願いの物語シリーズ【大野晄弘】   作:とーふ@毎日なんか書いてる

7 / 10
youtubeで人工音声の読み上げを投稿しております。
https://youtu.be/jxLsv2M79sQ



第7話『勝ちたいんだ。光佑の横に、立ちたい。誇りたいんだ!』

光佑との直接対決が始まり、既に九回の表が終わろうとしていた。

 

先輩たちの頑張りもあり、何とか五点を奪う事が出来たが、既に三点奪われている。

 

原因は全て光佑だ。

 

俺の全力が全て打ち破られて、遥か後方にある観客席に突き刺さった。

 

しかし、まだ後一回ある。勝負の場はまだ、あるんだ。

 

「大丈夫か? 大野」

 

「えぇ、大丈夫です」

 

「まぁ、やけに長い試合だったがな。それも後少しで終わりだ。もう立花の打席は来ない。俺たちの勝ちだ」

 

「ホント。あの立花光佑相手によくやったぜ」

 

「さ。ちゃっちゃと守って終わらせよう」

 

先輩たちの声に引きずられながら、俺はマウンドへ行き、そして相手チームへ向かって投げる。

 

しかし、今までと何も変わらない速さと強さで投げていたボールは僅かに捕まり、ボールを前に飛ばしてゆく。

 

三塁方向に転がったボールはすぐさま捕まえ、一塁へと送られたが、セーフとなってしまった。

 

マズイ。

 

このままでは不味い。

 

しかし、もう一人、もしもう一人出塁したら、光佑と勝負する事が出来る。

 

今度こそ、勝てるかもしれない。

 

俺は心の中に湧き上がった気持ちを抑え、次のバッターへと向かってゆく。

 

しかし向こうの気迫がどれだけ強かろうと、俺の体力が減っていようとも、容易くヒットが打てるような球は投げていない。

 

続く二人はアウトとなり、そして三人目。前の二人と同じような所へ転がり、これで終わりかと思われた球は、先輩のエラーにより後ろへと流れた。

 

そして、その隙をついて、一塁、二塁と出塁に成功した。

 

瞬間、湧き上がる会場。歓声と共に光佑の名前が叫ばれる。

 

心臓がドクリと大きな音を鳴らした。

 

「光佑……!」

 

もう今年は終わりかと、俺の負けかと思われた試合だったが、最後のチャンスが来た。

 

しかもこれで打たれれば、俺たちは負ける。

 

そう思うだけで闘志が湧き上がる。今までにないほどに。

 

今、きっと俺は最高の球を投げられるだろう。

 

そういう予感があった。

 

しかし、光佑がバッターボックスに立った瞬間、監督によってタイムがされ、俺は敬遠を指示された。

 

「は? 敬遠だと?」

 

「あぁ、ここで立花を出塁させた所で相手チームにもうお前の球をまともに打てる奴は居ない。俺たちの勝ちだ」

 

「でも、まだ俺は!」

 

「大野! 俺たちは勝たなきゃならん! お前には悪いが、負けられないんだ」

 

俺にそれだけ言うと、先輩たちはそれぞれのポジションへと戻って行った。

 

残されたのは、どうしようもなく、打ちのめされた俺だけだ。

 

キャッチャーは既に立ち上がり、遠く離れた場所に構えている。

 

逃げろと。

 

勝てないから挑むなと。

 

そう俺に言っていた。

 

なぁ、光佑。俺はやっぱりお前に相応しい人間にはなれなかったのか。

 

お前と一緒に居れば、こんな気持ちにはならなかったのか。

 

教えてくれ。

 

光佑。

 

俺は光佑を出塁させた後、続くバッターをアウトにして試合を終わらせた。

 

今までの、どんな試合よりも惨めな試合だった。

 

俺は、所詮、光佑の足をひっぱる事しか出来ない男だった。

 

ただ、それが分かっただけだった。

 

 

 

学校へと帰り、解散してゆく中、俺は一人グラウンドへ向かい、マウンドで立ち尽くしていた。

 

光佑と一緒ならば、負けたとしても笑っていられた。

 

それは俺が現実を知らなかったからだ。

 

本当は弱いのに。強いのだと、光佑と並びたてる人間だと、そう思い込んでいたからだ。

 

しかし、現実はこうだ。

 

俺は卑怯にも戦いから逃げ、ただ勝利というメッキを手に入れただけだ。

 

それなのに、誰も彼も勝ったと、良かったと喜んでいる。

 

あの立花光佑に勝ったのだと。誇るべきだと!

