メシマズキヴォトスを美食研究会と一緒に救いたい先生   作:tarako

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第四話:やはり動画…!動画は全てを解決する!

こんにちは、早瀬ユウカです。

先生の料理動画を広めた話を少しだけしたいと思います。

といっても、セミナーの皆に見せて広めるようにお願いしたら、あっという間に広がったのですが。

 

 

 

 

 

 

「ノア、コユキ。今日の夜は私が作った料理を食べてみない?」

 

仕事が一段落した時に、二人に提案してみると何か信じられない事でも聞いたかのように、目を瞬かせるノアにコユキ。失礼な。

 

「ユウカちゃんが料理ですか?もちろんご馳走してくれるなら、ありがたく頂きますが」

 

「ユウカ先輩どうしたんですか?熱でも有ります?」

 

コユキは直球で失礼だ。ただ、今まで私はあまり料理に興味が無かったのに、突然料理をご馳走するとなれば、訝しむ気持ちも分からないでもない。

 

「実はね、先生が美食を広めるために色々やってて、私も簡単な料理を教わったの。それで二人にも食べてほしいなって思って」

 

「まあ、先生が。そういう事なら是非♪」

 

「私も食べます。何か手伝ったほうがいいです?簡単なことなら手伝いますよー!書類仕事飽きたし

 

「聞こえてるわよ、コユキ。手伝いはいらないわ。本当に簡単な料理だから」

 

ちぇっ、と悪態をつくコユキだけれど、書類仕事が多いのはあなたがサボってたからよ。

 

「それじゃあ、楽しみにしててね。かなり美味しいから!」

 

先生から教わったとおりにお米は炊けるようにセットしておいたし、お茶の準備も完璧。

一度作り方を覚えてしまえば、簡単に出来るのでおにぎりはいいわね。

 

 

「というわけで、こちらがおにぎりとお茶よ」

 

まず、色が変じゃない。刺激臭がしない。その時点で料理としてはかなりの上澄みだ。

あまり期待してなかったらしいノアとコユキも目を輝かせている。

全員に配って、それじゃあ。

 

「「「いただきます」」」

 

一口食べた二人はあっという間に、その味に夢中になる。

味の感想を言うこともなく黙々と食べ進める姿に私は苦笑する。きっと美味しくて、他のことに気を割く余裕が無いのだろう。私自身も何度食べても美味しいおにぎりをじっくりと味わう。

うん、今日も美味しくてかんぺき~。

 

「あ、無くなってしまいました」

 

「はっちゃ(泣)」

 

「ふふ、美味しかったでしょ?」

 

「ええ。正直驚いています。お茶もとっても美味しくて……先生が美食を広めたいというのも、これを食べれば納得です。ありがとうございます、ユウカちゃん」

 

「ユウカ先輩凄いです!毎日食べたいぐらいですよ!!」

 

少し多めに作ったけれど、それでもあっという間に無くなってしまった。

まだ食べ足りない様子の二人にはせっかくだから、自分でおにぎりを作ってもらおう。

 

「そ、そのぉーおかわりとかってあります?」

 

「もちろんあるわよ。……ただ、自分でおにぎり作れるようになってみない?」

 

「うーん自分でですか。実は、何度か料理つくってみても失敗ばかりなんですよね、にはは……」

 

「大丈夫!私も料理初心者だったけどすぐに作れるようになったから。私が料理を作れるようになった動画を見せるわ」

 

さっそく私は先生のおにぎり動画をスタンバイする。

格好良く撮れた先生の動画を見て、おにぎりを作れるようになりましょ。

ノアとコユキに画面を見せて、動画再生スタート。

 

「エッッッ!……あ、料理動画ですか。いきなりエロ動画再生したかと思ってビビりましたよ!」

 

「……………………えっちです」

 

あ、あら?格好良く撮れたと思ったのに、返ってくる反応が思ったのと違う。

冒頭の先生がスーツを脱いでワイシャツを着崩すシーンで、二人は顔が赤くなっている。

ハルナさんと一緒にこだわったシーンなので、結構自信があったけど……まあ、好意的な反応っぽいのでヨシ!

