個性『魔法少女』   作:Assassss

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これはもうクロスオーバーをするしかない! (理路整然とした思考・結論)

というわけで、この世界線はどういうエンドを迎えたかという紹介みたいな話です。


前日譚(ヒロアカ要素なし)
ビター・エンド


私達の絶望の象徴がそこに顕現していた。青と白を基調とした服を着て、スカートの中から巨大な歯車が生え、常にさかさまで浮遊し私達をあざ笑っている「ワルプルギスの夜」。周囲には、奴を君主とした国家の護衛とでもいうかのように大量の使い魔が出現し、さらにまるで飾りのように高層ビルの巨大な残骸が浮遊している。そのスケールからだけでもわかる、どう考えても相手にするべきではない敵。

だけど、それに抗う少女たちがここにいる。

 

「ここからの段取りはいいかしら?みんな。くれぐれも自分の命を大事にしてちょうだい。……そして、討伐後のお茶会には絶対みんな参加するのよ!」

 

巴マミが、ソウルジェムを輝かせ私たちに向き合った。仲間を得た世界の彼女は、魔法少女の先輩として心から嬉しそうに振る舞っている。

 

「ひえー、使い魔だけでもめちゃくちゃ強かったよねー。まあでも私達で協力したら何とかなったし!あの一番デカい魔女もぶっ倒しちゃうよ!」

 

美樹さやかは、生来の明るさを発揮して、ワルプルギスの夜に剣を向けながらそう言った。失恋と絶望を乗り越えた強さなのだろうか?不安は感じているのだろうが、以前と比べて精神はとても安定しているように見える。

 

「いやー大きいねえ。あいつをぶっ倒したらどれくらいデカいグリーフシードが手に入るんだ?なあほむら、お前は知らないのか?」

 

佐倉杏子は不敵に笑いながらそう言った。彼女は自分の為に魔法少女をしていると言って憚らない、なかなかに不遜な性格だが、こういう場面では頼もしく思える。

 

そして、今出たほむらというのは、私のこと。おそらく、この中で一番戦意が低いのだろう。

 

「……そうね。私は知らないわ。」

 

思わず出してしまったテンションの低い声に、他の皆から不満が出る。

 

「ほむらー、お前がそんなテンション低くてどうすんのさ?今はアイツを倒すことに集中してくれよ?」

「そうだぞー?まったく、転校初日のあのクールな感じはどこ行っちゃったんだか。」

「暁美さん。ここまで場を整えてくれたのは暁美さんじゃないですか。もっと胸を張ってください。」

「…………そうね……、今は前の戦いに集中、しないと……」

 

口ではそう言ったけれど……無理だ、私はそんな気持ちで戦えない。

この後の戦いは、どうせ無駄になるのだもの。

そして、私の戦う理由の人が、そして私の失敗の証が、私を励ましてくる。

 

「ほ、ほむらちゃん。私、その、頑張るから!ほむらちゃんの頑張り、絶対無駄にしないから!だから、一緒にワルプルギスの夜を倒そう?」

「……ええ……」

 

魔法少女となってしまったまどかが、決意を込めた目で私を見た。

私はその真摯な心の籠った言葉に……生返事しか返すことができなかった。もう……どうやっても私はまどかとの「約束」を守れないかもしれないから。

 

 

ワルプルギスの夜。おそらくは世界最強の魔女だ。見た目は直径数百mという大きさで、大量のミサイルを打ち込んでも平然としている程には硬い、理不尽の塊だ。過去にコイツに勝てたという記録は無く、倒すべき敵というよりも、やり過ごすべき災害として認識される事が殆どだ。普通の人間にスーパーセルとして認識され、都市を呼吸のついでに破壊する相手に有効な力を持つ魔法少女なんて多分いない。

魔法少女……というのは、決してふざけて言っているわけじゃない。文字通り、魔法を使って戦う少女がこの世界には実在する。キュゥべえという存在に力を与えられ、「なんでも一つ願いをかなえる」対価として人々を脅かす魔女と戦う運命を背負った少女のことをそう呼称する。魔法少女になった少女は、文字通り魔法というファンタジーな力を手に入れるが、魔女を倒すと手に入る「グリーフシード」が無いと生きていけない体となり、基本的には否が応でも魔女と戦わなければならなくなる。そして……そのソウルジェムが、グリーフシードによる浄化が間に合わなくなったとき、今までさんざん倒してきたであろう魔女となり、呪いをまき散らすようになる。これが魔法少女の末路だ。決して夢にあふれた存在ではない。

そのせいで、魔法少女同士の仲も、基本あまりいいものではない。なぜなら、グリーフシードは基本的には取り合いになるからだ。大抵、魔法少女は自分の担当範囲であるテリトリーを持ち、それを相互侵犯しないようにするということをしている。

だが、そんな魔法少女がテリトリーなど無視して退散するしかない強力な魔女。それが「ワルプルギスの夜」だ。

私は過去、何度も何度も、回数を忘れてしまうくらい、コイツに挑んでは、敗北した。私は、魔法少女としての固有能力、「時間遡行」ができる。つまり、未来の知識を持った状態で過去に戻れるのだ。そんな人智を超えた能力があっても、ワルプルギスの夜には、今まで勝てなかった。どんな策を練っても、他の魔法少女の協力を得ても、変わらなかった。それほどに、私にとってどうしようもない強敵なのだ。

 

けれど、どんなに打ちのめされても、わずかに残った勝利の可能性を掴むために、私は時間遡行を繰り返した。

 

すべては、あの日のまどかとの約束のため。

 

まどかを魔法少女にせず、そして魔女にせず、ワルプルギスの夜を撃破する。

 

何回も何回も同じ時間をやり直すたびに、状況を運ぶのは上手くなっていった。例えば、過去に敵対することが多かった巴マミや美樹さやかとは、最近のループでは共闘できることが多い。……これは、私の人当たりの悪さを自分なりに改善していった結果だ。お陰で、今は無駄な争いを避けられている。でも、多分二人に信頼されているわけじゃない。だってそうなるように接してきたから。言葉遣いはなるべく刺々しくならないようにしつつ、しかし心の深い所は見せない。……時々、私よりもコミュニケーション能力がある美樹さやかなどに何か見透かされたようなことを言われて、冷静さを失ってしまうことがあった。そういうことを防ぐためにも、あまり彼女たちに深入りしたくはなかった。今の二人は、一緒に戦っているときも、一応共闘してくれはするけれど、常に私の立ち位置を警戒しているようだ。まどかは私とこの二人と仲良くしてほしいというけれど、友だちと呼ぶには程遠い。でも、これで良い。情が移ったらいけない。守るべきものは、これ以上増やしたくない。そんな欲張りをしたら、すぐに私の力を超えてしまうことを、嫌と言うほど経験している。

