―――会議室(仮)。そこにはにっこりとほほ笑むアケミとガタガタ震える地下生活者の姿があった。美少女と部屋で二人きりなど大喜びのシチュエーションのはずなのに全く喜べないのは、やはりボディビルダー顔負けの筋肉で覆われている彼女が、自らの拳をボキボキと鳴らして威嚇しているからだろう。
「まあ、とりあえず『お話』をいたしましょうか? 私の可愛い妹分たちを救っていただいたのには感謝いたしますわ。ですがそれが妹分である彼女たちを騙そうとしている「悪い大人」だとするなら、私としても……ね。まずはきちんとお話して事情をお聞きして判断しますわ」
ボキボキと指を鳴らしながらアケミはゆっくりと地下生活者に迫っていく。甘い言葉や態度で子供をたぶらかして自分の手駒にしようという大人はこのキヴォトスに山ほど存在する。アケミは自分の妹分であるスケバンたちがそんな大人に騙されていないかまず確認しに来たらしい。
だが、こんな筋肉の塊のような強靭なボディビルダーを前にして平然としていられるほど地下生活者の精神は強靭ではなかった。
「ヒッ、ヒィイイイイッ!!」*1
し、小生はぁ! 小生は幸せそうな美少女たちとキャッキャウフフをしたいだけなのに! どうしてこんなぁ! ……いや待てよ。彼女も確かに美少女ではあるが……でもなぁ!? と思いながらも、地下生活者はアケミに大体の事情や自分の目的に対して白状した。
確かに地下生活者はチート能力は有してはいるが、それでも言うなれば引きこもりである事は間違いはない。そんな引きこもりが圧倒的な筋肉と暴に真正面から相対して勝てるかといえばそれは難しい、と言わざるを得ないのが正直なところである。
こういうキャラに対しては、本編で行ったように安全な所で陰ながらチート能力や思考誘導などで追い詰めるのが基本的な地下生活者の戦術だ。
いかに彼であろうと圧倒的な”暴”に対しては真正面から対抗するのは難しいのだ。そして、転生者である事以外、自分の目的や能力など大体洗いざらい吐いた地下生活者に対して*2アケミははあ、と呆れたようなため息をついた。
「はぁ……。まあ妹分たちを救っていただいたのは確かですし……。スケバンたちへの悪意などはなさそうですし……。男女のお付き合いもお互い合意の上なら別に複数人とでもプライベートなことなので文句は言えませんが……」
ゆ、許された……ッ!! 小生生きてる! 生きてるの素晴らしい!! おまけに彼女は複数人とのお付き合いも肯定的! まだ小生のハーレムへの道は閉ざされていないという事!! 勝ったなワハハ!! と喜んでいる彼に対して、アケミはじろりと鋭い視線を放って威嚇を行う。
「ですが、女性を好き放題弄んで捨てるというのなら話は別ですわ。特にウチの”妹分”たちに対してはきちんと「責任」はとっていただかないと。分かりますわね?」
アッハイ……。サーセン……。と地下生活者はアケミの圧に素直に頷いた。つまり簡単にいうと「別に複数人付き合ってもいいけど責任は取れ」という事である。特に彼女の妹分であるスケバンたちに対しては、という事らしい。確かに面倒見のいい彼女からすれば、自分の妹分であるスケバンたちが好き勝手弄ばれた後にゴミのように捨てられるのは見たくない、という事があるのだろう。
ともあれ、地下生活者が彼女の後輩たちを騙す「悪い大人」ではなかったのに安心したアケミだったが、ふと疑問に思った事を彼に投げかけてみる。それは、彼自身の過去改変能力のことである。
「そういえば、貴方の能力は「過去改変能力」と聞きましたが、例えば……死者蘇生や不幸な生徒の過去をなかった事にできますの?」
「『できるだろうけどしない』それが小生の答えでござるな。小生の能力は死人をポンと生き返らせるのではなく、「死ななかった事にする」能力なので、バタフライエフェクトで何がどうなるかは一切不明でごさる。下手すればそれがキヴォトス滅亡の要因になる可能性もあるでござるからな。」
