メシマズキヴォトスを美食研究会と一緒に救いたい先生   作:tarako

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特殊タグは江芹ケイ様のモモトーク風レイアウトよりお借りしています。


閑話:ジュリの料理会とハルナの給食部体験

ようやく美味しい料理が作れるようになった。

それは、私、愛清フウカだけではなく、キヴォトス中の皆がだ。

美味しい料理を作るには、先生の料理動画を見る必要があるが……その……えっち丁寧でわかりやすい動画で助かる。

私たち給食部にとっての福音とでもいうべきそれは、料理として巡って、結果的にゲヘナの皆も笑顔にする。

 

だけど、一番笑顔になったのはもちろんジュリだろう。

まるで世界に呪われてでもいたかのような、これまでのジュリを思い返すと、今こうして給食部で笑っていられるのが奇跡のように思える。

 

 

ジュリにまつわるあれこれを話そう。

彼女が作る料理はメシマズドラゴンとでもいうような、雄大で邪悪な翼を持った龍へと変化してしまうのだ。

その戦闘力は凄まじく、一度顕現した時は、ヒナ委員長が風紀委員の実力者を集めて配置し、自身も全力を出して対処したという。

その戦いは三日三晩続き、今でも伝説の一戦としてゲヘナで語り継がれている。

 

 

ジュリの名誉の為に言わせてもらうが、彼女はただ料理が好きなだけなのだ。

それでいて、料理を作ろうとすると、災厄の龍が呼び出されてしまうという、意味不明な神秘を持っていた。

まるで、世界から逆方向に祝福されてるとでも言うべきか。

気丈に振る舞う彼女を何とか楽にしたいと、私は料理以外の趣味を勧めてみたり、一旦料理から少し離れてみてはどうかと提案するも、首を横に振られた。

 

彼女の芯には強く、強く、料理が根っこを張っていたのだ。

逆に、料理から引き離さないでくれと泣きそうな顔で言われてしまえば、もうどうしようもない。

食材の買い出しに、事務作業。そういった所を担当してもらうが、やはり、料理を見つめる彼女の瞳は寂しそうだった。

 

やるせなさを抱えながら給食を作る忙しい毎日の中、大きな出来事が二つあった。

一つ目は、()()()()()()()美食研究会に拉致られ、世界の命運を決める戦いに強制連行されたことだ。

自分で言ってても意味がわからない。だけど、これは既に解決したみたいで、先生は今までにないぐらいに私へ感謝してくれた……ふふ。

 

二つ目は、繰り返しの話題になるが、先生が美食動画を投稿し始めたことだ。

あらゆる意味で衝撃的なその動画は、私とジュリを夢中にさせた。

特にジュリの食いつきは凄かった。

先生のエロには見向きもせずに、料理をただ見つめる。

そして、ジュリは安全のため今は料理をせずに、私が先生の紹介した料理を作るのだけど、その料理を「美味しい」と、本当に喜んで食べるのだ。ジュリ曰く。

 

「私が今料理を作らないのは、先生との約束です。そして、時が来れば先生と、万が一メシマズドラゴンが顕現した場合に、それを討伐される戦力の方々を招いた上での料理を行います!」

 

まるで最終決戦だ。

 

なぜか私が世界の命運を握る場面に巻き込まれたように、彼女もまた世界の何かを左右する事態に直面しているのだろうか……。

いや、私たちはただの給食部なんだけど。どうしてこんなことに。

日々を過ごせば時間は流れる。だから当然。

 

 

────時が来た。

 

 

「アロナ、本当にジュリの神秘は弱まっているの?」

 

「はい、間違いありません。あのメシマズドラゴン、あれが、彼女の中に残っていたかつての世界の神秘の凝縮のようなものです」

 

「あのメシマズドラゴンといわれても良く分からないけど、大丈夫だっていうのなら、やろう!」

 

「はい!ジュリさんには美味しい料理を作ってもらいましょう!あ、ただパンケーキを作るとどうしても怪物が発生するのは避けられないみたいです……ですが、これも弱まっている筈なので確かめてみましょう」

 

「……分かった。ジュリ、待っててくれ。美味しい料理は必ず作れると思うから!」

 

 

MomoTalk

_先生

◀︎
このメッセージは

関係者への一斉送信です。

時が来ました。

XX日YY時ゲヘナ僻地にて

ジュリの料理会を行います。

◀︎

戦いに参加する人も見守る人も

全生徒の無事を心から祈ります。

フウカ_

▶︎
わかりました。ジュリの為に

何が出来るかわからないけど

少しでも傍に居て励まします。

◀︎
そうしてあげて。

きっと大きな支えに

なるはずだから!