 

でも……私自身、そんな戦いにどこか疲れていたようだ。

 

 

ワルプルギスが来る少し前の夜のことだ。

 

「何故、鹿目まどかが、魔法少女として、あれほど破格の素質を備えていたのか、僕はずっと疑問だった。しかし、暁美ほむら。君の存在が一つの答えを与えてくれた。ひょっとしてまどかは、君が同じ時間を繰り返す毎に、強力な魔法少女になっていったんじゃないのかい?」

 

今回の時間軸は、繰り返しの努力の成果か、かなり状況が上手くいっていた。巴マミ、美樹さやかが生存し、まどかは契約していない。彼女たちにも、多少の警戒はされているがひとまず共闘できている。魔法少女に関する真実……魔法少女は、やがて魔女になるという話も、みんなが精神的に安定している状態で伝えることができた。マミさんはちょっと危なかったけれど、まどかやさやかの説得で、ひとまず3周目のようにはならなかった。

今回ばかりはまどかを助けると、気合を入れて自宅で諸々の準備をしていると、忌々しいキュゥべえがやってきたのだ。そして、私が時間遡行者であることを推察した。これはまあいい。過去にもキュゥべえにそれを見破られる時間軸はあったし、それが結果に影響することはほぼなかった。

だが、まどかの資質についての話は、私を警戒させた。確かに今までの時間軸で、キュゥべえはまどかが魔法少女になった場合、類を見ないほどに強力になるとは言っている。しかしその理由は私もキュゥべえも知らなかったことだった。キュゥべえがそれに対する推察を切り出すことは少ない。実のところ、私がループすることによるまどかの「因果」の増大によるものらしい。……よく分からない話かもしれないが、そもそも魔法少女自体が理外の存在なのだ。気にしてもしょうがない、そういうものなのだ。

……「強力な魔法少女になっていったんじゃないのかい」、か。確かに最初の方の時間軸では、まどかは並の魔法少女だったのだ。ここ最近のループでは、まどかの力が強すぎて「契約してしまった場合、ワルプルギスの夜は倒される」以上の、魔法少女になったまどかの情報を私は持っていない。つまり、ここ最近のまどかの魔法少女としての力はどうなっているのかよく分からないのだ。

 

「……」

 

そもそもキュゥべえに情報を与えたくないので、私は何も言わずにただ睨むだけだった。

 

「やっぱりね」

 

キュゥべえは沈黙から察してしまったらしい。地球外生命体のくせに生意気だと不愉快になった。

 

「原因は君にあったんだ。正しくは、君の魔法の副作用、と言うべきかな」

「……どういうことよ?」

「君が時間を巻き戻してきた理由はただ一つ、鹿目まどかの安否だ。同じ理由と目的で、何度も時間を遡るうちに、君は幾つもの並行世界を、螺旋状に束ねてしまったんだろう、鹿目まどかの存在を中心軸にしてね。その結果、決して絡まるはずのなかった平行世界の因果線が、全て今の時間軸のまどかに連結されてしまったとしたら、彼女の、あの途方もない魔力係数にも納得がいく。君が繰り返してきた時間、その中で循環した因果の全てが、巡り巡って、鹿目まどかに繋がってしまったんだ。あらゆる出来事の元凶としてね。」

「……」

 

……ここまでの話を聞いて、動揺を表に出さなかったのは奇跡と言っていいかもしれない。時々頭をよぎったことはあった。私が時間をさかのぼった後、元居た世界はどうなっているのか、と。その時間軸が消滅しているのか、それとも私が消えた世界が続くのかを知るすべなんてない。だから、考えないようにしていた。

それに、知っても仕方のないことなのだ。

 

「……私のやることは変わらないわ。どんなに失敗を繰り返し、まどかを救えなかったとしても……私は成功するまで、時間遡行を繰り返すわ。たった一つの世界のまどかだけしか助けられなかったとしてもね。」

「驚いたよ。君は数多の世界のまどかのうちたった一人だけ助けられればいいと考えているのかい?労力に見合わないゴールじゃないかなあ。」

「それに……皮肉にも、そのおかげでついに今の私はワルプルギスの夜を倒せる手段を手に入れている。」

「どうするんだい?」

「あなたに言う必要はないわ。」

 

ループ初期の頃は、とにかく大量の兵器を叩きこんでワルプルギスの夜を倒そうとしていたものだ。だが、それでも上手くいかなかったのだ。とある時間軸では、それはもう大量の兵器を並べたものだ。ロケットランチャーをはじめとして、トマホーク、地対艦誘導弾、迫撃砲を無理矢理運び出した。だが……それらを魔力強化というオマケ付きでぶつけてみても、ワルプルギスの夜は平然と浮遊していた。

ここから、私は戦い方を根本から変えることにしたのだ。目を付けたのが、まどかの持つ魔法の「因果」だ。これを……「因果」そのものを、何らかの手段でエネルギーにして、ワルプルギスの夜に攻撃としてぶつけることはできないだろうか、と。我ながらなんて無理矢理な、という話ではあると思うが、どうも無理ではないようなのだ。ある時間軸のキュゥべえに聞いたところ、「彼女が魔法少女の契約時の願いとして、そのような願いをすれば確かに実現可能だ。魔女になった後も、あのワルプルギスの夜ほどに強力なものにはならないだろうね。」と……エネルギーが得られなくなる話なので言いたくないのか、心なしか嫌がりながらもキュゥべえはそう言ったのだ。ちなみにこの時、キュゥべえは「彼女が魔法少女の契約時の願いとして」と言っていたが、他の魔法少女の願いが同様の時も実現可能であることは、別の時間軸のキュゥべえに確認を取っている。

