メシマズキヴォトスを美食研究会と一緒に救いたい先生   作:tarako

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第七話:【急募】爆破された店の店主を上手く説得する方法

小さい時はよく、遊んでばっかいないで、勉強もきちんとしなさいと言われた。

挨拶は大事だよ、人の目を見て話そうね、歯磨きはきちんとしよう。人が傷つく事を言ってはいけませんよ。

私が子どもの頃に大人たちはそんな、当たり前で大切な事を教えてくれた。ああ、それと。

 

人の店を爆破してはいけないよ。

 

こういう事もこれからは教えていったほうがいいと思うんだ。

僅かながらも先生業をこなした私の切実な思いだ。

つまり、だ。今の私はとても困っている。

 

「私の店は不味いという理由だけで爆破され、営業再開の目処もたたずに……うぅ……」

 

私の目の前では、美食研究会に店を爆破された店主がその窮状を訴えている。

ブルドッグの獣人の彼は、その小さい体をぷるぷると震わせ、いかに店に思い入れがあるかを語る。

 

「あの店は父から引き継いだ、大事なお店だったのです。それが……それが、うおおおおおぉぉぉぉん!!」

 

どばどばと涙を流す店主。き、気まずい。

シャーレに久々に大人のお客が来たと思ったら、これだ。

キヴォトスはルール無用とはいえ、当然こういう人も出てくる。

最近の動画投稿でお金が入ってきているので、金銭での補償は出来る。

でも、思い出の店とかそういう方面の補償は不可能だ。

 

 

というより、こういうのって先生より弁護士の仕事じゃないか……?

向こう側の言い分が正しくて、こっちの美食研究会に非があるのは明白だ。

未だにブルドッグ店主からの要求は不明だが、私の手に負える範囲で収まるだろうか。

私は頭の中で弁護士、弁護士と呟く。すると、ある人物の名が浮かび上がった。

 

────弁護士といえば

 

 

 

 

 

成歩堂法律事務所

..
成歩堂法律事務所

あああピンチに強いミラクル弁護士

あああ
弁護士

成歩堂.龍一..

〒2001-1012

ホテル・バンドー向かい雑居ビル3階

 

 

 

そう、成歩堂龍一だ。

助けてナルホドくん、何か逆転の一手を私に導いてくれ!

心の中で助けを求めたその瞬間、溢れるナルホドくんの数々の言葉。

 

『…弁護側、まるっきり準備できていません』

『机を叩いているあいだに質問を考えようと思いましたが、何も浮かびませんでした』

『御剣…今月の家賃も全額支払ってくれ…』

『やれやれ。何かと言えば証拠、証拠ってうるさいな…』

 

な、ナルホドくん……!

私の妄想の中のナルホドくんは、ろくな答えを返してはくれなかった。

どうする……どう切り抜けようか。

 

「私の店の料理は爆破されて然るべき。とでもいうような不味さなのでしょうか……」

 

泣き疲れて、しょんぼりした店主がぽつりと溢す。

……どんな結果になろうと、まずは彼を励ますことから始めよう。

 

「そんなことはありません。あなたがお父上から引き継いだお店の料理が、爆破されて当然など、誰が言えるでしょうか!」

 

「ははは……そう言って頂けると、少し救われます」

 

「そうだ!もしよかったら店主さんの料理をご馳走してくれませんか?貴方の思い出の味を食べてみたくなりました」

 

「そう……そうですな。久しぶりに、作ってみましょう。シャーレの先生が美味しいと言って頂けたら、これから先お店を続けるにしろ、辞めるにしろ、大きな力になります」

 

シャーレのキッチンはもはや調理場といっていいほどに、改築されている。

彼がどんな料理を出すか分からないが、恐らく大丈夫なはずだ。

私は彼を調理場に案内する。

 

「おお、ここまで本格的とは!これなら私の店の味も出せるでしょう!」

 

「それは良かった。本当に、調理は手伝わなくても大丈夫ですか?」

 

「ええ。最後にお客さんに作る料理になるかもしれないのです。……どうか、私に作らせてください」

 

「そういうことなら、料理を楽しみに待ってますね」

 

どうにもしんみりとしてしまう。

爆破されたのが申し訳なってくる。いや、私がやった訳ではないけども。

料理だけは、せめて美味しく頂こう。これが最後かもしれないと店主が言っていたのだから。

 

~~待つことしばし~~

 

「お待たせしました、先生。こちらが私の店の名物料理『鉄板焼』です。……といっても、鉄板が無かったので今日は普通のお皿ですがな、はっはっは」

 

よく焼けた肉に、何らかのソースがかかっている。

見た目は普通、匂いも変では無い。……こんな普通の料理を出すとは、ますます惜しい。

なぜハルナ達はここの店を爆破したのだろう?

 

「とても美味しそうです。それでは、いただきますね」

 

ナイフとフォークで肉を切り分け、まずは一口。

 

 

 

まっっっっっっず!!

