New world note in Earth 作:YUKANE
陸上自衛隊第8師団がジャラカに向けてスワンカを出撃した前日。バリア島対岸のパータに橋頭堡を築いた東和陸軍第8師団も進撃を開始した。
目指す先は直線距離で東北東60kmのスラヴァ。ティアンワ最大規模の港湾都市であり、対外的にも重要な都市の制圧はティアンワの継戦能力を大きく削ぐだけでなく、国民の戦意も大きく落として戦争継続を困難にする期待が込められていた。
六十八式中戦車で構成された第5戦車連隊第223大隊を先陣に行軍する東和陸軍の姿は、街道沿いの村々に済むティアンワ国民に畏怖の感情を与える。
重いはずの鉄箱が軽々と進み、大木の如き大砲を幾つも牽引し、厳しい教練で身体に染み付いた一糸乱れぬ動作で行進する歩兵達。誇りに思っていたティアンワ軍とは似ても似つかず、圧倒的な強者だと知らしめる様相は村民らに反抗する意思すら与えず、ただただ通り過ぎる様を眺め続けるしか無かった。
堂々と街道を進軍する様は増援としていたティアンワ陸軍第3師団にももれなく伝わり、パータの戦いにて甚大な被害を被った第5旅団との合議の末、ベラレ盆地にて食い止める旨を決定した。
ジャドリンド島南部の中央に位置するベラレ盆地には東西を結ぶ街道が通っており、両端の高台から監視出来る地形によって古くから交通網を抑える要衝として知られていた。
ティアンワ軍は第10師団をこの盆地で足止めすべく、街道にイルタ-127カノン砲の砲弾で作られた
街道の障害物で足止めされたところを、榴弾砲の斉射で上から叩く。敵がこのルートを通らなければ意味を成さない作戦であったが、現存する戦力で最大限の被害を与えられる手段であったが為に、実質的な最高指揮官でもある第3師団指揮官のカンテム中将も、壊滅寸前の第5旅団を率いるダンバロイ少将もこれに賭けるしか無かった。
一世一代の大きな賭けであったが、当の第10師団は六十四式攻撃機による航空偵察と、第2空挺連隊による威力偵察で部隊の規模や包囲網の詳細を的確に把握していた。
師団を率いる沖川大将や参謀長の見鱸大佐らによる合議によって、広大な包囲網の攻略法が決定された上で師団は月を跨いだ4月2日にベラレ盆地へと突入していった。
後に“ベラレの戦い”として語られる東和陸軍とティアンワ陸軍唯一の本格地上戦は、世界史でも稀な一方的な戦いとなった。
◇
「図上演習かの様な一方的な戦いだな······」
激しい戦いによって地面が幾つも抉れ、爆発の黒煙が立ち登り、東和の銃火で倒れたティアンワ兵が埋め尽くす様に倒れ、身体から流れ出た鮮血が地面に染み込んだベラレ盆地を見下ろす西部の高台から戦況を眺めていた大屋剛次郎 一等陸佐は、余りにも一方的な戦いの様に思わず感想を零す。
陸上自衛隊は東和陸軍の戦いを研究すべく、第8師団幕僚幹部を務める彼をトップした隊員数名を観戦武官として送り込んだ。面々は第10師団の隊列に2台の1/2tトラックで加わっており、片方に搭載された広帯域多目的無線を用いて、第8師団司令部との定期交信を行っていた。
大屋らは東和軍の戦闘の様子だけでなく現地市民との接し方・捕虜の扱い方なども記録し、日本の同盟国として相応しい人道的な存在かを確かめた。何十年も文明化が遅れている国民や捕虜に対しても対等に接し、炊事自動車で作った暖かい料理を振る舞う東和軍の姿は、装備は旧軍ながら行動精神は自衛隊と同等だと大屋に分からせた。
そんな東和軍がティアンワ軍と正面衝突すると知らされた大屋は盆地と言う戦場を利用して、戦場を一望出来る高所から戦闘の様子を記録しようとした。その打診は難なく沖川に承諾され、高台に布陣した大屋らは東和軍の圧倒的な戦いを目の当たりにした。
戦闘の開幕を告げた第3ロケット連隊第512大隊の六十六式自走ロケット砲の一斉射は街道に敷設された地雷とトラップを呆気なく吹き飛ばし、ティアンワ軍の目論見は出鼻から挫かれた。
続いて師団飛行隊の五十七式連絡機が盆地上空へ飛来し、高台に隠蔽して配置された榴弾砲の位置を改めて確認した上で、六十七式航空無線機で後続の飛行隊へ伝える。テッラ基地から飛来した2個飛行隊は受け取った情報を元に榴弾砲を制圧すべく降下していく。