だが当然、私はまどかを契約させるつもりなどない。だからダメ元で探してみたのだ。「願いなんて別にいいから魔法少女になりたい」なんて言い出す、奇特な少女を。……だが、いたのだ。そんな少女が。魔法少女に関わる事項を一通り……いや、ソウルジェムが濁りきると魔女になることといった不都合なところは隠して話した。まるでキュゥべえみたいな詐欺じみたやり方だと自嘲したものだが、まどかを救うために手段を選ぶつもりなんてない。そして、なんと彼女は「魂の実在とか信じてないし、魔法使えるようになるなんて悪いことし放題で最高!」と言ったのだ。私は、今後の犯罪時の隠蔽や協力等をすることを約束して、彼女に「まどかの『因果』をエネルギーにする何かを作り出すこと」を条件に契約してもらうことを了承してもらった。彼女としても、ワルプルギスの夜は倒してほしいとのことだ。ただ、契約はまだしていない。彼女は魔法少女としての資質が無い……いや、そもそもあまり絶望と無縁そうな彼女はエネルギー的に美味しくないのだろう。キュゥべえが営業に行っていないようだ。彼女とは後でキュゥべえを彼女のもとに連れてくる約束だ。

そんな風に、罪悪感と共に過去のことを思い返していると、キュゥべえに話しかけられた。

 

「……暁美ほむら?黙りこくってどうしたんだい?」

 

……とにかく、今回の時間軸では。

 

「何でもないわ。今回で、かならずまどかを助けて見せる。」

「人間の考えることはやっぱりわからないなあ。ほむら、君は今までのループのまどかにもう二度と会えないはずなのに、どうして救えると言えるんだい?」

「……何度も言っているわ。今回の時間軸のまどかだけでも、助けて見せる、って。そうしてワルプルギスの夜を倒せれば……奴の弱点とかも見つかるかもしれない。そうすれば……」

 

その先を言うことを、私は躊躇した。ふと思ったのだ。簡単に、確実にワルプルギスの夜を倒せる手段を見つけたのならば、私は他の平行世界のまどかも助けるべきなんじゃないか、と。正直私自身、そんなことはやりたくない。まどかの死を……美樹さやか、巴マミ、佐倉杏子の死を何度見てきたことか。何度見ても嫌なものだ。……でも、それが今まで救えなかったまどか達への償いになる気も、する。

 

「……多分、僕が言いたいことを勘違いしてるよ、暁美ほむら。」

「……?何よ。」

「僕が言いたいのは、まどかを救うために、救われないまどかを増やしてちゃ意味ないんじゃってことだよ。」

 

…………本当に何を言っているのだろうか、この宇宙人は。でも内容的に、何か嫌な予感がする。

 

「つまり、君は平行世界の『このままでは救われないまどか』を救おうとして、失敗してきたって認識なんだろうけれど、多分実態は違うんじゃないかな。なんどもループできるほど、同じような状況の平行世界があるなんて、おかしいと思わないかい?あくまで僕たちの文明が持つ平行世界に関する知識からの推測だけど、平行世界はそう簡単に似たものが生まれたりはしない。つまり、暁美ほむら。君は時間遡行によって、既にある平行世界に移動しているんじゃなくて、新しくこの世界に似た平行世界を生成して、そこに向けて時間遡行をしたんじゃないかな。君が数多のループで出会ったまどかは、『このままでは救われないよう運命づけられたまどか』だ。いや……君の時間遡行によって、そうあるべしと作られた世界、作られたまどかと言うべきかな。」

 

……何を、言って、

 

「でもまあ、君の行いが無駄だったとは言わないよ。君のお陰で、まどかが最強の魔女にs」

 

私はキュゥべえに何発も打ち込み、その残骸を確認することもせずふらふらと自宅を出た。

 

……もう何も、考えたくない。

 

 

私は薄暗い夜の街を徘徊していた。

 

「……うっ、うっ、ひぐぅ、ううぅ……」

 

先ほどのキュゥべえの話を消化していくたびに、私のソウルジェムが濁っていくのを感じる。

 

「うっ、うっ、ごめんなさい、ごめんなさい、まどか……」

 

今まで私のしてきたことは、何だったのか?

私はまどかを救うために今まで同じ時間を繰り返してきた。その時間遡行が、具体的にどのようなものなのかはあまり深く考えることは無かった。検証が難しいし、知ってもしょうがないからだ。でも、「このままでは救われないまま死んでしまうまどかを救う」という建前は揺らがない目的だと思っていた。でも、キュゥべえが言うことが真実なら……私がやっていることは、苦しむまどかを増やすことだ。これじゃ、何の救いにもなっていない。今までのまどかは、その大部分が私の勘違い、私の無能の為に生み出されてしまったまどか。

でも、この真実を知った今までの時間軸のまどかは、どう思うのだろうか?

 

『ひ、ひどいよほむらちゃん!私、ほむらちゃんの一回の『救う挑戦』のために、生み出されて魔女になっちゃったの?たったそれだけの為に、私は生まれたの?ひどいよ……こんなのあんまりだよ……』

 

そんな、幻聴が……いや、おそらくそうまどかは思うであろうという声が、聞こえた気がする。

 

「うう、う、やだ、私、そんなつもりじゃ、ごめんなさい……まどか……」

 

公園のベンチに座り、ただひたすら泣きじゃくる。今までの苦労が、私を敵視するかつての仲間たちの顔が、彼女たちの死が、浮かんでは消えてゆく。彼女たちの犠牲は……馬鹿な私のエゴで生み出されたということを考えてしまう。

なんとなく、私はもう一分も持たないのだろうと思った。おそらくソウルジェムを絶望が支配する。……もう、嫌だ。私の人生は何だったの。ただ苦しみをまき散らしただけなんじゃないの?やっていることが、絶望を振りまく魔女と何も変わらない。

なんとなく、手にソウルジェムを持ってみる。元の美しい紫は見る影もなく、ただ穢い黒が支配するばかり。ああ、今、罅が入った。もう、私、何も……

 

……コツン。

 

……え?