 

 

 

「アロナ先輩と一緒に調理を見張っていたので、毒を入れたとかは無いんですが……」

 

「純粋に物凄く不味いんでしょう。あんな顔をした先生初めて見ました!」

 

頭がガンガンと痛むほどの不味さが襲ってくる。

現実逃避なのか、あるいはあまりの不味さに気が狂ったのか、頭の中では意味不明な音楽が流れ続けている。

 

♪店主の料理不味すぎだろ!料理不味すぎだろ!不味すぎだろ!♪

 

いいや、これは体の防衛反応か。

常に何か考えていないと、意識を保てなくなるほどの不味さ。

ああ、そうだ。そうだった。ここはメシマズキヴォトス、修羅の都市。

まともな人間なんていやしないんだ!

 

「よくも……よくもこんな不味い飯を出してくれたなァ……!」

 

「ええっ!?」

 

なるほど、これは爆破されるはずだ。

見た目や匂いがまともで期待していた所に、全てのメシマズパラメーターを注ぎ込んだかのような、超不味い料理がドン!だ。

言うならば、味極振りタイプのメシマズ。

初めて出会うタイプの料理だが、許せない。怒りが収まらない。

 

「ゆ、許せない……店主ゥ!どんな調理をしたらこうなるんだ!来い!美味いメシを作れるようになるまで、絶対に帰さんぞ!!」

 

「ひ、ひえぇぇぇぇぇ……」

 

私は店主を引きずり、調理場へ連行する。

6秒待てば怒りが収まるアンガーマネージメントってあれ、多分嘘だ。

怒りに満ちた、怒りの調理場へ、怒りの歩幅で、怒りの呼吸をしながら、怒りの行進をする。

絶対に美味い料理を作らせてやるからな!!私は、怒りの決心をする。

 

~~30分後~~

 

「本当に申し訳ない……怒りで我を忘れていました…………」

 

そもそもこのメシマズ世界、不味い飯を作ってしまうのは仕方ないことだ。

……それが頭から吹っ飛ぶぐらいに不味かったのは、確かだったけど。

 

「いえいえ……こちらこそ、出来上がった料理を比べると怒る気持ちもわかります」

 

あれだけ怒って、この対応。ブルドッグ店主さん聖人かな?

 

「それに怒りながらとはいえ、指導は的確でした。……これが、今度こそ自信を持って薦めることができる私の自慢料理、『鉄板焼Ⓒシャーレ』です!」

 

なんかシャーレの著作権マーク入ってる!

料理にこのマーク入ってるのは流石に初めて見たな。

まあ、料理に著作権が適用されるかどうかはどうでもいいんだ。

まずは、新しく生まれ変わった鉄板焼の味だ。

 

具材は豚バラ、キャベツ。

味付けは味噌(アリス食品*1で大好評発売中!)にんにく、しょうがなど。

本来は鉄板にラードを溶かして、具材を炒めて、そこへにんにく味噌ダレをジュワーと入れて熱々の料理を楽しむのだが、生憎今のシャーレに鉄板は無いので、簡易版の鉄板焼だ。

といっても、味噌にんにくの肉野菜炒めが不味いわけがない。

 

「いただきます」

 

キャベツと豚肉にタレをたっぷり絡めて、頂く。

熱々の豚肉とキャベツに濃厚な味噌タレが絡まって、そこにアクセントとしてにんにくが加われば、もう美味いとしか言えない。

そこに、白米をがつがつと口の中にかきこめば、最高にご機嫌な時間だ。

先程の不味さは何だったのやら、火加減と味付けが完璧な料理を私はたっぷり堪能するのだった。

 

「美味しかったです。本当に」

 

食べ終えた私はそう言うと、どこかすっきりとした表情の店主は、私にシャーレに来た目的を改めて話す。

 

「美味しそうに食べる先生を見て、決心が付きました。やっぱり、私は料理を続けていきたい。お願いします。どうか、店を続けるために力を貸して下さい」

 

「ええ、もちろんです。店主さんの望む形になるように、最大限努力しましょう」

 

「ありがとうございます。……あり……がとう……うおおおぉぉぉぉぉん!!」

 

感極まった店主は涙を流す。

店を爆破されたと訴えていた時の涙とは違い、これからの幸を予感させる涙だった。

 

この後、彼の店は再建され、彼の店の「鉄板焼Ⓒシャーレ」はその美味しさと、なぜか入っているシャーレの著作権マークで、人気の看板メニューとなる。

それ以外にも店主の優しく誠実な人柄もあり、いつまでも店は繁盛するのだった。

 

 

 

 

 

 

ハルナがシャーレ当番の日に、私は説教をすることにする。

本当はこんなことをしたくないのだが、あのブルドッグ店主のような人を出さない為にも、しない訳にはいかないだろう。絶対にハルナを真人間に戻してみせるからな。

私は負けない!

