メシマズキヴォトスを美食研究会と一緒に救いたい先生   作:tarako

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第三話:可愛いポーズでおにぎりを握る成人男性が居るらしい

「ああ、いいですわよ先生!そこでぶりっ子のポーズですわ!」

 

きゅるん♪……ってちょっと待ってくれ。

 

「ねえハルナ……おにぎりを握る動画にぶりっ子のポーズって必要……?」

 

「必要ですわ。この動画はジュンコさんと全く同じようにおにぎりを握る動画を撮って、先生の動画とジュンコさんの動画で、他の人が料理を作れるようになるかどうかの違いの検証用です」

 

「ですので、ジュンコさんがぶりっ子のポーズをした以上、先生にもやっていただかなくては困りますわ」

 

「ああ!そこで決めポーズですわ、先生!」

 

きらっ☆

……出来れば私の料理動画を先に撮って欲しかったな!

おにぎりを握りながら、私はどうしてこうなったかを思い返す。

 

 

 

 

ハルナがシャーレにやってきて、これからの美食研究会の活動方針を私に説明してくれたまでは良かった。

美食を広める為の部活内容といった感じで、色々と考えられたものだったと思う。

当然、協力するのは先生としてやぶさかではない。私は美食研究会に全面的に協力しようと思う。

 

 

そうして、美食研究会の案を実現させるために色々と打ち合わせをしたりして、しばしの時間が流れる。

今日のハルナと私は美食を広めるための最大のネック、料理を美味しく作れる人が居ないという問題の話をしていた。

私たちはこれまでに簡単な実験をして分かった情報をまとめる。

 

その1、私が作る料理は普通の味になる。

 

その2、私が料理方法を直接教えた人物は、その教えた料理を作れるようになる。

 

その3、私が書いたレシピでは美味しい料理を作れるようにならない。

 

その4、私から料理を教わった人物が他の人にその料理を教える場合、美味しく作れるようになるまでに、教わる側の料理技能に応じた時間がかかる。(サンプル不足の為、まだまだ要検証)

 

この中で問題なのはやはり、その3だろう。

レシピサイトといった形で美食を広めることはできないのはかなり痛い。

その4も一見複雑そうに見えるが、私が料理を教えた人物が料理教室の講師みたいな事が出来ると考えると、これはかなり良いのではないだろうか。

というよりその4は、元の世界で料理を習うのと全く同じではないかと疑問に思ったのだが、ハルナによると『何度も料理を教えていると完成した料理が、紫色への変化や刺激臭を突然発しなくなり、美味しい料理が出来上がるようになるので、摩訶不思議』らしい。不思議なのは何作ってもメシマズになってしまうキヴォトスだよ。

 

 

さて、レシピだけでは駄目だった。

それならば動画で料理してみてそれを真似ればどうだろう。

ということで、実験の一環としておにぎりを握ることになり、ハルナに辱めを受けることになったのだ。事前にジュンコの動画を撮ってきてるあたり、完全に仕組まれている。

まさか、こんな可愛いポーズをすることになろうとは。どこに需要があるんだ……。

 

「はい、オッケーです。中々良い動画が撮れましたわ!」

 

「しくしく」

 

「泣かないでくださいまし。おにぎりでも食べて元気出してくださいな」

 

「ありがとう、貰うね。私が作ったおにぎりだけどね」

 

うん。シンプルな塩おにぎりってのもいいね。

後は海苔があればもっと良かった。海苔もまたキヴォトスには存在しないレア食材だ。

美食研究会の案に乗って、美食が広まって来たら、食材開発の企業や部活を広く募集して絶対に海苔を作ろう。

ああ、味噌や醤油なんかも欲しい!焼きおにぎりが食べたい!……うごごご。

私はおにぎりを食べながらまだ存在しない調味料や食材に、熱く焦がれていた。

 

「やはり先生のおにぎりは本当に美味しいですわね……」

 

ぱくぱく。とハルナもまたおにぎりを食べる。

ただそれだけなのにやたらと上品な所作だ。

これでテロリストじゃなければ、まさに良家のお嬢様といった感じなのに。

 

「お米を炊く前に昆布で出汁を取ってるから、飽きない自然な旨味が有るんだ」

 

やっぱ凄いぞ昆布。本当に売っててよかったぞ、昆布。

私が先生として頑張ってこれたのも、ある程度は昆布の旨味があったからといっても過言ではない。

 

「あの謎の海草がこうも化けるとは……あら、もしかして他の料理にも昆布ってよく使われます?」

 

「うん、しばらくは旨味といえば昆布や椎茸なんかで取ることになりそうだね」

 

「椎茸……あの謎キノコですわね。あれも頂きましたが美味しかったです。何にせよ料理が流行るようになるならば、昆布や椎茸の確保も大事ですわね」

 

メモメモ、とスマホに打ち込むハルナ。

確かに美食が流行るようになると、公開した料理の食材の在庫なんかにも気をつけなきゃいけなくなるのか。私には無い視点だったな。

 

