「……お前の苦行は終わりだ。起きよ。地下生活者」
その瞬間「俺」……いや、「小生」は気づいた。窓から落ちる光だけが明かりの地下の牢獄にも似た部屋。そして、自らの肉体、異形の肉体にも気づいた。ローブを纏った猫背、小さめの腕、そして何よりこの顔の複数の瞳! そこから見える異形の視界には思わず脳が混乱してしまう。そして、そこで気づいてしまった。今の自分が先ほどまで行っていた存在「地下生活者」であるという事に。そして気づいた瞬間に絶望した。何故よりによって地下生活者なのか。
もっとキヴォトスの美少女生徒とかに転生・憑依できていれば人生勝ち組だったのに、なぜこんな!!
(いや……待てよ。まだ行けるのでは? ここから大逆転モード行けるのでは? 何が不変の真理じゃ!! 何が苦行じゃ!! 俺はキヴォトスの生徒たちとイチャイチャチーレム生活をするんだ!! 何でコイツはこんな超絶能力有しているのにチーレムしないんだ!? バカじゃねーの!?)
そう! ブルーアーカイブといえば! 美少女生徒たちである!!
そんな美少女生徒たちとイチャイチャせずに、「先生」なんて絶対的主人公に戦いを挑んで、死ぬほどヘイトを買って敗北するなんてまさに愚か者の行う事。
そんな愚かな事をするよりも、美少女生徒とイチャイチャして青春を取り戻す!! 地下生活者に憑依した「俺」は瞬時にそう分析した。
延々と目の前の封印を解いた同じゲマトリア「フランシス」は説明をしている所、それに封印開放されたばかりの所を見るに、まだアビドスのメンバーへの干渉前!! 勝てる!! いや勝つには今の瞬間しかない!!
先生と敵対して全方向からヘイトを買わないうちに、全力でこの場所から逃げ出す!!
ヘイトを買っていない今の瞬間ならいくらでもやりようはある! とりあえず逃げてから考えるための自由への逃亡ッ!! そう判断した彼は、とっさに行動を開始した。
「お前がこの世界をどう認識しているかなど興味はない。しかし、いつまでもボードゲームか何かだと思っていたら、正しい勝利にはたどり着けないだろう。私が答えを教えてやろう。あの者に勝利するためには──―。」
「うるせぇえええええ!! オラァアアアア!!!」
呑気に律儀に云々と説明を行っている「フランシス」に対して、地下生活者はドロップキックを叩き込む。本来はグーで殴りつけるつもりだったのだが、この可愛いお手手(笑)では到底通用しないだろうと思った彼は、思わず全力の蹴りを叩き込んだのだ。*1
「き、貴様ァアア!? 地下生活者!! 貴様何をするつもりだ!!」
「うるせぇえええええ!! あんな先生なんてモテモテチート野郎と戦えるかぁあああ!!
小生は勝てない戦はしない主義!! わざわざあんな怪物相手に戦いを仕掛けるなんてバカのやることでござる!! このバーカ!! バーカバーカ!! 勝てない戦からはさっさと逃げるのが勝ち! よろしくアバヨッ!!」
(そう! 小生の今回のキャンペーンは!! チートハーレム物!! チーレム物でござる!! 可愛い女の子たちと沢山イチャイチャして!! チート能力で尊敬される!! こんな超絶能力を持っておいて「主人公」に負ける戦を仕掛けるのはバカのやる事!! 小生の野望は!! 誰にも止められねぇッ!! 自由への逃亡ッ!! うぉおおおおお!!)
うぉあああああ!! と心の中で叫びながら、地下生活者は全力ダッシュでこの地下牢にも似た場所……「混沌の領域」から駆け出して逃げ始めた。封印が解かれた事、フランシスが入ってこれた事から出口は必ず存在するはずである。フランシスは生きてるようではあるが、彼にとってはどうでもいい事である。必死になって走り回る地下生活者は心の中で叫びを上げる。
(後の細かいことは脱出してから考える!! 原作改変でキヴォトスが滅びる? この章ならたぶん大丈夫やろ! 「対策委員会編 3章」がなくなってもホシノ先輩の暴走がなくなるだけ! 列車砲シェマタは適当にゲヘナに情報を流せばいいだけ!! それより脱出やー!!)
