メシマズキヴォトスを美食研究会と一緒に救いたい先生   作:tarako

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第二話:始動!美食研究会

食後にのんびりとお茶を飲む。

こんな平和な時間が続けばいいと思うのは、しばらくは激動の先生業だったからだろうか。

 

「はふぅ……お茶ってこんなに美味しかったんですのね……」

 

ハルナもお茶を飲んでとろけている。

すっかりと落ち着いた様子の彼女は、さっきまで美食研究会をシャーレに緊急招集させようと連絡をしていた。さすがにこれから夜も更けるという時間に招集するのは迷惑だろうと止めたのだが、既に一斉送信をしていた。ジュンコとイズミには時間的に無理だと断られたけど、アカリは車を飛ばして来ることになった。この時間に招集をする方もだけど、来る方も気合が入っている。

さすが美食研究会、恐るべし。

 

「それにしても先生、あれほどの料理をどうやって作ったんですの?食べ終わった今となっても未だに夢心地な気分ですわ」

 

「どうやったと言われても……こう、普通に切って焼いただけというか……」

 

「非常に疑わしいですわね……」

 

ジト目でこちらを見るハルナ。

いや、本当にそれ以外に説明のしようがないんだ……。

 

「秘伝のレシピや門外不出の調理技術などでしょうか。それならあの味も納得なのですが」

 

「うーん……何と言ったらいいか。実際に見てみる?普通の調理だから」

 

「本当ですの!?」

 

「本当、本当。じゃあ早速だけど今日の料理をどうやって作ったか、実際にやってみよっか」

 

うきうきした様子のハルナと連れ立ってキッチンへ行く。

冷蔵庫から鶏もも肉を取り出すと、それじゃあ。

 

「まず、お肉を一口大に切ります」

 

「ふんふん」

 

「塩コショウを軽く振ります」

 

「ふんふん」

 

「フライパンで焼きます」

 

「ふんふん」

 

「はい、出来上がり」

 

「納得できませんわー!!」

 

本当にこれだけなんだって。逆にキヴォトスの人たちは何故、飯が不味くなってしまうのだろう。

一つ、結構な心当たりがあるにはあるんだけれど。

 

「ああ!しかもきちんと美味しいですわ!!何であの調理で!?」

 

一口食べたハルナは夕飯で食べた味、そのままの鶏肉に混乱しながら興奮している。

……少し試してみたい事が出来た。

 

「というより、ハルナも料理してみないか?さっき私がやったように調理すれば同じ味の料理が出来るはずだ」

 

「それはその通りなんですけど。何でしょう。私が作ると必ず失敗するというか、手順は合っている筈なのに、完成品は凄まじいことになるというか……」

 

やっぱりそんな感じかぁ。

メシマズ世界の原因の一つとして疑っているものがある。

 

この世界の人たち全員、給食部のジュリの神秘に感染してないか?というものだ。

 

ジュリの神秘は料理にほんの少しでも手を加えれば、料理がとても不味くなったり動き出す怪生物(パンケーキちゃん)になったりと凄まじいものだ。

これが、神秘?とか色彩?とかで、こう、世界全体に上書きされたのだろう(ふわふわ推理)

ハルナの話を聞いた私は、私の推測がどんどんと真実味を帯びていくのを感じていた。

 

「まあ、実際に作ってみないと改善点も見えないさ。私が見てるから作ってみよう」

 

「うう……食材をあまり無駄にしたくはないのですけれど」

 

過去に作った料理があまりに凄かったのか、しょんぼりとしているハルナ。緩慢な動作で新しいお肉を取り出し、おそるおそる包丁を握ると、一つ深呼吸をしてから、鶏ももを切り始める。

それは、さっき私が切ったように、素人くさい包丁捌きまでもを完全に再現していた。

ちょっと恥ずかしい。

 

 

塩コショウを振って、焼いて、と未だに料理が不味くなりそうな気配は無し。

鶏の中までしっかりと火が通り、食べられるようになった。

見た目も、匂いも普通だ。……うん?普通に食べられそうだぞ?