最初のシーン以外は普通におにぎりを握る動画が流れて、再生が終わる。

 

「…………えっと、その、先生が……え、えっちな動画でしたねユウカちゃん」

 

顔を赤くして目を泳がせながらノアが小さな声で感想を言う。

あの常に冷静沈着なノアの語彙力をここまで削るなんて、先生あなたって人は。

でも言われてみれば、中々にエッチな気がしてきたわ……。

 

「料理動画?なのは分かったんですけど、これで本当に作れるようになるんですか?」

 

コユキはもうピンク色の空間からは脱出したようで、料理の疑問を浮かべている。

 

「試してみましょう。多分、もう作れるようになっている筈よ」

 

キッチンに移動して、特に問題も無く二人はおにぎりを作ることに成功する。

よしよし、実験は成功してるわね。ハルナさんへの報告用に、この成功をメモしておく。

 

「本当に作れました。一体どうして……?いえ、嬉しいのですが」

 

「すごっ!美味しいおにぎり作れちゃいましたよ!……んー!美味しい!」

 

何で作れるようになるのかは、先生と美食研究会が今一番知りたいと言っていた。

けれど、実験とはいえこうして美味しいおにぎりを食べられることには感謝だ。

 

「というわけで、このおにぎりが作れるようになる動画を二人にも渡すから、出来れば周りに広めて欲しいの」

 

二人はおにぎりを口に詰め込みながら頷いた。

ここから、あっという間にこの動画は広がっていった。

そして、セミナーのもとには『先生のもっとエッチな動画をよこせ!』をオブラートに二重ぐらいに包んだ催促の声が、毎日のように届くようになった。

せめて料理動画の催促をして頂戴!

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

今日の朝食はサンマの塩焼きに、目玉焼き、ご飯、お吸い物。

サンマには大根おろしも添えて、かなりご機嫌な朝食だ。

一日の計は朝にありというように、朝食選びは非常に大事なポイントだ。

 

 

私の分だけではなく、アロナとプラナの分も並べて、シッテムの箱を起動する。

すると、礼儀正しく挨拶をするプラナと、ご飯を待ち切れなく目を輝かせているアロナが映し出される。

 

「おはようございます。先生」

 

「おお!今日はサンマですか先生!」

 

「おはよう、二人とも。いいサンマが売ってたからね。大根おろしも有って、もう元の世界の朝食と大して変わらないぐらい美味しいと思うよ、今日は」

 

「うう、待ちきれません。早速料理をスキャンして仮想空間に取り込みますね……!」

 

アロナがむにゃむにゃと何かを唱えると、彼女たちの分の料理が粒子となって、仮想空間の中に取り込まれていく。原理は全く持って不明。

キヴォトスってすごい、私は改めてそう思った。(寺生まれのTさん)

 

全員に料理が行き渡り、私が軽く音頭を取る。

 

「それじゃあ、いただきます」

 

「「いただきます」」

 

さてさて、早速サンマを一口。……うん、美味しい。続いておろしと一緒に食べると、これまたさっぱりとして美味い。サンマは正解だったな。

というより、朝食に焼き魚があるとかなり嬉しい。

これからも魚を見つけたら積極的に買っていこう。ゆくゆくは、晩ごはんに気合の入ったアクアパッツァ何かも作ってみよう。

 

 

アロナとプラナもハフハフとサンマの塩焼きに夢中になっている。

そんな中でふと、思っていたことを呟くかのようにアロナの口から失言が飛び出る。

 

「あーこれでポン酢があれば最強なんですけどね」

 

「ポン酢?それはなんですか?先輩」

 

「あ!え、えっと……太古の昔にあったと言われる伝説の調味料です!!」

 

「なるほど……?」

 

キヴォトスにポン酢は存在しない。

なんでポン酢を知っているのかとかは突っ込まないからな、アロナ。

 

 

 

動画の有用性が分かったので、今日から早速料理動画を撮っていくことになった。

撮影兼助手のイズミと、編集を手伝ってくれるアロナ、そして料理担当の私と三人体制で料理チャンネルを盛り上げていく。本当は編集もイズミが担当する予定だったが、アロナがその役目を担ってくれた。『スーパーウルトラOSにかかれば編集なんてちょちょいのちょいですよ!』らしい。

ありがたくお言葉に甘えよう。

 

 

「こんにちは~先生。今日はよろしくね」

 

「こんにちは、イズミ。頑張っていこうね」

 

学業が終わり、シャーレにイズミが来る。

挨拶も早々に、彼女は何かメモを取り出しふむふむと確認する。

 

「えっとね、ハルナによると『微エロは有効なのでどんどん動画に盛り込んで下さい』だって!」

 

「おお……」

 

……モモトークで最近色々な生徒から料理動画を催促される理由が分かった気がする。

ログ残ってるからね、あまり露骨な要求は……止めようね!