 

手に感触があり、見てみると、ソウルジェムにグリーフシードがくっつけられていた。そしてそれは、正しく私のソウルジェムの穢れを吸い取っていった。

 

「ほ……ほむらちゃん、大丈夫!?」

 

見ると、まどかがとても心配そうな顔で私を見ていた。

 

 

「その、ご、ごめんなさいまどか。落ち着いたわ。」

「そ、そう?よかった……」

 

話を聞いてみると、私の家を訪ねる予定だったまどかが、偶然この公園を通りがかったらしい。そして、私の真っ黒だったソウルジェムを見て、持っていたグリーフシードを思わず使ってしまったとのことだ。

……なんでグリーフシードを持っていたのかとか、そもそも私に何の用だったのかという疑問は残るが、ひとまず置いておこう。今の私は、穢れを取り除かれた影響なのか、いくらか落ち着いた。……私は、こんなところで泣いている場合じゃない。

このまどかだけでも、救わないと。……そして、私にまどかに心配してもらう資格なんて、もう、ない。

 

「……その、変なところを見せたわね。でももう大丈夫。さっき、精神に攻撃する魔女を相手にしていて、それで取り乱していただけ。」

「で、でも、さっきの様子、私とっても心配だよ。ほむらちゃんがソウルジェムをあんなに濁らせるなんて……。魔女を相手にしていただけだなんて思えないよ……」

 

……まあ、まどかなら私を放っておくわけもないか。でもまどか……わたし、あなたに心配してもらう資格なんて、もうないの。言い訳も無理があるかもしれないが、あり得ないことじゃないはずだから、これで強引に納得してもらうしかない。

 

「……証明できる訳じゃないけど、事実よ。」

「…………そ、その、グリーフシード、持っていなかったの?」

 

……どうしよう、早速嘘がバレそうだ。

 

「……持っていなかったわ。家が近いからって、油断していたわ。」

「…………」

 

明らかに納得していない顔だけれど……もうこれで、強引に行かせてもらおう。

 

「そ、それじゃあね。まどか。私、やることがあるから……。」

「ま、待って、ほむらちゃん!」

 

私はまどかに腕を掴まれた。

 

「……は、離して?」

 

……ここで、強引に振りほどくのも、振りほどかないでいるのも罪な気がして、どうすればいいのか分からない。

 

「え、ええとね。ほむらちゃん。今日は私の家にお泊りしよう?」

「えっ?」

「ほむらちゃん……最近ずっと戦ってるよね。ちゃんと休めてる?いくらグリーフシードが余っているからって、無茶したらだめだよ?ほむらちゃん一人暮らしって聞くけど、こんな状態のほむらちゃんを独りにしておけないよ。」

 

どうもまどかは、私が働きづめなせいで泣いていたと判断したようだ。私は……先ほどのキュゥべえの件を別にしても、実際疲れていた。ここのところ、2日連続で寝ていなかった。魔法で睡眠時間を削っても大丈夫だけれど、やはりそれでもどこか疲労が溜まっていたのかもしれない。

冷静に考えれば、わざわざそんなことをせずに自宅で体力回復に専念して、無駄な時間を減らすべきだったのだ。やるべきことなんて、武器の調達をはじめとしていくらでもあるから。

でも……先ほどのキュゥべえの話を聞いて、いろいろ限界だったのかもしれない。

 

「まあ、まどかが言うなら……」

 

朦朧とした頭で、私はそう言ってしまった。

 

 

家に上がらせてもらった私は、まず詢子さんに歓迎され、晩御飯を御馳走された。そこまでは良かった。ここのところ、魔法少女の真実などでいろいろ辛いことがあったはずなのに、それでも気丈に振る舞うまどかを見ながら、詢子さんとの会話を普通の女子中学生が大抵言いそうな事ばかり喋ることで乗り切った。……途中、ループ以前のまどかとの日々が頭をよぎって、また涙が出そうになってしまいそうになったけれど、魔力と気合を駆使して何とか抑え込んだ。食事の終わりごろ、詢子さんはちょっと怪訝な目で私を見ていたけれど……とにかくその場は乗り切れた。

だけどその後、私はまどかの部屋に招かれた。体感時間にして、多分数年ぶりのまどかの部屋。

 

「ほむらちゃん、ここが私の……ほ、ほむらちゃん!?どうしたの?」

「……え?ええ、なんでもないわよ?素敵な部屋ね、まどか。」

 

やっぱりこみ上げるものがあって、少しだけ涙が出てしまった。そして不運なことに、まどかにそれを気づかれてしまったのだ。

 

「誤魔化さないでよ、ほむらちゃん。目元の涙……何でもないなんて、そんな風に思えないよ?」

「え?あっ……!あ、いいえ、ちょっと疲れてたみたい。一晩寝れば元通りのはずよ。」

「……ほむらちゃん。ほむらちゃん、もしかして私と話すの、つまらない?」

「…………え?いえ、そんなことはないわ。」

「……そ、その。さっきのご飯の時、ほむらちゃん全然楽しくなさそうだったから。言うこともいつものクールなほむらちゃんらしくなかったし……」

 

穏便にその場を済ませようとしたのが、まどかには逆効果だったらしい。でも、まどかが自分のことをそう誤解させたままにするわけにもいかなかったので、適当に取り繕う。

 

「そんなことないわ。まどかとおしゃべりしていると、胸が温かくなるわ。」

 

……なんとなく言うべき言葉と違う言葉が出てきた気がする。

 

「そ、そう!?あ、ありがとう、ほむらちゃん。……でも、じゃあ、私、なおさらほむらちゃんのことが心配だよ。」

「その必要はないわ。まどか、それよりも自分の心配を」

「ほ、ほむらちゃん!そ、その、いつもどんなことしてるの?」

「え?ど、どんなことって、まあ魔女を退治したり……」

「でも、最近なんだかおかしいよ。マミさんでも毎日学校来ているのに、ほむらちゃんは休みが多くなってる気がするし。さやかちゃんだって今のほむらちゃんほど疲れてないと思うよ?」

 

美樹さやかは数日前、失恋に加え、自分の利己的な本心を自覚してしまったことから危うく魔女になりかけたが、まどか、杏子、マミの説得によりなんとか魔女化を踏みとどまり、少しづつ明るさを取り戻している状況だ。私にとって美樹さやかは……過去の時間軸の経験からすると厄介な存在ではあるのだけれど、それでも嫌いになり切れない部分もあった。私にはない明るさを持っている。そんなさやかの明るさは、最近まではそれはもう見る影もなくなってしまっていた。そこからなんとか這い上がったさやかは、少なくともこの時間軸では対ワルプルギスの夜の戦力となってくれるだろう。