キヴォトス滅亡とは穏やかではありませんわね、とアケミは眉を顰めるが、元プレイヤーである今の地下生活者はこの世界には明らかな「バッドエンド」がある事を知っている。
「先生」の力により、それらのバッドエンドは回避されているが、地下生活者が生徒の過去を操作したらバタフライエフェクトによりその「ハッピーエンド」が逸れて「バッドエンド」へと直行する危険性が非常に大きい。
クズノハが言っているように【死者が生き返ることはできない】はこの世界の絶対的ルールである。だが、彼の能力、過去改変能力は【死者をそもそも死ななかった事にする】というこの世界の絶対的ルールをすり抜ける反則的能力、まさに『神のごとき力』なのだ。
その気になれば、いくらでも好き勝手に過去を改変し『神もどき』としてこのキヴォトスに君臨する事もできるだろう。だが、彼の能力には大きな欠点が存在する。
それは「過去改変による影響を予測・操作できない」「完全に望む未来を創ることはできない」という事である。
簡単に言うと、地下生活者は過去を操作して未来を変化させる事はできるが、某シュタインズゲートのように、彼にはバタフライエフェクトを自在に制御する力も、未来を完全に思い通りにできる力も存在しないのだ。*3
某シュタインズゲートのようにハッピーエンドを求めて死に物狂いで世界線*4を彷徨うなどまっぴらごめんである。先生が必死にバッドエンドをハッピーエンドにしてくれたのだからそれを覆すようなバタフライエフェクトを起こす気はない、というのが地下生活者の正直なところだ。
金や財産を増やす程度ならそんなに大きなバタフライエフェクトはない(多分)だろうが、死者を「死ななかった事にする」という大きな影響を与えたらそのバタフライエフェクトが及ぼす影響が全く読めないのだ。……まあ問題はこれが知れたらどこぞのホシノが臨戦ホシノになって襲い掛かってくる可能性もあるがバレなきゃセーフ! バレなきゃセーフや! と彼は心の中で叫んだ。
(もちろん彼の能力を知ってるのはアケミだけだし、きちんと口止めも頼んである。)
(多分洗脳能力も合わせれば先生回りのネームド生徒たちも「全部……地下生活者様のお陰じゃないですか!」とリアル月島さんもできる可能性もあるが*5……小生が開放されたのはつい最近だから多大な矛盾でネームド生徒がどうなるか分からないし、バタフライエフェクトもどうなるか全く予想ができない。そんな事してもバッドエンドルート直行で小生に全く旨味がない。そんな「先生」と戦うなんて馬鹿な事をするより! 小生は美少女たちとキャッキャウフフをするほうが目的なんじゃい! これは誰にも邪魔させへんでぇえええッ!!)
そんな頭を抱えながら心の中で咆哮している地下生活者の情けない姿を見ながら、アケミは呆れたように深いため息をついた。
トリニティとDUのほぼ境界線のとある地点。ここは「ヘルメット団」「スケバン」「アリウス生徒」の三勢力が話し合って『永久盟約』によって作り上げた『絶対中立地帯』『聖域(アジール)』である。この内部では争わない事、物資を勝手に私有しない事、傷ついた生徒は保護される事、また外敵戦力が襲い掛かってきた場合は三勢力……通称『盟約者団』が協力して敵を撃退するような契約になっている。
通常はそんな事を言っても守られない事も多いが、三者三様の意見はあれど、この場所だけは絶対に守護するという事は一致している。
……なお地下生活者はそんな事は全く聞いていないので、「何それ……知らん……こわ……」という状態になる。
「うう……ようやく戦車の修理パーツが格安で手に入る……あの女にフッ飛ばされて以来まともに戦車が動かせなかった私たちの気持ちがわかるか!?」
