システム世界の芸術家   作:木原レイリ

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思いつきによる衝動的な犯行です。


ep.1 生まれながらの芸術家

 

 ツァウロ・モトオカは生まれながらに芸術家である。

 

 

 生まれながらにして身の内に諤々と燃える炎を飼っている。

 

 灰のような白髪から覗く鮮血のような瞳はいつだって爛々と輝いている。

 

 燃え滾る熱は常に内臓をカッと火照らせ、指先からバクバクと迸るような衝動として放たれている。

 

 寝ても覚めてもその熱は止まず、ツァウロの身を焼き続けている

 

 

 

 そんな(さが)をもち生まれたものであったから、物心ついた時から突拍子もないことばかりして、屋敷の者たちを困らせてばかりいる。

 

 

 

 最初の事件は三歳のころである。

 

 倉庫から壁画用の塗料の原色を持ち出し、屋敷の廊下にぶちまけ塗りたくった。

 

 衝動的な犯行だが、擁護するならツァウロの住む屋敷は判で押したような古風で厳格なデザインであり、ストレスからノイローゼになったのだろうと思われる。

 

 だが三歳の体では思ったような形にぶちまけられず、泣きわめいて地団駄踏んでいるところを家中の者に見つかりひどい折檻を受けた。

 

 

 

 その後も、日当たりのいい南向きのサロンにヤナギザクラを植林しようとしたり、南国の巨大な花の種を勝手に買い取り庭で育てたり、数十頭の野良犬の集団を餌付けして群れのボスになったり、勝手に抜け出してスラム街でぼこぼこにされ身ぐるみ剥がされ川に捨てられたり(命があったのが奇跡である)、衝動のままに動き回るから騒動は絶えない。

 

 そして、どれほど痛い目を見て泣きじゃくっても、翌日にはすっかり元気に珍事を引き起こすのだ。

 

 たちが悪い。

 

 

 

 さて、ツァウロの父は武功貴族であって、ツァウロの家は国で一二を争う裕福な家であったから、ツァウロは生活に困ったことはない。

 

 

 

 父ヒロキ・モトオカは黒髪の英雄である。

 

 かつて異世界から召喚された勇者である。

 

 雷よりも素早く踏み込み、空を割るような斬撃を放つ。

 

 ついには魔王を殺し、人族五つの国から公爵の位を賜った人である。

 

 

 

 そんな英雄も、親としてはクソ親父である。

 

 

 

 ヒロキはプライドの高い男である。

 

 息子には是非とも剣の道に進ませたい。

 

 我が息子なら武の才に溢れるものと信じて疑わない。

 

 息子が剣術大会少年の部で優勝し、「5つも年の離れた子供に勝ってしまうとは」「痺れましたな」「さすがモトオカ家の嫡男ですな」「閣下の教育がいいんでしょうなあ、ツァウロ殿がお羨ましい」「いやあ息子の努力の賜物でしてな、教えることがなくて困ってしまいます」などという会話が繰り広げられることを妄想している。

 

 

 

 そんな訳で、五つになったツァウロに直々に稽古をつけてやろう、と、修練場に呼び出した。

 

 

 

 書庫で歴史書を開きながらウキウキと「栄華と権勢を誇った古代都市アル、祭りの夜にトワ族に侵攻され滅亡したの舞」を踊っていたツァウロは突然呼び出され仏頂面をした。

 

 不機嫌のどん底であった。

 

 そうして何やら得意げに「剣を握る者の清廉なる心得」とやらを語る父親を胡乱な目で見上げ

 

「人を切り殺す練習なんて野蛮な真似ができるか」

 

 と言った。

 

 

 

 ぶん殴られた。

 

 

 

 気に入らないからって暴力に訴え出るとはとんでもねえ野郎である。と殴り返そうとするが五歳児が勇者に勝てる道理もない。

 

 

 

 きっちり〆られ今に見てろよと直立不動で父親を睨みつけるツァウロに、ヒロキは満足げに「よし、まずは剣術スキルを手に入れよう」と言った。

 

 

 

「剣術スキルとはなんだ」

 