六十五式襲撃機の急降下爆撃が榴弾砲を文字通り消し飛ばし、七式戦闘機の機銃斉射が引き起こす榴弾の誘爆でも榴弾砲を蹴散らされ、盆地を囲んでいた榴弾砲の網はみるみる内に瓦解した。
ロケット砲で街道の障害物を除去し、航空隊が火砲の脅威を排除して間もなく、第5戦車連隊を前衛とした第10師団主力が総攻撃を開始した。師団主力の総攻撃を支援すべく第3自走連隊第311大隊の六十八式自走自走砲 8両と再装填を終えた自走ロケット砲が一斉射し、榴散弾とナパーム弾がティアンワ軍に壊滅的打撃を与える。対空戦車も対空機関砲の水平射撃で次々と歩兵を薙ぎ払う。
戦車連隊の六十八式中戦車や六十二式軽戦車・歩兵連隊の五十七式中戦車の砲撃が機銃陣地や迫撃砲陣地・土塁を消し飛ばし、歩兵連隊の六十八式装甲兵員輸送車に積まれた六十三式重機関銃が放つ9.2mm弾の雨が歩兵を無慈悲に痛めつける。
装甲兵員輸送車に載っている第166及び167大隊の歩兵らは、9.2mm弾を給弾するベルトがバラバラになって、鉄製の床へ落ちる音をBGMに次々と降車する。
降り立った歩兵らは素早く分隊を組み、分隊支援火器でもある六十七式軽機関銃の斉射を後ろ盾に突撃していく。六十八式小銃の9.2mm弾がティアンワ兵を撃ち抜き、素早いボルトアクションによる装填で次の相手が撃ち抜かれる。
ティアンワ軍もただ一方的に倒されるだけでなく、辛うじて生き残った榴弾砲が1両の六十八式中戦車を奇跡的に撃破し、ヴァレタ小銃やカディファ軽機関銃・カディファ重機関銃が少ないながらも東和兵を仕留める。
しかしながら、多勢に無勢。圧倒的な戦力差と技術差でティアンワ軍は追い詰められていく。最悪な事に対空戦車の弾幕が司令部を直撃し、カンテム中将が戦死したのも相まって、ティアンワ軍の混乱は留まるところを知らない。
「余りにも呆気なさ過ぎる。植民地の反乱制圧ってこんな感じだったのでしょうか·····」
「そうだろうな。
戦いの主権を一切譲らずに押し続ける東和軍の姿に、大屋ら陸自隊員は唖然とするしか無い。部下の例えを大屋は肯定する。
他民族との協調や多様性を受け入れられる人道さを持ちながら、一度刃向かえば容赦ない程に叩きのめす相反する思考を兼ね備えた東和。その思考を具現した戦いを目の当たりにした大屋らは、大日本帝国の凶暴さと現代日本の平和主義が入り交じった東和に複雑な感情を向けざる終えなかった。
ベラレの戦いは勃発した当日に東和軍の勝利で終わった。カンテム中将の死に伴って最高指揮官へ自動昇格したダンバロイ少将の元、大損害を被ったティアンワ軍は降伏した。
西部へ送り込んだ師団と旅団の喪失はティアンワの継戦能力を大きく削ぐものであり、同時にスラヴァ方面の防衛戦力の消滅を意味していた。
この戦いは数日後に自衛隊が行った会戦と合わせて、ティアンワ戦争を終わらせた戦いとして後の世に語られる。
◇
「とんでもない戦いだった! 東和軍は我が軍と対等に戦える相手だ!! これは直ちに報告しなければ!!」
ベラレの戦いが終焉へ向かう頃。ヴィジランド陸軍の観戦武官としてティアンワ陸軍第3師団に随伴していたホルゼス・シャークロー中佐は、熱帯雨林の中でティアンワ在来の馬を走らせる。跨った彼の顔には焦りが見えていたが、騎兵部隊所属の経歴故に身体は的確に馬を走らせていく。
彼は観戦武官でありながら不本意にも第3師団の指導役にもなっており、ベラレ盆地での包囲作戦は彼の立案だった。しかし、彼自身はこの戦法を使ったとしても、ティアンワ軍に勝てる見込みは無いと踏んでいた。
その予測は事実として具現化した。航空機による一方的な対地攻撃、圧倒的な射程の野砲とロケット砲の斉射、頑強な戦車や装甲車による突進。ティアンワに存在せず、ヴィジランド他トラクティア諸国にある兵装らによって、ティアンワ軍は呆気なく蹂躙された。
成す術無く敗北するティアンワ軍が壊走する中、ホルゼスはこの戦闘結果と東和軍の兵装類及び戦い方を、首都のティアンワ軍上層部とフレイズに伝えるべく事前の打ち合わせ通り、数少ない手勢を連れて退却した。