そして、そこに持ち込まれているのはヘルメット団が所有している『クルセイダー重戦車』*6である。その戦車はかつてアケミによって一回転させられ、内部機構が色々破損してしまったのだが、地下生活者が仕入れたクルセイダー戦車の予備パーツで修理を行いようやく動くようになったところだ。
当然、あんなに軽々とひっくり返されればあちこち故障するのは当たり前である。
その修理用パーツを手に入れるのにこのヘルメット団は四苦八苦していたが、地下生活者からの格安でのパーツ供給により漸く重戦車を動かす事に成功したのだ。
重戦車……クルセイダー戦車は元はイギリスで作成されたもので、イギリスモチーフであるトリニティからパーツが放出されているため、トリニティに近いこの地域では金さえ払えば入手しやすい。
「おい、予備パーツや弾薬を格安で供給する代わりにここの防衛に協力するっていう約束は守れよ。実際ほとんど無料で食料供給を受けれるなんて死ぬほど好待遇なんだからな」
クルセイダー重戦車は砂漠での運用においてではあるが故障率がかなり高く「連続36時間重大な故障が発生せず稼働すればそれは奇跡」と言われている。
そのため、修理用の予備パーツは戦車所有のヘルメット団にとって悩みの種だった。そんな中に格安での予備パーツ&燃料&弾薬の供給を行う所(しかもきちんとした質を保った)があれば、大喜びでそこに飛びつくのは当然といえるだろう。
「何で戦車壊したクソ女に頭を下げなきゃならんのかとは思うが格安の予備パーツと食料供給には勝てねぇんだ!! クソッ!!」
しかも、これだけではなく他の戦車所有のヘルメット団にもこの情報を流すように指示は出してある。これによってクルセイダー重戦車の修理パーツ&砲弾&燃料供給源になる事で彼女たちの首根っこを押さえようというのだ。これによってこの地域の防衛力を高める事に合わせて、ヘルメット団たちの美少女たちに食料供給を行おうとするお互いウィンウィンの関係を作り出そうというのだ。
「どうでもいいけど、「ここにいる間はヘルメット着用禁止」ってのは何でなんだろ? アタシたちヘルメット団なんだけど……。脱ぐのめっちゃ恥ずかしいから普通にヘルメットつけさせてほしいんだけど……。」
「何でもアタシたちの顔を見たいからだとか何とか。食糧供給受けておいてなんだけど正直ちょっとキモ……い、いえ! 何でもありません!! サーセン!!」
ヘルメットを外しているヘルメット団が地下生活者の軽い悪口を口にしようとした瞬間、アリウス生徒たちは一糸乱れぬ行動で迷わずに一斉にその少女に迷わず銃口を向けた。
何よりぞっとするのは彼女たちの『目』である。ぞっとするようなその辺の虫けらを見るような空洞のような瞳。何のためらいもなくヘイローを破壊して死体を淡々と処分するであろう”凄み”がそこからは感じられた。ちょっとした地下生活者の悪口や陰口を言っただけで何の迷いもなくヘイローを破壊する行動を行うほど、アリウス生徒たちの狂信は極まっていると言って良かった。そんな中、外の監視を行っていたヘルメット団がとある一団を発見する。
「ん? あいつらは……?」
「お、おい! アリウスの奴らに知らせろ! トリニティの奴らがこちらに来てるぞ!!」
彼女たちの発言は正しかった。外を歩き回っているのは、特徴的な制服である『正義実現委員会』の生徒たちだった。だが実際のところは、少なくとも正義実現委員会はこの場に侵攻をかけようという気は欠片もない。彼女たちはミカたちが暴走しないようにするためにお目付け役である。
そして、そのミカたちもアリウス生徒を心配して彼女たちを助けるためにやってきている。
だが、彼女たちは忘れていたのだ。自分たちが当のアリウス生徒たちからどんな目で見られていたのかを。それを聞いたアリウス生徒たちの反応は、まさに苛烈の一言だった。
