───混沌の領域。そこには冒頭で地下生活者がさっさと逃げ出した領域であったが、そこに潜んでいる存在がいた。それは逃げ出したはずの『地下生活者』だった。
だが、この『地下生活者』はどことなく呑気な雰囲気を漂わせている中身が異なる『地下生活者』ではなく、原作そのままの存在だった。混沌の領域から外界をせせら笑っている彼に対して、どこからともかく『声』が聞こえてくる。それは聞き覚えのある声であった。
『聞こえるか……。聞こえるか……。『別世界の地下生活者』よ……』
混沌の領域から聞こえてきた「フランシス」の言葉にその地下生活者は思わず眉を顰める。それは彼が「首をへし折って始末した」はずのフランシスだったからだ。
その声に疑問を持ちながら、『別世界の地下生活者』はフランシスの声に言葉を返す。
「む? 貴様は……? おかしいな、以前小生が首根っこへし折ったはずでござるが……化けて出たでござるか?」
『否である。貴様の世界での私は死亡したようだが、この私はこうして存在している。つまり、『別世界のフランシス』ということだ。情報を収集した結果、貴様の世界ではまさに貴様が勝利した世界とのことだが……』
そのフランシスの言葉に地下生活者は思わず高笑いを放つ。愉快愉快!! と言わんばかりに笑い転がる彼はまさに狂気に満ち溢れていた。
「くははははは!! まさに!! まさにこの世界では小生が完全に勝利を納めた!! 先生を打倒し! は死亡し! この世界は混沌と破滅へと雪崩こんでいる!! 愉快愉快!! 全ては!! 全ては小生の思い通りィイイ!!」
そう、この『別世界の地下生活者』はいわば「完全勝利を収めた地下生活者」である。先生も敗北させ、ホシノ・テラーを生み出し、ヒナの命を奪い取ったこの世界は、あらゆる所で争いが起こり完全な滅びへと向かっていってしまっている。もしかしたらこの先生がプレナパテスに生まれ変わるかもしれないが、そんな事は彼にとってはどうでもいい事だ。自分自身が完全勝利を収めた以上、後はこの絶対防衛領域である混沌の領域にいれば世界が滅亡しても問題はない。(少なくとも彼はそう思っている)
しかしともあれ、別世界のフランシスの言葉を聞いて、彼は眉を顰める。
「ふむ……。気に入らないな……。恐らくは「別の存在」がそちらの世界の小生に入り込んでいるのか……。よかろう。『小生の能力』を貴様に貸し与えよう。そして貴様にとっては『未来の知識』と『どうやって小生が勝利したか』も伝える事にしよう。ヒントはな、「小生の能力」と「小鳥遊ホシノ」だ。彼女に「死者を蘇らせる能力者がいる」とでも吹き込めばいい。そうすればシェマタなどを頼らずとも彼女を暴走することができるだろう」
その「別世界の地下生活者」の言葉に対して、フランシスは頷いた。だが、フランシスにはとある疑問が浮かんでいた。
『しかし……。妙だとは思わぬか?今まで並行世界での会話や交信など我らゲマトリアでも行えなかったはず。それがいきなりこんなにスムーズに行えるなど……。まるで『何者か』の意図があるような……。』
誰もが気づかなかったが、そう言葉を放つフランシスの後ろで、全く見たことのない青髪に白い連邦生徒会の制服を着た女性がにたり、と不気味に微笑んでいるような気がした。
「酷い……! 酷すぎる……! こんなのってあるかよ……!」
トリニティ学園を退け、自分たちの住んでいる元廃墟ビルを修繕している地下生活者たち。
そんな中、ヘルメット団の生徒たちと話していた地下生活者は、おーんおんおんおん、おーんおんおんおんと涙を流しながらガン泣きした。それを見ながらヘルメット団の生徒たちは思わずドン引きしていたが、それに構っているほど彼には精神的余裕はなかった。
それはヘルメット団の一言「出来立てのたこ焼きってこんなに熱かったのか」という一言である。
地下生活者が何となく食べたくなった冷凍たこ焼きをチンして食べようとしていたら、じーっと見つめてきたヘルメット団の子たちに分けてあげたらこのセリフである。
「暖かいたこ焼きを食べたことがないとかそんなのってあるかよ……!! 悪徳企業が生徒を踏みにじってドロップアウトした生徒たちはまともに物を食べられないとか、この世界狂ってるよ……!!」
地下生活者は激怒した。必ずやかの美少女たちにお腹一杯ご飯を食べさせてやらなければならぬと誓った。
地下生活者には政治も何もかも全てが分からぬ。だが餓えた美少女たちを見過ごすことなどできるはずもなかった。こんなんじゃイチャラブハーレムどころではない。まずは彼女たちの衣食住を何とかしてあげないと。
「やっぱりこのままじゃダメだ……!! 食を!! 美少女たちに暖かい食事を食べさせないと……!! 携帯食料とか保存食ばかりじゃダメだ!!」
確かに今までは暖かい食事を作る余裕すらなく大量の携帯食料で賄ってきたが、ヘルメット団のこんなセリフを聞かされたら暖かい食事をお腹一杯食べてもらいたいと思うのは当然である。
根本的な所で食事の提供が行えるようにならなくてはならない。否、衣食住全てを賄うようにして幸せに暮らしてもらわなければならない。
(小生が……小生がこの子たちを救う!! 美少女は幸せにならなきゃダメなんだ!! 餓えてる美少女とか小生が認めねぇええ!!)
