かし始める。他の兵士らも手伝って掻き分けた残骸の中からカーラの姿を見つけるが、その場にいた一目にして彼女の運命を悟ってしまった。

 

横たわる彼女の頭からはぶつかった衝撃で鮮血が垂れ、首はあり得ない方向へ折れ曲がっていた。瞬きせずに開き続け、何かを虚ろに見続ける目は呆気なく奪われた果てしなき未来を悔やんでいるに感じ取れた。

 

「なんてことだ。まだ若いのに········」

 

将校は若き淑女の死に心を痛める。開きっぱなしの瞳を瞼で隠し、帽子を取って追悼の敬礼を捧げる。兵士らも続いて、追悼の敬礼を道半ばで終わらされた彼女へ送った。

ある者が抱いた夢や希望が容赦なく踏み躙られ、立ち上がる命すら奪われる戦争。ソレを目の当たりにした者は悲劇に悲しむが、誰か1人の非業はちっぽけでしか無い。

 

ただ1人の犠牲で戦争終わらない。戦いを終結させるのは更なる無差別な悲劇のみ。

*1
文字上は日本語ですが、英語で話していると思ってください

*2
軸重の低い山岳区間での輸送力増強を担うマレー式蒸気機関車として、オルストラ王国のシャレーリンド鉄道工廠で製造された。外見モデルはインドネシア国鉄 SS1600/CC50形。

3軸の走り装置を2つ組み合わせた足回りによって線路への軸重を軽減しつつ、山岳区間を通る列車の両数を増加される事に成功した。

スペック

全長:19.9m

全幅:2.45m

重量:75t

車軸配置:2-6-6-0

シリンダー数:4

動輪径:1100mm

最高速度:55km/h




・ロイズ
彼の発言でヴィジランドに関する謎が更に深まりましたが、これらもフレイズに語って頂きます。ここで語らせても良かったとも思いますが、折角ならば公式な会談で語らせるべきと判断して、この展開にしました。

・ユートラジア合衆国
少し前に出た海上揚陸旅団のモデルとなった海兵隊を持つ国の正式名称。

・ティアンワ国鉄
ジャドリンド島とヘレンリラ島に敷かれた路線を運営する会社で、ジャラカに本社を置いている。当初は標準軌で敷設する計画だったが、膨大になると見込まれた建築費を抑えるべく狭軌に変更して敷設された。
どちらの路線も旅客と貨物の両面で島内の重要な交通網として機能しており、タンキル海峡を通って両島の優等列車と接続が容易な鉄道連絡船も運航している。同鉄道では使われている蒸気機関車はヴィジランドだけでなくボルトンやオルストラ・スリトなどの各国へ独自発注しており、マレー式やラックレール式・4シリンダーといった多種多様な機関車が運用されている。

・カーラ・スパンナ
登場から僅か2話ですが、ここで退場して頂きました。現実でも一次大戦で日本海軍の観戦武官が戦死しているので、ありえなくは無いでしょう。

・「T-AO-191 ベンジャミン・イシャーウッド」
佐世保への寄港中に転移に遭遇した。冷軽大陸を一周した海上自衛隊練習艦隊へ燃料補給を行うべく、カリス王国へ向かった設定あり。
尚、現実の当艦は造船所の倒産で未就役だが、今作世界では別の造船所に引き取られて就役にこぎつけた。
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