「武器弾薬補充完了!! そして……総員着剣!! 銃剣突撃して奴らの浸透を阻止する!! 一歩も通すな!!」
「体にC4を巻き付けろ!! いざとなったら自爆して奴らの侵攻を阻止しろ!! 死を恐れるな!! 誇りを失う事を恐れろ!!」*7
彼女たちは全身のあらゆる所に予備弾薬を詰め込み、自らのアリウス製アサルトライフル……SIG M400 ENHANCEDに銃剣を装備し*8、体に自爆用のC4爆薬を体に巻いていく。
絶対に何があろうと一歩もこの地に足を踏み込ませないという決意そのものである。
彼女たち的には、トリニティたちの連合軍によって自分たちの居場所であるアリウス分校を乗っ取られた事は多大な精神的トラウマなのだ。(善悪はともかく)
そして、地下生活者の力によってようやく作り上げられようとした自分たちの居場所に再度踏み込んできたトリニティの軍に対して、二度と自分たちの居場所を取られないという苛烈な反応をするのは自然な事だった。ベアトリーチェ支配下の絶対服従では持つことができなかった、自分の失いたくない大事な場所を守れるという大義名分の元戦えるアリウス生徒の一人は思わず嬉し涙で頬を濡らしていた。
「ようやく……。ようやく死ねるんですね……。大事なものを守るために誇り高く死ねる……。こんな……こんな幸せが私たちにあるなんて……」
「ああそうだ!! 誇りを持って死のう!! トリニティに飼われる無様な生より誇り高く死のう!! 救世主様を守って誇り高く死のう!! ようやく我らの本懐が果たされるのだ!! 我らの誇りを! トリニティのクソどもに見せつけるのだ!!」*9
死のう! 死のう!! 死のう!! 誇り高く死のう!! アリウス残党は声も枯れよと言わんばかりに絶叫する。我らに死を! 奴らに死を!! 万物全てに死を!! 全てはただ空しいものである!! 全てに死を与えよ!! そのあまりに異常な狂った雰囲気に歴戦の正義実現委員会たちですら怯むほどである。
そんな絶叫と共に高らかに歌われるアリウス分校の校歌、そして、いつものアリウスの聖句を高らかに歌い上げる彼女たちの姿はまさに異常であり、狂信者の軍勢そのものであった。
「vanitas vanitatum, et omnia vanitas!! 死のう!! 死のう!! 誇りを持って死のう!! 全ては虚しいものである!! 我らが誇りを思い知れ!!」
アリウス生徒たちは古いアリウス校歌を熱唱しながら一列に並んで進撃を開始する。
そのあまりに狂った光を目に宿したアリウス生徒たちに、歴戦の正義実現委員会も恐慌状態に陥る。
いわば死兵となった彼女に恐れる物はない。彼女たちは喜んで体に巻き付けたC4で相手もろとも爆発する覚悟すらあるのだ。そのギラギラとした瞳はまさに「死兵」そのものである。
「ミカ様を! ミカ様を探せー!! ミカ様がさらにやらかして精神的に追い詰められたらどうなるか分からないぞ!! 暴走する前に探し出すんだ!!」
正義実現委員会がここにいるのは、アリウス派を探し出すというよりも、こっそりと離れてしまったミカを必死で探そうとしているのが実情である。
エデン条約で色々とやらかしてしまい、今のミカは一部生徒たちから「魔女」と忌み嫌われる存在となってしまっている。贖罪のために色々と頑張っているがこれ以上何かをやらかして精神的に追い詰めてしまったら暴走する可能性を秘めている。
正義実現委員会はそんなミカのお目付け兼保護を行うために必死になっているのだ。そして、そんな彼女たちを見て、自分たちの領域を侵略しようとしていると解釈したアリウス生徒たちが暴走して攻撃するのは必然といえるものだった。
「これより銃剣による機動打撃を敢行する!! 刺し違えてでもこれ以上の進撃を阻止しろ!! 第一小隊突撃ィイイ!!」