「あとは今日来るシャーレ当番の方に、この動画を見せて実験するだけですわね」

 

「ああ、そんな事を考えてたんだ」

 

「ええ、ゲヘナに戻ってからいつものようにそこら辺の人で試してみてもいいのですが、たまにはゲヘナ以外の方でもやってみなくては」

 

「実験の許可とかは取ってるの……?」

 

「考えたこともありませんでしたわ。ですが美食の礎になれて、きっと実験に協力してくださった皆様も満足してますわ」

 

うーん、傍若無人ぶりは相変わらずのようだ。

でもキヴォトスだしあまり気にしないことにする。細かいことを気にしてると、ここでは生きていけないからね。気軽に生きていこう。

 

だから、今日のシャーレ当番であるユウカにはちょっとすまない。

無力な先生を許してくれ。

 

 

 

 

「こんにちは⤴️ユウカです。先生いらっしゃいますか⤴️⤴️あ……美食研究会の⤵️⤵️⤵️」

 

「ユウカ、いらっしゃい。なんかごめんね……」

 

「テンションの上下が面白いですわね。うふふ」

 

うきうきで挨拶をしてきたユウカはハルナに気づくと、スンと真顔になる。

美食研究会の問題児っぷりはミレニアムにも轟いているみたいだ。

あるいは当番に聞いていなかった、もう一人が居たからテンションが下がったというのもあるかもしれないが、そこまで当番を重要視してないだろうしこれは無いだろう。

 

「お邪魔している自覚はありますが、これも美食のため。セミナーの会計さん、是非とも見て頂きたい動画が有るのです」

 

「……動画ですか?」

 

「先生のマル秘動画です」

 

「見ます!⤴️⤴️⤴️」

 

ユウカ?

一気にテンションを持ち直したユウカは動画に食いつく。ピラニアでももう少し躊躇するよ。

 

「ふふ、それではこちらをご覧下さいませ」

 

「あれ、料理動画ですか?」

 

「何の動画だと思ってたのユウカ……」

 

ハルナが再生した私がおにぎりを握る動画を見て、何とも言えない表情をするユウカ。

そして動画の再生が続いていくと、当然私がぶりっ子しだす。

 

「……ふ、ふふっ!せ、先生、なんで可愛いポーズしてるんですか……っ!」

 

こっちが聞きたいよ!

笑いを堪えきれずに、声を震わせ、大笑い一歩手前というユウカは、動画の中で続く私の決めポーズでついに決壊してしまった。きらっ☆

 

「あはははははっ!お、おかしっ!は、ははは!!」

 

「……ふふ、……ふふふッ!」

 

私の可愛いポーズで爆笑するユウカ。ハルナも釣られてか少し笑っている。

…先生も傷つくのよ?(アオイ室長の真似)

 

 

 

 

 

「……ふう。思わず笑ってしまいましたが、今の動画は一体何ですか?」

 

「詳細は省きますが、おにぎりを作れるようになる動画ですわ」

 

ユウカはクエスチョンマークが頭に浮かんで困惑している。突然おにぎりを握ってる最中にぶりっ子しだす動画を見せられて、貴方はおにぎりを作れるようになりました、と言われても信じられないというか、困惑しかないだろう。

 

「百聞は一見に如かず、さっそくにぎりに行きますわよ、ユウカさん!」

 

「あ、ちょ、ちょっと!……行っちゃった。もう、何なんですか先生!」

 

「最近私は美食研究会と一緒に美食を作る実験をしていてね。さっきの動画もその一環なんだ。もしよかったら協力してくれないかな。おにぎりを握ったりするだけの簡単な実験なんだ」

 

「はぁ、しょうがないですね。何がなんやらですが、手伝えることなら手伝いますよ」

 

「ありがとうユウカ!」

 

「……今回だけですからね!」

 

書類整理や、仕事の手伝いをお願いした時に、何回聞いたか分からない『今回だけ』をありがたく今回も貰って、私たちはキッチンへ行く。美味しい料理が沢山作れるようになったら、必ずお礼するからね。ありがとう、ユウカ。

 

 

 

 

 

「さあさあ、ユウカさん。貴方は先生の動画でメシマズを克服した初めての人になるのです!」

 

そういえば動画を見て、料理が美味しく作れるようになるとまだ決まったわけじゃなかった。

それなのにハルナから感じるのは溢れる自信。失敗することなんて微塵も有り得ないという、料理が美味しく出来るであろうことを確信している。そんな食に対する絶対の自信が感じられた。

 

「えーっと。最初にラップを敷いて、そこに塩を振って、ご飯を広げて、三角形に握ってと」

 

「いいですわ!握れてますわよ!」

 

「何度か握って形を整えたら……完成?」

 

「握れてますわー!」

 

ボディビルの掛け声みたいなハルナの声援を背に受けつつ、動画の真似をするユウカ。

あっさりと、苦労することなく見た目が普通なおにぎりが完成した。

 