▶︎
はい!

 

 

「ねぇ、ジュリ。緊張してる?」

 

「はい、とても。……でも、皆さんがいると思うと不思議と怖くないんです」

 

「ふふ……そっか」

 

「そうなんです♪」

 

「じゃあ、いこうか」

 

約束の場所は既に大勢の人で賑わっていた。

色々と指示を飛ばすアコ行政官に、それに従って忙しなく働く風紀委員会の人たち。

 

荒野とでもいうべき場所にはポツンと仮設調理場が設置されている。

もしそこでドラゴンが発生してもいいように、周りに何も無い場所に設置された調理場は、見方を変えればまるで処刑場の中心だ。

ただ荒野に調理場があるというシュールな光景が、異様な緊張感を持って私たちを圧倒する。

 

「ジュリ……大丈夫?」

 

「フウカ先輩……やっと料理が出来る楽しみのほうが強いです!」

 

思った以上にジュリは強かった。

この光景に怯むこと無く、むんと両手を握っている。

 

風紀委員のざわめきが大きくなる。

まるで人の波を掻き分けるように先生とヒナ委員長がこちらへとやってくる。

 

「今日はよろしくね、ジュリ。フウカも付き添いありがとうね」

 

「は、はい。今日はよろしくお願いします、先生!」

 

ジュリがペコリとお辞儀をする。

 

「先生、委員長。ジュリの事お願いします」

 

「うん。きっと大丈夫だよ」

 

「前のドラゴンが出たときと違って、今度は準備を整えてあるから安心して頂戴」

 

決意を決めた顔つきでジュリは歩き出す。

二人に付き添われて調理場に行く彼女に私は思わず声を掛けていた。

 

「応援してるから!絶対大丈夫!」

 

「……はい!」

 

どうかお願いします。

彼女が美味しい料理を作れますように。

 

 

 

ジュリが調理場に立つ。

彼女の傍にヒナ委員長が付いており、それ以外の風紀委員会は調理場を包囲してすぐにでも攻撃できる状態だ。

もしもドラゴンが発生したら、ヒナ委員長がジュリを逃がして、それから討伐するらしい。

戦術的なあれこれは分からないが、最強の存在がジュリのすぐ傍にいて一安心だ。

 

「そ、それでは調理開始します!」

 

彼女が作り始めたのは豚の生姜焼き。

早く、沢山作れるように、メシマズにならない程度に色々調理工程を省いた時短バージョンだ。

給食部で作る定番メニューで、ひたすら作った所をジュリも見ているので変な神秘が発生しなければ、料理は成功するだろう。

 

見慣れた調理工程に見慣れた料理、そして。

 

「……料理が……出来てます……ぐすっ」

 

嬉しさのあまり泣き出してしまった、見慣れない彼女。

 

「出来てるよぉ……」

 

ぐす、ぐす、と泣きながら、出来上がった豚の生姜焼きを食べる。

 

「そこそこ美味しいよぉ……」

 

あ、そこは素直なのね。

周りも彼女の感想に苦笑いしている。

ここに居る人たちは何だかんだ食堂に来る人も多いから、大体味が想像付くのだろう。

 

「うぅ……続いて、他にも給食部定番料理を作っていきます」

 

時短、お手軽、ボリュームたっぷりの料理を泣き笑いで、本当に楽しそうに作っていく彼女。

処刑場かと思われた仮設調理場は、今やジュリを見守って応援するコンサート会場になっていた。

 

一通りジュリが料理を作り終わって、全て正常に作れた事を確認する。

良かった、本当に良かった!