味方の射撃の援護を受けながら、銃剣を装備したアリウス製アサルトライフルを撃ちながら突撃してくる彼女たち。キヴォトス生徒たちは極めて頑丈であるため、銃弾を受けても「痛い」程度で済んでしまい、強力な神秘を宿している生徒なら銃弾を受けても全くダメージを受けないということすらある。
そんな生徒たちに確実にダメージを与える手段は何か?そこでアリウス生徒たちが出した答えが「銃剣突撃」と「自爆」である。
「うわぁああ!! な、何だこいつら!! 頭がおかしい!! おかしいよ!!」
「く、狂ってる……。あいつら狂ってる!! 狂信者だよあいつら!!」
爛々とした狂気を宿した瞳で平気で銃剣突撃を決行し、最悪の場合体に巻き付けたC4爆薬で自分自身諸共正義実現委員会と自爆する覚悟満々のアリウス生徒たち。
元々彼女たちと戦う気など全くない所に狂信者たちが横殴りしてきた状態で、士気を保てるほど正義実現委員会は精神的な超人揃いではなかった。予想外の死兵たちから横殴りされた彼女たちは大混乱に陥っていた。そして、それを誰より正確に判断していたのは、やはりツルギであった。
「……ハスミ。ここは引け。あんな死兵たちと戦ってられん。撤退だ。」
ここであんな死兵たちと戦って自分たちの部下を損耗させるわけにはいかない。死兵を討つには相手を徹底的に消耗させてそこを確実に磨り潰すのが一番だが、今の彼女たちの目的はアリウス生徒を殲滅することではない。
撤退の指示を受けた正義実現委員会はのメンバーたちは、うわぁああああ!! と恐慌状態に陥りながら一斉に撤退を開始した。
「あ、姐様!! トリニティだ! 正実の奴らがここに殴り込みを仕掛けてきやがった!!」*10
「……いえ、恐らくあれは囮でしょう。囮で苛烈な性格のアリウス生徒を引き付け、その間に本命の戦力を中枢部に叩き込んで制圧する。トリニティならそれぐらいはやってきますわ。となると……」*11
いきなり愛銃のブローニングM2重機関銃「エリザベス」を構えると建物の壁に対してその銃弾を次々と叩き込んでいく。重機関銃は元々手持ち兵器ではなく陣地に固定するなり車などに搭載して使用する兵器である。その50口径の銃弾はそこらへんのキヴォトス生徒のアサルトライフルの攻撃力とは比べ物にならない。例えヘイローに守られた生徒たちといえど、一撃で重症になりかねない威力を秘めているのだ。
だが、それと同時に「向こう側」から壁が猛烈な勢いで破壊されて轟音と共に破片が周囲に飛び散る。アケミの攻撃を物ともせずに平然と立っている小柄でピンク髪のロングヘアーをしたまさにお嬢様といわんばかりに可愛らしい独特のヘイローを持った少女。「聖園ミカ」はアケミを見ながら不敵に微笑み、アケミも彼女を見ながら不敵に微笑みながら言葉を放った。
「ノックをするべきかな? だったじゃんね☆ ……まさかこんなところで会えるとは思わなかったよ。トリニティの退学生*12、栗浜アケミ。」
「結構ですわよ。私と貴女の仲ですから。……そしてぶつけてくるとなれば、トリニティ最強の決戦兵器である”彼女”なのは当然ですわね。ティーパーティーが一人、パテル派代表、聖園ミカ。ああ、もうパテル派からは見放されていましたっけ? それでもまだパテル派の代表とはよほど人材がいないのでしょうか?」
壁をブチ抜いて平然と歩いてくる少女の名前を聞いて、スケバンたちもヘルメット団たちも一斉にざわめきだす。いかに贖罪中とはいえそれでも彼女たちにとって殿上人……それ以上に「決戦兵器」と揶揄されるほどの凄まじい強さを誇る彼女が目の前にいるという事実に彼女は動揺したのだ。
「ト、トリニティのティーパーティーの一人『聖園ミカ』!? アイツもうティーパーティーじゃない*13というか贖罪中のはずだろ!? 何でこんな所に来てるんだよ!!」
そんなヘルメット団の悲鳴のような言葉に対して、ミカがニコリを微笑む。