しかし、大規模な料理施設や食堂、専門の料理人を雇えるほどの金はない。いや、過去改変すればいくらでも金は舞い込んでくるが、過去改変がバタフライエフェクトでどんな影響を及ぼすかは地下生活者ですら読み切れない。
大量の金を過去改変で稼ぐのは最後の手段。まずはできることを行わなければならない。となると手持ちの人材でどうにかするしかないが……。
「あの……ウチラまともな調理とかしたことがないんですけど……?」
「右に同じく」
うああああああ! と地下生活者は心の中で叫んだ。日本の教育の家庭科の授業って偉大だったんだなぁ……と彼が思っている中、七囚人であるアケミは手を挙げて発言する。
「まあ、一応は料理は習っておりましたから……」
流石元とはいえ、トリニティ学園で習った生徒である。家庭科の授業があるらしく料理についてはある程度行えるらしい。確かに彼女は頼りになる存在ではあるが、それでも落第生である彼女は「それなり」程度にしか料理を習っていないらしい。
(やるしかねぇだろ……。小生が!! 料理をよぉおおお!! カレーぐらいしか作れないけど!!)
とりあえず大量の食糧の買い出し、刃物の扱いに慣れているアリウス生徒たちにじゃがいもやニンジンの皮むき、材料を切ってもらってそれを業務用の大鍋にかけて、大量のカレーを作っていく。
さらに大量のコメを買い込んで業務用の炊飯器で同時に大量のご飯を作成していく。
いわゆる漢飯に近い料理ではあるが、それでもアリウス・スケバン・ヘルメット団皆揃ってまるで欠食児童(実際そうなのだが)のように目を輝かせながらそのカレーの完成を待ち望んでいるのだ。
ほかほかと湯気を上げる白いご飯に湯気を上げるカレー。それを見て、もう待ちきれねぇ!! と言わんばかりに差し出されたヘルメット団のみんなは無我夢中でかっくらっていく。
戦車が何回も壊されたというのもあるし、食事内容があまりに不憫だったのでまずはヘルメット団の皆から食事を食べさせようと地下生活者は考えたのである。
「あったけぇ……。あったけぇよぉ……」
「暖かい食事がこんなに美味いものだったとは……。暖かい銀シャリ食えるだけでここに属した甲斐があったよぉ……」
まあ色々あったヘルメット団たちを癒すために漢飯ですまんやでしながら作ったカレーではあるが、その評価は地下生活者がドン引きするほど凄まじい物だった。
えぐえぐとガン泣きしながらカレーを食べ続けるその姿はまさに異常……というか欠食児童さながらである。
そして、それを見て黙っていられるスケバンたちではなかった。スケバンどころか鋼鉄の忠誠心を誇るアリウス生徒の一部ですらスケバンたちに同調している勢いである。
「ずるい! ずるいぞ!! 何でてめぇらだけ暖かいメシ食ってるんだ!! 貢献度ならアタシらの方が上だろ!!」
「うるせぇええええ!! このメシは絶対に渡さねぇぞ!! 横取りするなぁああ!!」
「お前らー!! 食堂で暴れるなぁあああ!! というか私たちにも食べさせろ!! 何で私たちが食えないんだいい加減にしろ!!」
「やめろぉ! お前ら静まれ!! 誇り高いアリウス生徒が恥ずかしくないのか!! 落ち着けぇ!!」
食堂でわーぎゃー! と大騒動を始めそうになった欠食児童たちの群れを見ながら、エプロンをつけた地下生活者は必死になって皆を止めに入る。そして、餓えた児童たちを止めたのは、彼のこの一言だった。
「分かったから!! 皆の分も作るから落ち着けぇ!! 落ち着けぇえええ!! お前ら暴れた奴らは食事抜きにするぞ!!」
