New world note in Earth 作:YUKANE
それと唐突かもしれませんが、次の話で第1章を終わらせます。以降は次章のプロット制作を行う為に間章扱いで今以上の不定期更新になるでしょう。お許しください。
「これが日本·········」
ティアンワ王国の終戦交渉団として日本の地を踏んだマケール外務部部長は、目の前に広がる街並みに圧倒される。かつて城が存在し、現在は歴史と眺望を両立した観光名所となった青葉山から見渡す街並みはティアンワの面々にとっては衝撃そのものだった。
天高く立ち昇る高層ビル群がありながら、少し離れた町中や海へ向けて流れる広瀬川の周りには青々とした木々が生えていた。建物を縫う様に縦横無尽に敷かれた黒い道路の上を華麗な見た目の自動車が無数に走っており、
人工的で科学に満ちた綺羅びやかな街並みと、自然が見事に調和した姿。それは“杜の街”の別名に相応しかった。
「これが首都ではなく地方都市なのか? 信じられん·····これが地方都市なら首都はどんな姿をしているのだ·····」
マケールらが眺める都市 仙台は、日本とティアンワの終戦交渉を行う場へ選ばれていた。ティアンワ戦争のきっかけとなったいわき沖海戦の現場からそこまで離れておらず、更にはあの時相対した海上保安庁第2管区の拠点を近くに構え、更には参戦した船舶もいた。
東北最大の都市と言う名目で、戦争の原因になった地に近く、関係者も多いであろう街を選んだのは自然な形で行える最高の皮肉にして、嫌味でもあった。
「我々は最初から勝てる見込みのない相手に挑んでいたのか········」
約4カ月前、日本に宣戦布告情を叩きつけた男は、自らのしでかしを知らしめられる。
知らなかったは言い訳の戯言であり、知ろうとしなかったが正しい。例え知っていたとしても、列強の存在から結果的に戦争なったのは想像つくが、ここまで惨めな結果にはならなかっただろう。
だが、数々の選択肢があろうとも、それを全て殴り捨ててこの結果に行き着いた以上、その責任は意図せず選択者になってしまったマケール自身にかけられた。寧ろ、彼自身にそれを背負う覚悟があったのはまだ幸いだったと言えるかもしれない。
ファーストコンタクトのあの時、何かしらの違いでこの光景を見れたら、絶対に開戦には踏み切らなかったであろうと、彼の後悔は尽きない。
経済力も、技術力も、情報力も、軍事力も母国とは桁違い。しかも、昨年に起きたと言う転移のダメージから立ち直れてない状態であり、自動車の数も転移前に比べれば半分程度だと聞かされたが、彼にはそれが信じられなかった。最も敗北者となった彼には信じる、信じないを選ぶ権利は存在しない。
仙台国際センター会議場で行われた終戦交渉にはティアンワからマケール以下ティアンワ外務部の面々が、日本からは安川外務大臣らが参加して行われた。数日間の交渉を経て、5月2日。後に“仙台条約”と呼ばれる講和条約が締結された。
条約の内容としては、“戦争の責任者の処罰”・“資源と食料品の優先輸出権の確保”・“賠償金の請求ならびに資源での代用可の確認”・“ティアンワ復興に関する支援”が主を占めていた。
日本との条約締結を終えて間もなく、マケールらは東和政府が手配した東和航空のTP-01旅客機に乗せられ、仙台空港から東和への旅路につかされた。日本乗り入れ仕様として電波高度計やILS受信機・対地接近警報装置・空中衝突防止装置を積み、それらの動力源となるリチウムイオン電池も載せた重い機体に揺られ、初めての空を飛ぶ感覚を味わったマケールらは東和最東端の都市 氷海へ降り立った。
最東の都市として国防的にも、国内最大の漁業拠点として重要であり、日本の遠洋漁業漁船や関釜フェリーの定期便が来訪する氷海が選ばれた理由としては、同じくティアンワの存在を知らしめるきっかけになった「第三海神丸」の行き先にして、襲撃で大破した本船が曳航された地であった故である。
またしても因縁のあるどころか、捜索に関わった部隊や関係者も数多くいる為、仙台以上にティアンワによる衝撃を受けてしまった地でもあった。
ティアンワにとってまたしても嫌味な地で行われた終戦交渉は滞りなく進み、5月9日には“氷海条約”と呼ばれる講和条約が結ばれた。その内容は仙台条約と殆ど同じだったが、違いとしてティアンワに襲撃された「第三海神丸」の買取も含まれており、BMPで理不尽にも培われた交渉術が嫌な方面で遺憾無く発揮された結果でもあった。
この条約によって“ティアンワ戦争”と呼称された戦いは正式に終了した。敗北したティアンワは日東による介入を余儀なくされながら、より高度な発展を遂げると言う複雑な状況に陥る。