……そんな、人生の修羅場を潜り抜けたさやかより、私は疲れていたように見えたらしい。……もっと見た目やふるまいを気にするべきだった。まどかに余計な心配をさせてしまった。

 

「……心配してくれてありがとう、まどか。」

「そ、そのね!私にも、ほむらちゃんのお仕事、手伝わせてくれないかな!?」

「えっ……?」

「だって、ほむらちゃんがそんなに頑張っているのに、わたしだけ何もしないなんておかしいよ……。さやかちゃんやマミさんも、ちゃんとお話しすれば手伝ってくれるんじゃないかな?」

 

……そうは言っても、正直まどかができることなんてほとんどない。私の仕事の大部分は兵器の調達で、誰がどう見ても窃盗行為なのだ。しかも盗み先は軍事施設やヤクザの根城。そんなのまどかにさせられない。

 

「……ありがとう、でも気持ちだけ受け取っておくわ。私の仕事は……私の固有魔法、時間停止を使わないとできないことが殆どなの。だから、まどかが無事でいさえすれば、何も問題はないわ。」

「……そ、そうなの。……ええと、その……」

 

まどかはしばらく、何か言いたげにしていたが、言葉が出てこないようだった。

 

「あの、ええと、ほむらちゃん。」

「……まどか、自分の考えを整理する必要があるようね。私、お風呂を借りてもいいかしら?」

 

もちろん嘘だ。これ以上まどかと一緒に居るとボロが出そうな気がするので、この場を離れたくなったからだ。……もう、2度とこの時間軸では……いや、平行世界の真実を知った以上、もう私は時間遡行をするつもりはない。永遠の別れかもしれないけれど……すくなくとも、ワルプルギスの夜を打倒するまでは、変な出来事を起こしたくなかった。

 

「!ま、待って!行っちゃダメ!」

 

まどかがまた私の服を掴む。……私の態度から不穏なものを感じ取ってしまったのだろうか。

 

「え、ええと、私ね、あなたと友達になれて嬉しかった!」

「っ!……そ、そう?」

 

……確かそれは、2週目の時の、まどかの今際のセリフだ。ループ初期の頃の記憶は、今でも鮮明に頭にある。不意打ちで精神に揺さぶりを受けてしまったが、なんとか耐えた。

 

「ほむらちゃんはかっこいいし、いつも私を守ってくれてた。最初はちょっと近寄りづらい所もあったけれど……杏子ちゃんから聞いたよ?ほむらちゃんが私を、私達を守るためにとっても頑張ってくれてるって。友達を助けたいのって、当たり前だよね?私の大切な友達が、こんなに疲れてるのに、何もできないなんて……。私、ほむらちゃんに守られる私じゃなくて、ほむらちゃんを守る私になりたいの。」

 

……それは、私の原初の記憶。

魔法の力はおろか、体は弱くて、勇気が無くて、ただ他人に守られるばかりだったころ。学校でも、魔法少女の戦いでも常に私を守ってくれたまどかは、本当に眩しい存在だった。

そんなまどかが、ワルプルギスの夜との戦いで死んでしまい……、私は「彼女に守られる私じゃなくて、彼女を守る私になりたい」という願いと、まどかとの出会いをやり直したいという願いと共に、魔法少女になったのだ。

いま、まどかの顔を見ると……決意に満ちた顔だ。……ああ、これ、まどかが契約してしまう時の目だ。自分の何かを犠牲にしてまでも、他の何かを救おうとする目。私にとってはもうバッドエンドの象徴になってしまっている顔だけれど、それでも、このまどかを前にはいろいろ感情が込み上げることが多い。

そして……契約したまどかは、魔女になってしまうが、少なくとも私を、私達を確かに守ってくれるのだ。……それに比べて、私は何だ?何度やり直してもまどか一人を救えず、そして無駄にまどかが苦しむ世界を作り出しただけ。最初の願いの、「彼女を守る私になりたい」は……本当に叶うの?

 

「…………うっ」

 

頭の中に、過去の数々の失敗が浮かんでくる。契約してしまい、魔女になったまどかをはじめ、ワルプルギスの夜に殺されるまどか、他の魔法少女に殺されるまどか、果ては魔女になってしまうのならと自殺してしまったこともあったっけ。

 

「……うう、ううううう、ま、まど、ごめ、」

「……えっ?ほむらちゃん?」

 

……涙が、溢れて止まらない。過去の苦しみながら死んでしまったまどかに対して……「私はあなたを無駄に苦しめるために生み出し、そして死なせました」なんて、とても、言えない。涙が止まらなくなって、無理やり下を向いて誤魔化そうとしても、涙の量が多すぎて、息が苦しくなって……

 

「ほ、ほむらちゃん!?大丈夫だよ!わ、私がいるからね!?」

 

やだ、まどかがこんなに良くして、抱きしめてくれているのに、もう嘘とか、つきたくない……

 

「ご、ごめ、なさい。私、未来から来て、ずっとあなたを、うう、」

「……えっ?み、未来?」

「私、あなたを魔女に、したくなく、ゔうう、でも何度やってもあいつに勝てなくて、でも時間を戻ったら」

「ほむらちゃん、魔法で未来から私を助けるために来たの?、え、でも、魔女にしたくないって……?」

「で、でも、ごめ、ごめんなさい、これは、平行世界の移動じゃなくて、ただまどかの苦しむ世界を作り出してただけで、う、ううううゔゔゔ!」

「え、世界を作り出す?え、ちょっと、え!?」

 

 

 

 

……その後のことは、あまり覚えていない。ただ、まどかの質問にいろいろ……いや、自分の抱えていたものを勝手に喋っていたような気がする。

とにかく、私は子供みたいに泣きじゃくった後、いつの間にか寝てしまったようだ。

 

そして、朝、いつの間にか運ばれていたのか、まどかのベッドから起きると。

 

「……おはよう、そしてごめん。ほむらちゃん。でも、私、未来を諦めたくないし、ほむらちゃんも助けたい。」

 

少し申しわけなさそうにしつつも、決意を持った表情のまどかがいた。

そして、その恰好は紛うこと無く魔法少女だった。

 

 

そして数日後の今、私たちは、私以外が万全の状態でワルプルギスの夜に対峙している。

 

「ほーらー、ほむら。最終決戦なんだから、もっと気合入れてってば。」

「……」

 