そうして考えていると、ノアの動画要求が一番多かったなと思い返す。

本人は、ミレニアムで動画を望む声が大きくてと言っていたが、はたして。

……いや、考えるのは止めておこう。それより料理動画だ。

 

「それじゃあ、お米の炊き方に食材の切り方。そんな基本中の基本からやっていこうか」

 

「うん、了解。お米一つ炊くのにも先生の動画が無いと、ビビッドカラーになるもんね」

 

カラーヒヨコならぬカラーお米が炊けるのはキヴォトスの悪い神秘の一つだ。

そこに、炊きすぎか殆ど生米かのどっちかが追加されるのが、この世界の平均的な"ご飯"だ。

メシマズを駆逐してやるぞ、一つ残らず。美味しいご飯を気軽に食べられる世界にするぞ。

私は決意を新たにする。頑張ろう。

 

 

「それじゃあ始めるよ~3、2、1……スタート!」

 

「皆さんこんにちは。シャーレの先生です。初めましての人は初めまして。今日から料理動画を投稿していくことになりました。このチャンネルを見て、料理の作り方や美味しさを発見してくれると嬉しいです。記念すべき第一回、紹介したい料理はお米の炊き方。焦らずに基本からやっていきましょう。それでは、まず────」

 

イズミが構えるカメラに向かって笑顔を作りながら話す。

どうにも初めての撮影ということで、ぎこちなさが残っている気がするが、やっていく内に慣れていくだろう。慣れるといいな。

……服装は、腕まくりをして第二ボタンまで外したワイシャツにしている。ハルナからの指定だ。

どうやらこれがグッとくる人が多いらしい。

どこかで私のどんな服装がエロいかアンケートでも取ったのかな?とんでもないことだよ。

 

 

お米の炊き方の動画を撮ったら、続いてお肉や野菜の切り方や炒め方、味付けの塩コショウの正確な分量を載せて、食材に振りかける所までを丁寧に撮る。

一つ一つの動画は短いけれど、基本中の基本から丁寧に紹介していくと結構な動画の数になるだろう。そして、ちょっとした応用なんかでネギ塩タレを作って、豚バラを焼いたものと合わせてネギ塩豚バラ丼なんかも紹介していく。

 

「…………(ごくり)」

 

イズミが食べたそうにしているので、撮影が終わったら一緒に豚丼を食べよう。

撮影も大分こなれてきて、出来上がった料理に近づいて、美味しく映るようにイズミも色々と試行錯誤している。食欲の赴くままに美味しく映すのは、案外彼女の得意分野なのかもしれない。

 

「────というわけで本日の料理は以上になります。この動画が参考になったり、美味しそうと思ったら、チャンネル登録や高評価よろしくお願いします。それでは、また次の動画でお会いしましょう。シャーレの先生でした。ばいば~い」

 

まさか、先生をやっていてYou○uberのテンプレみたいな事を言うことになろうとは。

撮影が終わって、ふぅと一息つく。

 

「おっけ~!先生おつかれー」

 

「イズミも撮影お疲れ様。どんな感じの動画になってる?」

 

「こんな感じ~」

 

そう言うとイズミはカメラを軽く操作して私に見せる。

撮ったばかりの動画の中では私がちょこまかと料理をしている。

……思ったより自分が配信者してるのを見るのは恥ずかしいな。

 

「うん、問題なさそうだね」

 

「そ、その……撮影の時に作った豚丼がね、冷めるとあまりよくないよ……!」

 

動画を確認していると、ぐぅとお腹を鳴らしてイズミが可愛らしい抗議をする。

 

「ああ、ごめんごめん。せっかくだし一緒に食べようか」

 

「やった!先生、ありがとう!」

 

もう出来上がってる豚丼と、野菜サラダなんかを並べて今日の晩ごはんとする。

それじゃあ、いただきます。

 

「……お、お、お、美味しすぎるよ~~!!」

 

「はは、それは良かった」

 

