New world note in Earth 作:YUKANE
宣言通り、今話で1章は終わりです。間章期間中に2章の詳細プロットと設定を組み上げます。ついでに1章に登場した国家や兵器の紹介ページも上げようかと考えております。
更新間隔が不定期になりますが、気長にお待ちください。
東和大陸と冷軽大陸、フィルラント諸島、日本列島で構成された
巨大なトラクティア大陸を筆頭に、幾つもの大陸と島々で構成された世界の中心に存在するグレーブリア諸島。東西730km・南北500kmのウェルリンデ島と、東西南北全てで250kmのアークスヴィン島を核に構成されたこの小さな列島こそ、この世界で上位に君臨する大国 ヴィジランド王国の本土であった。
かつては複数の国家による連合体であったが、主要構成国による度重なる内政干渉の鬱憤が内戦を引き起こし、それを制したヴィジランド家がこの地を治めた。自家の姓を国名としてからは国内の立て直しを図るべく、旧来の社会体制を一新する為に国産の各種鉱石資源を原動力に産業革命に乗り出し、大国であるフラスタリアとの間に勃発したヴェラール戦争に勝利した事で列強の仲間入りを果たしていた。
後に本土から見て北東にあるオルガネート大陸の開発でも中心を担い、同地と本土を繋ぐシーレーン防衛で強化された海軍艦隊も相まって、列強でも有数の国力を持つ大国へと成長を遂げた。
右側に位置するウェルリンデ島南西の内陸部に位置する首都 ロスカム。列島東部に広がるヴァンミル海へ繋がるヘリス川沿いに築かれた交易都市を元とし、国内外へ繋げる一大拠点として連合体時代には中心議会が置かれる程の規模を誇っていた。
連合体崩壊後の内戦を制したヴィジランド家は、敵国の海上侵攻を防しながら国内外へ通じるロスカムを首都に定め、産業革命による鉄道網の開通も相まって同国最大の人口と経済規模を誇る大都市へ進化した。
ヘリス川に沿った中心部は最古の時代から人々が営みを育んだ場所でもあり、現在もヴィジランド家が住む王宮 ウィクストン宮殿や各種行政省庁・各国大使館・銀行本店と言ったロスカム並びにヴィジランドを纏め上げる重要地区と化していた。
大理石製の低層ビル群が立ち並ぶ街の中に、幾つものビルで構築された軍務省があり、国防を束ねるビル群のワンフロアが情報部の拠点となっていた。
「一先ず観戦武官の職務ご苦労だった。」
「いえ、私は命じられた責務を全うしただけです。」
ティアンワから帰国したフレイズ中佐に、情報部部長のリラズ・オードネラス准将が労いの言葉を投げかける。ヴェラール戦争にて中立国のモーニス公国に潜入し、フラスタリア海軍艦隊の出航予定日を掴んだ等の数々の実績を持ち、現在は情報部トップとしてフレイズら部下の育成にも貢献していた。
「カーラ准尉の件は聞いた。観戦武官が戦死する事例はあったが、よりにもよって彼女だけが犠牲になるとは悔やみきれんな·····」
「戦死するリスクに関しては彼女自身も理解していた筈です。それに観戦武官に立候補したのは彼女自身です。リラズ部長が悔やむ事案ではありません。
さて、さっそく最重要案件についてです。こちらが日本国ならびに東和国・冷軽大陸諸国、そしてそれらが属する東冷共栄圏に関する情報です。」
「よくあの短時間でこれだけの情報が集まったものだ····」
唯一の戦死者となったカーラ准尉への追悼の念を述べ終えると、フレイズは調査報告書と持ち帰ってきた日本ならびにTRM諸国に関する資料一式をテーブルの上に並べる。公式の初接触から帰国の途につく1週間で集まったとは到底思えない分厚さの資料にライズは若干引きつつも、一枚一枚捲って読み込み始める。ティアンワ戦争の結果については分かりきっていたが為か、日本に関する資料を真っ先に手に取っていた。
「シベリア連邦に朱雀列島・New Fleet計画、そして2日間戦争か········正史とは似ても似つかぬ歴史だ。」
「フォレスタル級にキティホーク級、B-1爆撃機、挙句の果てにはロサンゼルス級原子力潜水艦すら購入し、運用している。専守防衛など捨てざるおえない世界を生き抜いて来たのだな。」
1990年以降の歴史を読むにつれて、この星の日本がヴィジランドが知る日本とは異なっていると確信させた。
「ただ、紆余曲折こそあれど、正史と類似している要素はあると感じてます。例えば、このいぶき型イージス巡洋艦と言うのは、隻数こそ違えど正史における
「それは言えるが────ただ、そもそも1個の歴史があれば、そこから無限に歩んだ世界は分岐する。その別れた世界線にも同じ要素はあるだろうし、正史なんて無いのかもしれんな。」
「それは言えるかもしれません。ところで、ユートラジアとの交渉はどうなったでしょうか?」