 

何処に誇る要素がある!!

 

俺たちは負けたんだ!!!

 

「くそっ!!」

 

「晄弘くん」

 

「加奈子、か」

 

「今日の試合。惜しかったね。負けて悔しいかもしれないけど。次があるよ」

 

「……加奈子?」

 

「最初の対決は、流石光佑くんって感じで、駄目だったけど。二回目は光佑くん凄く打ちにくそうだったよ」

 

「……」

 

「三回目は光佑くんの作戦勝ちかな。多分あれは投げる場所を最初から読まれてたね。そういう意味じゃ、晄弘くんももっとお勉強頑張らなきゃ。だよ」

 

「加奈子は、まだ次があるって、思うのか?」

 

「当然だよ。だって四球目。きっと晄弘くんが勝ってたもの」

 

当然の様に。当たり前の様に俺の勝利を信じてくれる加奈子に俺は、視界が滲んでいくのを感じていた。

 

気持ちが抑えられない。

 

苦しくて、辛くて、悲しくて。

 

俺は膝をつきながら泣いていた。

 

「俺は、弱くて、光佑に追いつけなくて」

 

「うん」

 

「だから、戦ったのに、勝てなくて」

 

「そうだね。光佑くんは強いね」

 

「でも、勝ちたいんだ。光佑の横に、立ちたい。誇りたいんだ!」

 

「ホント。晄弘くんは光佑くんが大好きだね。嫉妬しちゃうよ」

 

加奈子は俺の頭を抱えると、抱き寄せて、頭を撫でてくれる。

 

それが、酷く苦しくて、でも嬉しくて。

 

俺は、強く思った。

 

光佑に勝ちたいと、もう二度と負けたくないと。

 

そして、例え光佑の事が好きなのだとしても、加奈子が俺も好きだと。

 

俺が、加奈子を幸せにしてやりたいと、そう思った。

 

どうしようもなく弱くて、情けない俺だけど。

 

二人と一緒に居たいから。

 

加奈子との未来を。

 

光佑との明日を。

 

どちらも欲しい俺は、我儘かもしれない。

 

でも、それが手に入るなら、どんな障害だって、壁だって乗り越えて。誰よりも強く。

 

強くなれる。

 

そう思うんだ。

 

 

 

そして。

 

俺たちの学校は甲子園に無事出場し、二十年ぶりに優勝した。

 

そのお陰で学校中がお祭り騒ぎとなり、俺は話しかけられる事も増えていた。

 

文化祭では多くの女子に囲まれて、これが光佑が味わっていた気持ちかと感慨深くなりつつも、面倒が増えたなと感じる。

 

正直同じチームメイトですら何を話したら良いのか分からないのに、女子などもっと分からない。

 

話せる相手は加奈子くらいのものだ。

 

だから何故か待ち合わせ場所に来ないで、一人誰もいない部室に居た加奈子を見つけ出し、一緒に文化祭を回る事にした。

 

加奈子は何故か少し暗くて、落ち込んでいる様に見えたが、店を回っている内に、少しずつ明るくなって安心する。

 

しかし、加奈子が元気になったのは喜ばしい事なのだが、付きまとってくる連中はどうにかならないだろうか。

 

誰も彼も俺の事を知っていると言うが、こっちは知らないのだ。

 

そんな相手と何を話せば良いと言うのか。

 

それにそんな連中が出てくる度に、話しかける度に加奈子が何処かへ離れていこうとする。

 

人が多すぎるのだ。

 

俺は加奈子がはぐれない様に手を繋ぎ、騒がしい人込みの中を抜けて、少しでも落ち着ける場所を目指した。

 

「まったく。なんなんだ。人が多すぎる」

 

「……野球部が甲子園で優勝したんだから、エースの晄弘くんが人気なのは当然だよ」

 

「はぁ?」

 

「今まではさ。光佑くんが近くに居たから、みんな気づいてなかったけど。晄弘くんだって格好いいもんね。野性味? っていうの? 今流行ってるらしいしさ」

 

「お前、何を言ってるんだ?」

 

「っ! だから! 晄弘くんは人気者になったって事!」

 

「光佑みたいに?」

 

「いや、光佑くん程かと言われると悩ましいけど」

 

「そっか。光佑には並べなかったか」

 

こういう所なら対等になれるかと思ったが、どうやら駄目らしい。

 

そんな風に話をしていた俺は、加奈子が間の抜けた顔をしながら俺を見ている事に気づいた。

 

これは、あれだ。俺や光佑が妙な事を口走った時にする顔だぞ。

 

という事は俺が変な事を言ったのか?