「ん~!!……はっ!撮影すると料理が出来るということは、世界で最初に先生の料理を食べられるということ……こ、このポジションは大金を積まれても絶対に渡せないよ……!!」

 

「そんな大げさな。少し待てば動画が公開されて、皆食べられるようになるのに」

 

「先生の美味しい手料理が最初に食べられるというのが重要なの!」

 

身を乗り出して、熱弁するイズミ。

そこまで私の料理を気に入ってくれたなら、作った甲斐があるってものだ。

世界初~♪世界初~♪とご機嫌に食べ進めるイズミと共に、撮影で作った料理を消費する。

自分が食べたいものを優先して作ったからなかなかに満足した。ごちそうさまでした。

 

 

一緒に食べたネギ塩豚バラ丼は、イズミ史上最大の美食だったらしく、動画がサイトに上がるまで、他の美食研究会の皆が食べられないのは可哀想とのことで、自分で作ってご馳走したらしい。

他のメンバーからも大好評で、しばらくはネギ塩が美食研究会の間でブームになったとかなんとか。

 

 

こうして動画を作り、アロナに編集を任せて、出来上がった動画たちを早速動画サイトにアップロードしていく。前から動画を要求されていたミレニアムにも連絡を入れる。

流れで、トリニティとゲヘナなど規模が大きい学園の生徒にも、私の動画を見て欲しいとモモトークで連絡したりもした。この動画で美味しい料理が作れるようになるから、本当だから。嘘じゃないよ。ま、ま、見てみてよ。

 

動画を投稿しているその間にも、イズミと動画を撮り溜めては更新を滞らせないようにする。

そうして1ヶ月が過ぎ、私のチャンネルは、なんと。

 

チャンネル登録者数50万人を達成した。

 

1ヶ月でこれはかなりの快挙ではなかろうか。

今でも、動画を見れば美食が作れるとの噂がチャンネル登録を後押ししている。

こうして美食を広める為の動画投稿は大成功した。

せっかくだし、投稿した動画に付いたコメントもいくつか紹介してみよう。

 

 

Hina.S

先生の優しい語り口で、とても丁寧に料理の説明をしてくれるので、料理初心者でも動画の通りに作ることができました。

作った料理もとても美味しくて満足しています。また動画が投稿されるのを楽しみにしています。

503

 

Hiyori.T

屋外での調理の動画も出してくれて……助かります。

苦しい人生ですが、先生の料理で少しだけ……希望が見えました。

121

 

Koyuki.K

2:03

先生の鎖骨エロい!!!!!

4545

 

Kirino.N

先生の料理の動画を見て、自分で作ってみるのがすっかり趣味になっています。

ちなみにですが、動画とはあんまり関係ないのですが。

先生と生徒が恋愛をするというのは、キヴォトスでは犯罪ではありません!

1732

 

Minori.Y

まさに料理界の革命だ!!

労働者の食生活は大いに改善されることだろう!!

104

 

Mimori.M

先生のレシピで作ったお弁当はとても美味しくて好評でした。

素敵な動画をありがとうございます。

356

 

Shun.S

食が細い園児たちでも、先生の料理ならば食べることができて助かっています。

402

 

Shuro.Y

1:23 2:03 4:32 5:11 6:47 7:50

手前さんたちのためにエロ、まとめといたよ(笑)

7777

 

 

 

料理についての評判は上々。そしてなぜかエロシーン指定コメがいいねを大量に稼いでいる。

 

正直に言おう。美少女達にエロい目で見られているのは凄くいいぞ!

 

承認欲求の高まりを感じる。かつての世界で自撮り女子が増えていたのが言葉ではなく、心で理解できた!

これはセクシー路線もいけるかもしれないな。セクシー先生ですまない。

 

 

 

料理動画撮影の休憩中にコメントを確認した私は、方針転換の相談をイズミにすることにする。

 

「イズミ。先生な、エロ料理家で食っていくのも有りかもしれないな」

 

「せ、先生!?自分を見失わないで!」

 

「安心してほしい。見てくれ、このコメント欄のエロシーンに付いてるいいね数を」

 

「確かに沢山付いてるけど~!」

 

先生、生徒の期待に応えて脱ぎます。

ご期待下さい。

 

「だめ~!!えっちすぎるのは……だめ!!」

 

顔を赤くしてあたふたしながらしながら言うイズミを見て、私の真に成すべきことを思い出す。

そうだ……私は料理の為に動画を投稿したはずなのだ。

それが少しセクシーだと言われたから、エロ料理家になる?とんでもない!