「どちらも一歩も譲らずに決裂したさ。ユートラジアとの開戦は間違いないだろう。」
2人の会話の内容は日本からユートラジアとの情勢へ移る。母国を数カ月離れている間に、両国間の関係は戦争になると断言出来る程に悪化したと知らしめられた。
「では、情報部もユートラジアに最注力する事に?」
「そうだ。だが、君は日本と東和に向かう事となるだろう。折角手にした別世界との繋がりを無下にする事など出来ん。
それに女王陛下の口添えもあって、規模こそ小さいが日本に対する調査要員も用意される。
規模故に大規模な活動は出来ないが、一先ずは国内から日本に関する情報や文献を徹底的に漁らせる。小さな市営図書館すらも倉庫まで根こそぎ調査するつもりだ。」
ユートラジアへ派遣したスパイの支援・国内の情報統制・ユートラジアの暗号解読と言った業務を最優先としながらも、僅かな人員ながら日本に対する調査部署を設けてくれる事と、自らを日本へ派遣して下さる事を知ったフレイズは口添えして下さった女王陛下に心で感謝の意を述べた。
「それとフレイズ中佐。君にだけだが、極秘の資料を見せよう。これを見る資格が────いや、見なければならない使命が君にはある。」
「拝見させて頂きます。」
唐突にライズが手渡した資料をフレイズは受け取る。あからさまに見せたがっているライズの態度に、表紙に“
タイプライターで撃ち込まれた英単語の文字列。並べられた英単語は文章を構築している。紙いっぱいに綴られた文章を読み込んでいったフレイズは、その中身を理解していくに連れてみるみると顔を青ざめさせていった。
「こ、これってまさか!?」
「そのまさかだ。日本に続いてその国までもがこの星へ現れたのだ。」
「なんてこった─────この国も転移してきたのですか!?」
「転移では無いようだ。周辺国でも大規模な発光現象は確認されていない。ただ、現れた経緯が余計に疑問になってしまったが。」
補足情報の数々はかの国がどうやって現れたかに対する何の証明になり得ない。だが、理由や方法がどうであれ、その国由来の存在がいる事実だけですら、ヴィジランドを揺るがしかねない存在であると立証していた。
「待ってください。万が一にでもこの国がユートラジアと共に参戦したら、我が国は確実に敗北します。」
「それは火を見るより明らかだ。寧ろ勝てる要素が見当たらない程にな。だからこそ、最優先でかの国に関する情報を探させている。情報統制が厳しいようで、目立った戦果は上げられておらんが。」
フレイズの叫びにライズも同調する。彼は情報部のトップとして出来る事をやってはいるが、それが実を結んでないと自傷気味にこぼす。
「ただ、これだけは確実に言える。世界が大きく変わるぞ。」
ライズの言葉は両者の総意であった。救世主の一国でありながら、知られている歴史とは異なる世界線から現れた日本。そして、同じ救世主の一国であるかの国。ティアンワ戦を機に世界は大きな変容を遂げようとしていた。
そして、日本とかの国が再び繋がった時、この世界は原型を失う程に様変わりする事も意味していた。フレイズらは奇しくも世界と歴史の大きな転換点に鉢合わせる運命にあった。
◇
ヴィジランドとトラクティア大陸を隔てる60kmの海峡の先。大陸最東端の池にフラスタリア共和国が存在する。
土着していた民族の集合体が原型であり、幾つもの内戦と王政交代を繰り返しながら、大陸有数の大国として君臨していた。
だが、約200年前に発生した市民革命がこの国のあり方を大きく変えた。複数の貴族による税金横領が発覚したのを主要因した市民革命によって、フラスタリアは世界初の共和制国家へと移行された。ただし、象徴君主制として王家は存続しており、現在まで血縁は途切れていない。
共和制移行による国家体制再構築の傍らで、産業革命によって急速に勢力を増したヴィジランドとの間に勃発したヴェラール戦争にこそ敗戦するも、現在も共和制国家の始祖たる列強として君臨していた。
急峻なピレー山脈やボルトン帝国との国境でもあるアリス高原・オーティリア帝国との国境が敷かれたヴォージュラ山脈に囲まれ、人々の居住と農耕・河川舟運の拠点としてうってつけな温暖で農業に適した平野と丘陵で構成されたダイヤ型の国土の北西に位置する首都 パリス。
パリス盆地に位置するこの都市は約2000万人の人口を抱える国内処か大陸でも最大級の規模を誇り、古くから根付いた文化によって芸術の都の座を勝ち取っていた。また、大陸各地からの鉄道網が集結し、ヴィジランドやユートラジア大陸方面へ向かう結節点としても重要な役割を持っていた。
中心部を流れるライツェン=ローラ川によって、高さが均一に整えられた石造りの建物で構成された市街地は行政や金融機関・大使館が集まった右岸側と、学問・医療・宗教・文化的施設で構築された左岸側で構築されており、王族が居住するサン・ラシュティック宮殿は右岸側に存在している。