喜んで彼女の下に行こうとすると、近くの風紀委員さんに制止される。

 

「まだ終わっていません」

 

先生が調理場へと歩いていき、持ち運んでいた大きいボウルの中の黄色い生地を使った料理を作り始める。

フライパンに生地を流し入れて、ちょっと時間が経ったらひっくり返して焼く。

それだけで美味しそうな小麦色の何かが出来上がる。

どうやら"パンケーキ"というらしい。

ジュリにパンケーキを作ってみるように先生は言うと、風紀委員会の護衛がある場所へと戻っていく。

 

「給食部のクッキングマイスタージュリにおまかせ~♪」

 

彼女は鼻歌を歌いながら生地をフライパンに流し込む。

猛烈に嫌な予感がする。

この後に何が起こるか、何故か魂が覚えているような気すらする。

周りの皆も、既に銃を構えて臨戦態勢だ。

 

ジュリがパンケーキをフライでひっくり返した時、それは起こった。

フライパンから飛び出したパンケーキは身体を毒々しく変色させながらみるみると巨大化し、一軒家ほどの大きさになると産声をあげる。

 

 

「GYAAAAAAAAAAAA!!」

 

 

その叫びが聞こえるかどうかの刹那に、あっという間にヒナ委員長が、ジュリを抱えてこちらへと引き渡してくる。

その速度は、フライでひっくり返したポーズのまま、何が起こったか分かっていないジュリが物語っていた。

 

避難が完了したのをみたアコ行政官が号令を出す。

 

「総員、撃て!」

 

音が壁となって襲ってくるような轟音と共に発せられた無数の弾丸が、巨大パンケーキへと吸い込まれていく。

そして瞬く間に穴だらけになったパンケーキは断末魔を発することもなく沈黙する。

……あれ?

 

「え?……倒せた?ち、チナツ、イオリ、確認を!」

 

アコ行政官の指示で、何人かが詳細を確認しに行くが、しばらく調査してみても、パンケーキは完全に活動を停止していた。

 

「えぇ~……強さの幅がありすぎませんか?」

 

「ドラゴン級が出てこなかっただけいいじゃないの……もぐもぐ」

 

こちらに来ていた委員長は、パンケーキを美味しそうに頬張っている。

先生から貰ったのかな。うらやましい。

 

「それはそうですけど……って、ヒナ委員長!ずるいですよ!」

 

「……これ、美味しいわね……もぐもぐ」

 

「あぁ、食べる委員長も可愛い……!けど、私にも1枚下さい!」

 

「……今無くなったわ」

 

「ああっ!」

 

なんだかすっかり弛緩した雰囲気になってしまった。

最後に変なモンスターが出てしまったが、パンケーキ以外は料理を作ることが出来たジュリ。

念願の料理を作ることが出来て、彼女は本当に嬉しそうだ。

 

「私、今とっても幸せです!」

 

料理は皆を笑顔にする。

それは食べる人だけではなくて、作る人も含めて。

料理が大好きなジュリにとって、今日はきっと特別な日になる。

だったら私も部長として少しは華を添えないとね。

 

「せっかく集まってくれた風紀委員会の皆に何か軽食を作りましょう、ジュリ」

 

「あ、そうですね。よーし、頑張るぞ!」

 

「これからは、調理の方でも頼りにするからね」

 

「……はい!」

 

この後振る舞った料理が皆を笑顔にしたのは、言うまでもないだろう。

それ以上に笑顔のジュリも、また言うまでもなく。

 

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

こんにちは、愛清フウカです(2連続出演)。

皆さんは不倶戴天の敵と聞いて思い浮かぶ人は居ますか?

居ないならば、それはとても幸せなことです。

 

食堂を爆破しようとして、居合わせた風紀委員会にロープでふん縛られて、床に転がされているハルナを見て、とにかくそう思います。

 

「フウカさん。何度でも言いますわ。あなたはもっと料理の高みを目指せるのに手を抜いている!こんな勿体ないこと、ありえませんわ!!」

 

「だーかーらー!こっちは時間との戦いなの!料理を提供できなきゃ意味が無いじゃない!」

 

「……ふぅ。先生のメシウマバブルとも言えるこの時代、ゲヘナの食堂が微妙と言われて私は何度涙を流したことか。フウカさん、あなたはきちんと料理を作れる。なのに周りから味はイマイチと言われています。私は……悔しい!だから……だから!!」

 

「……だから、食堂を爆破しようとしたの?」

 

「はい」

 

「意味わかんない!!」

 

食事のピークを過ぎた時間に、私は頭痛の種と向き合う。

彼女は黒舘ハルナ、ゲヘナで1、2を争うテロリストだ。

美食へのこだわりが強く、自分の価値観にそぐわないものは爆破していく狂人だ。

 

しかも最近は先生と何かいい感じの事をしているときたもんだ。

……更にむかついてきた!