政治的な面だと現国王ヴィワダは戦争の首謀者として祭り上げられ、戦争責任を取る名目で退位する事になった。国王の冠を失った彼は国内最東端のシェンビア島に保有していた別荘に隠居し、国の最前線から身を引いた。最も国王の重圧が無くなった彼は、警備の少ないこの別荘にて自由気ままな人生を過ごす事となり、ある意味幸運だったかもしれない。
この他にも戦争を勃発させ、終結も行ったマケールや、国の為に尽力したワンダール司令官も同じく退任し、国を纏め上げる人事は大きく様変わりした。
ヴィワダに代わって国王に即位したヴィジオによって、ティアンワの変革が始まる。それは実質的に日東の傀儡政権であり、日東による介入を否定する権利は彼に存在しない。国内が海外資本の影響に屈する雪辱を受けながら、国内は見違える程に発展していく。
正しく雪辱と発展の相反する概念が同時に宿った心情に直面したヴィワダは、国王として矛盾に向き合わざる負えない重圧と責任感を感じ取るのだった。
ティアンワの変化は政治や内閣情勢に留まらず、寧ろより市民に密接な経済の観点で日東の影響力は強まっていく。
スラヴァやメジェラ・マルキワと言った沿岸部の都市では港湾施設の再建が始まり、パランドンやケンダラーでは都市経済の源でもある石油コンビナートとニッケル精錬所の、パータとスワンカに至っては都市の再建まで始まった。
これらは全て日東が実施した“紺色作戦”によって破壊されたものであり、それを壊した国家自身が直す行為は自作自演に等しい。しかしながら、進歩の為の破壊と創造でもあった。
日本由来の資材と技術で造られた埠頭は既存を遥かに凌ぐ質と強度を持っており、港湾や船舶の関係者を驚かせた。ガントリークレーンこそ無かったが、その設備だけでも日本の実力を見せるには充分だった。
同時に戦略目標として破壊された鉄道や街道の橋梁の再建もいち早く実施された。資源関連の施設と市街地の復旧は交通インフラ完成後とされたが、その間にも復旧計画はより細かく詰められた。
これらはティアンワ再建に伴う迅速な物資と人員の移動を行う移動網を構築するだけでなく、市民の移動手段確保も含まれていたが、本質としては石油や天然ゴム・ニッケル・錫と言ったティアンワに眠る資源を賠償金扱いとして1日でも早く運ぶ為であった。
宗主国によって地元民のインフラを改善すると見せかけて、自国の利益となる資源を運ぶルートを構築する典型的な搾取のやり方であったが、ヴィジランドが行うよりも素早く整えられたインフラを前に喜ぶ市民を見てか、政府は何も口出しする事は出来なかった。
これらの工事は日本主体で行われたが、日本製の重機を導入した東和の建設企業や陸軍の工兵部隊も参加し、日本製重機の使い方を実際の現場で学んだ。
また、ヴィジランドやフラスタリアと言ったトラクティア諸国の領事館職員が許可を得た上で見学に訪れた。職員らが記録した日本の土木技術は本国に伝えられ、日本の実力を見せつける材料となった。
これら一連の行為は日本がティアンワに揺るがない影響力を築く基礎となり、図らずとも宗主国として植民地の経営法を蓄積する事にもなった。
◇
「ティアンワとの終戦交渉ご苦労だった。まさか、僅か2年の間に2度も終戦交渉を任せる事になるとは·····」
「それが外務大臣の仕事ですから。寧ろ、シ連との交渉経験のある私が行うのが妥当でしょう。」
「それは言えてるな。一先ず祝杯としよう。
首相官邸の一室にて、鈴村隆治内閣総理大臣が仙台条約締結の大任を終えた安川孝之外務大臣へ労いの言葉をかける。僅か2年間で2度も戦争相手との講和を纏め上げた彼の功績を称えてか、総理が自費で購入したノンアルのラム酒を取り出した。
サトウキビの糖蜜から造られた透明な液体を氷の入った幅広なロックグラスへ注ぎ、グラスを軽くぶつけた甲高い音を響かせて乾杯すると飲み始めた。
「良い出来ですな。ノンアルコールなのが勿体ない。」
「君にアルコールが入ると、大変な事になるのは容易に想像出来るからな。しかし────まさか東和に騙されていたとは····」
「知らなかったとは言え、実質そうですな。」
ラム酒を味わう2人の話題は東和への疑いへ移る。
ヴィジランドがイギリスに類似し、そっくりな兵器を使っている理由が同国に関するデータを持っているとすれば、同じ様相の東和が日本に関するデータを持っていると考えるのは自然な流れだった。
「地球国家に類似し過ぎていた理由の説明はつく。だが、意図的に隠されていたのは納得いかん。」
「
「それを知っているのは国の上層部だけで、大半の国民には知らされてないと考えれば妥当ではあるが······何故、そうしたのか疑問が残る。」