「日本国、ならびに東和国の調査ご苦労だった。貴殿らの頑張りに感謝する。」
「ありがたき御言葉ありがとうございます。この報告書はティアンワへ赴いたアリーザがいたからこそ、出来たと言っても過言ではありません。」
長き歴史が紡いだ伝統文化をこれでもかと集めた執務室にて、現国王 エスペダール8世は日本と東和に関する報告書を読み終えたところだった。
政治への関与が出来ないとは言え、フラスタリアの象徴である国王の感謝の意に、報告書を作成した情報局局長のエランダ・カイオローカは頭を下げ、隣で同じく頭を下げる諜報員アリーザ・ベアランテの頑張りを伝える。
両親揃って情報局に勤めていたアリーザは幼少期から情報局へ出入りしており、一職員だったエランダは年の離れた姉として接していた。その影響で情報局に入ってから受けた試験で好成績を収めた事で諜報員として活動していた。
ティアンワがバウラット計画を始める際には大使館職員と偽って現地へ向かって、相対する国家の国力と軍事力・技術力の調査とヴィジランドの動きについて情報収集を行なった。
記録係として日東代表とクラーケ駐ティアンワ大使との会談にも同席し、日本代表の石原仁成と東和代表の溝尾可瑶堂が話した内容を逐一記録した。自ら集めた情報類とスラヴァで行われた親善イベントの見学結果は、両親が叩き込んだ的確な処理能力で分かりやすく纏められ、帰国後に情報局トップへ昇格したエランダを経由して国王陛下の元へ提出された。
「この世界へやって来た日本は我々の知っている日本ではなかったが、繋がるメリットは大いにある。早急に国交締結に向けて動かなければならんな。」
「情報局も同意見です。ヴィジランドとユートラジアがきな臭くなっている以上、ヴィジランドは大々的に動けないでしょうから、正に今が動く時かと。」
「ユートラジアとの開戦してくれれば、確実に我々が先手を取れるのだが、妄想じみた戯言に頼ってばかりでは機を逃す。早々に動く必要がある。
海軍には既に第3艦隊に遠征の態勢を整える様に命じておる。2ヶ月もすれば遠征に出せるだろう。」
「虎の子の第3艦隊をですか? 思い切られた判断を····」
ヴィジランドが対外関係に注力せざるおえない今が狙い目だと、国王と情報局の意見は合致していた。ただ、海軍でも最強と名高い第3艦隊を向かわせる国王陛下の決断に、エランダとアリーザは驚かされた。
東と北を海に囲まれたフラスタリアの海防を一任する海軍の第3艦隊は長期間の派遣任務を想定して組まれた艦隊であり、どの様な任務にも対応すべく砲戦能力にも航空戦力にも長けた編成が組まれていた。
どんな戦場にも送り込める切り札的存在を新世界への親善艦隊として使う判断は、国王陛下が日本ならびにTRM諸国をどれ程重要視しているかを知らしめた。
「それとこれは我が王妃づてで聞いた話だが、オルストラ王国ならびにヘーキル王国も日本に興味を示している。オルストラに至っては自国海軍の艦艇を随伴させたいそうだ。」
「オルストラとヘーキルも加われば、日本への影響力は高まるでしょう。我々もティアンワにいる諜報員を用いて、同地に関する情報を逐一報告いたします。」
「頼むぞ。ただ、しっかり休みは取るように。特にアリーザ嬢は帰国したばかりだ。休暇を与えて休ませてやってくれ。」
「こ、国王陛下自ら心配して下さり、か、感謝極まりないです。」
フラスタリアと関係の深いオルストラ王国ならびにヘーキル王国も関わろうとしている事を知ったエランダは、情報で国家に貢献すべく奮起すると決意した。
一方で予想打にしていなかった国王陛下の元へ連れてこられ、緊張の余り一言も発していなかったアリーザは、陛下からの労いの言葉に噛みながら感謝の意を述べた。
狭き海を挟んで相対するヴィジランドとフラスタリアは、日本に関わる先鋒を担う事となる。両国は2つの世界を繋ぐ橋となると同時に、3つの世界に戻せない変化を齎す。それが歓喜と悲劇のどちらを齎すかは神のみぞ知る。
・モーニス公国
名前はまんますぎて、モデルが直ぐにバレそうw
これでもそのまんまの初期段階とは変えたのですがねぇ···
・アリーザとエランダ
Ep.73で登場したアリーザさんは大使館職員に偽装した諜報員でした。一応情報網の強さという分かるわけもない伏線は仕込んで起きました。
エランダは上司役がいないという事で急遽作りました。作ってから似たような役目のキャラがいた事に気付きましたが、その人物には次章で別の役目を与えて出しましょう。
余談ですが、ヴィジランドの情報部が男性なのに対し、フラスタリアの情報局が女性なのが良い対象性になっていると思います。