 

「とにかく、これから委員長が来るらしいから大人しく沙汰を受けなさい」

 

「はぁ……どうして世界はこうも無常に満ちているのでしょうか」

 

捕縛慣れしているハルナは、ごろんごろんと床で駄々をこねている。

尻尾でびたんびたんとビートのリズムまで刻む始末だ。

呆れた目で陸に打ち上げられた魚の様なハルナを見ていると、ヒナ委員長が引き渡しのために食堂へと着いた。

 

「あぁ。いつもの」

 

そうヒナ委員長が言うと、ハルナを捕縛した風紀委員会の人が、正に日常といった感じで答える。

 

「いつものです」

 

「いつも迷惑かけますわね」

 

こ、こいつぅ……!

 

「風紀委員長!どうかハルナに厳罰を与えて下さい!懲役10年ぐらい!!」

 

「無理ね」

 

「そんなー!!」

 

あっという間に私の提案は却下された。

このテロリストはずっと牢に閉じ込めておいたほうが、世界は平和になると思うのだけど。

でも、ゲヘナだしずっと収監なんて無理か……。

 

「今回は、爆破未遂だから少し罰が軽くなるわ。……はぁ、どうしようかしら」

 

面倒くささを隠さずにヒナ委員長が悩み始める。

ここで何か的確な提案を出来ればいいのだけど、それも思い浮かばず。

 

「あ、そうだ。いつか給食部からピーク時の人員増加の要望が来てたわね。丁度いいわ。ハルナ、あなたは1週間の給食部体験をしなさい。相手の立場になることで見えてくるものもあるはずよ」

 

こうしてヒナ委員長の鶴の一声で、ハルナが給食部に一時的に加わることになった。

正直、食堂の忙しさは猫の手も借りたいほどだから、悪くない。

だからこそ要望を出したんだしね。

 

それに──

 

「うふふ、実際に美食を作ってフウカさんの目を覚ましてさしあげますわ!」

 

給食部の忙しさを知らず、キラキラした目をしているハルナが、圧倒的な仕事量に押しつぶされて苦痛で歪む所を見てみたい……♥

私は心の中の昏い愉悦を抑えられそうもなかった。

 

~1日目~

 

「という訳で、今日から1週間ハルナが加わることになったからよろしくね」

 

「よろしくお願いしますわ」

 

「はい、よろしくお願いしますハルナさん」

 

調理前に、軽く顔合わせ。

といってもジュリにも話はしてあったのでスムーズなものだ。

ハルナはさぼったりせず真面目に料理はするようだ。

 

「今日のメニューは豚汁メインだから、まず最初に野菜切りまくるからね」

 

了解!の声とともに、山の様に積まれた野菜を切る作業へとそれぞれ取り掛かる。

それじゃあ、今日も頑張りましょう!

 

 

 

ハルナの様子を見ながら野菜を切り続けて、1時間が経った。

 

「ハルナ、野菜の皮を剥く必要は無いわ。受け入れなさい」

 

「く、屈しませんわ!きちんと皮むきをしてこそ、美味しい料理に仕上がります!」

 

「この数を?全部?」

 

「くっ……!」

 

ハルナは悔しそうに野菜の山を見つめる。

4000人分の野菜だ。その数は、それはもうとてつもない量になる。

いちいち皮むきなんてしていたら、到底給食の時間には間に合わない。

 

「それでも……掴みたい未来があるのですわ!」

 

……ふん。

 

2時間が経った。私とジュリはまだまだ余裕だが、ハルナには疲れが見える。

ひたすらに腕を振るう作業は慣れていないときついだろう。

ハルナは更に、皮むきというすこし集中しないといけない作業もしているから、尚更だ。

 