……美樹さやかは少し迷惑そうにそう言うけれど、魔法少女になってしまったまどかがいる状況で、どうしても悲壮感を抑えきれなかった。

 

後で聞いた話によると、やはり私はまどかに秘密にしておかなければならなかったことや、私のこれまでのことを一通り話してしまったらしい。そして私が疲れて寝た後、憎きキュゥべえがまどかに契約を迫ったというのだ。

 

 

 

「……キュゥべえ。いるんでしょ?」

「おや、二度と会いたくないんじゃないのかい?」

「当たり前でしょ。みんなに大事なことを何も伝えず契約させるなんて。」

「ふーん。でも、繰り返しになるけれど、僕たちはそもそも君たちの意思を」

「もうその話はいいよ。キュゥべえ。ほむらちゃんの話もどうせ聞いていたんでしょ。本当なの?」

「……そうだね。少なくとも否定できる証拠はないかな。肯定できる証拠もないけれどね。」

「ほむらちゃんの言っていたやり方で、ワルプルギスの夜には勝てるの?」

「前例のないやり方だからね。でも無理があると思うよ。エネルギーに変換してワルプルギスの夜にぶつけることは確かにできるけれど、それで倒せるかは別問題だ。でも、他者にそれをやらせることで、少なくともエネルギー効率は落ちるだろうね。それに、他人が因果量なんて現代の人類には理解しがたいものをうまく扱えるとは思えない。倒せたとしても、君がまともにこの世界に存在できる程度の因果量を残せるかは疑問だ。でも、鹿目まどか。君自身が契約すれば、そういった心配は少ないんじゃないかな。少なくとも、エネルギー効率や君自身の存在の可能性という面では格段に安定して因果を扱えるはずだよ。」

「……私のその……因果?をそのままエネルギーにしてしまえば、私は恐ろしい魔女にもならずに済むんだね?ほむらちゃんを助けられる?」

「もちろんさ。大丈夫、君の祈りは間違いなく遂げられる。」

 

 

 

こんな感じで、契約してしまったらしい。くそ……私が監視できなくなった一瞬の隙を突かれた。別の時間軸では「少なくとも月は簡単に破壊できるだろうね」とか言っていたくせに。……まあ、ワルプルギスが本当にそれでも倒されない可能性も否定できないけれど。

 

……この結果、もしワルプルギスの夜に敗れてしまったのならば、私はある種の諦めとともに、また時間遡行を決断したかもしれない。……往生際の悪い発想だとは思うが、まどかの因果を使えば、全ての平行世界を救済する方法がある、とか思ったのだ。……いや、やっぱり言い訳。私は結局、無事なまどかと一緒に居たいだけ……かもしれない。まどかが苦しむ世界を生み出すと分かっていても、私の頭のどこかでそんなことを考えてしまうことは、認めざるを得ないのだ。

 

……だけれど、目の前の光景はそれさえも躊躇させた。なぜなら。

 

「いっけええええ!!!!」

 

まどかの構える矢の先に、桃色の優しい光が集まっていく。因果を込めたそれが放たれ、ワルプルギスの夜に着弾。ファンタジーな見た目に反して凄まじい爆発を引き起こし、奴の歯車が欠けた。

そう、ダメージを与えた。私が何をやっても傷一つ付けられなかった奴に、対抗できているのだ。結局私の考えたやり方でうまくいったのかどうかは分からないが、とにかく今、奴を倒せる可能性がある。今までにない程に。

 

「いいよまどか!周りの雑魚は私たちが何とかするから、その調子でもう一発ドカンとお願い!」

「鹿目さん!ソウルジェムは……全然大丈夫ね!見滝原は、私たちが守る!」

「あーもう、私がグリーフシードを分けてあげるなんてこれっきりだからな!!絶対勝つぞ!」

 

それを見て、マミ、さやか、杏子も勇気づけられたのか、周りの使い魔をどんどん撃破していく。……多分、私が今一番やる気が無いのだろう。

 

「!来るわ!暁美さん、お願い!」

「っ!ええ!」

 

余計なことを考えていて一瞬反応が遅れたが、私は時間を停止させた。ワルプルギスの夜から極太のレーザーのようなものが放たれたからだ。私は止まった時間の中で、まどか、さやか、マミ、杏子を、攻撃が当たらない位置に移動させた。使い魔の対処以外で、これが私のこの戦いでの主な役割。奴の攻撃は強力過ぎて防御できないので、こうやって回避するしかないというのが、私が事前に立てた作戦だ。

そして安全を確認して、私は時間停止を解除する。レーザー砲が動き出し、その射線上にあったものはことごとく消し飛ばされた。……今までに見たこと無い威力だ。それだけダメージが通っているということなのか。

 

「……ひゃー、あんなの当たったら一発でお陀仏だよ。ほむらがいてマジで助かった。」

「……あ、あれ見て!」

「え?……は、歯車が!」

「なっ!?」

 

見ると、先ほどまどかに攻撃されていた部位が、再生していた。私の心に絶望が生まれた。あまりにも硬すぎる。そのうえ、損傷は勝手に治るなど、どうすればいいというのか。現状、まどかの因果を使った攻撃以上の火力なんて……核爆弾でも持ってくるしかないのか?でも、そんなことをしたらまどかの居るこの街が……

 

「……みんな、大丈夫。」

 

空気が重くなっていく中、まどかが、そう力強く言った。

 

「さっきの攻撃で……感じたよ。ほむらちゃんの言っていた、『因果』みたいなもの。いくつもの、いくつもの私が、今の私に束ねられている。力を貸してくれている。そして……まだまだ行けるよ。ほむらちゃん、みんな!」

「ま……まどか!」

「ほむらちゃん。少しだけだけど……感じ取れたよ。今までほむらちゃんがどれだけ私の為に頑張ってきてくれたか。だから……今度は私の番。もうほむらちゃんを、絶望させたりなんて、しない!」

 

まどかが再び弓をつがえた。そして矢の先に集まるエネルギーが……前よりも何倍も大きくなっていく。

 

「出し惜しみなんてしないよ。これで決着をつけて見せる!」

「ま、まってまどか!あれ見て!」

 

見ると、ワルプルギスの夜がバリアのようなものを張っていた。もし、あれを突破できなかったら、もう次は無いということ……!