その言葉を聞いた瞬間、皆ぴたり、と止まって渋々と居場所へと戻っていく。カレーを必死でかきこむヘルメット団とそれをぐるるる! と敵意に満ちた瞳で睨みつけるスケバンたちとアリウス生徒。
そんな彼女たちを落ち着かせて宥めるために、地下生活者は必死になってさらにカレーとご飯の大量生産体制に入っていった。
「つ……疲れた……。これの数百倍の仕事を実質一人でやってるらしいゲヘナの給食班は何なの……」
その後、アリウス・スケバン・ヘルメット団の欠食児童の群れが満足するまで料理を作りに作りまくった地下生活者は疲労困憊で床に倒れ伏してぐったりしていた。毎日毎日この欠食児童の群れ用のご飯を作り続けるなど流石の彼の真っ平ご免である。
(満足してる美少女たちは見れてこっちも満足なんだけどさぁ!! 純粋に肉体的に大変なんだよ!! 毎日は勘弁してほしいなぁ!!)
こんなことを毎日繰り返す訳にはいかないので、まずは皆に簡単な食事の作り方を教えて順番制で食事を作っていくシステムを教える予定である。ここはやはり家庭科の授業を受けており、面倒見のいいアケミに頼るべきだろう。本当は専門の調理人が欲しいところではあるが、悲しい事ではあるがそういった人物についてのアテがない、という悲しい状況である。
「まあ別にわたくしはいいのですが……衣食住の衣と住についても考えるべきでは? 住環境は仕方ないとしても、着替えの服やシャワー、お風呂など用意したほうがいいのでは?」
そのアケミの言葉にうーん、そうだよなぁ……と地下生活者も腕を組んで考える。替えの下着とか服とかも必要だとは思うのだが、男性である彼にはその辺は分からないため、金だけ出して他の人に全て任せる予定である。
ここで彼の趣味全開の下着なんて用意した日には折角積み上げた信頼度がガタ落ちなのは明らかである。
(個人的な趣味としては、スケスケとか色っぽい浪漫溢れる下着とか! したいけど!! そんな事したら絶対に「キモい」の一言で一刀両断!! ふふふ、小生その言葉でメンタルズタボロでありますなぁ!! 下手に口出しするより金だけ出して全部向こうにお任せが安牌!! 厳しいでござるなぁ! チーレムの道はよ……!!)
小生はまだ上り始めたばかりだからな……! このチーレムの道をよ……!! と心の中で呟きながら彼はまた別のことを考える。それはシャワー、お風呂関係のことである。何でもヘルメット団などでは暖かいお湯に体を浸すこともできず水で体を洗っていたりしているところもあるらしい。
彼の能力でこの辺に「温泉が存在する事にする」して温泉開発部にでも掘って温泉を引いた方がいいのかな……? とも思ったが、そんな事をすれば絶対温泉開発部に目をつけられるしやらない方がいいな……というのが結論である。
(シャワーや小さい風呂などでは体を綺麗にするのは大変だ……となると、これからもっと人数を増えることも考えると、やはりそれなりに大きな公衆浴場を作る必要がある。となるとやっぱり金かぁ……)
そこで地下生活者はやれやれ、と思わず天を見上げた。下着や服を購入するのも、食料を買うのも、公衆浴場を作るのも何もかも金、金、金である。自分自身の能力を使って「投資していた」「宝くじを買っていた」と金を半ば無理矢理増やすことは可能だ。
(出来なくもないが……できれば最後の手段にしたいな……。となればやはり手持ちで金を稼ぐために行動するしかない。アリウス生徒たちやヘルメット団たちを戦力として傭兵や防衛戦力として活用して金を稼ぐしかないか……)
どこぞの生徒会長「オリチャー発動!!物語をできる限り本編に押し戻します!!」