最近は料理動画を撮る時に微エロを混ぜるのが当然になっていて、感覚が麻痺していた!

すまない……微エロが日常になっているスケベな先生ですまない。

 

「……確かに。少し浮かれていたよ。あくまでちょっとセクシー路線を継続しよう」

 

「うん、うん。それがいいよ~!」

 

ここはしたたかに、さり気なく、セクシーを利用するべき場面だろう。

私は本日の料理衣装の、『パジャマの上から軽くエプロンを付けて、気怠げに料理をする休日の朝モード』のまま改めて、料理動画を広める決意をする。

そう、全ては美食のために。頑張っていこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

────特異現象捜査部にて

 

天童アリスは、おにぎりと卵焼きを乗せたお盆を持って、よいしょよいしょと明星ヒマリの前に料理を並べていく。ヒマリは手伝いますのに、と苦笑するが、アリスは「料理勇者にお任せ下さい!」と、その役目を譲ることは無かった。

 

「おまたせしました。これが料理勇者アリスの特製おにぎりと、特製卵焼きです!召し上がって下さい!」

 

「ふふ、ありがとうございます、アリス。それではさっそく、いただきます」

 

超天才清楚系病弱美少女ハッカーである彼女は、完璧で優雅な所作でおにぎりを手に取ると、その世界中の人間が魅了される唇へと運ぶ。味わうことしばし、光り輝く宝石のような目を驚きで軽く開き、新しい美食に出会えた幸福を天上の竪琴のような声で奏でる。

 

「……まあ!これは、先生の動画でまだ紹介されていない、新しい味ですね」

 

「ふっふっふ!種明かしは全部食べ終えてから、です!」

 

どやぁ、と得意げな顔をするアリス。

このように後輩に慕われるのも、隠しきれない人徳ですかとヒマリが自分の美少女っぷりに納得して、卵焼きも食べてみる。

 

「あ、これ好きです。凄く美味しい!」

 

「(どややぁ……)」

 

卵焼きの味に深みがあるというのだろうか、複雑で調和した味は、美味しさのランクを2段階は上げているように感じる。まるで、雲上に咲く一輪の花のように。相乗効果というのは料理の世界でも、こうも有効に働いている。

 

「ごちそうさまでした。とても美味しかったです、アリス」

 

「それは良かったです!アリスの料理を喜んでもらうクエストが57/100達成です」

 

パンパカパーン!と喜ぶアリスは続けて、今日ヒマリに新しい料理を持ってきた理由を説明する。

 

「そして、今日の料理は、実は先生に特別に教えてもらった『惜しい料理』なんです」

 

「『惜しい』……ですか?食べてみた所、今までで一番美味しかったと言ってもいいような、完成された味のように思えましたが……」

 

「先生によると、この上の味があって、先生はそれを知っているので『惜しい』そうです」

 

「なるほど……」

 

「アリスもこの、『マグロのほぐし身おにぎり』と『だし巻き卵』が更に上の味になることは信じられませんが、『ツナマヨおにぎり』と『だし巻き卵(真)』へと更なるレベルアップを残しているというのですから、驚きです」

 

アリスの言葉を受けて、ヒマリの超天才美少女頭脳が回転し始める。

その最高峰の頭脳は、僅か3秒でアリスが料理をご馳走したいといった理由へとたどり着くと、しょうがない子どもを嗜めるかのように笑みを溢す。

 

「なるほど、なるほど。そういう事でしたか。先生も美食のために私の力を借りたいならば、そう仰るだけでいいのに。でも、あまりの美少女っぷりに料理をご馳走したくなるのも、少し理解できてしまうというもの。そう、美しすぎるというのは時に複雑な工程を必要としてしまうのです」

 

「はい。先生は調味料の開発を()()()()にお願いしたいそうで、居場所を知っているヒマリ先輩にお願いしにきました!」

 

「ええ、ええ。リオに…………あれ、今なんと?」

 

「はい。アリスは()()()()の連絡先を入手して、先生に教えるクエストを進行中です。そのため、居場所を知っているヒマリ先輩にお願いしにきました」

 

「…………ふふ、…………ふふふ」

 