「敬語を使えと言っているだろう!」

 

「とは何ですか」

 

「うむ、まずはスキルの説明からだな、ステータスと言ってみなさい」

 

 

 

 逆らう選択肢など無く、ステータス、と言うと、目の前に透明な板のようなものが現れた。

 

 

 

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 名前 ツァウロ・モトオカ 年齢 5

 

 種族 人族 50% モネ族 50%

 

 性別 オス       職業 芸術家

 

 

 

 生命 12/17 魔力 50/50 

 

 体力 D

 

 筋力 D

 

 思考力 A+

 

 記憶力 A

 

 判断力 B

 

 共感力 SS

 

 社交力 E

 

 

 

 ◇スキル

 

 共感覚Lv.5 消音Lv.1 潜伏Lv.1 統率Lv.1

 

 ◇称号

 

 奇人Lv.8 不撓不屈Lv.4 テイマーLv.4

 

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 覗き込むと父親は上機嫌で言った。

 

「お、もういくつかスキルと称号が生えてるな。それがスキルだ。大体Lv.5から10が上限で、上限に達するとより上位のスキルに変化したりもする。取得方法は判明していないものも多いが、今から俺たちが取得を目指す『剣術』は大体数時間くらい剣を振ってれば取れる比較的簡単なものだ。今からやれば夕方までには……

 

 

 

 聞いちゃいなかった。

 

 

 

 絶望した。

 

 

 

 全身から血の気が引き顔色は真っ青となり、ガタガタと震えた。

 

 目の前が真っ暗になったように感じ、強い浮遊感に足元は覚束ない。

 

 様子がおかしいことに気づいた父親は「おい、大丈夫か!?」と叫んでいたがそれどころではない。

 

 

 

 ツァウロはステータスを見るのは初めてだ。

 

 だが見た瞬間に察した。

 

 自分の命は、この目の前の透明な板に縛られているのだ。

 

 この目の前のちんけなカタログが自分の全てなのだ。

 

 

 

 猛烈な不快感に顔が歪んだ。

 

 生命への侮辱に怒りが湧き出した。

 

 情けなくって涙が出た。

 

 

 

 何よりもこんな残酷な世界のシステムに、底のない、得も言われぬ悲しみと絶望を感じた。

 

 

 

 しかし不撓不屈のツァウロである。

 

 数多の絶望を乗り越えてこその芸術家である。

 

 このままにしておけねえと深紅の目を上げると、修練場に立てかけてあったショートソードをひっつかみ、世界の全てを否定するように、怒りのままに全力でステータスにたたきつけた。

 

 

 

「ギャアアッッ」

 

 

 

 激痛にツァウロは剣を落としうずくまった。

 

 ヘソを弄繰り回したような、鼻っ柱をぶつけたような、不快で強烈な痛みが全身を駆け巡った。

 

 

 

 だが、その程度でツァウロは止まらない。

 

 困惑しながら止めようとする父の腕の中で暴れ、泣き喚きながら、何度も何度もステータスを殴りつけ、引っかき、へし折ろうとし、結局傷一つつけられないまま意識を失った。

 

 


 

◾️ステータス

 

最も有名な詠唱。実際の発音はナトゥェリアム、人族の古語で「人の置かれた立場•状態」を表す単語である。

 

◾️スキル

 

主要な活動に対して、効率的な成長を可能にする補助システム。その活動に必要な様々な能力を関連付け、バランスの良い成長を促す。目的以外の類似スキルも伸びやすくなったり、逆に干渉を起こして伸びにくくなったりする。一般にスキルを取りすぎることは推奨されない。実際の発音はゴルマ、人族の古語で「職能」を意味する単語である。

 

◾️称号

 

経験によって得られる「努力をすれば恩恵があるかも」程度の補助システム。詳細は解明されていない。

 

◾️公爵

 

爵位としては三番目、人族の身分としては五番目に偉い。世襲。王の二等親以内が一時的に与えられる王公爵(非世襲)と区別すべし。

 




Xアカウント作りました。1次創作に苦しみます。
https://x.com/SeYu_Sapiens
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