「はぁ……はぁ……4000人分の料理の準備がここまで大変だったなんて……」

 

「こら、さっさと手を動かす!」

 

「ひぃん……忙しいですわぁ……」

 

「ひぃんじゃない!馬車馬のように働きなさい!」

 

「ひひぃん……」

 

口ではぶーたれているが、野菜の下処理はしっかりとしている。

……そういう所は、きちんとしてるのよね。

 

「疲れたらいつでも言ってくださいね。私がハルナさんの分まで頑張ります!」

 

「ありがとうございますわ、ジュリさん。でも、これは私がやり遂げなければならないこと。……へこたれていられませんわ!」

 

……ふん。

 

3時間が経った。ようやく野菜を切り終わったので、次は豚肉だ。

この豚肉は、肉料理としても出すので、これまた大量だ。

 

「ハルナとジュリは豚肉を薄切りにして豚汁の具にして頂戴。大きさはこれぐらいね。私は豚肉のソテーを作るから」

 

「はい、フウカ先輩!」

 

「はひ……」

 

ここまでハルナがついてこれるとは思っていなかった。

最初の1、2時間でダウンする想定で、今日は考えていたのに。

必死に豚肉を切るハルナ。なるべく早く、しかし丁寧に切られた豚肉は食べる人の事を考えているのが、よく分かる。

 

……ふん。

 

4時間が経った。ようやく、豚汁を作り始める。

ハルナの顔には達成感が浮かんでいる。けれど、まだまだやる事はあるわよ。

 

「あ、あら?おかしいですわね……寸胴鍋が足りませんわ」

 

「4000人分の豚汁、一度には作れないわ。だから作ったそばから提供していくことになるの」

 

「ですが、それですと煮込み時間の調整が非常に難しくなってしまいますわ……!」

 

「それが?」

 

「あ……う……くっ!」

 

美食を貫き通すには物理的に不可能な環境を認識して、悔しそうにするハルナ。

……おかしい。この顔を見たかったはずなのに、なぜか彼女の悔しさに共感している自分が居る。

時間や環境のせいで美味しい料理を作れないのは、とてもやるせない。

 

「1つのコンロに3つの鍋ですの!?」

 

「あ、これ私が発見したんですよ~!名付けて『ジュリ三式』です!」

 

「す、凄いですわ……」

 

鍋も足りなければ、コンロも足りない。当然スペースなんかも足りない。

それでもなんとかするのが給食部だ。ジュリには本当に助けられている。

具材を煮込み始めると、ハルナは無駄な行動をしようとする。

……いいや、無駄ではない。料理を美味しくするためには必要な工程だ。

だけど、今ここではそんな事をしている時間も、必要な道具もないのだ。

 

「ハルナ、アクを取ろうとするのをやめなさい」

 

「……やめませんわ!」

 

「あなたも大体分かってきたでしょう。……アクを取るボウルですら、もう具材で埋まっていて使えない。無駄なのよ」

 

「……ふふ、今日は圧倒されっぱなしでしたが、ようやく一矢報いる事が出来そうですわね!」

 

そう言うとハルナは見慣れないボウルを取り出す。

 

「MYボウルですわ!」

 

呆気にとられてしまった。

自分で持ち込んだ調理道具を取り出して、仕事を増やしているというのに。

本当に嬉しくて仕方がないという笑顔だったのだ。

 

「……はぁ、好きにしなさい」

 

「ええ!」

 

調理の忙しさと疲れは私が一番分かってる。

だから、疲れ果ててへとへとなのに、美食のために妥協せずにここまで出来るとは。

口先だけではなく、本当に美味しい料理を作りたいという信念が今日で分かった。

 

……ふん、やるじゃない。

 

 

そうしてハルナの給食部体験初日は過ぎていく。

投げ出すと思ってた。妥協すると思ってた。しかし、そのどちらも見せずに、慣れない作業で苦しみながらも、気高く美食の道を往く。

……少しは彼女のことを見直したかもしれない。

 

 

~2日目~

 

「つまり、ある程度の調理機械を導入すべきですわ」

 

「うーん。言いたいことは分かるんだけど、予算がね……」

 

「そこは私が先生に頼み込んでみます。きっとシャーレの権限で導入して頂けますわ!」

 