 

「あら?……一体これはどういったことでしょう……」

 

ハルナも出来上がった料理が普通な事に困惑している。

意を決して、出来上がった鶏ももソテーを食べてみることにする。ぱくり。

 

「普通に美味しいよ、ハルナ」

 

「ええ!?では、私も。……美味しい」

 

キッチンにて、ハルナが普通に料理を作れたことに私たちは顔を見合わせて疑問を浮かべる。

ううん、ジュリの神秘が世界を上書きしているなら当然、ハルナが作った料理も不味くなるはずなんだけど……普通に食べられたな。

まだ何か、私が知らない法則が有るのか。

 

ぱくり。ぱくり。ぱくり。

 

「私、料理の天才かもしれません、ふふふ」

 

自分で作った料理って美味しいよね。わかるよハルナ。

でも、あんまり食べすぎないようにね。先生が買い溜めしてたお肉が無くなっちゃうからね。

普段少食の筈のハルナはパクパクと美味しそうに鶏肉をつまむのだった。

 

 

 

「お、お腹がいっぱいでもう動けません……」

 

すっかりと食べすぎたハルナは満腹のお腹をさすり、苦しそうにしている。

 

「ですが、美食をお腹いっぱい堪能できたというのであれば、この気怠さも心地よいですわ」

 

「まだまだ色んなレシピがあるからね。楽しみにしてて」

 

「まあ!さすが先生です♪」

 

食後にハルナとのんびり駄弁っていると、シャーレに来訪がある。

緊急招集で呼び出されたアカリだ。

 

 

「こんばんわーハルナ、先生、いらっしゃいますか?」

 

「いらっしゃい、アカリ」

 

「アカリ、待ってましたよ!今日は美食研究会の夜明け、霧が晴れる記念すべき日です!」

 

「あはは~なんかご機嫌ですねハルナ。それにしても緊急招集とは珍しい……というか初めてじゃないですか?一体何があったんです?」

 

お腹をさすりながら、ハルナはふっふっふと笑う。

それを見てアカリは、はっ!と何かに気づく。

 

「まさか……先生との子どもですか!?」

 

「そう、これは…………って違いますわ!!

 

「あらあら~♥」

 

「先生の立場がとんでもない事になるから、怖いこと言わないでねアカリ」

 

「うふふ~」

 

顔を赤くしたハルナはもう、と呟くと本題に入る。

 

 

「まずは、先生の料理を食べてからです。きっと世界が変わりますよ、アカリ」

 

 

手早く調理をして、ご飯、お吸い物、鶏ソテーをアカリの前に並べる。

ごくり、と彼女が喉を鳴らす音が聞こえた。

 

「い、いただきます……」

 

震える声で呟くと、まずはご飯をぱくりと一口食べる。

……そこからはもう、止まらなかった。驚愕したといったように、目を丸くさせ、鶏を食べ、お吸い物を飲み。食事を摂る幸せを全身で表しながら、笑顔で食べ進める。にこにこ、にこにこと。

彼女の為に少し大盛りにした程度のご飯と鶏は、あっという間に食べ尽くされるのであった。

 

「ごちそうさまでした……はふ~……」

 

幸せそのものといった感じで、食後の余韻に浸っているアカリ。

美味しいご飯で幸せになる人がまた一人増えたことに、私は喜ぶ。

ハルナもアカリの気持ちがとても分かるようで、後方腕組面でうん、うんと頷いていた。

 

「凄い美味しかったです。これは緊急招集も頷けます~」

 

「そうでしょう?是非この味を皆さんにも味わって頂きたくて、衝動的にメッセージを送っていましたわ」

 

「先生、こんなに料理上手だったんですね。びっくりです!」

 

「あはは、喜んでもらえて何より」

 

ハルナは喜んでいるアカリと私の顔を交互に見ると、指を1本スッと立てる。

何だろう。

 

「一つ、仮説が有ります。これが証明されれば、私たち美食研究会でも、美味しい料理を作ることが出来るようになるかもしれません」

 

「ええ~?こんな美味しい料理を作れるように?」

 

さっきハルナが焼いた鶏肉が普通に食べられる味だった事に関する話だろう。

彼女は何か答えを見つけたようだ。

 

 

「先生が料理の方法を教える。おそらく、それが鍵になっています!」

 

 

善は急げと早速全員でキッチンへ。

ハルナと同じようにアカリにも料理してる所を見せて、実際に作ってもらう。

せっかくなので、ハルナにお米の炊き方なんかも教えよう。

そうして教えていると、とても嬉しいことに。

 

「わ!美味しい料理が作れました!!」

 

「ふふ、やはり先生の力で美食が成るのですね……!」

 