世界最高峰の美少女の怒りは、あまりにも可愛いが、今この場に似つかわしくなかった。

澄み切った純正のミネラルウォーターと下水道を流れる水を比べられて、よりにもよって、下水道の水を選ばれたのだ。

確かにヒマリはリオの実力を認めているが、この言葉はショックだった。

怒りとは別に、少しだけ涙目になっている。

 

「マイナス10ヒマリポイントですよ、先生。リオはマイナス100ヒマリポイントです」

 

「ああっ!先生とリオ会長のよくわからないポイントが減ってます!」

 

アリスは自分の選択肢の失敗で先生の好感度が減ったと思い、失点を取り戻そうとヒマリを頑張って褒めるのだった。その結果、何とか+10ヒマリポイントを獲得して、先生はプラマイゼロの収支で終わることが出来た。リオはついでに-10ヒマリポイントになり、合計でマイナス110ヒマリポイントになった。

 

 

「ということがあって、アリスが会いに行っても逃げそうなので、渋々貴方に会いに来たという訳です。それで、アリスが貴方の為に作った特製料理は美味しいですか?」

 

「……美味しい。ええ、本当に美味しいわ」

 

ヒマリはリオが食べ終わるのを待つ。

持ってくる時に卵焼きを一つ、つまみ食いしたけれど、おにぎりも一つ食べれば良かったなと思いながら。

 

「アリスにお礼を言っておいて。本当に美味しかったと」

 

「それぐらい自分で言いなさいな」

 

「…………ええ、そうね。そのうち言うわ」

 

「……はぁ」

 

相変わらず、アリスに会いたがらないリオにヒマリはため息を付く。

アリスの料理を食べる前に、リオは先生と連絡先を交換したみたいだし、伝えることは伝えてさっさとヒマリは帰ろうとする。

 

「リオ、いつだったかアリスが言っていました。自分自身を恨まなくても良いと。少しは自分を許せましたか?」

 

「……」

 

「アリスは貴方を仲間だと言っていました。貴方自身は自分がアリスの仲間だと胸を張って言えますか?」

 

「……」

 

「貴方にアリスからの言葉を贈ります」

 

『アリスはゲーム開発部や他の沢山の皆と学びました。料理とは皆で食べるのが一番美味しいです!だからリオ会長にも皆と一緒にご飯を食べてもらいたいんです』

 

「まったく、どこかの会長は幸せものですね。こんなに素晴らしい後輩を持っているのですから。まあ、本人はその幸せを理解できていないでしょうが」

 

「……っ」

 

料理の皿を見つめて、ヒマリの言葉を聞いていたリオは、ツーッと一筋の涙を流す。

表情を崩さずに泣くリオを見て驚くヒマリは、何か嫌味を言おうとして、止める。

その涙はきっと、揶揄ってはいけない気がしたのだ。

 

「……私からはそれだけです。……では」

 

「……ありがとう、ヒマリ」

 

最後の言葉は聞こえなかったフリをして、ヒマリは退出する。

ああ、だからリオと会うのは嫌なのだ、とヒマリは思う。

自分が仕出かした事に責任を感じて、押しつぶされそうで、かといって謝罪もまともに出来なくて。

一人で勝手に進めて、一人で勝手に傷つく。そんな所が嫌いだ。

 

 

そして、何よりも嫌なのは、ああ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のが、どうしようもなく嫌だった。

性格や能力といったものではなく、何か別の、根源とでも言うべき所が似通っているのだ。

だから、分かる。だから、苛つく。

自己嫌悪を他人に感じる、とでもいった矛盾じみた気持ち悪さを感じながらヒマリはふと、思う。

 

「そういえば、泣いた所は初めて見ましたね」

 

私の前で泣くなんてと。全く想像していなかったリオの行動を引き出したアリスの料理に、ヒマリは愉快な気持ちになる。

月並みな言葉かもしれないが、料理に込められた愛情というもので、リオが何かいい方向に変わった気がしたのだ。

苛ついていたヒマリは、すっかりご機嫌に車椅子を操り部室へと戻る。

 

あるいはリオが見習うべきは、このヒマリの切り替えの早さなのかもしれない。

ヒマリが忘れていった料理のお皿を、どうやって返そうかと考え込んでいるリオは、苦悩しながらも、口元には微かに笑みが浮かんでいた。

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