メシマズキヴォトスを美食研究会と一緒に救いたい先生 作:tarako
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「よし、キヴォッターへの投稿完了っと」
殆ど動かしていなかったアカウントを引っ張り出して、投稿すると、あっという間に60を超えるいいねが付いた。えぇ……フォロワー数5とかだったんだけど、なんでこんなにいいねされてるの……。
常に先生関連で検索しているであろう人たちに軽く恐怖しつつ、私はインフルエンサーとしての一歩を踏み出す。よーし、どんどん投稿していんぷれっしょんとやらを稼いで有名になっていくぞ!
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ふふふ、よしよし。
この動画は先生作の動画なので、見れば料理を作れるようになる魔法の動画だ。
人体実験もそこら辺の人で済ませたので、間違いない。
「ふんふんふん~♪いんぷれいんぷれ~♪」
ハルナ達と会話したり、勉強したり、料理を作ったりの合間合間にスマホを覗くと、数字がどんどん増えていって面白い!
動画のストックはまだまだあるが、一日に投稿する動画は一本までだ。
ハルナ曰く、「焦らしたほうが効果的ですわ」らしい。
じっくり、先生の料理チャンネルと合わせて投稿していこう。
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先生のチャンネルと連動するように、私のアカウントも動かしていくと、どちらの登録者も面白いように増えていく。数字が増えるって……おもしろ!
私はすっかりSNSの魔力に取り憑かれて…………いや、自制できてるって。
本当、本当。ただちょっとキヴォッターを開く時間が増えただけだし、平気だって。
次は、どの動画にしたらもっといいねが増えるかな。
キヴォッターに付く先生への称賛の声が、美食を褒める声が、まるで私一人に向けられたように感じて、私はスマホを眺めてニコニコしていた。
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や、やった……!1万いいね達成した!!
僅か5回の投稿で沢山の人に評価された達成感に私は酔いしれる。
先生の料理動画があってこその数字というのは理解しているが、投稿しているのは私なんだし。
……はっ!
もしかして、もしかすると、これって私への正当な評価じゃない?
……いや、正当な評価だった。このいいね……私への評価だ。私のものだ。
すっかり覚醒した私は、"数字こそが全て"という新しい、そして当たり前の概念を受け入れる。
そうなのだ、全ての人間は数字を追い求めて生きている。
学生はテストの点数を、社会人はお金の数を。子どもは友達の数を、大人は人脈の数を。
オタクは集めたレア物の数を、パリピは開催したパーティーの数を。
男は、女は。生徒は、教師は。全ては数なのだ。数。数。かず。すうじ。
だとしたら。
たった今フォロワー数30万人を突破し、万いいねされた私はかなり凄いし数字に愛されている。
なんてったって現段階でこれなのだ。
まだまだ、伸びる。数字が、増える。
それに気づいた私は、笑いを堪えることなど不可能だった。
「ふ……ふふ……ふふふ……あーっはっはっはっは!!」
ハッピーバースデイ、インフルエンサー。
私の笑い声に釣られてか誰かが美食研の部室を開ける。
開かれたドアの外には、目を点にしたアカリが居た。
……そっか。
アカリがSNSをやっていると聞いたことは無い。私達の前でもそんな素振りは見せなかった。
数字が全てという価値観に目覚めた私は、当然の思考を始める。
フォロワー数0……すなわち、アカリは雑魚である。
ふっ、と嗤いを一つ。
この数字が全てのキヴォトスでは最底辺のアカリだが、私はそんな彼女をも救おう。
そして、感動物語にしてバズろう。
私に見下されたのが伝わったのか、アカリが苛ついてるのが分かる。
ああ、安心してほしい。私はそんな態度も許そう。
器の広さは、フォロワーの多さ。私はインフルエンサーなのだから。
「ほんの数日でだいぶキてますね……ジュンコさん、一旦SNSを休みませんか?」
「休む!?冗談言わないで!毎日投稿がバズにどれだけ大事か分かってないでしょ。このバズの勢いを乗りこなせるのは私だけなの!」
「いやぁ……確かにバズったって言っていいと思いますけど、全部先生の料理動画のおかげだと思います~。それに、なんですけど。バズった回数なら美食研究会の公式アカウントの方が多いような……」
ずっと目を逸らしてたのに!
美食研究会には公式アカウント(@EATorDIEOfficial)が存在していて、それの呟きがバズった回数は二桁を超える。
ただし、このアカウント。全くまともな目で見られていない。
少し呟けば飛んでくる罵詈雑言と通報と爆破された料理店の店主からの恨みの声。
バズったといっても、爆破予告の呟きやらが伸びて、どうするというの!