「……お願い。色々思う所はあるけど、雑事を減らせる機械があれば楽できるしね」

 

仕込みを始める前にハルナと少し雑談する。

その中で、フードスライサーやフードカッターといった調理機器の話になり、なんとハルナが先生に話を通してくれることになったのだ。

 

ハルナ、実はいい人かも。

 

今日のハルナもへとへとになりながらも、決して諦めること無く美食を追求していた。

 

~3日目~

 

感化されたという訳では無い。

ただ、美味しく作れるものなら私だって美味しい料理を提供したいのだ。

ハルナが一時的に給食部に加わったことで人手が増えて楽になった。だから、美食のために手間を掛けるのは普通のことで……。

 

食器を返しに来た子が、笑顔で話す。

 

「今日の料理美味しかったよーフウカちゃん」

 

「ありがとうございます」

 

今日はよく、美味しかったと声を掛けられる。

手を抜いていない料理はやはり評判がいい。当たり前のことだが、料理が美味しく食べられたというのはとても嬉しい。

 

私のそんな様子を、ハルナは疲れて壁にもたれかかりながら見ていた。

 

「ふふふ……やはり私の見込んだ通り料理が大好きですのね」

 

うっさい!

 

 

4、5、6日目はとばすわね。

 

 

~7日目~

 

ハルナと少しの間過ごしてみて分かったことがある。

それは、美食に対する圧倒的な熱意。

何があってもあきらめない、どんな料理でも美食を模索する。

それはきっと先生の美味しい料理が世界に溢れる前から、ずっとそうだったのだろう。

 

だから、料理のことだけはハルナを尊敬する。

私は時間に追われて、料理の手順の省略が日常になっていたから。

少しだけ彼女を見習ってみようと思うのだ。

 

食材の仕込みをしてるハルナに改まって声を掛ける。

 

「ねぇ、ハルナ。一度だけしか言わないけど……ありがとう。自分にとっての料理をもう一度考えてみる良い機会になった」

 

「ふふ……どういたしまして」

 

とても柔らかい笑顔で答える彼女。

 

「あぁ、そういえば。調理機械の件ですけど、1ヶ月後位にはここに設置できるらしいですわ。正確な日時が決まったら、先生からフウカさんに連絡が行くと思いますわ」

 

「本当!?やった!」

 

「どんな機械なんですか?」

 

ジュリが疑問に思うが、確かに。

 

「ふっふっふ、こちらを御覧くださいませ!」

 

スマホでここに設置される予定の機械のページを開くハルナ。

 

こ、これは!

夢にまで見たミレニアム製のフードマシーン!

野菜の皮むきから、丸洗い。輪切り、短冊切り、乱切り、千切り、みじん切り、なんでもござれ。

お肉も切れるし、コンピュータ制御でモードの切り替えも楽々。そして、Bluetooth対応!

最近は需要が爆上がりして、手に入れるなんて不可能なはずだったのに。

ありがとう、ハルナ。ありがとう、先生。

 

「おお、凄い機械ですハルナさん!」

 

「ありがとうハルナ!本当にありがとう!あなたは給食部の救世主よ!!」

 

「なんだか照れますわね」

 

あはは、うふふと私たちは笑い合う。

最初はどうなるかと思ったハルナの体験入部だが、最高の形で終われそうだ。

機械が導入されることが嬉しくて、ハルナを褒めまくっていると、上機嫌で、そもそもここに来ることになった目的を話した。

 

「私としてもフウカさん達が美食へのこだわりを取り戻してくれて、満足していますわ。爆破しようとした甲斐があったというものです」

 

そうか、こいつ食堂を爆破しようとしたんだっけ……(눈_눈)

 

最終日の調理、私は少しだけ多めの仕事をハルナに割り振る。

 

「やることが…やることが多いですわ!」

 

「こら、口じゃなくて手を動かす!」

 

「うぅ……もう給食部はこりごりですわー!」

 

今日も給食部は修羅場。

けれど最近のゲヘナの給食は美味しいと評判だ。

小さな変化かもしれないが、また一つ美食が世界に増えていく。

美味しい料理が増えて、もっと世界が幸せになりますように。

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