 

「失礼いたしますわ~」

 

「こら、ハルナ!店を爆破したら……いけないんだぞ!」

 

のほほんと挨拶をしてシャーレに入ってきたハルナに、私は先制攻撃をする。

 

「ですわ?」

 

「かくかくしかじかという訳で。あの店主さんのような人を出さないためにも、私は心を鬼にして説教するぞ!」

 

説明されると、ははぁと得心したかのように人差し指を頬に当てるハルナ。

そしてニヤリと笑うと、私に質問をしてきた。

 

「……ねぇ、先生。あの店主の料理を食べた時、どう思われました?」

 

「……不味いと思ったよ。けど──」

 

「怒りましたわよね?それも、すごく」

 

「……」

 

見てきたかのように言うが、正解だ。

答えに詰まった私を見ると、ハルナの楽しげな雰囲気はますます濃くなる。

 

「食にこだわりがある、いわば同志ですもの。ある程度分かってしまいます、例えば」

 

ハルナは笑顔で、いとも簡単に、私の先生としてのアイデンティティーを揺さぶる言葉を放つ。

 

「私たちが店を爆破していくのを痛快に思っている……とか」

 

「……っ!」

 

不味い店が爆破されていくのが愉快だと思ったのは否定しない。

だが、それはいけないことで。だからこそ今、説教をしているのだ。

私は、美食研究会が爆破した不味い店を思い出す。そこには私がキヴォトス初日にショックを受けた、とてつもなく不味い店も含まれていた。

しかし、不味いから爆破するなんて、それは────

 

「先生、笑っていますわよ?」

 

ハッと口元を抑える。口角が上がっていた。

推理ゲームで追い詰められた犯人のような心持ちで、私は必死に軌道修正しようとする。

 

その様子をハルナは、無駄な抵抗をする獲物を見る猫のように、加虐心に満ちた目で見つめてきている。彼女の心を表すかのように、特徴的な片翼がパタパタと嬉しそうに羽ばたく。

その羽から送られてきたぬるい風は、私に敗北を促すかのように纏わりつく。

 

「い、いや……そ、そんなの道義的に許されない……店を爆破するのは、その……とっても……いけないんだぞ!」

 

「何を良い子ぶってるんですか、先生。ここはキヴォトス。悪魔が微笑む場所ですわ」

 

「……それは」

 

「ねぇ、認めましょうよ。先生は、悪を大して嫌悪していない。……むしろ、好きなんです」

 

「……」

 

何も言い返せなかった。

その通りだったからだ。悪、といってもベアトリーチェのような悪ではなく。

温泉開発部や、美食研究会が巻き起こす騒動だったり、アビドスの銀行強盗だったり。

そういうのは、大好きなのだ。退屈な日常が一気に彩られるような、非日常。

キヴォトスでしか味わえないような、刺激的なイベント。

だけど、私は先生だから、そういうのは注意しなければ。しなければいけないんだけど。

 

「ふふ……ふふふ……先生もご存知の通り、私たち美食研究会はやりたい放題です。ですが、どうしようもなく楽しいのです」

 

「ああ、こんなに胸踊ることはないですわ!気心の知れた仲間と共に美食という一つの目標に向かって、色々なことをする」

 

「むかつく店は爆破する!美味しい料理を食べる!……なによりも大切な仲間と笑い合う!」

 

「先生、私たちの本当の仲間になりませんこと?美食研究会の顧問になって、私たちを優先する。ただ、それだけでいいのです」

 

心地よいリズムで耳に届く声は私の脳を溶かす。

妖しく光る紅い目は、私が頷くのを今か今かと待ち構えている。

彼女の悪魔の尻尾が獲物を捉えるかのように上機嫌に揺れる。

私は……私は。

 

「私は、先生だ。美食研究会を依怙贔屓するというのは出来ないよ。生徒全員の味方だからね」

 

「あら、残念」

 

誘惑が成功するかどうかは、どちらでも良かったのだろう。

ハルナはあっさりと勧誘を諦める。全く、油断も隙もない。

 

「……先生を誘惑しないでね」

 

「誘惑のつもりはありませんわ。先生という重荷を下ろして楽しめる居場所になれたら、と思いましたの」

 

「……そっか。気遣ってくれたのかな?感謝するよ、ハルナ」

 

「どういたしまして。……うふふ」

 

いたずらが成功したかのように笑うハルナ。

何が本心かは分からなかったけど、なんか色々と負けた気がする。

説教は有耶無耶になったけど、その後は何事も無く平和に過ごす。

 

シャーレの当番が終わり、ハルナは去り際に振り返ってこう言った。

 

「美食研究会はいつでも先生の加入を歓迎しますわ」

 

では、と去っていくハルナ。

呆けたように見送る私は、今日を振り返り、こんな事を考えていた。

(ハルナ、人の心を惑わす悪魔かもしれん……)

*1
リオが起ち上げた食品会社。主に調味料の販売をしている。マスコットキャラクターのデフォルメで書かれたアリスが可愛い

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