 

「晄弘くんは、本当に……光佑くん大好きすぎて、もう! アハハハ」

 

「なんで笑うんだ。そんなにおかしな事を言ったか?」

 

「ううん。違うの。なんだか馬鹿らしくなっちゃって。そうだよね。晄弘くんはそういう人だ。うん」

 

「なんだ」

 

「ねぇ、晄弘くん。私とさっきのテニス部の部長さん。どっちが好き?」

 

「そのテニス部の部長ってのが分からん」

 

「ほら、髪をここでまとめてた美人さん」

 

「まとめてる奴はいっぱいいただろ。それに美人なんて言われてもな、分からん」

 

「いや、美人は分かるでしょ。ボーっと見てても思わず目で追っちゃう人だよ」

 

「それなら加奈子だな」

 

「……は? え、なに? 冗談?」

 

「何がだ。冗談? どういう事だ」

 

「だって、私なんて、ほら。全然美人じゃないよ。可愛くも無いし」

 

「そういう話は分からんが、俺が目で追うのは加奈子だけだ。気になるのも、加奈子だけだ」

 

「でも! 私って実は凄く性格悪いんだよ。すぐ自分の優位性確かめて悦に浸っちゃうタイプだし。偶然ちょっと運が良かっただけなのに、自分が特別だとか思い上がってて」

 

「悪い所がない人間なんかいない。俺だって情けない奴だ。弱い奴だ。でも加奈子も光佑も友達で居てくれる。それと同じだろう。悪い所も良い所も全部含めて加奈子だ。俺だ。光佑だ。ならそれで良いんじゃないか?」

 

加奈子は俺の言葉に、言葉を失ったようだった。

 

そして何故か涙をあふれさせながら、眼鏡をはずし、顔を手で覆う。

 

慰めてやりたいと思いつつも、何を言ったら良いのか。すれば良いのか分からず、俺は加奈子の横に座って何も言わず加奈子を抱き寄せた。

 

加奈子は拒絶せず、そのまま俺に体重を預けて泣いている。

 

何だか凄く近くに加奈子を感じて心臓が速くなっていった。

 

このまま爆発するんじゃないかと怖くなるが、一応まだ大丈夫らしい。

 

俺はそれに一安心しながら、ふと以前、頭に過った考えが実行出来ると右手を握りしめた。

 

そう。クラスの女子が話していた、女の子なら誰でも憧れてしまうというイルミネーションに加奈子を誘うのだ。

 

クリスマス。

 

恋人同士が過ごして幸せになる日だとテレビでは言っていた。

 

無論俺と加奈子は恋人同士では無いし。加奈子は光佑が好きだ。

 

誘った所で頷いてもらえるかは分からない。

 

しかし、勇気をもって一歩を踏み出さねば、何も得られないのだ。

 

行け。晄弘。勇気を、振り絞れ!!

 

「あの、な。加奈子」

 

「……」

 

「駅前で、その、有名なイルミネーションがあるの、知ってるか?」

 

加奈子は俺の問いに小さく震えた後、頷いた。

 

「それでな。もし、加奈子が良かったら、なんだが……その、一緒に見に行かないか?」

 

「……私で、良いの?」

 

「私で、ってお前が良いんだ。というか加奈子以外に知り合いの居ない俺が、誰を誘うんだ誰を」

 

「その……えと。光佑くんとか?」

 

「光佑と? それはまぁ、確かに。良いかもしれんが、それならどっちにしたって加奈子が居なきゃ話が始まらんだろ」

 

「そうなのかな」

 

「むしろそうじゃない理由があるなら聞きたいもんだが」

 

加奈子はようやく悲しい気持ちが収まったのか。先ほどよりも少し落ち着いた表情で顔を上げると、俺を真っすぐに見据える。

 

そして、ゆっくりと頷いた。

 

しかし、その表情はどこか不安に揺れていて。

 

やっぱり俺じゃ駄目なのかもしれん。という気持ちになった。

 

しかし踏み込んだのだ。ならば後は投げるだけ。

 

俺の全身全霊。全ての力を込めて、加奈子に。

 

届けるだけなのだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。