それを面白がってハルナがやいのやいの運用しているだけで、正式に先生と提携した私のアカウントとは比べるまでもない。
そんな現在進行系の黒歴史と比べて、まともに料理を紹介する正当インフルエンサーの私を侮辱したのだアカリは。
はいっ、敵確定。ぶっ潰します。
「……私は真実に目覚めたの!この世は数字が全て!私のアカウントに付いたいいねは全部私のもの!フォロワー0の雑魚雑魚アカリは黙ってて!!」
「うわぁ、やっば★」
もう、私たちは言葉でわかり合うことは不可能だとお互いに理解したのか、銃に手を伸ばす。
愛銃を構えると、アカリも銃口をこちらに向けている。
……私に勝てるわけ無いのに。
「少し、お仕置きが必要みたいですね。ここだと、狭いです。外に行きましょう」
銃を下ろすと背を向けて、歩き出すアカリ。
その無防備な背中は、私が銃を撃てばそれこそ簡単に倒れるだろう。
……なんでそんなに隙だらけな姿を晒せるのだろう、フォロワー0なのに。
私は銃を下ろすと、渋々アカリについていく。
「うん、ここら辺でいいですね。ジュンコさんが泣いて喚いても周りに聞こえませんよ♥」
「言ってなさい」
余裕そうに言うアカリは、先輩風を吹かしているが、お仕置きが必要なのはそっちの方だ。
私の全能感溢れる頭脳は、打ち負かしたアカリにしばらくウチワで私を扇ぐ係に任命することを決定する。
「
「つまり、おかしくなった後輩を正すのもまた美食の道です。……ジュンコさんがおかしいままだと折角の美食を全力で味わえませんからね」
「あら、このインフルエンサージュンコ様に勝てるとでも?アカリはフォロワー数いくつなの?私は30万人超えてるけど(笑)」
アカリは苦笑すると銃を構える。私も、同じく構える。
一陣の風が私達の間を通り抜けたのが、戦いの合図になった。
────負けたって、恨まないでよね!
結論から言おう。ぼっこぼこのぼこにされて負けた。
「あーん!何で負けるのー!フォロワー数30万人超えてるのにぃぃぃ!!」
「SNSのフォロワー数が現実の戦いで影響するわけないじゃないですか……」
「びええええええん!!」
私の"数字が全て"という考えに罅が入る。
「……もう、しょうがないですね★」
そう言うとアカリはスマホを取り出し、動画を再生し始める。
あ、先生だ。…………可愛いポーズしてる。
「本当は何かの節に渡す予定だったのですが、今見せちゃいます」
ちゅっ、と投げキッスをする先生を見て、私は、元の私に。
数字が全てとは考えない、どこにでもいる"美少女"の赤司ジュンコに戻りつつあった。
ビキリビキリと"数字が全て"という考えの罅は大きくなり、次第には砕けて、跡形もなく消えた。
────私は正気に戻った!
「そうか……当たり前だけど数字が全てじゃないんだね」
「うふふ。本当は分かっていたはずですよ、先生の可愛いを追い求めているジュンコさんなら」
「うん。先生の可愛いはどっちかというとキワモノだから、数字にはならないもんね。……でも追い求めていたのは、そう。そこに愛があったから」
「
「
ありがとう、先生。あなたの可愛さで私は救われた。
きっと他の生徒は先生のこと、格好良いとか、頼りになる大人だとか言うと思う。
でも、可愛さを見出すのは私だけの特別。
そして、これが愛なんだ。料理に向けるのとは別の、心の底が暖かくなるような、体の奥底が焼けるような気持ち。もっともっと先生を辱めたい、先生が無理をしてかわいこぶる姿を見たい。
そんな思いが溢れて止まらない、愛っていいね。数字なんかより大切なものは愛だよ、愛。
インフルエンサー騒動はこうして、ほんの僅かな期間に、ほんの僅かな諍いを経て終わりを告げる。直接キヴォッターで暴れた訳でもないし、ただアカリにボコられただけだったけど。
うん。やっぱり自分の気持ちに素直になるって大事だね。
これからも可愛い先生の動画を沢山集めるから、よろしくね。
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いいねが稼げないと踏んで、わざとステーキの呟きと順番を前後させていた野菜サラダの呟きを投稿する。
私の読みどおりに、いいねの数は最近の呟きの中では低い。だけどこれでいいのだ。
前の私の精神状態だといいねが減ったことで狼狽していただろうが、今は違う。
返信欄の野菜サラダ好き好きみたいな呟きにいいねを付けて、私はキヴォッターを閉じる。
SNSに張り付く時間が減ったので、美食研究会らしく料理でも作ろう。
沢山作って、食べきれない分はアカリにでも食べてもらおうかな。喜んでもらえると嬉しいな。
────と、ここで終わってたらキリが良かったんだけど、ちょっとした後日談があった。
私の投稿のいんぷれっしょんが他に類を見ない位に良い感じだということで、キヴォッター社から承認バッジを付けてくれることになったのだ。
え?承認バッジはお金で買える?どこの平行世界の話よ。
こっちのバッジは有名人のアカウントへの成りすましを防止する、公式公認の有名人認定のような、インフルエンサーなら誰もが付けている一種のステイタスなのだ。
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「よし、投稿完了っと」
「ジュンコさーん、皆でご飯食べに行きますよ~★」
「うん、今行くー!」
アカウントを操作した時にちらりと見えたフォロワー数は35万人を突破していた。
けれど、そんな"数字"よりも大事なものがある。
アカリの声に、慌てて身だしなみを確認すると、彼女に合流する。
私は美食研究会のみんなで出かけることにすっかり心を奪われて、キヴォッターの事は頭から追いやられる。
「今日はシャーレにサプライズで押しかけて、新レシピを先生に聞き出してその場で料理しまくりますわよ!」
最初から、私が本当の私で居られる場所はあったのだ。
当たり前過ぎて気付けなかっただけで。
「さあ、皆さん。モモトークを開いて先生に『今から行くから料理をご馳走して』と打ち込んで下さい。タイミングを見計らって一斉送信しますわよ!!」
「なんか面白そ~!ハルナが考えることってやっぱ凄いよ~」
「……先生は私達に食べられる定めなのかもしれないですね。うふふ♥」
「久しぶりの先生の手料理だ!楽しみ!」
こんなにも楽しくて、美味しくて、暖かい場所。ずっと大事にしていこう。
倫理観だけは、ちょっと無いけどね。
うん?そろそろ一斉送信のタイミング?
それじゃあ、いっせーの!
「先生、今から料理をご馳走して!!」
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