そして、混沌の領域の中を脱出せんと必死になって走る地下生活者は全力で叫びを上げた。
「小生の(チートハーレム)キャンペーンに割り込むなぁあああああ!!!」
「はあ……。はあ……。」
あの地下室的空間……混沌の領域から抜け出した地下生活者は、何とかキヴォトス内部へと逃げ込む事に成功していた。
だが、走り回ったせいで足はガタガタ、体はボロボロ。まるで引きこもりの人間が全力でいきなり体を動かしたような痛みが彼には襲い掛かっていた。
しかも、今は夜だからいいものの、これが真昼の太陽を浴びれば眩しさに目を眩まされるだろう。今のうちにどこか避難する必要もあるが、何せ今の彼には隠れ家もセーフハウスも金も何もない、着の身着のままの状況のまま逃げてきたのだ。
おまけに地理すらさっぱり分からない、治安最悪なキヴォトスなのに銃すら持ってないという最悪の状況なのである。
(とにかく……『先生』とは戦わない。これが小生のチーレムキャンペーンに必須の条件だな……。先生と戦って美少女生徒たちからの猛烈なヘイトを買うのは絶対に避けたい。それより前にどこかまず隠れ家かセーフハウスを見つけないと……。銃こそないものの、小生の能力なら何とかなるはず……)
そして、そんなふらふら歩いている銃もなにも持ってない存在を放っておくほどキヴォトスの治安は甘くなかった。そんな地下生活者を見て、まるでピラニアのように銃……サブマシンガンを手にした×のマスクをしたミニスカの学生服のポニーテールの女性……「スケバン」である。
彼女は、地下生活者にサブマシンガンの銃口を向けながらゲラゲラと笑いながら恐喝を行ってくる。
「このキヴォトスで武器持ってないとか正気かよコイツ!?この変な顔したクソキモ野郎が!! オラオラ、持ち金全部アタシに渡しな!!」
「いや……小生お金とか一銭もないが……。なんなら調べてもらってもいいが……。」
その地下生活者の言葉に、はぁ!? と驚いて地下生活者の全身をまさぐるが、本当に一銭も何も持っていないことに対してはぁ~と深くため息をつく。
「んだよ外れかよ……。ああもういけいけ。どこでもいけ……って行くところもない? 住む場所もない? ……あのさぁ、アンタいい大人だろ? そんなことで生きていけるのかよ……。
ああもう、一夜だけウチにこいよ。言っておくが泊めるだけだからな。変なことしたらボコボコだぞ?」
銃も何も持っていない住処もないあまりに哀れな地下生活者の状況に、さすがにスケバンも多少は哀れに思ったらしい。スケバンも底辺の生活を送っているため、こういった底辺生活者に対して共感を覚えてしまうのだ。
まあ、引きこもりである地下生活者はフランシスの首? はへし折れても武器をもったキヴォトスの人間に対抗はできないだろう。スケバンに連れていかれていった彼女の隠れ家はボロボロの空き家だった。そこにもちろん無断で住んでいるらしい。さらに食べ物は酷い物で、期限切れしたコンビニ弁当の中でも最底辺と言ってもいい腐りかけたものだった。それを見た地下生活者は、おずおずと思わず口を挟む。
「あ……。あの……。さすがに腐りかけた物はお腹を壊すのでは……。もっとこう火を通すとか……。」
「あぁ!?何も知らないくせにでかい口するな!!いいか!アタシたちにはこれしかないんだ!!これしか食べ物がないんなら食べるしかないだろうが!!いいものがあればアタシだってそれを食ってるよ!!」
その地下生活者の言葉に、ヒートアップしてタガが外れたスケバンは、半泣きしながら自分の思いをブチまけながら拳を床に叩きつけて絶叫する。
「アタシだって……アタシだってお姫様になりたかったんだよ!!」
「お姫様になりたかった!! 綺麗な衣装を着て! 皆からちやほやされて!! 優しくされる生活が欲しかった!! こんな汚い路地を這いずり回って!! 腐りかけた食べ物を食べて!! 底辺で暮らすのを誰が望んでるっていうんだよぉおおおおお!!!」
床で丸くなりながら顔を伏せて泣きながら絶叫するスケバン。そんな彼女にかける言葉はなかった。
今の地下生活者には何もできないし、そんな人間が上から説教をする権利などない。だが、それでも彼は静かに言葉を告げた。
「貴女を救う事は誰にもできない。所詮、自分自身を助けられるのは自分だけ。他人から助けることはできないでござる。ましてや、大人になりきれないこどおじの小生ではな。」
「けどまぁ……この程度の手助け程度なら別にしてもいいでござろう。口座に『差し込んで』おいた。口座を確認しておいてみるがいい。」
その言葉に、試しに自分自身の口座を確認してみるスケバン。するとそこには、今までの金額とは比べ物にならない……。桁が数桁は違うキャッシュが入っていた。思わず目を疑った彼女は慌てて確認するが、何でも昔に買ってみた電子宝くじが大当たり、中々当選者が見つからない状態だったのが、何とか見つかって振り込まれたのがこの結果らしい。これぞ地下生活者の能力「事実を歪め、曲解し、望みの結果を引き出す」事だけを行う能力である。*2思わぬ大金を手にした彼女はそれを見て、信じられない、と小声で呟く。
「あ、あの……アンタの……いや貴方の名前は……?」
「小生は『地下生活者』。ただの……大人になりきれない子供おじさんだよ。」
ちなみに、ネームドキャラをナデポとか洗脳は行わないのでご安心ください。
Q:何で洗脳とかしないんですか?
A:小生可哀想な子にそんなことしないでござるよ!!