 

「ま、まどか待って!一気に因果をつぎ込んじゃダメ!バリアを張ってる!」

「大丈夫!みんな私を信じて!そして力を貸して!」

「「「……!」」」

 

少しでも足しになればと、まどか以外の4人は魔力をまどかの矢に込める。まどかが放とうとしている物に比べると微々たるものだが、それでもやらないという選択肢はなかった。

 

そして、それが解放される。私達の想いを乗せて。

 

「みんなの希望のために!いっけえええええええええええ!!!!!!!!!」

 

膨大なエネルギーを持った矢は解き放たれ、次の瞬間にはワルプルギスの夜に着弾した。一瞬遅れて突風が私達を襲い、立っていられなくなった。魔力で無理やり地面に足をくっつけ、状況を確認する。

そして、まるで太陽のような優しく力強い輝きを持ったそれは、ワルプルギスの夜を貫かんとしていた。周囲の雲すら払いのけ、魔法少女が100人いても足りなそうなほどの魔力を持ったそれは……でもやっぱりバリアのせいで防がれていた。ガリガリガリと、エネルギーの余波でさえ竜巻並みの威力の余波を生み出してたが、ワルプルギスの夜は悲鳴のような鳴き声を上げつつ耐えてしまっていた。

しかしその拮抗がしばらく続くと、やがて状況が動き出す。ワルプルギスの夜本体に傷はついていないようであるが、本体が空に向かって押し出され始めたのだ。少しづつ小さくなっていく、暴風や感じる魔力。1分もすれば、雲一つない快晴の空の中に、目を凝らしてもほとんど見えない小さな小さな光となった。

 

「ど……どうなったの?」

 

周囲をみると……使い魔はまだ生きていた。弱っているようには感じるが……でも、依然として私たちに襲い掛かってくる。

 

「……あ、時間停止が。」

 

私の魔法の盾の時計は砂が落ち切り、いつもなら時間遡行をする状態になった。もう今の私は、魔力で強化された重火器を扱うことしかできない。

私達は、使い魔に対処しながらも、状況を知ろうとした。先ほどの攻防では魔力から来る轟音ばかり耳に入っていたが、今は使い魔たちの奇妙な声が耳につく。

 

「ま、まどか!あれ、結局どうなったの!?なんか使い魔が生きてるんだけど!」

「え、ええと。とにかく、あっち行け―!みたいな感じでアレを押し出したの。なんだか、破壊は難しそうだったから……私達がしらないところまで連れていっちゃえばいいかなって。」

「……それで、今どうなっているか分かる?鹿目さん。」

「ええと、私の放った矢が……まだ生きているのがなんとなくわかるけれど、あんまり詳しいことは……」

「…………」

 

嫌な想像が頭をよぎる。これで、まどかの放った矢が潰えたら。奴が、宇宙空間に放り出された程度で死ぬなんて思えない。しばらくしたらまた戻ってくることだろう。

 

「……あ、矢が今消えた……感じたよ。」

「……場所とか距離は分かる?」

「ええと……空のずっと向こうとしか……」

 

まどかがそう言った次の瞬間。

あたりが静かになった。

 

「あっ……使い魔が!」

 

そして、軍隊のように大量にいた使い魔たちは、蜃気楼のように消えて行った。……つまりこれは。

 

「えっ……これ、もしかして、ワルプルギスの夜、倒せた……!?」

「おめでとう。おそらくその通りだよ。」

「なっ、キュゥべえ!?」

 

今までどこにいたのかさっぱり分からないが、当然のようにキュゥべえが現れた。

 

「ワルプルギスの夜を倒したのは君たちが初めてかな。僕も驚いてるよ。」

「はあ?うるせえってんだよ。さっさと消えちまいなよ!」

「いいのかい?ワルプルギスの夜が最終的にどうなったか知りたくはないのかい?」

「……まあ、それは。」

 

キュゥべえの声など聞きたくないが、それは確かに知らないといけないので耳を傾ける。本当に癪だが。

 

「で、でも、キュゥべえ。宇宙に行ったあれのことなんて分かるの?」

「僕たちの技術力にかかれば簡単なことさ。あのあと、まどかの放った矢は、ワルプルギスの夜を押し込み続けた。そして……それらはどんどん加速し、ついには光の速度さえ超えるほどになった。最終的に行きついた先は、太陽さ。それにより、おそらくワルプルギスの夜は燃やされ尽くされたんだろね。仮に生きていたとしても、もう太陽の重力から逃れることはできないだろう。」

 

キュゥべえは、いつもの無機質さを感じる口調で、そう語った。コイツは、重要な事実を伝えないが、嘘はつかない。

そうして、私以外は喜びが爆発した。

 

「……や、やったああああああ!!!!!!!!」

「や、やったよ!私達、守れたんだね。本物の魔法少女みたいに!」

「鹿目さん……みんな。本当にありがとう!私、これからも独りぼっちじゃなくて、みんなと一緒に居られるのね!」

「はあー……苦労した甲斐があったなあ。まったく疲れたぜ……まあ、グリーフシードを渡した元は取れたかな!」

 

4人が喜び合っている中……私は、自分の魔法の盾を見つめていた。

これで、本当にいいのだろうか。初めてワルプルギスの夜を倒せた。でも……まどかが魔法少女に。まどかはこの先、グリーフシードの為に魔女と戦い続けなければならないという大変な運命を背負ってしまった。私も……時間停止能力を失い、サポートしようにも、かなりできることが少ない。……いや、そもそも、私自身の生活も危ういのだ。まあ私はどうなってもいいとしても、とにかくまどかのサポートは難しくなってしまった。せいぜい、魔法少女としての先輩として助言と戦い方を教えるのが関の山。結局はまどか自身が戦い続ける必要がある。

……おそらく、先の戦いで因果は消費された。仮に私が時間を再び遡行した場合、まどかの持っていた強力な力は、多分消えている。つまりもうワルプルギスの夜は倒せない。また同じ量のループを繰り返さない限り。だから、ここでもうループを止めるのが最善のはず。

 

……でも。あの時の、まどかとの約束。

 

「キュゥべえに騙される前のバカな私を、助けてあげてくれないかな?」

 

……私はまどかを助けられたとは、とても言えない。……でも、平行世界の事実を知った以上、無闇に時間遡行はしたくない。……でも、もしかしたら万が一、別の可能性があるとしたら。まどかの因果を集めなおしたとしたら。……でも、私、もう、これ以上……

 

「……ほむらちゃん?どうしたの?」

「えっ?あっ……」

 

いろいろ物思いに耽っていたら、まどかに心配されてしまった。

 

「あの……暁美さん。まさかまた時間遡行をしようとしているの?」

 

……私の時間遡行のことを、巴マミに教えただろうか?何度も同じ時間を繰り返していると、人に何を伝えたのか、伝えていないのかを忘れてしまう時がある。……まどかが教えてしまったのだろうか?