「私的にはアリウス生徒たちを「説得」して「保護」しに来たんだけどね。ただでさえ(私やナギちゃんが)やらかしてティーパーティーの権威が落ちている現状で「保護」しているアリウス生徒たちが「脱走」したら、さらにトリニティの面目丸つぶれじゃんね☆と考える人たちがいるからね。アリウス生徒をたぶらかした悪い「大人」がいるのならきちんとお仕置きしないと、と思って様子見に来たんだ。」*14
「……ほう、トリニティの面目? 私がいた頃より落ちに落ちまくってる権威がさらに落ちるとはびっくりしましたわね。それにノックをするのならきちんと入り口でするものでしてよ? 壁をノックして壊すとは流石お嬢様ゴリラでしてね。」
だが、スケバンやヘルメット団を他所に、ミカとアケミは不敵な笑みを浮かべながら睨みあう。アケミの挑発に思わずカチン、と来たミカはアケミの筋肉に覆われた体を見て彼女をせせら笑った。元々何の鍛錬も積まずに極めて強いフィジカルを持つミカにとっては、アケミの鍛えた筋肉は「鍛えるのは女々しい」「鍛えるのは弱いから」以外の何物でもなかった。
「あはは☆ 昔見た時よりさらに醜い筋肉ダルマになってるじゃんね。そんな筋肉達磨にならなければ強くなれないなんて、愚かで惨めだね。虎は元々強いんだよ。虎が鍛えるトレーニングなんてするはずないじゃんね☆ 弱者がいくら鍛えても強者に敵うわけがないんだよ☆」
「あらあら、愚かで哀れなのはどちらなのでしょうかねぇ。以前の貴女なら私など到底対等に話しかける存在ではなかったのに。わざわざ自分から降りてきて退学生と対等に向き合うなんて、随分と落ちぶれたものですわね。わざわざ自分から最底辺に降りてくるなんて頭が下がりますわね。」
その言葉に、ミカの瞳から光が消えてすっと細まる。自分でやった結果で魔女と呼ばれ一般生徒の一部から忌み嫌われるようになったとしても、やはりそれを揶揄されれば怒りを覚えるのは当然である。ミカは怒りを覆い隠しながら静かに言葉を放つ。
「……中々口だけは回るじゃんね☆ それ以上言うと流石の私でも切れるよ?」
「腹を立てると何をなさるんですの? ウサギとワルツでも踊るのかしら? 私はそういう可愛いのは好きですわよ。」
そのアケミの挑発に、すっ、とミカの表情が完全に消える。怒りを通り越した感情。コイツはもう葬るから言葉なんかいらない。ただ叩き潰すだけの存在でしかない、と判断したからだ。
「そう、貴方達のために……祈るね。」
「今日は日曜日ですわよ。神様だってまだお眠りですわ。もしくは休暇でも取ってラスベガスでも行かれているのではなくて?」
そう言葉を放つと、アケミは自らの深紅の特攻服の上着を投げ捨ててるとサイドチェストのポーズを取った瞬間、彼女の全身の筋肉が盛り上がり同時に禍々しい”気””オーラ”としか言えないものが彼女の周囲から衝撃波のように放たれ全てを薙ぎ払う。
そして、その美事すぎる筋肉とサイドチェストを見て、衝撃波に吹き飛ばされそうになるのを何とか耐えながらスケバンたちは一斉に感嘆の声を上げる。
「ヒューッ!! さすが姐様!! 見ろよあの”筋肉”を!! ティーパーティーみたいな”軟弱女”が勝てるわけがねぇ!!」
「まさかよ。でも相手はティーパーティー最強と名高い「聖園ミカ」だ。油断は禁物だぜ。」
そのスケバンたちの言葉を合図にしたように、アケミとミカはお互い疾駆して真正面からぶつかり合っていった。
アケミにコブラやブラック・ラグーンのセリフ言わせるの楽しすぎだろ!となってしまいます。
やたらめったら似合う。まあ元が同じアウトローだからねぇ。
サクラコ「神を侮辱なされるおつもりですか!?」
アケミ「神ですか……。罪を最初に考えられたつまらないお方ですわ。」
サクラコ「くっ……。(例の顔)」
ちなみここで一番不幸なのはミカを探していたら狂信者たちにどつかれた正義実現委員会だったりします。
今回の話はフィクションであり(以下略)