端から見れば怖気づいての敵前逃亡に見えかね無いが、戦いの結果と東和軍の姿を伝える使命があると自分自身に言い聞かせ続ける。彼の持ち物の中には戦闘記録だけでなく六十八式中戦車や六十九式自走砲を収めたカメラフィルムも含まれ、ヴィジランドが最も求めている情報を届ける為だとも言い聞かせた。
鬱蒼と茂る青々とした熱帯雨林の葉が残像として通り過ぎ、時折伸びた枝が身体を鞭打つ。大木の根や土に隠された岩で凸凹した大地を小柄ながら強い足腰で駆け、激しい揺れが三半規管を刺激する。1秒でも早く情報を伝えるべく、回り道ではあるが平坦に均された街道ではなく最短距離ながら道なきジャングルを通る選択をしたが、間もなくしてそれが間違いだったと知らされる。
一発の銃声が密林に響いた刹那。同伴するティアンワ兵が載っていた馬の頭が射抜かれる。
「敵襲だ!!」
9.2mm弾の直撃で見るも無惨な様相になった馬の血飛沫を浴びながら、ホルゼスが叫ぶ。まるで叫びを掻き消す様に銃声は再び聞こえ、またしても馬の頭が撃ち抜かれた。銃弾はホルゼスが乗る馬にも当たり、体高の短い馬の身体は呆気なく地面に倒れ伏す。
逃げる間もなく馬から投げ出されたホルゼスは痛む全身を鞭打って動こうとしたが、密林から出てきた兵士が視界に入る。
その兵士達はそこら辺の密林引っこ抜いた植物を身に纏ってはいたが、カーキ色の軍服を身に纏う。顔つきはティアンワ人に似ても似つかないが、赤みがかった肌色だけは類似していた。そして、軍服の右腕についた赤に白丸の国旗がその者たちの正体を示す。
ティアンワ国内へ空挺降下した東和陸軍第2空挺連隊は、このベラレの戦いでも重要な役割を任された。密林に潜んで連絡網や補給網に攻撃を仕掛けるだけでなく、逃走を図る師団将校を捕まえる役目を任されていた。
その警戒網に捉えられ、移動手段を手早く始末されたホルゼスらに軍馬を射抜いた七式小銃や未だに希少な六十六式短機関銃・懐から出した六十四式拳銃を突きつける。
引っかかったのは逃げる将校ではなく連絡士官であったが、連絡網の遮断としては大きな戦果だった。東和兵はアムネ砦から押収した縄を使ってティアンワ兵を拘束するが、ティアンワ人と似つかない様相のホルゼスに疑念の目を向けていた。
「ティアンワ人じゃないよな······」
「あぁ、前に
「日本·········
「なっ!?···········
「
ホルゼスは
「先日スワンカで捕らえられたヴィジランドの観戦武官か?*1」
「スワンカって事はロイズか───彼は無事か?」
「知らないが、日本が捕らえているなら問題無いだろう。」
「そうか、私はどうなる?」
「尋問はさせて頂くが、殺しはしないから安心しろ。」
予想外ながらも英語で東和兵と会話し、仲間の命の保全を確約したホルゼスは自らを預ける選択を取った。拘束されたホルゼスらは東和兵に警備されながら密林を歩き、途中で合流した第166大隊の六式六輪自動貨車に載せられた。
ホルゼスは偶然にも東和の自動車技術を身を持って思い知り、この目で見た装甲部隊を創り上げられる根幹技術が根付いていると確信した。間もなくして彼は第10師団司令部へ連れて行かれ、沖川司令官らと尋問と言う名の対談を行なった。
双方ともに対等な教育を受けていたが故に英語での会話は滞りなく行われ、ホルゼスは東和と日本に関する情報を、沖川ら東和は未知なるヴィジランド以下トラクティア諸国の存在を認知した。
バリダン岬海戦で捕虜となり、海軍の方で尋問されていたガーツも含め、この出来事はヴィジランドと東和の初接触として語られる事になる。
・大屋剛次郎
彼は東和使節団の日本来訪時に東富士演習場での陸自見学で登場させる筈の富士教導団の士官でした。展開促進の為に大幅カットして未登場になった為に、役柄を変えて出しました。
・ティアンワ在来の馬
実在するインドネシア在来の馬“サルダンウッド種”です。GoogleのAI曰く“小柄で足腰が非常に強く、耐久性に優れている”との事なので、本文に組み込みました。