「さあさあさあ、作ったおにぎりを食べてみて下さいな!」

 

「え、ええ。それじゃあいただきます。…………お、美味しい!!」

 

びっくり~!といった感じのユウカは、あっという間に握ったおにぎりを食べてしまった。

そして、間を置かずに新しいおにぎりを握り始める。

 

「こんなに美味しいもの初めて食べました!」

 

にぎにぎ。ぱくぱく。

食べることに集中しているユウカに、私はお茶を差し出す。

ごくごく。ぱくぱく。

 

「あ!この飲み物も美味しい!」

 

幸せのスパイラルといった形で満腹になるまで、おにぎりを握っては食べ続けたユウカであった。

美味しいものを食べて自然にこぼれる笑みを見るのは、やっぱりいいね。

 

 

 

「ごちそうさまでした」

 

はぁ、とお腹をさすりながらユウカは、満腹になってきてから浮かんだであろう疑問を口に出す。

 

「なんで私、料理作れるようになったんでしょう?何回か作った時は分量も手順も完璧だった筈なのに、変色した化学兵器が出来上がったというのに」

 

「ふっふっふ。あの動画を見たから作れるようになったんですわ。私にも不思議なのですが、先生が料理法を見せるとなぜか、私たちにも料理が作れるようになるんです」

 

はへー動画を見るだけで作れるようになるって本当なんだとユウカは感心する。

そして何かに気づく。今日の流れの中で不自然だった箇所が点と点で繋がったようだ。

 

「あのぶりっ子ポーズにも意味があったんですね、先生」

 

「いや、あれは……」

 

「あれは美食研究会の他のメンバーの趣味ですわ。後で楽しむそうです」

 

「あ、趣味。……先生、強く生きて下さいね」

 

哀れみの目でユウカに見られる。そんな目で私を見ないでくれ。

しくしく。

 

「ユウカさん、動画データを渡すのでミレニアムで他の方に見せて、その方がおにぎりを作れるようになるかどうか、実験に協力して貰えませんか?」

 

「なるほど。実験とはそういうことでしたか。ええ、喜んで。この味が普段から食べられるようになるのは、ミレニアムにとっても利益が大きい話です」

 

精神にダメージを受けてる私を尻目に、二人は和やかに会話を交わす。

待ってくれ。動画データって、ちょっと待ってくれ。

 

「私がおにぎりを握る動画は今から別のを撮るよ!そのぶりっ子の奴は拡散しないで!!」

 

「まあ……残念ですわ。可愛らしいですのに」

 

「流石に先生が可哀想ですよ。いっそ、格好良く撮るなんてどうです?」

 

「格好良く……アリですわね。先生、格好良くおにぎりを握りますわよ!」

 

格好の良いおにぎりの握り方ってなんだ……。

盛り上がったユウカとハルナに私は当然勝てるはずも無く。おにぎりを格好良く握る事になる。

三人で試行錯誤しながら導き出した結論は、ワイシャツをちょっと着崩して、自然なチラリズムを視聴者に意識させながらおにぎりを握るという、格好良いというよりちょいエロな動画だった。

 

普通におにぎり、握ろう!

 

結局、時間が押しているということもあり、撮り直した私のちょいエロ動画を持って、ユウカはミレニアムへと帰っていった。まあ、ぶりっ子を拡散されるよりはいいかな。

100ダメージ食らう所だったが、10ダメージに抑えたみたいなファインプレーだ。

 

まともにおにぎりを握れって?本当に、それはそう。

 

 

 

 

────美食研究会の部室にて。

 

夕暮れ時、逆光で顔が見えない人物相手にハルナは動画データを渡す。

そう、彼女こそが黒幕。先生にぶりっ子をさせた策略家。

 

「先生の可愛いポーズを撮ってきましたわよ、()()()()()()

 

1年生の身でありながら、その精神はどこまでも美食研究会に染まっている。

目的の為ならばどんな手段も取る、その姿勢はゲヘナの美食研究会という場において、何よりも有利に働く特性だった。

 

「おおー!ありがとうハルナ!どれどれ……す、凄いよ!!」

 

「しかし、一体どうして先生の可愛いポーズを……?」

 

「いい年した大人の男性が羞恥心を堪えて、ぶりっ子のポーズをする。そこからしか取れない栄養素があるんだよ、ハルナ」

 

「……あなたが敵でなくて良かったと心の底から思いますわ」

 

これは美食研究会の未来も明るいですわね。とハルナは笑う。

元は少し真面目だったジュンコをこれでもハルナは心配していたのだ。

けれど先生の美食を食べてから、ジュンコは一気にハジケた気がする。今までメシマズで抑圧されて、圧縮された全ての思いが解放された結果が、()()なのかもしれない。

 

メシマズの世界で出会った掛け替えのない仲間が、先生の無理をしている可愛いポーズで興奮して楽しんでいる。

それを見つめるハルナはどこまでも慈愛の表情に満ちていた。

 

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