「まさか料理を教えるだけで作れるようになるとは……自分でも何言ってるんだって話だけど」

 

料理が普通に作れるという、当たり前のことが起きている。

やはりアカリも自分で料理してみたことがあるらしいが、全て失敗に終わっていたらしい。

それがこうして成功するのは、私の先生としての何かしらの力が働いているのかもしれない。

だが、これはかなりの朗報だ。

私以外にも料理が作れるというのは、美食を広めるうえでかなり役立つだろう。

 

「さっそく、お肉を焼きまくりますよ~!」

 

「あら、負けていられませんわね。私はお米を炊きまくりますわ!」

 

「あっあっ。料理作れるようになったのは分かったけど、もう止めて!食材無くなっちゃう!」

 

ハルナとアカリは私の言葉に顔を見合わせると、ふふふと笑う。

嫌な予感しかしない。

 

「私たち美食研究会。美食を目の前にして止まるなどあり得ませんわ!!」

 

「全てを喰らい満足する。それが美食研究会の流儀!!」

 

あー!困ります!お客様!あー!!

こうして私の食材は全てアカリに食べられ、満足した二人はほくほく顔で帰っていった。しくしく。

でもいいんだ先生は生徒の味方だから。何にせよ、これからよろしくね美食研究会。

文字通り美食を研究して広めていこう。

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

「さて、あの世界が変わった夜に来られなかったジュンコさんとイズミさんには、まずはこちらの私とアカリが作った料理を食べて貰います」

 

「頑張って作りましたよ~!」

 

先生に料理を教えてもらった翌日、美食研究会の部室にて、私は早速作った料理を部員に振る舞っている。

ジュンコさんとイズミさんは目が爛々として、既にこの料理に夢中だ。

 

「ええ!?これハルナとアカリが作ったの?」

 

とジュンコさんが驚くが、ふふふ。これぐらい朝飯前でしてよ!

 

「すごい、すごい!早速いただきまーす!」

 

「あ、私もいただきます!」

 

待ち切れない様子のイズミさんが食べ始めると、慌ててジュンコさんも食べ始める。

二人がご飯に夢中になっている様子は、まるで昨日の私とアカリみたいだ。

美味しい、美味しいと食べている二人に私は自然と笑顔になる。

ようやく、私は美食研究会としてその名前に恥じない活動を出来ると、心が弾んでいる。

怒りに満ちた世界とは違う、美食に溢れる世界を。この四人で作っていけるのだ。

 

「作った料理を喜んで貰えるっていいですね★」

 

「ええ、まったく。先生に感謝ですわね」

 

アカリは沢山食べる体質で、自分で料理を作ることも多かったから、きっと美味しい料理が作れるといった感動はより大きいのでしょう。

料理を食べる二人を見つめる目には母性すら宿っているように感じました。

 

 

 

「ごちそうさま!……は~……今まで食べてたものが全部ゲテモノ料理に感じられるような、とっても美味しい味だったよ!」

 

「すご……すごいよ!超美味しかった!」

 

「ふふ、お気に召したなら何よりですわ。どうです?世界が変わるような味でしょう?」

 

「「うん!」」

 

そうでしょうとも。私が感動したように、美食研究会全員が先生の料理に感動する。

そして、それが共有すべき前提。これから美食を広めていくための私達の原動力になるのだ。

 

「さて、今までの美食研究会の活動は、基本は自由にエンジョイ&エキサイティングといった趣でしたが、これからは少し活動方針を変えます」

 

私は一分で仕上げたこれからの美食研究会がやるべき、大まかな方向性をまとめた紙をババン!とホワイトボードに貼る。

 

グルメインフルエンサージュンコ

 

グルメチューバーイズミ

 

グルメキッチンアカリ

 

グルメアドバイザーハルナ

 

「先生と相談してから本決まりになりますが、これがこれからの美食研究会の四本の柱ですわ!」

 

私の素晴らしい目標に、最初に反応したのはジュンコさんだった。

 

「ぐ、グルメインフルエンサー!?」

 

「ええ、ジュンコさん。昨今のネット社会で影響力のある個人という存在は、無視できなくなりつつあります。そこでです!先生の美食やレシピをショート動画や画像等で、SNSで発信する人物が居たらどうでしょう?確実にバズって人気者で大注目、大影響力で大金持ち間違いなしですわ!」

 