「訪東の計画が出始めた矢先にこんな事態になるとは····追求するおつもりですか?」
「そうしたいのは山々だが、我が国にとって東和の重要性が高すぎる今は出来ないな。
ティアンワから資源の輸入が始まって、依存度が減るのを気長に待つしかない。その間に東和から切り出してくれれば良いが、どうなるやら·······」
ラム酒を呑みながら、両者は東和への愚痴にも近い会話を続ける。
ティアンワとの戦争が一段落したかと思えば、思いもよらぬ場所から東和に対する疑念が湧き上がった。正しく一難去って、また一難。国を率いる者達の苦労は絶えない。
◇
「一大事だ。日本の情報を持っている事が日本にバレた。」
「なっ!?」
「本当か!?」
東和国の首都 東和の一角に構える高級寿司屋。東和でも指折りの老舗であり、老舗故の隔絶した味わいと格式から国賓が招かれる場としても使われている。
現に日本使節団も訪れたこの店に
3人にとっては行き慣れた店ではあったが、いつも使っている氷海鉄道の貨物列車で氷海から運ばれた新鮮なネタを目の前にしたカウンターではなく、壁で隔てられた個室にわざわざ通された。
いつも通りではない状況を不審に思う阿多機と寺済だったが、東川の開口一番の一言でここを選んだ意図を理解させられた。
「あれに関する一切の情報は情報省が隠匿していた筈! 一体何処から情報が!?」
「ヴィジランドだ。あちらでは一般市民も知る程に公開されているそうだ。」
「そりゃ驚いた。あんなとんでもない情報を公開すれば、国家の存在意義すら危うくなると言うのに。」
「住む世界が違えば何をバラして、何を隠すかの思考も違う。我々が責める同義は無いのさ。」
情報の出処を知りたがった寺済にはヴィジランド経由だと、情報公開の意義に疑問を抱いた阿多機には考え方の違いだと東川は言い聞かせた。
ただ、2人に諭している東川自身も内心では、予想していなかった方向から齎された厄介事にフラストレーションを抱いていた。
「して、日本にはどう説明するつもりだ。」
「一先ず先の首相来東の際に教えるのが最適解だろう。国家存続を託している日本が追求してくるとは考え難いが、下手にはぐらかして軋轢を生むぐらいなら、先に公開した方が吉と出るだろう。」
「
「寧ろ連れて行った方がより納得してくれるさ。ま、連れて行くとなれば、こっちも言い訳や策を練っておく必要があるな。」
東川は国家ぐるみの秘匿事項をバラされたにも関わらず、開き直って公開する事で落とし前をつけようとする選択をした。それは日本との関係悪化による経済の下落を危惧してか、それとも他国への関係重視に伴う国力バランスの変化を恐れてか。どちらにしろ、日本との関係性が必要不可欠となった今の東和にとって避けなければならない状況なのは間違いなかった。
「最も驚かされるのは日本だがな。あれが使われれば、
「そうなったら日本は我々に頼らざるおえなくなる。東和軍の兵器は全てあれが使われた状況下でも動けるのを前提に作られている。」
「だが、自国の技術が通用しないと知った日本は我が国への支援を打ち切るのではないか?」
「情報省の推測だと、それはあり得ないそうだ。例え先進技術の輸出を打ち切ったとしても、何かしらの代替品を用意するだろうとな。
既に東和と日本は切り離せない関係なのさ。」
陶器製のぐい呑みに注がれた国産の清酒を呑む東川は、自信満々に日本が東和との関係性を切れないと断言する。例えチャルネス等の周辺国や、ヴィジランド等のトラクティア諸国との関係性重視に踏み切ったとしても、その時が来たら頼られるのは母国 東和だと言う自信があった。
「ただ、あの日本は
「朱雀列島だったか───あれが唯一にして最大の差異だ。」
「ちっぽけな島が連なるただの列島だが、もしかしたらあれが世界を変えかねない存在意義を持っているかもしれないな。」
話は朱雀列島へ移る。僅か2年前に戦後平和を破る戦いの場となった列島は日東航路の灯台として使われながら、現代戦争を学ぶとして東和含む各国が将兵を派遣していた。
日本において大きな転換点となったこの列島に東和政府上層部も関心を寄せていたが、興味の矛先は違っていた。知っている者しか気づけない違和感。
彼らが知らない小さな島々が日本にどの様な変化を齎し、世界のどれだけの影響を与える存在であるのか興味は尽きない。だが、その島々がこの星と地球を繋ぎ、2つの世界を結びつけるのに重要な役目を果たしていると知るのは、更に北に位置する奇天烈を操る和の異国と出会うまで待たなければならない。
・奇天烈を操る和の異国
ネタバレですが、次章で敵対する国家です。ティアンワとは比べ物きならない程に強くて、面倒だとだけ言っておきます。