 

「!ほむらちゃん、ダメ!」

 

まどかはそう言って、私に向かって走り、抱き留めた。……まどかに抱き着いたの、何周ぶりだろう。その温かさは、私を硬く縛り上げた何かを確実に溶かす。

 

「もういいの、もういいんだよ、ほむらちゃん!今まで本当に、ずっとずっと私の為に戦ってきてくれたことが、私、分かるの。」

 

多分、因果を使ったから平行世界の情報がまどかに入り込んだ……という感じなのだろうか。

まどかの頭は私の肩に載っているので表情は分からないが、肩の部分が濡れていくのを感じる。

 

「ごめんね、ごめんねほむらちゃん……私の約束、ずっと守ろうとしてくれたんだね。でも……もういいの。今度は、私が、ほむらちゃんを守りたい。私、ほむらちゃんを守りたくて、魔法少女になったんだよ?」

 

そうだ。まどかは優しいから……私の過去を知ったら、心を痛めて、守ろうとしてくれる。……でも、そんな私も、まどかを守りたくて、魔法少女になった。

そして、目の前にいるまどかと違って……私は、まどかを守れていない、約束を守れていない。

 

「でも、私……あなたとの約束、まだ、果たせてない……。あなたはこれから、魔法少女として、ずっと魔女と戦う羽目になってしまって……」

「ほむらちゃん。今の私と約束して。もう独りぼっちじゃないって。これからは私もほむらちゃんを守るって!」

「……今の、まどかと?」

「魔法少女として生きるのも……一人だったら、怖くて動けないと思うけれど、ほむらちゃんと、皆と一緒なら、きっと乗り越えられると思うの。」

「でも、私、もう時間停止ができないし……」

「そんなの関係ないもん!」

 

まどかが抱き着くのをやめ、私の頬を両手で包んだ。暖かくて、そして目の前にまどかの涙にぬれた優しい顔があった。

 

「なんどもなんども、ずっと私の為に戦ってきたほむらちゃんが、弱いわけないもん!私にはほむらちゃんにいて欲しいの!だから、もう時間を戻さないで。どこにもいかないでよ、ほむらちゃん!」

「……私だって、私だってまどかと一緒にいたい!けど、私は、約束が……」

「別の世界の私よりも、今の私のことを見てほむらちゃん!ほむらちゃんをそんな風に縛る私は、私が許さないもん!」

 

まどかは、再び抱き着いた。華奢な腕から伝わってくる力強さは、私を絶対に逃がさないという強い意志を感じさせた。

ふと、周囲を見渡す。3周目の時の、まどかと約束をした荒廃した世界に似た光景が広がっていた。……少し先に、その場所とかなり似た場所があって、そこには……まどかが倒れている、ような気がする。私が殺したときの、そのままの姿勢だ。視界がうるんで確証は持てない。……あのときのまどかは、今の私を見てどう思うのだろうか。

 

「まどか……あなたは、どうなの?」

 

気が付けば、そう彼女に向かって呟いていた。

そして……死体となり動かないはずのそれは、かすかに顔をこちらに向けて、私に答えた。

 

 

ありがとう、ほむらちゃん

 

 

「……!!!まどか、う、うう、うう!」

 

気付けば消えていたそれは、私の疲れ果てた脳が生み出した願望なのか、魔法や因果が関わり生まれた何かなのかは、もうわからない。けれど、決して拒絶の声ではなく、私を許した声だった。

 

「ごめん、ごめんなさいまどか!うう、うわああああああああ!!!!!!」

 

でも、もう限界だった。私には、これ以上上手くやれる自信なんてない。そして、許しが出て、私は自分の責務より、今のまどかの想いを優先させ、そして約束を諦めた。罪悪感と、解放感と、まどかがいる嬉しさから、ずっとずっと泣いてしまっていた。

 

これが、私の長い長い時間の旅の結末。これで本当にいいのか……ということは、もう考える気になれない、考えることを私は拒否した。でもこの時、せめて約束を守れなかった罪滅ぼしに、まどかをずっと守っていくと。まどかの為に生きていくと決意した。




ほむらの努力の甲斐あって、ワルプルギスの夜は倒せたけれど、まどかは契約してしまった世界線です。
絶望ENDではないけれど、まどかとの約束も果たせなかった。微妙な結末である。

・まどか
あの夜まではほむらとまあまあ位の仲だったけれど、ほむらのこれまでの努力と決意を(ある程度断片的ではあるが)聞き、彼女を救うために魔法少女になることを決意。結果、彼女のもつ『因果』をワルプルにぶつけることで撃破に成功する。(彼女の因果を使ってその程度の結果?と思われるかもしれないが、12話でのまどかの魔女が出現していない分こんなもんじゃないかなあ的な感じ。)

・ほむら
本編よりもループ回数が多い。この集会では本編よりもコミュニケーションを何とかしてうまく立ち回った形。頑張ってここまで来たが、キュウべえから精神攻撃を喰らい、その隙にまどかに契約されてしまう。
本人の精神もかなり限界に近く、最終的に前のまどかよりも今のまどかを優先させる形で彼女の時間遡行の旅は終わった。

・マミ
精神的に健康な状態かつ後輩がいる環境下で魔女の真実を知ったので耐えた。

・さやか
恭介とは結ばれなかったが、まどかをはじめとした協力のもと耐えた。恭介のことは吹っ切れたが、恋愛に関しては少しトラウマ気味かもしれない。

・杏子
特に様子は変わらない。マミとは仲直りしたっぽい。

・奇特な少女
今後出演予定はない。ほむらがキュウべえを連れてこなくても勝手に魔法少女になっていることだろう。

・ワルプルギスの夜
流石に太陽に放り込めば死ぬやろHAHAHA
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