「人気者に大金持ち……!やる、私やるよハルナ!インフルエンサーになる!」

 

「ジュンコさん、あなたなら出来ると信じてますわ!」

 

「うおおおお!!燃えてきたー!!」

 

性格的に合いそうか心配な戦略でしたけど、気に入ってもらえたみたいですね。

それとは別に不安そうに私に声を掛けてきたのはイズミさんだ。

 

「ハルナ~グルメチューバーって事は私の動画を撮るの?私に出来るかな~……」

 

「少し言葉が足りませんでしたね。イズミさんには先生の料理動画を撮るサポートをしてもらいたいのです」

 

「あ、先生の料理動画なんだ!」

 

「ええ。やはり先生というネームバリューは凄まじいものが有りますからね。こちらも動画チャンネルに投稿すれば大注目間違い無しでしょう!」

 

「うん、うん。私が動画に出ないんだったら、頑張れそうだよ~!」

 

「そして、これは下品な話になってしまいますが、先生の料理動画は恐らく、大金になります」

 

「……色々と食べ放題になっちゃうかも……ごくり」

 

「動画を撮るといっても一からの手探りでは色々と大変な事もあるでしょう。しかし、見返りとして……ね?……ふふ」

 

「ハルナ~!私、頑張るよ!」

 

「イズミさん、大切な役目お願いしますわね」

 

目がお金マークになり、やる気に燃えるイズミさん。

先生の料理動画が軌道に乗ったら、彼女自身の動画を出してみるようにも提案してみよう。

メインが先生で、そこで扱いきれないサブ的な料理動画はイズミさんが担当する。

私はそんな動画チャンネルを思い描きながら、アカリの役割の説明に移る。

 

「アカリにはキッチンカーを使って実際に料理を販売して貰いたいのです」

 

「なるほどーそれでグルメキッチンですか」

 

「販売するものは先生に相談してからとなりますが、様々な場所で美食を提供できるというキッチンカーの利点は言うに及ばずです。アカリ、是非とも色々な人に美食を食べてもらうために、やっていただけませんか?」

 

「もちろん!大歓迎です、うふふ」

 

最近はすっかり料理作りを楽しんでいるアカリですが、快諾してくれましたね。

これなら、悪徳料理店からパチった譲っていただいたキッチンカーも浮かばれるというものでしょう。

 

「ジュンコさんのインフルエンサー路線や、イズミさんの動画路線で紹介した料理なんかも実際に販売出来るのは、かなりの強みです。『各種SNSで話題沸騰のあの料理が期間限定で販売中!』ふふ、いい感じに導線が繋がってますわね」

 

「おおーなるほど。考えてますね、ハルナ」

 

ここまで部員にやってもらいたい三本の柱の説明をした。

最後に、私のやるべき事を確認するとしましょう。

 

「私は美食研究会の部長として、外食産業相手に先生の料理を広める交渉を、主に担当する予定です。今までは爆破したり爆破したり、更には爆破したりといった関係性の各種企業や料理店でしたが、これからは建設的な話し合いが出来ると思います。正にグルメアドバイザーとして大活躍間違いなしですわ!」

 

「…………最悪の人選ですね★

 

「なんでですの!?」

 

救いを求めるようにジュンコさんとイズミさんを見るが、スッと目を逸らされる。

なんでですの!

 

「ま、まあともかく。先生と美食研究会の歩調を合わせるためのサポートもやっていきますわ」

 

「でもでも~いつも通りハルナが考えてくれたなら安心だね!」

 

イズミさんがそう仰ると、それに続くようにジュンコさんとアカリも賛成する。

 

「だね!ハルナが上手くいかなくてもインフルエンサージュンコ様に任せといてよ♪」

 

「失敗は成功の母とも言います~私もしっかり支えますよ、ハルナ!」

 

なぜか私が失敗すると考える方が多いですが、まあ良しとしましょう。結果で見返してやります。

私は部員の顔を見渡す。希望に満ちたとても良い表情をしている。

きっと私もそんな表情を。いえ、多分誰よりも嬉しそうにしているのでしょう。

これから忙しくなりますが、きっと楽しい日々が待ってます。

 

 

丁度いい時間になりましたね。

いつもは店を襲撃する前にやるアレをやって、今日の部活動は終わりにしましょう。

 

「さあ、美食研究会。準備はよろしくて?……ファイト!!」

 

「「「「オーーーーッ!!」」」」

 

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